ルドルフが来た!
ディスティアのルドルフがやってきます。
<<デルタ王宮・謁見室>>
「やっとですね、悪戯が過ぎたんじゃないのですか(笑」
「それだけ効果的だったのさ(笑」
あの大騒ぎから2週間弱、ルドルフが責任を持って送ると言っていた書簡がジェフの元に届く。直ぐに呼び出しを受けたアーレイとフローレンスは共に謁見室へと入る。
「アーレイちゃんとルドルフから手紙がきたぞ」
「意外と時間がかかりましたね」
「それは君が仕組んだ安否情報の流し方が原因じゃないのか(笑」
「まぁそうでしょう、かなり混乱が続いたようですし(笑」
開口一番フローレンスと同じ事を言われると、隣からクスクスと笑い声が聞こえジェフもニンマリしていた。やっぱ宿敵ディスティアが困るのは楽しいのだろう。
「彼が窓口になので話が早く進んでいいじゃないか、頑張ってくれ」
「承知しました、フローレンスも同行させますね」
「ああそうしてくれ、アーレイのやり取りを勉強しなさい」
「陛下、有難うございます」
最初に思いついたのは彼女だし、この局面で外せばアイシャに嫌味を言われ、結局アーレイと共に行動するのは確実だ。なのでジェフは快く愛娘を送り出す判断をしてくれた。
「アーレイ、くれぐれもフローレンスの事を頼むぞ、何かあったら守ってくれ」
「我が命に変えても守って見せます陛下」
「キャ!」
社交辞令の返答をきっと違う意味と捉えたのか、フローレンスは顔を赤らめすごく嬉しそうだ。今はまだその気が無いアーレイは速攻でジト目になり、無言で部屋を後にしたよ。
ーー
<<数日後・デルタ中立地域>>
Ai「高速で接近する艦船を感知」
指定した期日にアーレイはフォウルスターに乗り込み、支配地域近くのデルタ中立地帯にてルドルフ到着を待っていた。そして時計が9時丁度を伝える5秒前にセンサーが反応する。
「アーレイ艦長ジャンプアウト確認、ディスティアの戦艦と探査船です」
<おはようアーレイ少佐、待たせたな>
「お待ちしてました。陛下が首を長くして待ってますよ(笑」
指定座標に忽然と姿を現したのはディスティア20万トン級通常型戦艦2隻と、ルドルフが乗る探査艦だ。早速コンタクトを取るルドルフは緊張せずに、何処となく楽しげな表情を浮かべていた。挨拶を交わしたアーレイは同行者の人数を聞き、探査艦だけ後に続くよう指示を出す。
<<デルタ宇宙港・ディスティア探査船>>
<迎えのシャトルを出しますのでそれにお乗りください。探査艦は間違ってもスキャンレーダーを発砲しないでください(笑>
デルタ宇宙港のVIP埠頭に着岸するとアーレイから連絡が入り、同時に中型のシャトルが接近してくる。それに乗り換えてデルタ王宮に向かうと言うことだろう。ルドルフが後部格納庫に向かう指示を出すと、緊張した面持ちの事務方は足早に向かい、護衛は安全確保のため既に姿を消していた。
「くれぐれも君たちは停泊中に変な事をするなよ」
「分かっています、探索したら隠れている戦艦に沈められます」
「何せ正式な訪問は数百年ぶりなのでしっかり頼むぞ」
デルタ宇宙港にディスティアの艦船が特使を乗せ最後に入港したのは、三百数十年前、アデールが中心となり星団会議を立ち上げ、それが軌道に乗り条約を結んだ以来だ。無力な探査艦と交渉団とはいえ警戒した軍は、業火級2隻を警戒警備のためにステルス状態で待機命令を出している。そんな事は百も承知の乗組員らは、冷や汗をかきつつルドルフの背中を見送るのだった。
<<デルタ王宮・王族専用スポット>>
「はて、敵意がないと言うかなんと言うか・・」
長いトンネルの先の無骨な格納庫に着陸寸前、窓外を眺めるルドルフは2人の人影だけしか見当たらず、拍子抜けした表情を浮かべている。ディスティアなら間違いなく武装した兵士が並び、威圧ではないが一切の隙を見せない体制をとる筈だと思っていたためだ。次にハッチが開き目に入ったのはやはりアーレイと帽子を深く被った女官だけで、警備の緩さにはてなマークが頭の中を埋め尽くす。
「ようこそルドルフ准将、私がアーレイです」
「貴様が悪名高きアーレイ少佐か!私がルドルフだ」
悩んでも仕方ないと思いタラップを踏むと、軽く口角を上げたアーレイが出迎えガッツリと握手を交わす。次に後ろに控えていたフローレンスが一歩前に出た。
「初めまして補佐のフローレンス少佐と申します」
「よろしく頼むルドルフだ」
「ルドルフ准将、我々より前に出ないで頂きたい」
先陣を切ってルドルフが降りると護衛が慌てて周りを取り囲み、怪訝な表情をしつつアーレイを睨む。険悪な雰囲気になりそうだったがフローレンスがするりと間に入り「ささ、立ち話も何ですから中に入りましょう」と何事も無かった如く立ち回る。
「何と、こんなに近くだったのか」
王族専用スポットはデルタ国際空港のタキシングエリアから専用の地下通路を通る構造なので、王宮近くに来ても分からない。重厚な扉を開けるといきなり華やかな調度品と白壁を目にしたルドルフは余りの落差に唖然とする。
「このスポットは王族専用ですし、警備兵が不在で物足りませんでしたか」
「まぁなんだ。ここまで緩いと調子が狂うな」
「特使扱いですので警備を置くだけ無駄ですわ、ルドルフ准将(笑」
ゾロゾロと付いてくる事務方や護衛は厳重な警備を予想していたらしく、それはルドルフとて同じ。少なすぎて驚きを隠せないのかキョロキョロと周りを見渡していた。まぁ通信、転送阻害が施され電波は一切通らないし、一階部分は見学コースとして解放されているので緩くても問題はないらしい。
「何だか落ち着かないな。王国とはこんな感じなんだな」
「今からお茶を入れますね。取敢えず一息入れて下さい」
客間に入りはしたものの、数々の調度品、色彩豊かな絵画や彫刻の類が並び、非現実空間と感じるのだろう。ルドルフは終始落ち着かない様子で、多分お尻がムズムズしているに違いない。その証拠に肩に力が入っているのが手に取るようにわかる。
「それでアーレイ少佐、ジェフ陛下といつ謁見できる」
「いつでも良いですよ、緊張していると考え直接は向かわなかっただけです(笑」
「へ?いや、軽くないか、いいのか」
警備の緩さとジェフの応対力などは実は敵意を感じさせないための演出で、無駄に緊張させれば長引くと考え、見えないところでしっかりと監視している。拍子抜けするルドルフは、目の前にお茶を出されても視界に入っていなさそうだ。
「准将、デルタのお茶はお口に合いますか」
「これ美味いよ、香りもいいしこの甘さが嬉しいな」
デルタに限らず3星団では地球で言うツバキ科と同じような品種のお茶を嗜む。コーヒーなど豆系の飲み物もあり、地球で例えるならロブスタ種のように苦味が強かったりする。ルドルフが飲んでいるグリーンティーは程よい苦みと甘みが特徴で、フローレンスが選りすぐった逸品を嗜むと眉間のシワの数が少し減ったよ。
<<デルタ王宮・謁見室>>
「ルドルフ准将様、お成りです」
一息入れたルドルフ御一行様はジェフとの謁見を望む前にセキュリティチェックを受け、先にルドルフだけが入る事になる。事務方と護衛は後から呼ばれると言われ、不服そうな顔をして前室で待機していた。
「遠路はるばるようこそデルタへ、国王のジェフです。ルドルフ准将を心より歓迎します。」
「初めましてジェフ陛下、この度は捕虜解放にご協力頂いて有難うございます」
玉座の壇上下にルドルフ、少し後ろにアーレイとフローレンスが並び、SPは遠巻きに見ているだけで緊張感の欠片も無く、ジェフが笑顔を溢しながら挨拶をすれば当然和やかな雰囲気が流れる。
「長いこと戦っているがこうして顔を合わせるのは数百年振りだ。これもアーレイがしでかした結果だな、こやつ面白いだろ」
「ジェフ陛下が仰る通り、初めて話した時から愉快な少佐だと思いました(笑」
「・・・」
愉快と表現するルドルフとはまだ一戦交えてないが、あの一件を巡りそれなりの実力者だと見抜き、アーレイを認めているのだろう。
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「笑われてやんの」
「・・・」
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ディスるなよジェフと考えたら、口に手を当て笑いを堪えたフェアリーが出て来て馬鹿にされてしまう。けど自分の太々しさが原因なのが分かっているので、反論できず黙るしかない。
「実はな、あの船を拿捕したのは恒星圏内でな、スパイ防止法が適用出来たのだよ。でな、アーレイが死刑にするなと申して今に至るんだよ」
「そ、そうなのですか、そんなに深い所に入り込んでいたのですか、解放の判断をして頂いて感謝しかありません(汗」
恒星圏内に入り捕まればディスティアなら確実に死刑だし、戦う事を嫌うフォーレスト王国ですら侵入者として断罪する程の事だ。それがアーレイの一言で覆り、交渉のテーブルに乗ったと考えたルドルフは、ジェフとの厚い信頼関係は元より、何故そのような事をするのかと単純に疑問が沸く。
「陛下はなぜ死刑にしなかったのですか、ディスティアなら喜んで執行したでしょう」
「本人に聞いてみるのが一番だぞ、俺の理解力を超えてるけどな」
「死刑にした所で戦争が終わるわけでもなく、デルタに対しての感情が悪くなるだけです」
矢面に立ったアーレイは迷いもせず死刑にしても無駄だと言い切る。納得できないルドルフは振り返り「意味がわからない」と返してきた。
「星団統一後、必ず不満が生じます。今回の交渉は悪感情を取り除く良い事例になるでしょう」
「・・・」
帝国を倒すとは宣言してないが統一と語れば同じ事で、聞けば激昂するのが当たり前だろう。しかしルドルフは余りにも斜め上の考えに呆気に取られたのか、ポカンと口を開け、ジェフは苦笑をする。
「今、思った以上に馬鹿と思いましたよね」
「いえ、考えが斜め上すぎて想像の範囲を超えていた」
「だろ、呆れるだろルドルフ准将」
「はい陛下、何と言うか言葉が出ません」
「こやつはな斜め上が好きらしく活躍しても王女との縁談は断るし、褒美の金も欲しがらない昇進も拒絶だぞ、軍人としておかしいだろ」
「陛下、言葉は悪いですが理解不能です」
そもそも3星団の常識に囚われてないアーレイは統一後、反星団側を納得させるにはそれなりの理由が必要と考え、行動しているに過ぎない。フローレンスはウンウンと頷いていたが、きっとバクナーを手懐けた事より、娶らない方に賛同したに違いない。
「そろそろ事務方とのお時間ですよ~(棒」
「捕虜と仲がいいこやつに任せれば何とかするから、貴殿も協力してくれ」
「はい陛下、楽しみになりました」
話が一段落すると控えていた事務方を呼び、捕虜交換と解放についての最初の意見交換が行われ、両国の捕虜を交換する事だけが先に決まり、引き取り料という名目の賠償金の話は先送りになった。
<<王族専用スポット・ベクスターとベクトラン>>
「ルドルフ准将と護衛の方はこちらにお乗りください」
今回の訪問団は極秘とされプライベートジェットを使いクーンに移動する事になり、ベクスターにはルドルフと護衛2人、事務方2名とデルタ側のSP2名、ポコとアーレイ含め9名で、残りはベクトランに搭乗する事になる。
「プライベートジェットで向かうのか、これはまたカッコいいな」
「パイロットのポコです。いまから惑星クーンに向かいますナノ」
大気中の戦闘を意識した可変翼機を目の当たりにしたルドルフは、効率優先で直線的なデザインのディスティアとは違う曲線美に見入っていた。機内に入ればプライベートジェットあるあるの小洒落た空間が広がり特別感を満喫することになるが、コックピットからポコが顔を出すと、事務方と護衛は怪訝な表情へと変わってしまう。
「可愛らしい獣人の女の子が操縦するのか」
「彼女はデルタのトップガンですよ、安心してください」
腕前を披露するためクーンで行った模擬戦の様子を映し出し、人間離れした軌道を描き、次々に撃墜認定する様を見た全員が度肝を抜かれ黙り込んでしまう。
「何だか調子が狂うよアーレイ少尉」
「一杯引っ掛けてリラックスしましょう。これ年代物で結構美味しいですよ」
キャビネットを開けたアーレイは酒瓶を取り出し、手慣れた手つきで蝋で固められた封を外す。グラスに注がれた琥珀色から漂う芳醇な香りは口に含む前から上物と分かり、手渡されたルドルフの口角があがる。
「オイオイ高そうな酒だが、勝手に飲んでいいのか」
「これ俺の酒なんで好きなだけ飲んで下さい」
「もしかして君は、プライベートジェットを所有しているのか(呆」
「そうですよ、お・も・て・な・し!」
全員「。。。」
>
「護衛もみーんな、ドン引きしてますよ!」
「なんか悪いことしたっけ?」
「空気、空気読んで!」
「・・・・」
>
何処をどう考えてもプライベートジェットは一介の兵士が持てるような代物ではなく、そのことを知るルドルフは呆れ顔だ。事前にアーレイの事を調べてはいるものの、貴族でも富豪でも無い事を承知しているので尚更だ。気を取り直そうと琥珀色の液体を口に含むが、余りの美味さに顔を渋くさせてくれる。
「上がるナノ」
妙な空気が流れてしまったけど、それを断ち切るようにベクスターとベクトランは大空へと舞い上がっていくのだった。
ーー
<<クーン城・謁見の間>>
「ディスティア帝国、ルドルフ准将御一行様、御成になりました」
クーン城に到着したルドルフ一行は正式な表敬団と扱われ、城の正面玄関を潜り大広間を通り抜け、そしてアデール女王との謁見に入る。
「ルドルフさん、ここは獣人の惑星ですのでお気に召さないとは思いますが我慢してください」
一通り挨拶を交わしたアデールは、終始怪訝な顔をする同行者に対しわざと断りを入れる。なにせ到着して見た人間はフランクとアデールだけで、他は全て獣人なのでひたすら嫌悪感を振り撒いていたためだ。
「私は獣人に対して偏見はありませんのでお気遣いなく」
差別心がないルドルフの意識は同行者とは違い「偏見はありません」の言葉を発しても精神が揺れることは無い。
「それなら大歓迎よ、アーレイ少佐、彼《《は》》良き人なので、彼らの話しをしても良きかと」
「アデール様のお墨付きですか、それなら所長を招いて話を進めましょう」
打ち合わせはしていないが、アデールはルドルフの意識を読み話が分かる相手だと理解すると、現状を伝えた方が良きと暗に語り、所長のラーを呼ぶことになる。
「所長のラーと申します。ルドルフ様、捕虜に関して何か聞きたい事は御座いますか」
「ルドルフと申します。いま1番知りたいのは部下たちの健康状態です」
視察前に知りたい1番の情報は部下たちの健康状態だろう。ラーは包み隠さず動画や写真を見せながら、囚われの身になってから現在に至るまでの様子を説明する。そして本題の士官の事になる手前で一旦話を止めた。
「士官の方たちは悪態をついて手に負えなくなり。留置場を経て現在は孤島で生活しています」
「それは人権侵害だ!星団法にも抵触する」
「冷静になれ、ラー所長、詳しく教えていただいても宜しいですか」
案の定と言うか事務方のトップが声を荒げ抗議してくる。しかし下士官の待遇を考えれば彼らが何をしたのか容易に想像出来るルドルフは心の中で「マテウスだから仕方ない」と既に諦めていた。
「とにかく見下しと暴言が酷く、職員5人が精神的に追い込まれ現在休職中です」
「そのような事になっていたのですね。失礼な事を仕出かし大変申し訳ない」
「お顔を上げてくださいルドルフ様、隔離したことに対しご容赦の程を」
「滅相もありません。このような振る舞いはディスティアの恥です。本当に申し訳ない」
テーブルに突っ伏すくらい頭を下げるルドルフは心から謝りその意識は全て読み取られ、謝罪を受け入れたアデールは黙って口角を上げる。ただ白旗を上げる姿にイラついた事務方が「そこまでする必要が無い」と咎めがると、すかさずアーレイは留置場で恫喝する一幕を流し、反論できないのか口を噤んで仕舞う。
「ルドルフさん、後は現地でご自身の目で確かめてください」
「重ね重ね真摯な対応に感謝致します。この目でキッチリと確認して参ります」
ディスティアで流れた映像は多少ヤラセが入り、士官達もそれなりに過ごしているのではないかと淡い希望を抱いていた。だが現実は違い、あの時アーレイが言った「マテウスくんは馬鹿すぎて後回しだ」の言葉が脳裏を過り、直ぐにでも確認したい気持ちがせり出ていた。
「ルドルフさん、帰りに寄ってくださいね」
「承知しましたアデール様」
顔を上げた時のルドルフは済まなそうな表情だったが、席を立ち踵を返すとまるで鬼武者のような厳しい表情に激変するのは当然の事だろう。横目で事務方を睨み「さあ行くぞ」と短くドスの効いた声で出発を促すのだった。
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