終焉。
艦隊戦が終わりました。
<<暴虐・艦橋>>
Ai「脱出ポッド、並びにコロン少尉の回収完了」
要救助者を後部格納庫に転送を終えた暴虐は熾烈の最期を見守るため、熱を逃すローリングを行いながら追走していたが、灼熱の恒星に接近するのには限界があり既に目視レベルでは確認できない程に離れていた。
Ai「熾烈消滅確認」
高速で恒星に向かって飛ぶ熾烈は、イーフリートの加護が宿る矢のように、真っ赤に染まりながら核融合の海に衝突する。そして一瞬パッと閃光が走り、跡形も無く消え去ってしまう。
「意外にあっけない最後でしたね」
「恒星が大きすぎるから尚更だよね、勿体なかったけど敵には渡せないから仕方がない」
モニター越しの熾烈は超高温の影響で艦影がぼやけていることもあり、フローレンスは消失したという感覚が湧き上がらず、一方のアーレイは悲しみより機密情報が敵の手に落ちなかったことを安堵していた。
「熾烈ごめんなさいナノ(泣」
遅れてブリッジに入ってきたポコは最後の勇姿を見るなり涙腺が崩壊してしまう。消滅した後もモニターをジッと見つめ別れを惜しんでいた。
「大変だったな、ありがとうポコ」
「助けてくれてありがとナノー、けどごめんなさいナノ」
反省というか、しょんぼりしているポコを責めるつもりもないアーレイは、頭をナデナデしつつ「生き残るのが1番大切な事だよ」と慰めの言葉を送り、フローレンスは「私には真似できません、ポコちゃんは凄い事をやってのけたのよ」と素直に褒めていた。
「明日から無職ナノ、ポコも補佐するナノ」
「もう!それは駄目ですよ」
下心から出た言葉では無く、マジで乗る戦艦がないポコは焦りからそう言うしかなかった。しかしアーレイ攻略中のお姫様は席を死守したいのか、ピクリと眉を吊り上げ全拒否の構えだ。
「こらこら、取り合う席じゃないぞ」
仲裁役のアーレイはポコに「第9のまとめ役と専属パイロットヨロ」と言うと破顔してウンウンと頷き、フローレンスには「士官の君にしかできない仕事があるでしょ」と優しく耳打ちする。
「みんなガッツリ鍛えるナノ、頑張るナノ」
「そうですね!精進致します」
咄嗟に思いついた仲裁案はポコ的には鬼教官と専属パイロット、お姫様は引き続き補佐役を邁進できると想像させ、両者が納得する三方よしだ。上手く事が運んだアーレイは少しだけ口角を上げつつ、もう少しでチョロいと言いそうになったのは内緒よ。
<アーレイ、その辺りの後処理をまかせる、打ち合わせ通り捕虜は取らずに解放するぞ>
一息ついたタイミングを見計らってクリスが連絡を入れてくる。行動不能になった両軍の駆逐艦や戦艦が数隻漂っているが、拿捕せず中立地域まで曳航して開放するつもりだ。
「アーヴィンの艦長に俺の計らいだと言伝を頼む。あと残骸処理は任せろ」
ヒャンド側に捕虜を引き渡せばアホな金額の賠償金を取ろうとするのは目に見えているし、ルドルフとの交渉に悪影響が出かねない。それよりもオーランドに送る書簡を確実に届けたいので即時解放をアーレイは選択していた。クリスとのやり取りを終えると今回の功労者が画面に映る。
「ジョナス准将、ありがとうございます凄く助かりました」
<様子見しに来たら困ってそうだったから、お手伝いだよアーレイ君(笑>
アーヴィン艦隊は元より熾烈を追跡していた駆逐艦にも対艦ミサイルを大量に放ち、助太刀ジョナスは本当にいい仕事をしてくれる。3Dレーダーをチラ見していたアーレイは気が付いていたが、救助優先で余裕が無く連絡はしないものの、老兵は先の先を読むのに長けているなと素直に感心していた。
「お手伝いにしては良くもまあ、あんな大量の雨を降らせるのは流石です、お見それしました(笑」
「君も中々の策士だなスムーズ過ぎてお遊びかと思ったぞ、それとお褒めの言葉は素直に受け取るとしよう(笑」
余裕の表情を見ればいちいち口に出さなくても空爆を完遂したと分かり、攻撃方法や武器選択の判断を任せて正解だったとアーレイは心から思う。
あはは、ご褒美は25年物かな。
画面から消えゆく間際、ニヤリと笑いながらショットグラスを呷る仕草を見て、とびっきり上等な銘酒を用意しなきゃなと思うのだった。
<<暴虐・残骸処理中>>
通常なら残骸処理専門の部署が破片やら部品やらをスクラップとして回収するが、ヒャンドに任せると使えそうなパーツを中古品として横流しするのが常なので、トラクタービームを使い支援艦に運び込んでいた。
「戦死者を出したくなかったが、丁重に送る届けるようにな」
「了解ナノ」
大破すれば少なからず船外に投げ出される者もいて、宇宙服を着ていてもフェイスマスクが割れれば即死してしまう。漂う遺体を船外アームで回収するポコは悲惨な姿を見ても慣れているのか、黙々と作業をこなしていた。
「ひっ、人があんな姿に」
「これは酷いな、フローレンスあまり見ない方がいい」
真空に放り出された人間は数十秒で窒息したのち水分が奪われ干からびてしまう。モニターに映る遺体は宇宙服を着ておらず当然見える部分全てがミイラ化していた。
「人が塵のように死んでゆくのですね」
衝撃のあまりモニターから目を離せなくなったフローレンスの瞳から光が消え、コンソールに置いた手はカタカタと震え始めていた。ショック症状に近いと判断したアーレイは肩を引き寄せ優しく頭を抱え視界を塞ぐ。
「これが戦場で現実なんだよ、早く星団統一しないと永遠に続く」
出来る限り戦死者を出さないように作戦を立てていたアーレイは、漂う遺体を見てやるせ無い気持ちになるものの、恐怖に駆られ震えが止まらないフローレンスの心落ち着かせるために「お茶にしないか」と艦長室へと誘う。
ーー
<<アーヴィン王国・アーヴィン国際飛行場>>
一時封鎖されていた空港に被害は無いが、再度攻撃の際に狙われる可能性が高いと判断され、駐機中の旅客機は所属する国に戻るか地方空港への緊急避難の選択を迫られていた。
「国際線を一時的に再開しますが、戦争により安全は担保できません」
「マジかよ、怖いから明日にしよう」
首都中心部は停電以外の被害はなく、空港は自家発電があり通常と何ら変わらず平穏な空気が流れている。しかし恐怖心が煽られたままの乗客らは明日以降の便に変更して空港を去ってゆく。
「ラインスラストまで漢一枚(笑」
「お客様デルタの再攻撃の可能性がありますが、本当に宜しいのでしょうか」
当然、ラインスラスト行きの受付カウンターは閑古鳥が鳴き、ずた袋を肩に下げたアデリーナしかいない。不安な顔をする地上スタッフは空爆の恐怖を我慢しつつ対応をしていた。
「もちのロンよ、早く帰りたいのよ」
「わわわ、いますぐご用意致します」
断る理由が無いので乗りたいと言われれば乗せるしかない。ムッキムキの筋肉でガッツポーズすると、違う意味で恐怖を覚えたのか速攻で手続きを済ませ、乗船コードがモジュールに送られてきた。
「メレル世話になったね、サポートはバッチリだったよん」
「それにしてもあんたの腕は凄いな、誰も真似できんよ」
変装しているメレルと短パン姿のアデリーナは検査場前で互いを称え拳と拳を付き合わせている。今回の狙撃で対策を取られるので再会する事は無いだろう。それを分かっているのか少し寂しげな雰囲気が漂っていた。
「ねぇメレル、彼からの言付けがあるの、ディスティアの情報を期待しているってさ」
「まぁそういう流れになるよな」
作戦の内容は知らせていないが、勘の良いメレルはこの先アーヴィンの戦艦はディスティアで整備する事になり、手下が情報を引っ張って来ると即座に理解していた。
「それじゃまたね」
「少佐に宜しくな」
混乱に乗じたアデリーナは無事に帰国の途につき、見送るメレルは人気がない空港を足早に去ってゆく。
ーー
<<アーヴィン総統府内・地下防空壕>>
王宮にシールドが張られ動けるようになったオーランド達は、急ぎ防空壕へと避難していた。この場所は執務室同様の機能が備わり、大型モニターには被害を受けた施設がランダムに表示されている。
「オーランド陛下、暫定的ですが被害報告をまとめました。未確認情報が多くまだ増えると思われます」
「くっそ、攻撃されないと言われていたのに、なんだこの様は」
怒り心頭のオーランドはタブレットを一目見るなり机の上に放り出し、イラつきMAXの頭を落ち着かせるため、グラスに琥珀色の液体を乱暴に注ぎ一気に呷っている。まぁそうなるのは仕方がないだろう。何せ重要な軍事施設がことごとか破壊されたのだから。
>>
「軍事衛星121機・気象衛星52機・通信衛星250機破壊」
「浮遊砲台・ジャンプ阻害装置・太陽光発電所全損」
「宇宙ステーション2基大破」
「スペースドック・地上整備ドッグ、並びに建造用ドッグ大破、軍港12箇所大破」
「大型発電所・シールド発生装置全損」
「その他関係各所の被害甚大」
>>
報告書の内容を見ればデルタ的には満点、アーヴィン的には最悪な結果で軌道上にある太陽光発電、地上の大型発電所を完膚なきまでに破壊し尽くされたのが超痛手だ。詳細をよく見れば人気が少ない場所をピンポイントで攻撃している事が分かるものの、怒り心頭のオーランドは気にも留めて無い。
「死傷者は現時点で約2.100名、行方不明者約900名となります」
「くっそ、あの短時間でこれだけの被害が出たのか、造船所と発電所を破壊されたのは痛い」
ドッグは完全破壊され、発電所を含め以前の状態に戻すにはそれ相応の莫大な資金が必要になり、予算案を考え始めたオーランドは既に頭を抱えていた。せめてもの救いは死傷者が万単位にならなかったことぐらいだろう。まぁそれはアーレイの作戦が功を奏した結果だけどな。
ヒャンドが潰れたら痛み分けと考え演説するしかない・・。
復興には数年単位の期間が必要になるものの、長年の悲願だったヒャンドを潰せれば星団側に攻め入ることが可能になり、それを理由に今回の失点を帳消しにするつもりだ。むかつきながらも夢見る王様は残念ながら次の報告で奈落の底に落とされることになる。
「た、大変ですオーランド陛下、ヒャンド攻略は失敗、我が艦隊は大敗を喫しました」
「なん・だと(驚」
自国の甚大な被害の責任を回避するため吉報を待っていたが、その夢はことごとく崩れ去り、目の前が真っ暗になったオーランドは机に肘をつき、頭を抱えるとみるみると青ざめていく。
「我がアーヴィン艦隊は不意打ちを喰らったうえ、挟み撃ちにされたとの報告が上がっています」
「戦術Aiが導いた成功率96%だったんだぞ、挟み撃ち攻撃など考えられん」
物凄く優秀なAiとはいえ嘘情報が混じれば判断を間違える。アーレイはその特性を利用して実際に演習を行い本物に限りなく近い情報を流し、業火級を完全に隠蔽して欺いたのだ。しかし同じ作戦は2度は通用しないだろう。
「再度分析させたところ、完全に動きを読まれていたとの結果が出ました」
「ああ今更遅いわ、今なら俺だってわかるわ(オコ」
アーヴィン艦隊に対して熾烈の一撃目、隙を縫うように現れた第6艦隊の動きは精査しなくても情報漏れが原因だと分かる。殺伐とした雰囲気のなか、遅れてとある吉報がもたらされた。
「陛下、吉報があります業火級熾烈が恒星に自沈しました」
「おお、忌々しい戦艦を沈めたかそれはよくやった」
熾烈自沈はアーヴィン軍の手柄では無いが、適当に話を盛って少しでも批判の矛先をかわす話題にするつもりだろう。机に向き合うと頭の中で作文ができあがり始めたオーランドの口角がニヤリと上がる。
ーー
<<暴虐・ヒャンド防衛隊付近>>
「それじゃ細かい宇宙ゴミは任せたよ」
<承知しました。奴らには指一本触れさせません>
回収した遺体はエルフォードへと送られ、細かな残骸処理は本国から派遣されたデルタサルベージ部隊に任せることになる。次はポコに対してちょっかいを出した奴を吊し上げと非協力的な司令本部に鉄槌を下す番だ。
「さてポコ、どいつが絡んできたんだ(笑」
「こいつナノナノ(笑」
熾烈のログは残ってないが艦船番号を覚えていたポコはあの駆逐艦にマーカーをピタリと合わせニンマリとする。アーレイがニヤニヤと不敵な笑いをしているので仕返しをしてくれると想像してのことだろう。その証拠にコンソールを弄り始め、業火級とのシンクロを始めていた。フローレンスは悪巧みの顔をする2人を見て少しジト目で引き気味なのは内緒です。
「デルタ第9艦隊司令官アーレイ少佐だ。ご苦労だったなバルース司令」
<我々の部隊を使わずに、なぜデルタ様がわざわざ手出しするのですか>
画面に映る貧素な顔を持つ指揮官の男はサルベージ業者からの心付けを期待していたのか、恨み節を会話に練り込んでくる。そんなことは織り込み済みのアーレイは不適な笑みを浮かべ、どう料理してやろうかと思案中だ。
「残念だが機密情報が含まれているので諦めろ、それより俺の熾烈に絡んだバカは誰だ(オコ」
<駆逐艦ラザレフ艦長セナトレフ中尉で御座います(汗>
ニヤリと笑った後に豹変したアーレイの表情はまるで修羅の形相で、ガツンと放った先制パンチを浴びた指揮官は一瞬で引き攣った。ポコはニンマリ笑顔を浮かべ、切れた姿を初めて見た姫様は最初こそびっくりしてたけど、頼りになると感じたのか生暖かな眼差しを送る。
アーレイ「そうか、じゃあご挨拶しないとな、ラザレフに向け照準を合わせろ」
バルース<えぇっ?>
おふざけ大好きなアーレイは暴虐を駆逐艦に向け、ロックオンレーダーを発砲する指示を出す。司令官は充填され始めた主砲を見て慌て始め、ほぼ同時にモニターにセナトレフが映し出された。
<飼い主の方が躾がなってないな、犬好きはコレだから困るんだよ>
<えっ、謝罪だ謝罪するんだセナトレフ!>
<やだね、撃てるもんなら撃ってみろ>
予想外の反応でポコとフローレンスはポカンと口を開け虚をつかれたような表情を浮かべている。まあ怖いもの知らずというか舐められなく無いので虚勢を張っているだけだろう。アーレイは戯言と切り捨て涼しい顔をしつつ、コンソールに置いた指を滑らせロックオンレーダーを発砲する。
<申し訳御座いませんアーレイ司令官様、どうかご容赦をお願いします(大汗>
「やだね、躾がなってないから暴言を吐くんだよ、これじゃまるで猿人だな(笑」
司令本部にも駆逐艦を介してピーピーと警告音が聞こえているのか司令官はすでに狼狽し始め、見透かすアーレイはそれを無視して売り言葉を買い、思い切り不敵な笑みを浮かべている。ちなみにポコはザマァと呟きフローレンスは小芝居に感じたのかクスクスと笑う。
<クッソ言いたい放題言いやがってこの糞デルタ、お前さえいなきゃいなければ俺は戦艦の艦長だったんだ>
ここに来てこいつが嫌がらせをする理由が少しだけわかる。要するに稼働していなかった戦艦の艦長だったらしく再編成の際にリストラされたのだ。まあこの国の事だから付け届けが少なかったのだろう。
「筋金入りのアホな艦長だな、第9なら掃除係だな(笑」
元はと言えば不具合を放置した艦長に責任があり自業自得と言えばそれまでで、呆れたアーレイは耳をほじくりフッと吹き飛ばす。そして「行くぞ」と呟いた瞬間、モニターから消え数秒後復活するとニヒリと悪人のような笑みを溢していた。
Ai「駆逐艦ラザレフの乗っ取り完了」
<はっ?>
「バーカ、すでにお前は俺の掌の上だ(笑」
<なん・だと(大汗>
気がつけば真っ赤に染まる暴虐の主砲が艦橋の目前に現れ、3隻の業火級に囲まれている。それも10mにも満たない超近距離で精度が高すぎるスキップジャンプを目の当たりにして愕然とした表情に変わっていた。おまけに完全に乗っ取られモニターは真っ赤に染まりShip steeri|ng authority invalid《操船権限無効》の文字が並ぶ。
Ai「バルース司令官、駆逐艦ラザレフに転送完了しました」
業火は司令本部のバルースを強制転送で拾い、少し遅れて姿を現しそのまま駆逐艦の艦橋に送り届けていた。そうでもしないとポコの怒りが収まらないだろうし、根性を叩き直さないとダメだとアーレイが判断したのだ。
「とりあえず熾烈の墓参りにでも行こうかセナトレフ君とバルース君」
<ウヒャヒャ(泣>
<申し訳ございませんでしたアーレイ司令官様(泣>
墓参りと言われビビったセナトレフは既に半泣き状態でバルースはひれ伏すものの許されるわけもなく、駆逐艦ラザレフと共に超高温の恒星近くに連れて行かれる。そして反省の弁をなん度も復唱しつつ土下座するまで、熱い、それはそれは暑すぎる蒸し風呂地獄を体験したのは言うまでもないだろう。
宜しければブクマ、評価お願いします!




