火種
ディスティアが蠢き始めます。
<<作戦本部・サロン>>
引き渡しに参加できなかったフローレンスは朝からサロンへと入り、すらっと姿勢良くソファーに腰掛け、3Dモニターを眺めながら整備が終わったピンキーと共にアーレイの帰りを待っていた。
「ね〜ひめさま〜、なんなのなによんでるのー」
「これはね近代芸術作品目録と言って、見て気に入ったら美術館に直接見に行くんだよ〜」
ソファーに座るフローレンスの背後から覗き込むようにピンキーは3D美術館目録に掲載されているサイケデリックに彩られた作品をじっくり眺めている。感情は無いはずだけど、耳の様に取り付けてあるアンテナは今の気分を表しているのかフワフワと不規則に揺れていた。
「これ!黒と赤がいいね!こういうのかいてみたいな〜」
「え〜ピンキー!あなた芸術が分かるバトルドロイドなのマジ・・(汗」
指で示した作品は一面真っ黒なキャンバスに真っ赤な霞草の様なデザインがびっしりと施され、どこからどう見ても前衛的だ。フローレンス的にこれを選ぶセンスは理解できないけど、ピンキーはとても興味がありそうだ。
「なんかねーいいなーっておもっただけー、ピンキー描きたい」
「あなたはレーザーソードの代わりに筆を持つというの・・(呆」
戦闘力に極振りした影響で感情が幼稚になっているのと、妖精たちが悪ノリでAiに干渉しているので、少しだけ人間らしさを獲得していたりする。暇な姫様とのんきなやり取りをしていると、正面にある大型テレビが切り替わり通販番組が流れ始めた。
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「デルタネットが本日自信を持ってお勧めする、一度塗ったら金属の中に染み込んで剥がれない塗料、レストンです」
「ですけど傷が入ったら補修出来ませんよね」
「そこはお任せください。この塗料、自己修復機能があるんです!」
「まぁそれは凄い機能ですね〜」
「いいですか見て下さい、今からこのシャトルを撃ちますね」
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司会の男はいきなりレーザー銃を取り出し、黄色に塗られたシャトルに向かって発砲する。一直線に赤い閃光がボディに吸い込まれ斜めに黒々とした銃痕が残された。
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「うぁ!銃で撃ったらダメじゃないですか〜、ほら~こんなに凄い傷が付いちゃいましたよ」
「心配しないでください、大丈夫です!この塗料、なな、なんと自己修復するように作られているのです」
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司会の男が徐にスプレーを取り出し銃痕にそって吹き付けると、あら不思議、じわりじわりと傷を塞ぐように周りから埋まり始め、最後は焦げた黒いカスがパラパラと床に落ちた。
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「本当だ~これは凄いですね〜、けどこれって〜最初だけでしょ〜」
「安心してください。専用のメンテナンス剤を塗るだけで何度も復活します」
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とまあ怪しい露天の実演販売さながらの演技と、流暢な喋りを介して商品説明は終わりを迎え最後に「在庫入れ替えのため今だけの超特価」「本日限り」などと、よく聞く決め台詞が流れていた。
「ひめさまこれかて!」
「いいわよ~、なに塗るの?」
レーザーが走った事でピンキーの興味を引いてしまったのか、話の途中から通販番組を真剣に見始め、そして最後に商品ラインナップがずらりと映し出されるとアンドロイドのくせに購入意欲が湧いたのか、思わず欲しいと言い出してしまう。
「ピンキーとかいろいろ〜いいでしょ〜」
「わかったわ、安いし良いわよ」
「やたー!」
目録に目を通していたので欲しがる商品を理解しないまま、芸術に興味を示したピンキーがあまりにも無邪気に頼むので、フローレンスは何も考えずに注文ボタンを押してしまうのだった。
ーー
<<翌日・アーヴィン王国、メレルの隠れ家>>
「やっと整備が終わりそうだ。お前には随分世話になったな」
奴隷解放作戦終了後、やる事が少なくなっていたメレルは次の戦いに向けての武器の整備中で、バラバラだった愛銃を組み立てご満悦の様子だ。
<メレルの頭、軍の動きが活発になってきました>
丁度手を休めた時に部下からの報告が上がり、内容を聞くとアーヴィン宇宙軍の出航準備が行われ慌ただしくなり始めているとの事だ。
「確か演習の予定は入っていないよな、遠征するつもりか」
「ええ、第2艦隊は輸送船を含め全て出航準備の調整に入り、駆逐艦は全て対艦ミサイルに変更されました」
武装の入れ替えは秘密裏に行われ情報の取り扱いは厳重で、情報漏洩を恐れているアーヴィン王国宇宙軍は戦闘員の全てを人間族で構成している。しかし倉庫作業など力仕事や雑用は獣人達が担っているので、カバーなどで覆い隠しても何を交換したのかなんて丸わかりなのだ。
「ふむ、そうなると大規模艦隊戦を想定しているのだな、食料の搬入はどうだ」
「生鮮食料品の注文は日程未定で予約だけが入っていました」
「てっいうことは、まだ先って事だな・・」
食料を含む資材運搬搬入に関しての情報はほぼ筒抜けで、生鮮食品の搬入が始まれば逆算して出航日を特定できる。未定ということは作戦発動は少なくとも1週間以上先になるという事だ。
「あとディスティアからの情報で、地表用広域攻撃ミサイルってのが注文ありました」
「それって確かバーンと広がる対人兵器だよな、よく分からんな(悩」
この広域攻撃兵器は地上に展開している敵部隊を想定している。現在交戦中の地域がない事から、発電所などの重要インフラに対しての攻撃しか想像がつかない。
発電所・・いやそれは無理だよな、わからんが彼に報告をした方がいいな・・。
そもそも発電所は強固なシールドで守られ、威力の弱い広域兵器など屁の突っ張りにもならない。使用目的が想像できないメレルはかなり重要と感じ逐一アーレイに報告するつもりだ。
<<デルタ軍官舎・アーレイの自室>>
リンリン♪リンリン♪
「おお、メレルだ何かあったのかな」
出勤数分前、のんびりコーヒーを飲んでいるとスマホの画面にメレルの顔写真が浮かび上がる。いつもなら昼過ぎが多いが、この時間の呼び出しは嫌でも急を知らせると分かり速攻で応答ボタンを押す。
<アーレイ様、久しぶりですね>
「おおメレル元気か、援助金以来だな」
盗聴防止を施してあるのでオンラインでは顔は見れず、音声による通話のみになるが、受話器の向こうのメレルは声に張りがあってとても元気そうだ。
<援助してくれたお陰で不自由なく過ごせています。それと面白い情報が入りました。状況から推測すると大規模艦隊での共同作戦と思われます>
挨拶もそこそこに本題に入り入手した情報を全て教えてくれる。良い事に追加情報があり、アーヴィン軍とディスティア軍の両軍は同調して準備を進めており、その総数は50隻を超え大規模艦隊戦を想定しているとのことだった。
「メレル良い情報をありがとうな引き続き頼むよ、別件で防空システムの事が知りたい」
「ああ分かった、また何かあったら連絡する」
地表攻撃兵器や防空に関しての事を詳しく聞きたいが盗聴防止システムが働いているとはいえ長時間の会話は禁物なので、情報を聞くだけ聞くとそそくさと通話を終えた。
ヒャンド攻略に動き出したな・・。
相談は出来なかったがアーレイは得た情報から想像するとヒャンド攻撃しかないだろうと結論づけ、少し早い時間だがなぜ今なのかと考えながら作戦本部へと足を向けた。
<<デルタ作戦本部>>
「と、言うわけだクリス、ディスティアとアーヴィンは戦争をおっぱじめる気満々だぞ(笑」
作戦本部へと向かったアーレイは早速メレルの情報を開示しつつ、締めに近々奴らは戦争を始めるぞと宣言するが・・・。
「どこの情報だ、俺の所には報告は上がってない(オコ」
内容が精度よく具体的過ぎたのが悪かったのか、しかめっ面で返されてしまったので「獣人達の情報は凄いんだぞ」と笑って返すと「ああそういう事ね」と今度はジト目で返され、きっと内心では「そういえば王様だったわ」と思っているに違いない。
「っていうか、デルタの情報収集能力に問題があるんじゃね、結構深刻な問題だと思うけど」
「・・・」
顔認証が進んでいるディスティアでの情報収集は困難を極め、それなりに大変だと理解しているものの、特殊兵器の実装など余りにも具体的過ぎる内容に呆れ、ムスッとした表情のクリスは悔しそうというか何というか、恨めしそうな不満を帯びた目をして返してくる。
「それでディスティアはどこの国に戦争を仕掛ける気なんだ。思いつくのはヒャンドしか思いつかない」
「あそこを潰すのには気候変動装置を壊すのが手っ取り早い。それしかないよな(笑」
数百年前、カルネ共和国が誕生した事が切っ掛けでフェデラリー共和国から独立を望んだヒャンド人は、当時のデルタリア王国、現デルタ王国の援助を受け移り住み、支援して貰う代わりに防衛隊の常駐を認めて来た経緯がある。
あの国のアキレス腱は”気候変動装置”だから分りやすいわ。
人が住むには余りにも過酷な環境の惑星ヒャンドは、気候変動装置を用いて何とか住んでいるのが現状だ。両極点は常にマイナス50度を超え赤道直下に至っては平均で40度を下回る事が無い、南半球に至っては砂漠化が酷く北半球にある大陸に全てが密集していた。なので無力化するのには装置を壊すのが手っ取り早い。
俺がいない時を狙って来るんだろうな、盛大で斜め上な作戦でも立ててやる。
タブレットに得た情報を纏め参加艦船数を見ていたアーレイはある事に気が付き、とんでもない作戦を頭の中で練り始め、途中クククとひとり笑いをし始めていた。
「なんだその顔は、悪巧みを考えているだろ早く話せよ(笑」
「おお、付き合いが長くなると俺の考えが手に取るように分るのだな(笑」
半笑い時は決まって突飛な意見が出ることを知るクリスは、不敵な笑みをするアーレイに対し早く話せと笑いながら催促すると「人が多くてここじゃ話せんな」と言うと、誰もいないミーティングルームへと場所を変えると呟いた。
<<ミーティングルーム>>
ミーティングルームは作戦立案や出撃前の再確認などに使われ、限定された者しか入れない言わば秘密会議を行うような所だ。20名程が座れる横長の大きな円卓があり、中央には3Dスクリーンや大型モニターが所せましと並んでいる。
「さて、どんな作戦を考え付いたのか聞かせて貰おうか」
中に入って早々にクリスがはよ話せ言うが、アーレイは3Dマップを開きながら「俺が好きな多面作戦を展開するつもりだ」と話し、ヒャンドとアーヴィンの地図を映し出す。すると余りにも斜め上の考えにギョッとした表情に変化した。
「おい、まさかアーヴィンを攻撃するのか早く聞かせろ」
「そう焦るな、ヒャンドは暴虐と業火達で守り、手薄になったアーヴィンは発電所を中心に第6艦隊に空爆して貰う」
「なん・だと(大汗」
先に攻撃目標を教えるのは普通だが、ヒャンドを守りつつアーヴィンに空爆を仕掛けると聞いた瞬間クリスは固まってしまう。そりゃ防空システムが存在する訳で、簡単に攻撃できないと考えるのが普通だろう。
「アーヴィンは一度も直接攻撃を受けた事が無いから、静止軌道上の迎撃システムが脆弱なんだわ。レジがシールド発生用の発電所を破壊すれば楽勝だ」
数百年前のデルタリア攻防戦、アーブラム帝国消滅以降、星団内での本星攻撃は一度も行われた事が無い。成功率が極めて低いのとカウンター攻撃を恐れ、現在各国は艦隊戦に注力している。アーレイはアーヴィン軍の半数以上が出払う事に目を付け発電所を中心にインフラ破壊を行い、星団統一の第一歩にしたい構えだ。
※ ディスティアが誤って惑星破壊ミサイルを発射したことで、クロウ星団に存在していたアーブラハム帝国は数百年前に滅んでしまう。その反省を活かし無闇矢鱈な本星攻撃は下火になっていた。
「成程、君の手下を使うというのか、しかしヒャンドには50隻以上集結するぞ、防衛隊を強化した方がいいんじゃないか」
「そうすると作戦中止になる可能性が高い、アーヴィンを叩けるまたと無いチャンスを逃したくない」
今回の作戦を是が非でも実施したいと強弁するアーレイは、殲滅戦では無く中破狙いの方針だと語り、意味が分からないクリスは困惑した表情をするが「ディスティアを攻略するには必要な処置だ」と答えると、理解はしないが何となく納得をしてくれた。
「発電所を建設するには時間が必要だし、戦艦の修理も同様だ」
「そういう事か、電力がなければ修理の効率は落ちるし稼働率も悪くなる」
切れ者だけあってアーレイの意図する戦力を削ぎつつ、時間稼ぎの意味を理解してくれた。なので「標的はそれだけじゃない、軍港とドッグも含むんだぞ」と笑って語る。
「そう上手くいくのか、ドッグなんて建設するには大して時間はかからないぞ意味あるのか」
「まぁあの手この手を使うんだよ、あとクリスには後詰めに入って貰えると助かる」
「んっ?後詰めだと」
今回の作戦を説明するアーレイは惑星ヒャンドにある気候変動装置にポインターを合わせつつ、アーヴィン軍は囮として南極点近くに現れヒャンド軍を引きつけ、遅れて北極点にディスティア軍が北半球に姿を現し、地表攻撃を行うだろうと説明をした。
「それって確実なのか単純すぎやしないか」
「そう思ってAiに聞いたら成功率90%だそうだ。単純だからこそ逆手に取るとしよう(笑」
この世界は軍事作戦を立てるのにAiを多用する事が多く、効率主義のディスティアなら間違いなく問うだろう。頼り切っている現状からすれば予想通りの行動をするとアーレイは考えていた。
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「これしか無いっしょ」
「単純やんけ〜(棒」
「またバカにして〜」
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出てこなきゃいいのにAiの判断と聞いた途端、またウザいフェアリーが嬉々として現れる。なので最後に「これだから戦争が終わらないんだよ」と考えたら、画面の隅で背中を見せながらいじけてしまった・・。
「因みに君の作戦はAiはどう判断するんだ」
「まだ完成していないデコイを使うから、不確定要素が多すぎて成功率は半々だそうだ(笑」
斜め上が好きなアーレイはヒャンド軍に熾烈と強烈、憤怒をデコイで偽装して配置、北極点に暴虐、業火、烈火を待機させ敵が現れたら攻撃を行い、敗走し始めたら第9艦隊を後詰めとして送り込み退路を断つ作戦だと説明した。
「容赦しないつもりだな、わかった後詰は任せろ」
「頼むよガッツリやってくれ、それと面白い情報を入手したよこれ見てくれ」
次にアーレイはジャクリーヌからの手紙を見せる。検閲される事を前提に経済ニュースを装い、最近になって宇宙作業者の求人倍率がウナギ登りになり、皆ディスティアに雇われどこか遠くで頑張っていると書かれていた。もちろんブラッドに逢いたいとの文面は隠しているけどね。
「悪巧みを考えているようだけど金を使うから放っておいていいや、どの道いやでもジャクリーヌの元に精度がいい情報が集まる(笑」
「求人情報だけで何かを掴んだというのか、彼女の能力は凄まじいいな(呆」
諜報部が優れたとしても、このようなニッチな情報を拾ってくるとは考えもしなかったのかクリスは驚きを隠せない。なにせジャクリーヌは失業率を分析して秘密裏にディスティアが何かを作っていると勘ぐり、情報としての価値があると判断して教えてくれたのだから。
「彼女は利発だし将来の族長候補だからな、これくらい当たり前と言われるよ」
「しかしアーレイ、情報は大事だけど適当すぎる電撃作戦は上手くのか、北極点で待つなんてバルバレじゃないのか?」
「地表に降りてさえすればジャンプするからバレやしないさ、始まるまでオーロラでも眺めているわ」
「そりゃいいな成功を祈っているよ、俺はジョナス准将に作戦の説明に行ってくる」
素案を文章と図に纏めたクリスは去り際にニヤリと笑い、第6艦隊の司令室へと足をむける。この艦隊はミサイルを搭載した50隻もの駆逐艦と巡洋艦で構成された物理攻撃に特化した高機動部隊だ。防空システムさえ無力化できれば甚大な被害を与えられるだろう。
「俺の意図することはあのオッサンなら一々説明しなくても理解してくれるから、武装は任せると伝言を頼むよ」
「ああ分かった。けどオッサンがオッサン呼ばわりか(笑」
司令官のジョナスは戦歴も長くアーレイの考えを一発で見抜き、自分の立ち回り方をAiに頼らず決めてくれるはずだ。武装に関して丸投げしたアーレイはニヤリと笑いクリスを見送る。
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