隠語と芸術。
画伯ピンキーが・・。
<<アーレイの執務室>>
「流石に全艦隊に向けた作戦指示書をクリスに任せる訳にはいかないよな」
要となる第6艦隊指揮官ジョナスにはクリス自ら赴き、作戦の説明をして了承を得ることができた。しかし今回の作戦は本星防衛隊の第1艦隊を含む持てる全てを総動員することになり、発案者のアーレイはいざという時の対応も含め、ありとあらゆることを想定した作戦指示書を作成しなければならず、かれこれもう数時間、机と向きあっていた。
<アーレイ少佐、ディスティアのルドルフ准将から連絡が入りました。そちらにお繋ぎします>
一息入れるのにはまだ中途半端な時間、書面と向き合い悩んでいるところにルドルフから連絡が入る。次回の予定だと分かっているので、気合を入れ直しモニターと向き合う。
「次の訪問の予定は決まりましたか」
<少し待ってくれ、金を使う許可は下りたが現金の準備に手間取っている>
画面に映るルドルフの相変わらずの強面は怖いし、眉間の皺の数がいつもより多く、苦労していると一目でわかる。まあそれでも話しぶりからすると、少し時間があれば何とかなりそうだ。
「満額揃えて一気に終わらせるのでしょうか」
<下士官に関してはそのつもりだ。次回デルタの捕虜を55人全員を同行させる>
先日ジェフが許可を出した50名はデルタ軍の捕虜を考慮した数字だ。いきなり増えた理由を想像するに、釣り合いを取るために、行方不明になっていた諜報部員を加えてきたのだろう。降って湧いた話なのだが、何ら理由を説明しないので疑問に感じたアーレイは「それは有難い」とだけ短く返す。
<何事も早い方がいいし、適正な取引価格なので助かるよ>
「こちらこそ帳尻を合わせていただき感謝しています。閣下は喜んでくれましたか」
<もちろん喜んでいたが悩んでもいたぞ。真意が読めんと言っていた>
他者が聞いても理解できない微妙な言い回しをするルドルフに対し、同じような表現を行いつつ様子見状態だ。まぁ盗聴されていることが前提なので致し方ないだろう。違和感を感じたアーレイは奴は何かしらの方法で伝えてくると考えその時を待つ。
「好戦的ではないと伝わればそれで良いだけです。次回も来られますか」
<そのつもりだ。しかしあの強かな補佐官はもう勘弁して貰いたいな、交渉が上手くいきそうにない(笑>
強かは単なる理由付けで、フローレンスは引き続き狙われているから次回は参加するなと言いたいらしい。多分ここからが本番だろうと理解したアーレイは一瞬だけニヤリと笑う。
「グイグイ来ますからね、交渉の際には下がらせます」
こちらも隠語を使い大丈夫だと返し、意味が通じたのかルドルフはバレないように少しだけ口角を上げる。
<そうだ、前回世話になったコロン少尉にディスティア産のタマネギを持って行くから、是非調理して食べてくれと伝えて貰えるか>
「分かりました。伝えておきます。お礼としてクーン特産の甘い物用意してお待ちしています」
<おお楽しみにしているよ最近甘い物が好きになったからね、そうそうこの前の影の薄い子も来るのかな>
「あははアイツですか、きっとまたお茶したいと言い始めますよ」
<そりゃ楽しみだ、こちらの準備が出来たらまた連絡する>
会話の最後に色々合点がいかないことを矢継ぎ早にブッ込んでくる。ポコとは面識はあるが会話らしいことはしてない。陰が薄いと表現したのはピンキーの事だろう。とりあえず話しを合わせたが疑問だらけなので、答え合わせをするためにアーレイは腕を組み思考を始めつつ、玉ねぎのことを聞くことにした。
「ポコ、少し教えてくれ、犬族はタマネギを食べられないんだよな」
<食べると調子が悪くなるナノ、犬族には《《毒》》ナノ〜それだけナノ>
「そうだよな、ありがとう」
ポコに確認を取ると犬族にとってやはりタマネギは毒と言われ、ルドルフは何か重要な事を伝えてきたと考え、急ぎクリスの元に向かう。
<<作戦本部・サロン>>
「クリス悪い、またミーティングルームに頼むわ」
「どうしたんだ、何か悪い知らせでもあったのか」
「恩義を感じてる奴からの連絡だったよ(笑」
名前を人前で出す訳にはいかずクリスに分かるように表現すると、その言いようで只事ではないと感じたのか、静かに席を立ちミーティングルームへと足を向けてくれる。
「次回の取引はトラブル臭しかせんわ(笑い」
「早く詳しく聞させろよアーレイ(笑」
先ほど録音していた会話を流し始めると、クリスはタブレットを操作しながら直ぐに文章化しつつ、気になった点に赤線を引いていく。タマネギは毒だと知っていたのか苦笑いするも、隠語が多すぎて最後は難しい表情に切り替わっていた。
「突然増員したのは不足分を交渉に使われたくないのと、金を節約したいのだろうな」
「まぁそんな所だ、金集めに苦労していると本人が喋ったし」
「甘い物が好きになったとは何だ、良く分からないぞ」
増員と金に関しては分かり易いのと、2人に暗殺命令が出ていることは知っているので難なく理解できた。甘い物の下りはアーレイとルドルフで交わされたキーワードなので、意味が分からないクリスは何ともしがたい表情をする。
「奴は酒のみで甘い物があまり得意ではない、好きになったとタマネギの毒は暗殺者のことだろうな」
毒の意味は暗殺者だと語り、甘い物が好きの表現は自分自身が追い込まれ「次回は自ら動かざる得ない筈だ」と付け加えた。先に甘いと表現したのはアーレイなので、合点がいかないクリスはなぜそう話したのかと凄い目力で訴えてくる。
「君が先に表現した甘い物の意味は苦手・・嫌な物・・護衛か?」
「あっちは暗殺者でこっちは護衛って事だよ、影が薄いはもうわかるだろ(笑」
考えている間に勘のいいクリスは答えを導き出しアーレイが補完すると、何故回りくどい事をしてまで伝える意味があるのかと疑問を呈してきた。まぁ軍人なら当然の反応で、命令を受諾すれば速やかに実行しなければならず、このようなやり方に違和感を覚えたらしい。
「総統は捕虜よりも俺の暗殺を最優先にしたんだろ、士官の交渉はまだ先だし」
「危険を冒してまで伝えて来るとは、それにしてもよく隠語でやり取りできたな」
「ルドルフも下士官の為に頭をフル回転させた筈だよ。聞かれたとしても気が付かないわ」
文章化して再度見直すと、下士官達を是が非でも連れて帰りたいルドルフの気持ちが痛いほど伝わってくる。戦艦を拿捕する際、士官達が我先にと逃げだす事を知っているクリスは驚きを隠せないでいた。
「奴としては総統には逆らえないけど、見捨てたくないなので伝えてきたんだと思うよ」
「仲間を大事にする真面目な武人か、部下に慕われる君とは気が合うんだな(笑」
傭兵時代に部隊長を務めた経験豊富なアーレイは人の扱いが上手く、彼の知らない所で結構人気者だったりする。育ちが良い中級貴族のクリスは冷静沈着なうえ、実年齢より大人びているので馬が合うらしい。
「奴も俺もオッサンだろ、だから波長が合うんだよ(笑」
傭兵だったこともあり敵味方の区別は立場の違いとしか感じず、偏った憎しみに縛られることはない。それよりも有能な奴とは知り合いになりたいのが本音だ。それを見透かすクリスは心中で「その豪胆な所が好きなんだけどな」と呟く。
「第9は好きに使っていいぞ(笑」
その言葉の意味は暇してるキースを使えだ。彼らは前回、逮捕制圧しただけで鬱憤が溜まっているらしい。おまけに第2小隊の《《漢》》組がしゃしゃり出てきて、萎えたのも原因だったりする。
「交渉は任せてくれ、それとルドルフの身辺調査を頼めるかな」
理不尽な要求に正義感との板挟み状態と考えると、彼の弱みを握るのであれば家族だろうとアーレイは予測する。言い方は悪いが、実情を知れば何らかの役に立つと考えていた。
「承知した、交渉にはより多くの手札が必要だしな」
この国にも敵を知るには先ず相手からの言葉があり、それを実践しただけだと思ったクリスは即答する。得られる情報は家族構成が主で大した内容ではないが、後にとあるミッションで役に立つとは現時点で誰も、アーレイですら気付いていなかった・・。
<<アーレイの執務室>>
「メレル頼みがある、アーヴィンの防衛システムを一時的にでもいいからダウンさせられないか」
<なんだなんだ、いきなりハードルが高い事を言ってくれるな、出来なくはないがそれなりの装備が必要だ>
自室に戻ったアーレイは作戦成功の要である、アーヴィン防空装置の無力化についてメレルに尋ねると、いきなりぶっ飛んだ事を言われ声が荒ぶっていた。騒ぎを起こすのは間違いないので顔は見えないが、今頃は興奮してフルフルと震えているかもしれない。
「インフラを中心に叩きたい、出来れば軍港もだ」
<なん・だと、詳しく聞かせてくれ>
数百年ぶりの空爆とだけあって興奮するメレルの鼻息がフゴフゴと荒く、詳しく教えろとせっつかれるが長い通話は危険だ。アーレイは手短に要点だけを伝えると、10分後に掛け直すと言われ一旦通話を終わらせた。
<<10分後・・・>>
<超高性能爆薬500キロ、信管280本、遠隔タイマー140個、これが最低ラインだ。携帯型ミサイルがあると助かる>
アーヴィン城を2回破壊しても、余る程の凄まじい量の爆薬を準備出来るかと平然と説いてくる。もちろんデルタから運べないし、携帯型ミサイルはアーヴィン軍から拝借しない限り無理な話しだ。結びに最低限の必要量だと述べ、画面に映るにこやかな笑顔の向こうには、疑心暗鬼の表情をしているメレルの顔が想像できる。
「分かった全て準備しよう」
今はひと声掛ければ全面協力してくれる頼もしい女傑がいる。なので余裕のアーレイは自信に満ちた返事をすると通話が切れる瞬間、フッと鼻息が聞こえた。
ーー
<<デルタ軍港・ベクスター用格納庫>>
注文した塗料は安全上の理由から作戦本部や王宮に送る事が出来ず、ベクスターの格納庫宛になり、その場所はピンキーの待機場所だったりする。そして到着の知らせを受けたフローレンスが訪れることになるが、待機部屋に入って一番最初に目にしたものとは・・。
「わわわピンキー!あなた何やってんのよー!」
「姫様、これかわいい?これげいじゅちゅ?」
無邪気に戯けるピンキーの頭部とフロントアーマーの一部には、真っ赤なサイケデリックな模様が描かれていた。今は腕の装甲を外し脱脂の最中で、奴は説明書をちゃんと読んで下準備をしているらしい。
「この子ったら本当にバトルドロイドなの、アーレイ様が見たらどうしよう〜ああもうこの塗料消えないやつじゃなーい(汗」
作業机の上にある説明書を手に取るフローレンスは、ハラリと落ちるカタログを見て青ざめてゆく。
「ねぇひめさま~、べクスターにも描いた」
「な、なにしてんのよ!(焦」
「しろいから描いた」
「ヤバイやばいよ、あれは一度塗ったら剥がせないのよ、ああ、もう何で開けられないのよ~」
急ぐあまり通路の扉では無く、目の前にある重厚な防爆仕様のスライドドアを急ぎ開けようとするが非力な女子では無理らしく動かず、予測不能な行動をするピンキーがとんでもない事を仕出かしたと考えたフローレンスの表情は青ざめ切羽詰まっている。
「ちび助てつだいナウ」
「え゛!えぇぇ〜」
必死に開けようとするが超重い扉は少ししか動かず、ピンキーの助手が手助けするとスッと視界が開けた。慌てるフローレンスはベクスターに駆け寄り機体を見上げるとそのまま固まってしまう。
「どーおう?」
「や〜ん、厨二病全開だよ~嗚呼もうどうしよう〜アーレイ様に怒られる~(泣」
余りの衝撃に全身の力が抜け、床にペッタン座りするフローレンスの瞳には涙が溢れ、滲んだ先のべクスターの胴体には|Invincible Knight Vecstar《無敵の騎士べクスター》の文字が見える。それと機首と主翼にはカスミ草のような細かい落書きがしっかりと施されていた。
「ひゃー!いけてるー!ねえきいいてるひめさま」
「・・・(呆」
突飛な行動をしたピンキーは悪びれる様子もなく胸を張りドヤのポーズを決め、偶然にせよドロイドの芸術性が開花したことは奇跡だと思う。が、しかしベクスターは物凄く高価でオーナーは大好きなアーレイだ。もう絶対に元に戻らないことを理解しているフローレンスはどうしようもできなく、ただただ呆然とするしかなかった。
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