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驚愕の事実

ルドルフが遂に捕虜達と対面します。

 <<レティシア捕虜収容所・駐機場>>


「ここが本当に捕虜収容所なのか、農園の間違いじゃないのか」


 レティシア捕虜収容所に隣接する駐機場に降り立ったルドルフは、眼下に広がる広大な農地、立ち並ぶ宿舎や事務棟が大規模農家のそれと大差ないため戸惑っていた。違いがあるとすれば校庭みたいな広場と、そこにちょこんと鎮座する演説台があるくらいだ。


「皆さん外出許可を心待ちにしながら作業に勤しんでいます」

「あの説明通りなら遊ぶ金も自給自足なんだな・・」


 英気を養うためのお金を得るために頑張っているとラーは言わないが、言葉に隠された意味を理解したルドルフは、本当かどうか確かめたい気持ちで埋め尽くされていた。


 <<レティシア収容所・応接室>>


「取りまとめ役の大尉を呼びましたので少しお待ちください」

「やっと会えるのだな、さてここからが本番だ」


 ディスティア帝国の人間が視察に来たと知ると大騒ぎになり、収拾がつかなくなることを懸念したラーは遠巻きに見学を終え、そそくさと応接室に入った。遠目で農作業に勤しむ同胞たちを見て、早く声を聞きたくてウズウズしているルドルフは、今か今かとその時を待っている。


「バグナー大尉入りま・・えっマジ」


 毎朝報告のために出向くバグナーは、普段と何ら変わらぬ作業服姿で応接室へと入る。そして一番最初に目の前に飛び込んできたのは、ピョコンと可愛らしい耳を持つラーでは無く、ディスティア帝国の軍人だ。この場にいない筈の同胞を見た瞬間、余りの衝撃で意識が飛び、自分が何者か思い出すのに数秒ほど時間を要してしまう。


「バグナー大尉、約束通り解放に向けて将校を連れて来たぞ(笑」

「アーレイ少佐、フローレンス少佐、あ、ありがとうございます」


 呆気に取られていたがアーレイが笑いながら連れて来たと話すと、意識が戻ったバグナーの顔がクッシャッと崩れ、心の底から嬉しさを体現しつつルドルフに対して羨望の眼差しを向けた。


「貴様がバグナー大尉か、私はルドルフ准将だ。楽にせよ」

「存じ上げております准将、特務艦乗組員バグナー大尉であります」


 何とも締まらないニコニコ笑顔のまま敬礼をするが、全身から溢れる喜びが見て取れ誰一人咎める者はいない。それに澄み切った瞳、小麦色の肌は見た目からして健康そのもので、ルドルフは一応健康状態の事を尋ねてみるが「とても快適でみな健康でありますし、何より毎日三食美味しく頂いております」と胸を張って返され、思わず苦笑いをする。


「そうか、ちゃんと生活できているのだな」

「勿論であります」


 この後は事務方を交え、一問一答形式でレティシアでの生活の事を聞かれたバグナーは嘘偽りなくスラスラと答え、ラーが話していた通り何ら問題も無く生活していたと知る。


「外出許可を出したのはアーレイ少佐だが、酒盛りはヤラセじゃないのか」

「ヤラセでは無く、()()は自分達の金を使い嗜んでおります」


 話の内容は外出の件に移りアーレイが独断で許可を出したと知ると、ルドルフはやっぱりなみたいな顔をしつつ現在の言葉が引っ掛かり疑いの眼を向ける。


「最初から飲んでいたよな、酒代はどうしたんだ」


 捕虜になった場合、星団法に基づき収容所には着替え以外は持ち込む事が出来ない。初めての外出で金が無いのに酒盛しているのはヤラセと考えていたのか、バグナーをジロリと睨む。


「大変言い辛いのですが、アーレイ少佐から資金を提供して頂きました」

「はっ資金援助だと、意味が分からん」


 遊ぶ金を提供するなど考えもつかないルドルフは驚き、呆れ、そして一周回って沸々と怒りが込み上げ「それでいくらだ」とドスの効いた声で問いただす。バグナーは肩を落とし「1人1万スカーを頂きました」とボソボソと答えるだけで精一杯だった。


「アーレイ少佐、資金提供は事実なのか」

「戦費じゃ落ちないし俺のポケットマネーから出したよ、無一文だと問題起こすでしょ(笑」

「450万スカーを敵兵にポンと出すのか信じられん。君はどこまで斜め上が好きなんだ」

「まぁ元からだね、提供した資金の事は気にすんな」


 提供した資金は日本円に換算すると4500万円以上だ。いくら金持ちのアーレイとはいえポンと出すにはそれなりの理由がある。農作業に勤しみ規律正しい生活を送って欲しいという願いと、収容所に寄付という形を取り税制優遇措置を受けるという2つの狙いだ。


「アーレイ少佐、借りた金はきっちり返すからな」

「戻されても困るから収容所かクーン王国に寄付という形で頼みます」

「・・・」


 戻されても困ると聞いたルドルフはプライベートジェットの件も含め、実はアーレイは超大金持ちだと思い始めたが、本人に聞く訳にもいかず黙り込んでしまう。事務方も同じで、あり得ない待遇に開いた口がふさがらず、微妙な雰囲気が漂い始めた。流れを変えたいのか縮こまっていたバグナーが挙手をする。


「ルドルフ准将、発言宜しいでしょうか」

「ああ、構わなぞ」

「フローレンス様、お礼が遅れて申し訳ありません。その節はありがとうございました。手袋、救急キットなど十分に足りております」

「また必要なら仰ってください」


 様子見がてらアーレイは数回訪れているものの、フローレンスは公務があり2度目の訪問なので、バグナーは是が非でも直接本人にお礼を言いたかったのだろう。それにまとめ役としての務めを果たしているとアピールも兼ねている筈だ。


「ルドルフ准将もう一言よろしいでしょうか、本国の状況を教えてください」

「心配するな大丈夫だ、隅から隅まで情報が行き渡ったおかげで大混乱だ!なあアーレイ少佐」

「あははは~(汗」

「あ、ありがとうございます、ありがとうございます」


 安否情報を流すとだけしか知らなかったバグナーは大混乱と聞き、全てを理解したのか笑みが零れ感謝の気持ちで胸がいっぱいになり、アーレイとフローレンスに向き合い頭を下げていた。因みにルドルフは呆れ顔でフンと鼻で笑う。


「そろそろ休憩時間に入ります。広場でご挨拶などは如何でしょう」

「そうだな招集してビシッとして待っていろ」

「了解しました、失礼します」


 質問する事も無くなり、次に控えているのは捕虜たちに希望を持たせるルドルフの演説しかないだろう。まだいつになるか分からないけど、ディスティアに帰れる道筋が付いたと喜ぶバグナーは、嬉しそうに踵を返すと一目散に戻ってゆく。


「アーレイ少佐ありがとう。心から礼を言わせてもらう」

「いえ、当然のことです」


 礼儀を重んじるルドルフは本当にいい奴で、面と向かってアーレイにお礼の言葉を並べてが、後ろで控えている護衛は終始渋い顔をしつつ眼光鋭く睨みを効かせていた。しかし上級士官の居場所が分からないので手出しが出来ず、苛つき貧乏揺りをしていたよ。


 <<10分後・多目的広場>>


「休憩時間に集合とは、誰か問題でも起こしたのか」

「バグナーが嬉しそうだから、何か恩赦でもあるんじゃね」


 多目的広場に集まった捕虜たちは綺麗に整列しつつ、あと数分で自軍の指揮官が姿を現すなど知る由もなく、何で休み時間に並ばなきゃいけないんだと口々に不満を漏らす。反対にバグナーは早く来てくれないかなと、小躍りしたい気持ちで溢れていた。


「おいあれはルドルフ准将だ。事務方は総統府の連中だぞ」

「おお!本当に来たんだ。これで帰れる希望が見えたぞ」


 最初に姿を現したのは知った顔のアーレイだが、今日はやけに後に続く人影が多い。よく目を凝らすと自軍の軍服が目に入り、その途端どよめきが津波のように前から後ろへと伝わってゆく。


「静粛に静粛に、ルドルフ准将に対し敬礼!」


 久しぶりに見たディスティアの軍服に胸を躍らせ顔が綻び、敬礼に気合いが入る。壇上に立つルドルフには四百数十名もの羨望の眼差しが突き刺さり、次の一言がとても重要だと認識せざる得ない。


「今日ここに俺が来た理由は、君らの解放に向けての最初の視察である」

「おおおおお!」

「やっぱそうだよな」


 名のある将校が現地を訪れれば、解放に向けての交渉に入るといちいち言わなくても分かるが、声に出せば真実味が増し期待値が大きくなるのは当然だろう。その証拠に喜びのどよめきが増すばかりだ。


「君らの待遇が良すぎて交渉に使えん、どうしてくれる!」

「ギャハハー、そりゃそうだ!」

「健康ですんません!」

「これから交渉に入るが3ヶ月は必要だろう。早く解放できるよう努力するので風紀を乱さず生活をしてくれ」

「イエス・サー!」


 解放までの期限を切り自分に試練を課すルドルフは皆を助けたい気持ちが誰よりも強く、それが言葉になって現れていた。そんな熱い思いを知る一部の下士官達は「後は准将に任せれば大丈夫だ」と口々に言う。


「信頼してくれてありがとう。必ずディスティアに連れて帰るから待っていてくれ、それまで頼むぞ」

「ルドルフ准将!頭を上げてください。私たちは大丈夫ですいつまでもお待ちしています」

「希望をありがとうございます、ルドルフ准将!」


 直ぐにでも助けたい気持ちが湧き上がっていたが、今はまだそれが叶わぬ事が分かっているルドルフは、彼らの想いに少しでも応えようと頭を下げる。決して偉ぶらない紳士的な態度は自ずと親近感が湧き、取り囲むように集まり始めた。


 ーー


 <<レティシア収容所・応接室>>


「この場を借りてお礼をいわせてもらう。今日という日は今までに経験したことが無いほど感動してしまった」


 事務方の制止を振り切り壇上を降りたルドルフは捕虜達と接し「何としてでも帰りたい」「早く我が子に会いたい」など、切実な思いを聞くことになる。極め付けに「死にたいと思ってましたが、来てくれたので生きる希望が沸きました」と泣きながら言われ、胸が熱くなったらしい。


「皆さんが慕う姿を見れば、准将の人柄が良く出ていたと思います」

「奴らの想いに応えるのが上長の役目だ。これくらい当たり前だと思う」


 真っ当に評価したフローレンスの言葉がくすぐったいのか明後日の方向を向き、ぶっきらぼうに答える姿は見るからに熱き野郎だ。アーレイは「やっぱ熱い男だね〜、クールな俺には無理だわ」と冗談混じりに突っ込んで見れば、ルドルフの評価は違うのかジト目で睨まれてしまう。


「君の太々しさは堂に入ってとてもクールとは言えんな、()いていうなら(したた)かだ(笑」

「言葉使いと態度はアレですけど、なんだかんだ言って結果を残す熱い人ですよね(喜」

「おい散々な評価だな、詳しく聞こうじゃないか(笑」


 突っ込みを入れたものの逆襲を受け、笑顔のフローレンスにダメ押しをされてしまう。まぁ感動した後なのでおふざけもルドルフ的には嬉しいのだろう。


「それにしても君は規格外だよ、ディスティア軍には絶対いないタイプだ」

「敵兵と直ぐに仲良くなりますよね、ほんと呆れます」


 壇上を降りたルドルフを横目で眺めていたアーレイの元に、交渉に入った詳しい経緯を聞きたいのか人だかりが出来ていた。好かれる一番の理由は横暴なマテウス達に鉄槌を下し収容所の待遇改善に尽力している事だろう。


「そろそろ次の視察に向かいましょう。先に断りを入れますが酷い有様ですよ」

「わかった」


 事前の報告通り嘘偽りなく快適な環境の元で暮らしている現状を目にしたルドルフの脳裏には、マテウス達が隔離されたのにはそれ相応の理由があると一々考えなくともその結果にたどり着く。短い返事をすると先ほどまで和やかだった表情が固くなるのだった。


 ーー


 <<元リゾートアイランド・天国への入り口>>


 万が一を想定していつもより離れた場所に着陸すると、フローレンスとポコに待機を命じたアーレイはSPと共にルドルフ一行を引き連れ、マテウス達が住む管理棟へと足を運ぶ。


「彼らはこの管理棟で生活しています」

「想像より悪く無いな」


 ベクスターで移動中、管理棟の説明を受けたルドルフは劣悪な環境だと思っていたらしいが、自分の目で見てみれば古さこそ感じるけど、住むには問題無いと分かると少し安心した様子だ。


「誰かしらいるはずなので、とりあえず室内に入りましょう」


 緊張した面持ちのルドルフは、見なければ話をしなければ、先に進めないと思い、アーレイに案内されドアノブに手を置く。そして浅めの深呼吸をして気合いを入れ直し室内へと入る。


「うっ何だこの匂いは、それにしても酷い有様だ」  


 管理棟の中に入ると人影は無く足元には壊れた椅子や家具が放置され、強烈な悪臭が鼻腔を刺激する。何日も風呂に入らず洗濯も碌にしていない体臭が漂いその匂いにむせながら口に手を当て、ゴミを足で搔き分けながら進み一番近くのドアを開けると、急ごしらえで作ったであろう数台のベッドの上に数名の半裸の男達を見つけた。


「おい起きろ!ここの責任者は誰だ!」

「わわっ!」

「なんだなんだ!」


 余りの醜態にブチ切れたルドルフは思いっきりベッドを蹴り上げ寝ていた男達を叩き起こす。顔を見ても知らない奴らで脱ぎ散らかしている軍服から想像すると士官職と理解できたが、そんな事は知ったこっちゃないと怒気を放ち凄んでいた。


「責任者はマテウス准将であります」

「呼べ!」


 怒り心頭のルドルフは口調が荒くなり、命令を受けた男達はビビッて一目散に部屋を飛び出した。そして数分後、頭がバーコード状の丸顔、いやらしい目付きのオッサンが姿を現すが、余りにも薄汚れた軍服を見て顔が自然と歪んでしまう。


「おお!ルドルフではないか、迎えにきたのか早くここから出してくれ。ずっとこんな酷いところに缶詰だよ」

「マテウス准将久しいな、少し話を聞きたいのだが何故孤島に隔離されている」


 視察に来たのであれば隔離された事を聞くのは当然で眼光厳しくマテウスを睨む。更に叩き出した当人であるアーレイが不適な笑みを浮かべれば、開き直るしか無いだろう。


「それは、獣が俺の命令を聞かないからだ。奴らに指示される覚えは無い」


 一旦捕虜に成ってしまえば収容所所長のラーが統括責任者になり星団法に照らし合わせ彼女の命令を聞かねばならない。だが差別主義者のマテウスは獣人の命令には従わないと自ら暴露してしまう。


「星団法より感情を優先するとは、部下の安全を蔑ろにする君は救い難いな」


 捕虜になれば上級士官が最優先にするのは部下の生命と安全だし、そうあるべきだと考えているルドルフはマテウスを問い詰めると「下等だから俺の命令を聞くのは当然じゃないのか」と言い放ち反省の言葉すら無く、更に「人間の命令を守らない動物の方が悪い」「この待遇は星団法違反だ」と完全に開き直る始末だ。


「君が問題を起こしたことで、捕虜解放は下士官を優先させなければならなくなった」

「なんだと、どういうことだ」


 捕虜開放に至る経緯を説明し始めたルドルフは本国で起きた騒動の一部始終を説明し始め、最終的にセオドールが会見を開き「下士官を優先して交渉を行うと」発言して何とか沈静化させたと締めくくると、黙って聞いていたマテウスは顔を真っ赤にして「交渉は上級士官が先だと」喚き散らす。


「クーデターが起きるかもしれないぎりぎりの判断だったんだ。君らを先に開放すれば再燃する可能性が高い」

「なんだと、クーデターだと・・」


 クーデターと聞いた瞬間、電池が切れたロボットのように動きが止まったマテウスは驚愕な表情を浮かべ、やっと事の重大さに気が付いたかとルドルフは肩を竦めヤレヤレのポーズをする。


「ここでは自給自足らしいが、なんで下の奴らだけが働いている、君は働かないのか」

「当然だ、なんで士官が農作業せねばならん下士官の仕事だ」


 アホがここまで言い切るともう何も言えなくなってしまい。ルドルフは思わずアーレイの方を向いてしまう。だが視線を斜め下に向け肩を竦め「だから言ったでしょ」みたいな表現をしていた。


「現状は理解した。アーレイ少佐、他の連中の顔が見たい」

「ルドルフ准将、3週間前だと72名全員生存していましたが、先ほどスキャンしたところ現在は60名に減っています」


 これ以上コイツと話しても埒が明かないと判断したルドルフは視察の申し入れをすると、アーレイはスキャン結果を淡々と語りマテウスをジッと見詰める。まぁ監視カメラで何が起きたのかは承知していたが、敢えてその事は口に出さず本人に言わせようとしていた。


「えっ、どういうことなんだマテウス、貴様は何か知ってるだろ」

「俺は何も知らない(汗」


 惚けるマテウスに対しアーレイとラーは「お前のせいだよね」と生暖かい視線を送る。その視線に気が付いたルドルフは意味を理解したのか眼光が鋭く変化すると、右手が自然に襟元に伸びて行くのだった・・。

宜しければブクマ、評価おねがいします。

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