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ポコ絶対絶命。

熾烈が・・・ポコが・・。

 <<アーヴィン総統府・オーランドの執務室>>


「オーランド閣下、デルタ軍が防衛ライン内に出現、空爆を行っています」

「・・・」


 時は遡り第6艦隊が攻撃を開始した直後の事だ。その情報は即座に総統府へと伝えられ執務中のオーランドに齎される事になるが、話を聞いても無表情のまま固まっている。それもその筈、ドーンドーンと重低音が何百回も部屋に響き渡り立ち上る黒煙を見て既に察していたらしい。


 「陛下、シールドで守られて安全ですがとりあえず避難をお願いします」

 「ああ、そうしようか・・」


 生まれてこのかたデルタ軍の攻撃に晒された事がないオーランドは、あまりの衝撃的な出来事で「攻撃はされないと言ってたのに・・」と呟きながら重い腰をあげる。悲壮感が漂う彼はセオドールと会う度に「お前の国は狙われないから俺に付き従えば良い」と言われたことを思い出していた・・。


 パーン。


 力無く歩き始めた瞬間、ピュンと銃弾が通過する音が響くと共に、扉の前に立っていた護衛の頭が破裂音と共に風船が割れるように霧散してしまう。部屋の中にいる数十人の関係者は一瞬何が起きたのか理解できなかったが、トマトが潰れたような血糊を見て引き攣り始める。


 侍女「キャー」

 護衛「狙撃だ陛下をお守りするんだ」

 執事「陛下、伏せてください」


 バン!


 侍女「グヘェ・・」


 パーン、パーン。


 護衛「・・・」

 執事「・・・」


 初弾は始まりの合図だったのか連続して着弾する音が響き渡り、頭に手を置き悲鳴を上げていた侍女の上半身にはポッカリと大きな穴が空き、オーランドの傍に立つ護衛と秘書は頭が消し飛び、まるでオーランドに近寄るもの達だけをわざと狙っているようだ。


「何故だ、何故私を狙わない、嗚呼・・」


 立ちすくむオーランドの足は震え、手を頭に置き亡骸をじっと見つめ、自分だけが狙われないという逆の恐怖に慄いている。護衛は這いつくばり必死に袖を引っ張り、伏せさせようとするが・・。


 バン!


「ヒャ、嗚呼なぜだ・・」


 袖をひっぱていた腕だけが残され、護衛の男は心臓が破裂したのか力無く崩れ去ってしまう。少しでもオーランドに近づくものは獲物と認定され無情にも骸と化する。


 「シールドはどうした!」

 「わ、わかりません解除されています」


 王宮は強固なシールドで守られているはずだが、実は狙撃直前メレルの手下によってハッキングされ、その効力を無くしていた。これも旧式を設置したままなのが原因だったりする。


「壁に隠れるか床に這いつくばるしかない」


 ドコン!


 叫んでいた護衛が壁に寄りかかった瞬間、大穴が空き、見るも無惨な亡骸へと変わる。


 ドン!


 狙撃ポイントを見極めようと恐る恐る外を覗いた護衛の1人も壁ごと銃撃され、上半身が粉々に吹き飛んでいた。


「何故だ、何故俺だけを殺さない!」


 パーン、パーン。


 高所の狙撃からは逃げるところなどどこにもない。床に這いつくばり匍匐前進で近付けば狙われ、仲間が絶命した隙に動いても狙撃されてしまい、次は自分じゃないかと誰しもが思い顔が青ざめていた。


「シールド回復しました」

「なぜ俺以外を執拗に狙うのだ・・」


 ようやくシールドを再起動したのか安全が確保され静けさが戻るものの、執務室は血糊で地獄絵図と化し、その惨状を見たオーランドは頭を抱え困惑する表情を浮かべるが、何が狙いか理解できないらしい。これはアーレイが描いたアーヴィン攻略の手始めの一歩に過ぎなかった・・。


 <<アーヴィン王国・ビル解体現場>>


「あらやだ、シールド張っちゃったわ、もう撤収ね」


 空になった弾倉を取り替えボルトを引いたアデリーナはデジタルスコープを覗くと、No sniping allowedの文字が現れシールドが張られたと分かり溜息が漏れ出る。


「いやーとんでもないものを見せて貰ったよ、あんた凄腕だな」


 旧式とはいえシールドを張ればライフル弾は通らなくなり、無駄に撃てば射撃地点を割り出されるので長居は無用だ。お終いと判断したアデリーナは硝煙で煙たいテントを剥ぎ取った。


「貧民街までの道案内頼んだわよ」

「あれを見てみろよ、今ならどこに降りても逃げれるぞ」


 テキパキとテントの撤収を終えたメレルは黒煙が立ち上る郊外を指差す。その数は数えるのが面倒な程多岐に渡り、アーレイの作戦が上手く運んだという証だ。都市部は間違いなく混乱しているので貧民街に逃げなくても大丈夫だろう。


「混乱に乗じて出国しちゃおうかな」

「攻撃が落ち着けば検問するだろうから、早めがいいだろう」

「じゃ、飛ぼうよ」


 カイトを広げた2人は操作室から思い切ってジャンプすると、貧民街を目指し滑空してゆく。


 ーー


 <<暴虐と業火級達>>


「いま時点で30隻位か、もう少し攻撃した方がいいかな」


 アーヴィン軍の背後を取り攻撃を仕掛けていたが、主砲のエネルギーをシールドに割り振りチャフを撒き散らした事で撃破率が下がり始める。まぁそれでも当初の目標数は十分に達していた。因みに暴虐を含む業火級達にはかすり傷ひとつ付いてない。


 「そうですね、けど防衛隊を放置したら崩壊しますよ(笑」


 ヒャンド防衛隊は馬鹿なりに頑張っているが、アーレイが手助けしているにも関わらず、アーヴィン艦隊とほぼ同じ損害率だったりする。辛口のフローレンスはあまりの弱さに苦笑いをしていたよ。


 「ヒャンド本土を攻撃されるのは頂けないから、ミサイル駆逐艦を潰すか」

 「既に進軍を諦めている気配がありますね、もう一押しかと」


 思いのほか防衛隊が前に出た事で対地ミサイルを撃てないアーヴィン軍は、迎撃と対艦ミサイルを吐き出す要塞を避けるため、当初の進路より大幅に外れていた。


「おーいアラン、ミサイル駆逐艦を中破狙いに変更だ」

 <了解しました>


 様子見を続けるディスティア軍に少しでも損害を与えたいアーレイは、さっさとアーヴィン軍を蹴散らし今すぐにでも向かいたいのだ。


 <<砲撃後・・>> 


 「いやー硬かったな、後はポコに任せても大丈夫かな〜」

 <任せろナノ>


 結局アーヴィン艦隊はシールドを強化しつつヒャンド防衛隊と距離を置き睨み合いを続け、簡単に撃破できなくなりアーレイは攻撃を止め離脱を始めた。もう少し損害率が上がれば撤退は間違いないだろう。


 「ポコちゃん頑張ってますので、放置でいいかと(笑」


 賛同するフローレンスは笑っているものの、ジト目というか座り気味で、あと少しでキス出来るのを邪魔されたことを恨んでいるように見えなくもない。言葉や態度には決して出しはしないが、きっと心の片隅に黒い天使が舞い降りたに違いないと、アーレイはそう思わずにはいられなかった・・。


 ーー


 <<ディスティア艦隊>>


「アーヴィン軍は何をやっているんだ、さっさと空爆を開始しないとデルタの即応部隊がやってくるぞ」


 引きつけ役のディスティア軍は無駄に砲撃せずに絶妙な距離を保ち、どちら側にも損害はないが、アーヴィン軍が苦戦している状況を見て司令官の男は苛立ちを隠せない。同時に居ないはずの業火級が現れた事により乗組員たちの表情は暗く沈み、既に作戦失敗という不穏な空気が艦橋内に生まれつつあった。


 Ai「艦隊後方にデルタ業火級5隻がジャンプアウト。レッドアラート発動」

 「艦長、暴虐の砲撃来ます!」

 Ai「戦艦6隻が大破により戦線離脱」

 <司令官、申し訳ありません戦線離脱します>


 主砲に充填してジャンプしたらしく、出現すると同時に赤い閃光が戦艦に吸い込まれ、シールドがほぼ効いていない状態なので爆沈すると思われたが、なんとか自航できる程度に破壊され次々と戦線を離脱してゆく。


「やはりこっちにも来たか、艦隊との距離を離しつつシールド後方に集中、チャフを撒け」


 僚艦から戦線離脱する報告が次々と上げられ、たった5隻の戦艦がもたらした破壊行為はガリガリと司令官の闘争心を削ってゆく。それでも戦況を悪くしないため最善の努力を努めてはいたが・・。


 クッソ戦艦ばかり狙いやがってアーヴィン軍がだらしないのがことの始まりだ。


 決して口には出しはしないが司令官は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ、撤退の判断を迫られていた。客観的に見れば作戦は失敗で、その根拠は余りにも手際がいいという事だ。


「アーヴィン軍からの連絡です、熾烈拿捕のため戦列を離れるとのことです」

「チッ、あの馬鹿ども何を考えている、これよりディスティア軍は撤退行動に移ると伝えよ」


 突然現れた暴虐の攻撃によって作戦を維持できなくなったアーヴィン軍は、せめてもの手土産にと考えたのか熾烈を追い始めてしまう。3Dマップを眺める司令官はこれ以上の損害を出すのは悪手と判断して撤退の指示を出し、セオドールに作戦失敗の報告理由を考え始めるのだった・・。


 ーー


 <<少し前・熾烈艦橋>>


 Ai「警告、ECM、DEWの多重電子攻撃の危険性大」


 単独行動を始めたポコは抜群の操船技術を駆使して、のろまなアーヴィン艦隊に攻撃を加えているものの、シールドを強化したことで破壊率が下がり、悪いことに電子攻撃に特化し始め狙い撃ちされ始めていた。


「密集陣形は厄介ナノ〜」

「艦長このままだとセンサー類が壊れてしまいそうです」


 凄まじい電子攻撃に晒され艦橋内はロックオン警報が鳴り響く。攻撃が思うように通らなくなったポコは打開策を考えなければいけない状況に追い込まれつつあった。


 「一旦急速離脱を行い距離を取るナノ」


 攻撃方法を再考するため距離を置くと決めたものの、電子攻撃をまともに喰らえば拿捕される可能性があり、戦艦とは思えない軌道を描きながら超高速で離脱し始めた。


 ガガガ。


 Ai「警告、2番スラスターに異常発生」

「ダノー、ヤバいけど乗り切るナノ」


 旋回中にいきなり異音が鳴り響くと熾烈は途端に曲がらなくなり、ポコは船体を回転させ逆側のスラスターを使い事なきを得る。しかしこれは序曲の始まりに過ぎなかった。


 Ai「警告、ジャンプコアオフライン、サブエンジン失火」

「エネルギーバイパスの破損確認、各ユニットの台座がズレて結合部分が壊れたのが原因とのこと」

 

 機関室から次々と上がってくる報告は致命的な内容ばかりで、時を待たずともメインエンジンが使えなくなるだろう。頼みの綱はまだ使っていないブースターだけだが、スラスターが不調なので思うように操船できない。しかしかならず来るであろう終いの時が訪れる前に、敵が欲しがる熾烈をなんとかしなければならなかった。


 ーー


 <<アーヴィン艦隊・旗艦>>


 Ai「熾烈のサブエンジン失火、コントロールに問題発生の可能性あり」

「司令、熾烈は何らかのトラブルを抱えている模様です。これはチャンスじゃないですか」


 ヒャンド攻略を半場諦めていたアーヴィン軍は熾烈攻撃に全振りしていたことで船体異常を比較的簡単に掴め、報告を聞いた司令官は運が味方したと思ったのかニヤリと口角を上げ全艦放送のスイッチを入れた。


「皆よく聞け、熾烈を拿捕できたものには二階級特進と特別報奨金、並びに武勇勲章の推薦状を進呈しようじゃないか」


 司令官はディスティア軍に”お伺い”という名の報告もせず、ヤラレ損は勘弁とばかりに熾烈拿捕の命令を出す。美味しい餌を用意すればここぞとばかりにしゃかりきになって追い回すだろう。すでに放送を終えた直後、駆逐艦などの高速船は次々と戦列を離れてゆく。


 <ディスティア艦隊はこの戦域より撤退する>

「司令どう返答しますか」

「拿捕出来るのに逃げる弱虫は放っておけ、それより時間がないぞ」


 デルタ第4艦隊が動く前に拿捕を終わらせなければならず、突っ走る司令官は逃げるディスティアの事など気にも留めてない。それにしても今回のポコは災難に見舞われっぱなしで可哀想そうとしか思えなかった・・。


 ーー


 <<暴虐・艦橋>>


「ポコ、熾烈が調子悪いみたいだが大丈夫か」


 2番スラスターが故障して数十秒後の事だ。突然メインエンジンの警告灯が点滅すると見る見るスピードが下がり、戦列を離れたアーヴィン軍が迫ろうとしていた。熾烈の状態異常を確認したアーレイは忠犬を助けにいくつもりだ。


 <メインエンジンが不調になる前に恒星に落とすナノ>


 画面に映る熾烈の艦橋内はレッドアラームが響き渡り、一目見て異常な状態と分かる。ポコは厳しい表情をしているものの目力強く、全く諦める様子はない。


「必ず助けるから先に向かってくれ、くれぐれも無理するなよ」

 <がんばるナノ、ブースターがあるから大丈夫ナノ>


 突撃の際に使わなかったし制御は別なので、いざとなれば逃げる手助けになる。しかしスラスターが片方死んでいるので厳しい操縦になる筈だ。アーレイは熾烈支援の為に戦列を離れ座標をインプットし始めた。


「熾烈を恒星に落とす事になった。アーヴィン軍を蹴散らしてくれ」


 星団統一の道半ばで業火の秘密は絶対知られてはならないし、この混乱下では巻き込みジャンプを行う余裕はない。アーレイが号令を飛ばすと艦長達は了解と短く返答しつつ、進路を熾烈に向けスキップジャンプを始めた。


「アーレイ様、熾烈を落すのですか、ポコちゃん大丈夫ですか」


 誰も異論を述べずに従う姿勢を見たフローレンスは、それほどまで熾烈を敵に渡してはならないと一瞬で理解しつつ、ライバル視しているポコのことが急に心配になり不安そうな顔をしていた。


「アイツは大丈夫だ心配するな、それよりディスティアの座標をクリスに送ってくれ」

「承知しました」


 伝令役としてベクスターを飛ばす予定だったが、暴虐と業火達が戦艦を狙い撃ちにしたことで無線妨害の大半が解かれ、尚且つアーヴィン軍は戦列を崩し作戦継続不能と判断したアーレイは、程なくすればディスティア軍は撤退すると考え、待機しているクリスに電文を送る。


 ーー


 <<ディスティア艦隊・旗艦>>


「それでは本星に向けてジャンプシーケンス開始します」

 Ai「高速で接近中の艦隊を確認」


 暴虐が進路を変えた直後、撤退に向けシーケンス発動を始めると同時に長距離レーダーに反応が出る。あと数分遅ければ逃げおおせたのだがアーレイとクリスはそれを許すはずもなく、奴らの航路のど真ん中に第9艦隊が姿を現す。


「ヤバい動きを読まれている、各艦に次ぐ各自準備出来次第ジャ・・・」


 第9艦隊を見た瞬間に動きを読まれていると理解した司令官は、急ぎ各艦に命令を飛ばしていたが、言い終える前にエルフォードの主砲が旗艦の艦橋を貫き沈黙してしまう。


「戦うな、ジャンプだ、ジャンプを優先にするんだ」


 破壊を免れた第二艦橋に待機していた士官に指揮権が移り、ディスティア艦隊は混乱することなくジャンプシーケンスを開始する。とはいえ準備が整う数分はシールドを強化しつつ第9艦隊の攻撃を凌ぐしかない。轟沈、爆沈した船はないものの、損害を受けた四十数隻の戦艦はアーレイの狙い通り修理ドッグ入りすることなるだろう。


 ーー


 <<アーヴィン艦隊・旗艦>>


 「もうすぐだ、もうすぐだ、3隻で取り囲んで熾烈を巻き込んでやれ」


 熾烈を追跡する高速船から送られる映像を見ている司令官は野球観戦をしているかの如く楽しんでいた。巻き込んでジャンプさえすれば英雄として迎えられるので、その気持ちは分からないでもないがそう簡単じゃ無い。


 Ai「ジャンプアウト確認、業火級と判明」

 「今更遅いわ、残念だったな」


 業火級4隻がジャンプアウトすると熾烈を取り囲んでいる駆逐艦を守ろうと僚艦が射線を塞ぎ、業火級が応戦しても間に合わないと思い司令官はニヤっと笑う。


 これで特進間違いないな。


 駆逐艦3隻が熾烈を拿捕するために取り囲み、後は強制的に進路を変え巻き込みジャンプすれば作戦終了となるその時、飼い主が現れる。


「暴虐出現、駆逐艦大破、熾烈恒星に突進して行きます」

「何処から攻撃したのだ、暴虐は真っ直ぐにしか撃てないんじゃ無かったのか」


 熾烈の後方、それも斜め上にアウトした暴虐は主砲が撃てないと思うのが普通だ。けど期待を裏切るように発射口から雷のように不規則なビームが放たれ駆逐艦の噴射口はことごとく破壊されてしまった。


「ふふふ、これは初公開だな」


 船体に張り付き射線を塞ぐ事を想定していたアーレイは、パネル砲の技術を応用した近距離用の武器を開発していた。もちろん距離が離れれば威力は弱くなるが、駆逐艦程度なら著しくダメージを与えられるのだ。


 <司令すみません離脱します>


 エンジン噴射口を破壊された駆逐艦は恒星の引力に引きつけられる前に離脱するしかなかった。司令官は悔しそうな表情を浮かべ、ブースターを点火して離れゆく熾烈を見送るしかなかった。


 Ai「警告、高速で接近する艦隊を感知、レッドアラート発動」

 「なんだと、第4も第9もまだ動いてないぞ」


 長距離レーダーが反応したのはまさかの第6艦隊だ。焦る司令官は食い入る様にレーダーマップを見ると、艦隊が出現と同時にミサイルを現す軌道が自分たちへと向かっていた。


「指令、対艦ミサイル来ますその数2500」

「クッソ撤退だ、チャフを撒いて撤退しろと伝えろ」


 アーヴィン艦隊もまたジャンプを優先して着弾を許しつつ、大破した船体を引きずりながら彼方へと消えてゆくのだった。


 ーー


 <<少し前の熾烈・艦橋>>


 「しつこいナノ、溶けてしまえばいいナノ」

 Ai「外郭温度1600度を超えました危険です回避してください」


 少し前の事だ。数十隻の駆逐艦に追われ恒星近くまで移動してきた熾烈は、高温に晒されチキンレースの真っ最中で、このまま接近すれば敵艦は耐えきれなくなり離脱するとポコは考えていた。それと脱出準備を始めなければいけない頃合いなので徐にコンソールを弄り始める。


「総員脱出ポッドの射出準備するナノ」


 ドン、ガコン。


 Ai「衝突の衝撃によりポッド1号機は射出不可能、センサー類の一部が使用不能」 

 「ダノー」


 拿捕するために敵駆逐艦が体当たりを仕掛けてくるが、そもそもこの程度の衝撃で壊れる業火級では無い。しかし度重なる不具合により船体に亀裂が入り、その影響でポッド射出口と艦外センサーの一部が壊れてしまう。

 

「総員退艦するナノ」

「艦長、最後を見届けますので私のポッドを使って逃げてください」


 医療用カプセルに入りレーダー手を担当していた女性は自分のポッドを譲ると言いだす。全身麻痺の彼女は病院でアーレイに拾われもう一度活躍できた事で満足出来たのか、とても穏やかな表情をしつつ「自分を犠牲にしてくれても構わない」と付け加えてきた。


「ありがとナノ、けど熾烈はポコの船ナノ」

 Ai「敵艦ジャンプシーケンスに入りました、危険です外殻温度2000度を超えました」


 もう一刻の猶予もないのは敵も同じだ。艦外モニターを見れば敵の駆逐艦の装備品が溶け始め、決断を迫られたポコは脱出ポッドとブースターの発射スイッチを同時に入れる。


「嗚呼、艦長〜」

「バイバイナノ、生まれ変わったらまたアーレイ様と出会いたいナノ」


 先ほどの女性は信じられない顔を残し脱出ポッドは艦外へと吐き出され、ブースターが起動したのか急激な加速感を覚え、ポコはもう間に合わないと悟ったのか最後の最後に諦めの言葉を漏らす。


 <ポコよく頑張ったな、さあ帰ろう>

 「ナノナノ〜」


 覚悟を決め寂し表情を浮かべていたけどアーレイ声を聞いた途端にニコニコ笑顔に変わり、千切れんばかりに尻尾を振っていたわ。

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