姫様のファーストキス。
爆睡ポコ、大胆なフローレンス・・・波乱
<<ホテルフェアリーテイルズ>>
「シンプルですけど見るからに格調高いホテルですね!」
「仕方ないか、いきなりの予約だしな」
首都商業地区にある超高層のホテルに到着すると、玄関の見た目からして庶民には無縁な宿と直ぐにわかってしまう。クリスは別れ際に「何とか取ったぞ」と話していたのであまり怒る気にはなれなかった。
「作りもいいですけど、セキュリティが高いので致し方ないですわ」
1、2軒目はそれ相応の値段で許容範囲だったが、何気に調べた|宿泊代は軽く15万スカーを超えアーレイはちょいご機嫌斜めだ。しかしお姫様はこのクラスに慣れているらしく喜びはするけど驚かず、嫌味を言いたくなっていたのは内緒よ。
「さあポコを運び出すぞ、とりあえずカートを貸してくれ」
「畏まりましたお客様(汗」
寝入ったポコを引きずり下ろすとドアマンが慌てて駆け寄ってくる。酔っぱらって足元がおぼつかないし抱えてホテルに入れば誤解されそうなので、トランク用のエアーカートに乗せることにした。チェックインはモジュール認証を使い、セキュリティゲートを潜るだけなので簡単だ。
「さぁさぁ、お楽しみはこれからですよ(嬉」
「・・・(汗」
王女がお忍びでフォーレストを訪れたことがウィン女王の耳に入ると凄く面倒なので、認識阻害の効果があるサングラスを掛けたフローレンスは足早に笑顔と共にゲートを潜り抜ける。
<<48階・スーペリアルーム>>
「こちらがお客様のお部屋になります」
「わぁ素敵なお部屋ですね、朝食も期待できそうです(喜」
森をイメージしたリビングは木が生い茂り、村の広場のように広く窓外の夜景は絶景で、別途個室が4部屋もあるいわゆるVIPルームだ。お姫様はとてもご満悦らしく目を輝かせていたよ。
「今から部屋を変えようかな(呆」
別室にしてフローレンスの攻撃を防ぐ思惑が外れたアーレイは、ソファーに座り頭を抱えてしまう。そりゃ同じフロアーに部屋があるので押しかけてくることは間違いないのだから・・。
「素晴らしいお部屋じゃないですか、今更変更すると高くつきますよ」
「庶民感覚を忘れているでしょ」
「仕方ないじゃ無いですか暗殺対象者ですからね〜今日は一緒に寝ましょうね(喜」
無理筋な返しをするフローレンスは速攻でポコをベッドに放置すると、ソファーで寛ぐアーレイの隣りにちょこんと座り、腕を絡めこの前の続きを所望していた。
「だめです、今から定時連絡入れてシャワー浴びて寝るの!」
PTSDを再発しないように甘えさせてはいるものの、この状態が続けば情に流され受け入れかねないと、判断したアーレイはキッパリとお断りを入れ席を立つ。
「それなら私もシャワー浴びてお酒持って行きますね」
「これ以上は深酒はしませんよ、それじゃおやすみ」
女王直伝の聞く耳を持たないを発動しているフローレンスは諦める様子もなく、カウンターから酒瓶を2本取り出すと和かな笑顔しつつ、さあさあ選びなさいよみたいな顔をする。それにシャワーを浴びるということは身を清めると同義語なので、招き入れたら最後、半裸で抱き付かれる未来が見えた。なので逃げるように部屋へと向かう。
「広すぎだよこれ、それに趣味が合わんな」
個室といえども80平米を超えるリビングはあり得ないくらいに広々としていて、森に住むエルフをイメージした室内は木材を多用して雰囲気はいいが、飾ってある絵画が暗めのキュビズム派チックなので不気味さを覚えてしまう。取り急ぎアーレイは司令本部に連絡を取り、疲れを癒すためシャワーを浴びることにした。
<<30分後・・>>
「やっぱ風呂上がりにはこれしか無いな、クゥーたまらん」
懸念していた姫様の姿は見えないし、超高級ホテルを一度も利用したことはないアーレイは趣味が合わないとはいえ、満喫しなきゃもったいと考え、ふろ上がりのガスウォーターゴクゴクと飲みソファーで寛ぐ。
思い過ごしだったか、さて寝るとしよう。
寝るには少し早い時間だけど、流石に眠気が来たアーレイはベッドルームに足を向ける。この時点で不審な点があればデバガメAiがしゃしゃり出てくるはずなので、アイコンを伺うとスリープ状態だったが・・。
「あっ、やっぱりいたよ」
安心するのも束の間、扉を開けると誰もいない筈の薄暗いベッドの上にぼんやりと白い人型が目に入る。最初幽霊か何かと思ったけど傍に酒瓶が見えたので即座にフローレンスとわかってしまう。
「ストレートでいいですよね、はいどうぞ(笑」
「それよりお姫様はどうやって入ったのかなー」
パジャマ姿のお姫様はエヘヘとはにかみ、首を傾げ理由を言わない。間違いなく王族専用モジュールの裏機能を使い鍵を強制解錠して入って来たのだろう。スケスケの肌着姿じゃなかったのがせめての救いだ。
「とりま、ここに座って飲みませんか」
ペッタン座りをしている彼女はベッドをパンパンと叩き、ここに座れと言いつつ、琥珀色の液体が入ったグラスを差し出してくる。やれやれと思い隣に座り受け取るアーレイだったが、しなやかで細い指が震えていることに気がつく。
無理しているのが丸わかりだわ。
ベッドルームも無駄に広いし照明も薄暗く雰囲気はあるが、言い方を変えれば薄気味悪く不安にさせたのだろう。それよりも再発した事が気がかりになり表情を伺うと瞳に光りがなく、手の震えが肩に伝染して小刻みに震え始めていた。
「1人でいると不安に押しつぶされそうになったのか」
「うん、けど一緒なら大丈夫」
酒が入っているので解放的なまま終えると思っていたが、1人になった途端不安に襲われたらしい。琥珀色の液体をジッと見つめていたフローレンスは、ゆっくりとした動きで口元に運びコクコクと味わうことなく流し込んだ。
「こんな時にお酒を飲むのは良くない、何があったのか話してくれないか」
「うん、あのね・・」
共にグラスを置くとポツリポツリと話し始め、シャワーを浴び終えるまでは意気揚々としていたが、リビングに飾ってあった抽象的で暗めの作風の絵画が目に留まり、思わず見入っていると顔型が浮かび上がりはじめ、それは暴虐で見たミイラ化した敵国の兵士だったと語る。
「床や壁からも死体が浮き上がって耐えられなくって、だからここに来たの」
「辛かったね、もう大丈夫だよ」
孤独を感じた事と暗めの絵画が引き金になり、心の奥底に潜んでいた闇のストレスが強い幻覚を見せたのだろう。アーレイの言葉で落ち着きを取り戻したフローレンスは胸に顔を埋め抱きついてくる。
ヤバい抱きしめたらアイツが立てたフラグを回収することになるわ。
と言う訳で抱きつく姫様を抱き返せないアーレイの両手は遊んでいる状態で、この時ばかりはスリープ魔法が使えればと思わずにはいられなかった。だが締め付けは強くなるばかりで如何ともし難い状況に陥りつつあった。
「優しいよね、アーレイを私の心の拠り所にしてもいいよね。駄目って言わないで」
想い人を追いかけたら狙撃されるわ、辛い現実を目の当たりにしたりと、彼女の心は休まる暇は無かったが、自分で選んだ道なので諦めるつもりはない。となれば休息をアーレイに求めるのは自然な事だろう。心情が嫌と言うほど分かるアーレイは頭を抱きしめ「ダメじゃないよ君ならいいよ、今は我慢しなくていいんだよ」と優しい言葉を掛けた。
「ありがとうアーレイ、泣きたくないから代わりに抱きしめてね」
弱目のフローレンスに駄目と言えば症状が悪化するのは間違いなく、アーレイは容認する言葉を口にする。決してこの先を望んでいる訳ではないので抱きしめず肩に手を置くと、顔を上げたフローレンスは涙目になっていた。
「今の俺に出来るのはこれで精一杯なんだよ」
「うん知ってるよ、だから受け入れてくれるまで追いかけることにしたのよ〜」
酔ったせいか宿舎の時より冷静だけどすごく推しが強く、上目遣いで微笑み溢し、後は貴方次第ですよと言わんばかりだ。抱きしめるのを躊躇しているアーレイは目線を切る為に肩を引き寄せた。
このチャンスを逃してなるものか!
俯いたフローレンスは顔を胸に埋めるように近づくと、横からアーレイの唇を奪うように重ね合わせてくる。
「ンー!」
身動きできないようにギュッと固く抱きついた姫様は、流石に舌を絡めてはこないものの、反応が遅れたアーレイを思う存分味わい肩に押し返す力を感じると、引き剥がされる前に自分から身を引き、にっこりと微笑んでいたよ。
「嗚呼、私のファーストキッスが奪われてしまいました〜、責任をとっていただけると幸いでーす(笑」
「アーレイのファーストキッスを強奪して何を言う」
まさにしてやられたが、ひとつ腑に落ちない事がある。それはあまりにも大胆すぎて、いつもの姫様なら絶対にこのような行動に至らないと言うことだ。言葉使いから想像するに飲み過ぎが原因としか思えず、もしかしたら記憶に残っていないかもしれない・・。
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「モテる男は違うなー」
「貴様はやっぱり落ちていなかったんだ、すけべなAiだな」
「極度の緊張状態を察知したのでつい」
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さっきまでスリープだったフェアリーが姿を現し余計なことをほざく。とりま相手にするわけもいかず強制終了のアイコンを選ぶ。だが危機は去って居なかったりする。
「今回は大きく一歩前進です。もう認めてくださいね!」
しかし中空モニターの向こうのフローレンスは目的を達成できたのか、ニコニコ笑顔で徐々に距離を詰めて来た。
「ちょちょちょっと(汗」
大好き宣言した彼女は首に腕を回し引き寄せながら倒れ込む。後ろ斜めに引っ張られ力が入らないアーレイはお姫様の全力には贖えず、ベッドにタッチダウンするとギュッと抱きしめられてしまう。
うゎ〜ヤバい下着を穿いてないわ。
胸に顔を埋めギュッと抱きつかれれば弾力と突起の感触がダイレクトに伝わり、直ぐに下着を穿いてないと分かってしまう。それに熱が籠り表情が蕩け始め、アーレイは焦り引き離そうとしても、腕は解けないし脚を絡められ身動きが取れなくなっていた。
「こらこら今日は大胆すぎだぞ」
「今ね、私ね、とっても幸せなの。少しこのままでいさせて」
幸せを確かめるように背中を撫でまわすフローレンスは言葉通り、安堵した柔らかな眼差しをしている。覚悟を決めてキスすれば交じり合うのは簡単だし、ずっと自己主張している双丘は下半身を刺激しっぱなしで、煩悩を捨て去らないとJr.が育ちかねない。なので頭の中で”立つな立つな”と念仏のように唱え、お姫様が落ち着くまで我慢するしかなかった。
「嗚呼、この感覚が恋なのね、なんて気持ちがいいのかしら・・」
不安で押し潰されそうになっていたフローレンスは体の繋がりより、心のつながりを欲していた。抱きしめる事で湧き上がる幸福感が全身を包み込み、頭の中がジンジンと痺れ始め仄暗いストレスは霧散してゆく。
スースー。
その幸せという名の快感を堪能するために瞼を閉じていると、あまりの心地よさに意識が遠のき、いつしか愛らしい寝息を立てていた。
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「あーあー、チャンスを潰しましたね」
「落ちてねーし、フラグをへし折ってやったわ」
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強制終了したのに嬉々としてしゃしゃり出てくるこのAiは何かがおかしいとしか思えない。もういいやと思い放置したアーレイは静かに寝息を立てるお姫様の寝顔を見て「期待に添えなくてごめんね」と言いつつ毛布を掛けた。
ーー
<<同刻・デルタホテル>>
「酒など飲まずにさっさと部屋に戻れ、監視しているからくれぐれも変なことはするなよ」
帰還者の確認を終えたルドルフは少し遅い夕食を済ませ、ラウンジでのんびりする予定だったが、アサシンの男らは不穏な動きがないかと常に警戒して、ウザいほど付き纏っていたりする。
「落ち着いて酒も飲ませないのかよ、お前らこそ変なことすれば南の島に送られるぞ(笑」
流石にキレたルドルフは嫌味の一言でも言いたくなったのか、レティシアに送られた護衛のことを匂わせる話を態としてニヤリと笑う。
「ふざけるな、俺の部下を捕虜にしやがってお前のせいだろ」
「他責に八つ当たりかよ、あいつらは馬鹿すぎて罪人になったんだぞ、じゃあな」
啖呵を切ったルドルフはこれ以上付き合うとキャンキャン喚きそうなので、早々に立ち去り自室へと向かった。
「やっと解放されたよ、救いは盗聴していない事くらいかな」
敵国で無闇に電波を発砲すれば、ルドルフ達を監視しているデルタの諜報部員が嗅ぎ回る事が予想され、盗聴は出来ない。しかし逆はあり得るのでそう考えるとどうにも落ち着かない。
余計な事は喋らないほうがいいな、そうだ貰った酒を飲むとするか。
動物園のクマさんのように部屋の中をウロウロと彷徨いていると木箱が目に止まり、ラウンジがダメならこれを飲めばいいと考えたルドルフはとりあえず中身を確認することにした。
なんだか凄く高そうな酒だな、おやなんだこれ。
箱を開け琥珀色の瓶を取り出すと一枚のメッセージカードが目に入り、開くとそこには「お疲れさん」の言葉が明記され、ほぼ同時にモジュールがハッキングされArley Worksのアイコンが現れた。間違いなくピンキーの仲間のちび助が近くにいるのだろう。
なるほど記憶に残さないためか、とりあえず一杯引っ掛けてからにするか。
帰国後、記憶を覗かれる懸念があると考えたアーレイは、ほぼ証拠が残らない音声によるメッセージを送ったのだ。意味がわかったルドルフはグラスに琥珀色の液体を注ぎ、先ず鼻腔に通し芳香を楽しむことにする。
ほほ、これは期待できそうだ。
穀物の焦げた香りと蜂蜜やバニラを思わせる甘い香りが鼻腔を通りぬけ思わず顔が綻んだ。期待を込めて口に含むと果実酒樽の独特のキャラメルとレーズンのような風味が漂い、それを打ち消すようにスパイシーな辛味が現れ、舌を鎮めるようにダークチョコレートのような後味が広がる。
「ふぅ〜、これはなんとも格別な味わいだな」
敵国の酒を初めて飲んだルドルフはあまりの出来の良さに感動すら覚え、もう一度味わいたくなり2杯目を飲もうとボトルを傾けた。
やばいやばい美味すぎて飲みすぎるな、とりあえず奴のメッセージを再生するか。
酒飲みのルドルフは少し多めに注いだ酒をグッと口に含み、徐にArley Worksのアイコンを開くと音声データーを表す音符のマークが現れる・・。
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これを聞いているということは一人で酒を飲んでいるって事かな。
今回も招かざる客が混じっていると思って準備している。勿論、保護対象に設定してあるから例え俺に銃を向けても殺されることは無いし、殺されるつもりもない。此方としては暗殺を回避しつつ、捕虜の解放を進めるつもりだから無茶をするなよ。それじゃまたな。
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味方になってくれたらなぁ、機会があったら身の上話を聞きたいな。
1人酒を嗜みながらアーレイの事を考えるルドルフは敵ではなく、願わくば味方になってもらいたいと思っていたりする。それとは別に戦友としての感情が芽生えつつあった・・・。
ーー
<<翌朝・48階スーペリアルーム>>
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「おはようございます。1時間ほど前に部屋から出て行きました」
「起こしてくれてありがとよ、相棒」
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目覚まし代わりのフェアリーに起こされたアーレイは徐にフローレンスの姿を探すが、綺麗に畳まれた毛布だけが目に入る。爆睡していたのでベッドから抜けたのが分からなかったのだろう。
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「物凄く恥ずかしそうに出て行きましたよ、その時の音声再生しますか?」
「空気読めよ、聞かずとも内容くらいわかるわ」
「ふーん、そうなんだ」
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なんかムカつくけど「ここに来たのは覚えているけど・・」「嗚呼とんでもないことしちゃった」のどちらかだろうと考えると「どうやら記憶がないようですねー」とドヤ顔で返してきたわ。
「さて反応を伺いつつ対応するしかないな」
顔を合わせるのは必然なので、初見で昨日のことを覚えているかは表情で判断すればいいやと思い、起き上がると洗面所に入り身支度を整え朝食会場となるリビングへと向かう。
「お、おはようございますアーレイ様(汗」
身支度を整えたフローレンスはアーレイが現れると、顔を引き攣らせ少し慌てるように席を立つ。ポコの姿は見当たらずひとりなので居心地が悪そうだ。とはいえこの時点ではまだなんともいえないが・・。
「おはようフローレンス、色々あったけど気にしなくていいからね」
「色々と申しますと具体的にどのような事なのでしょうか、不覚にも記憶が曖昧でして・・」
表情を伺うと顔を赤らめ恥ずかしそうに俯きながら記憶が曖昧と吐露すれば、昨晩のキスの事は覚えていないということだ。お淑やかな性格の姫様なら昨晩のご乱行振りを思い出しても「王女に接吻したので娶って下さい」とは言わないだろう。なので「昨晩は飲みすぎて絡むだけ絡んで寝ちゃったよ」と笑いながら大雑把に返答する。
「そ、そうなのですね。大変失礼しました(汗」
焦りと恥ずかしさが混じる表情をしているので本当に記憶が無いのだろう。昨晩の事を有耶無耶に出来たアーレイはホッと胸を撫で下ろす。
「ポコはまだ爆睡しているのかな」
「先ほど起こしましたので、今はシャワーを浴びていると思います」
「それじゃ朝飯食ったら出発しよう」
何事も無かったように、並べられた食材を吟味しつつ卵の焼き方を指定して席に座ると、後を続いていたフローレンスは色々思うことがあるのか、しおらしく後に続く。フライパンに具材を入れ始めたコックに「お似合いですね」と言われ、生暖かい目が気になるのか顔を赤くして俯くのだった。
宜しければブクマ、評価、感想お願いします。
初めての投稿なので、本編の進み具合とかこれで良いのか悩んでいます!ぜひ感想お願いします。




