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混乱は続く

引き続き混乱中のディスティア・・・。

 <<ディスティア帝国・総統府>>


「ルドルフ准将早く入りたまえ、閣下が首を長くしてお待ちだ」


 怪訝な顔をする秘書に急かされ、複数の将校と共に執務室に入ったルドルフの最初に見た光景は、慈悲を乞う執事と剣を片手に仁王立ちするセオドールだった。瞬時に八つ当たりだと考え何食わぬ顔で敬礼を行うと、剣を鞘に納め執事に向かって放り投げる。


「捕虜の安否情報が流れ、国中が大騒ぎだ、誰の仕業なんだ」

「僭越ながら申し上げます。閣下もご存じのアーレイ少佐は、捕虜開放を速やかに行いたいとのことでした」


 怒りが収まった直後にアーレイの名を出せば、再燃するかもしれないと脳裏を過ったルドルフは、矢継ぎ早に捕虜返還のことまで一気に説明をする。そうしなければ印象が悪くなり碌な事にならないと判断したらしい。


「やはりアイツが仕組んだのか、君には暗殺命令を出していた筈だが」

「囮りを見破り艦隊の直下に現れ、手も足も出せませんでした・・」


 刺激しないよう言葉を選び丁寧に説明を行うルドルフは最後に「騒動に成りましたが、捕虜が解放されれば支持率回復に有用です」と、アーレイと同じような趣旨の提案で締めくくる。結局彼も思うことがあって思考が同調したのだろう。


「君は強かだな、それで何人戻ってくるんだ」

「特務艦の乗組員450名前後が解放されると考えております」

「なんだと、行方不明で処理された筈だぞ、生きていたのか」


 事前に簡易電文を送ったが、八つ当たりを恐れて執事は報告しなかったのだろう。視線を送ると逸らされてしまい小言のひとつでも言いたくなるが、なるはやでセオドールに経緯を説明しなければならず。アーレイとの一幕を、これもまた刺激しないように説明する事になってしまう。


「なぜこのような面倒なことをする、あれから随分経っているではないか!」


 苛つくセオドールはアーレイの意図することが見えないらしく「暗号通信プロトコルが更新されたので、捕虜は不要になっただけです」と説明をした。


「特務艦の破壊は囮で、建造中の旗艦の情報が漏れたとお考えください」


 艦隊総指揮官のヘルムートが渋い顔をして立ち上がり、旗艦の秘密が暴かれたと語る。即座に反応したセオドールは激昂しこめかみの血管がビクビクと波打ち、いまさら作り直しなど出来ない事を知る将校達は、自ら怒りに触れることなど出来ずに押し黙るしかなかった。


「この件に関しては閣下自身がご決断をするしかありません」


 真面目な武人ルドルフは先に進まないことには何も解決しないと考え、物怖じせず進言を行い、セオドールは「状況が悪すぎる議会が黙っていない」と少し弱気な声で返してくる。独裁色が強い帝国とはいえフロスト撃沈で支持率が落ちているいま、強権を発動する事が出来ない。


「これを機会に捕虜解放を行い、地盤を固める方が最善手です」


 裏口を作りたかったアーレイが巻き起こした騒動は、ディスティアにしてみれば凄く迷惑だろう。ルドルフはそれを逆手に取り、上手く立ち回れば沈んだ支持率を上げられると語りフォローをする。解決策が見い出せないセオドールは迷惑そうな顔をしたまま悩み始め、沈黙が訪れてしまう。


「閣下大変です。今度は動画が流れています」

「なん・だと」


 迷っている間に今度はテレビ局に持ち込まれた動画が流れ始め、騒動はまだまだ続くと口にしなくても分る。メディアにはガス抜きも兼ねて、ある程度報道の自由を与えていたのが裏目に出てしまう。


 ヘルムート「なんだと外出だと(驚」

 セオドール「捕虜を外に出すなど前代未聞だ。だが何故下士官ばかりなのだ」


 捕虜達は笑顔で汗をかきつつ農作業に勤しみ、健康状態も良いのが一発で分かる。極めつけはレティシアでの買い物や、酒盛りをして英気を養っている場面だ。だが下士官だけで上級士官の姿はどこにも見当たらない。


「下士官を先に開放する理由はこの事だと思われます」

「ああもう、こんな映像だされたら下士官から交渉するしかないではないか」


 事あるごとに「下士官たちは農作業に勤しみ、その対価として外出許可が降りた」「栽培した作物で得た金を使っている」などとテロップがしつこく流れ、終いには「上級士官は働かず無人島にて隔離されている」と嫌味のような文字が並んでいた。ここまで徹底的に下士官を持ち上げれば自ずと先に解放しなければならないだろう。


「アーレイは約束を守る奴なので、こちらもそれに応えなければ交渉は難航するでしょう」

「分かったような口ぶりだなルドルフ、君の率直な感想を言って見ろ」

「敵対したくありません相当ヤバイ相手で、行動が常に先を行っています」


 ここでルドルフは支援艦を巡る一幕を披露する事になり、アーレイと遭遇した後のことを順を追って説明を始めた。ヘルムート以下将校達は信じられないような表情を浮かべ「やはりあのジャンプは警戒しなければならない」「何としてでも実用化しなければ」などと負け惜しみのように呟いていた。


「やはり抹殺するしかないな、奴は危険だ」


 黙って聞いていたセオドールは怒りでフルフルと身震いをする。会議でプライド傷つけられ、嘲笑うかのような逃げ方を聞き我慢ならないご様子だ。


「閣下、奴を刺激せず直接対決を避けた方が得策と考えます」


 実直に進言するルドルフに対し、黙る将校らの表情は凍り付き、刺激しないでくれよと語っていた。そして「我ディスティアがアーレイ1人に負けるとでも思っているのか」と真っ赤な顔して大声で叫びルドルフを睨む。


「業火、暴虐を避けて戦った方が勝機が見えてくると申したいのです」


 あくまでも事実を踏まえ正直に話すルドルフの目は真剣で、ご機嫌伺いの将校とは比較にならない程だ。その気迫を感じたセオドールは立ち上がると肩を鷲掴みにした。


「交渉は任せた、奴の弱点を探ってこい。隙あれば殺れ」

「承りました。必ずやり遂げる所存であります」


 真面目さが適任と感じたのか、強かなアーレイと向き合う試練を与える為なのか分からないが、セオドールは交渉の責任者としてルドルフを選んだ。本人は覚悟していたらしく驚く事もせず敬礼を、一部始終を見ていた将校たちはホッと胸を撫で下ろす。


「それでは失礼致します」


 踵を返し部屋を出たルドルフは長い廊下を歩きながら途中、深いため息をつき立ち止まる。窓外の小鳥を眺めながら、決して人前では口にできない事を心の中で呟いた。


 <アーレイがもし俺の部下だったらデルタを殲滅できるのにな>


 ーー


 <<翌朝ディスティア帝国・総統府前>>


「政府は捕虜解放に全力を上げろ!」


 観光協会前で政府に対し不満の声をあげた人々は事態を動かすため、一致団結して総統府前に参集すると捕虜解放運動を始めてしまう。もちろんこの手際の良さはあの影が扇動したのは言うまでもないだろう。


「捕虜解放出来ないセオドールは即刻退陣だ」

「不敬罪を適用するぞ、即刻解散せよ」


 当然警備隊と勝ち合う事になり悪い雰囲気が流れ始めたが、押し問答を繰り返すだけで強制排除する事なく時間だけが過ぎてゆく。原因は声を上げるほとんどの参加者が捕虜の家族と分かっている為で、有効な手が打てず警備兵は傍観するしかなかった。


「そもそも星団側と戦争するな!」


 検挙されない事を良い事に反戦活動家が加わり参加者は増える一方だ。それがニュースに流れれば反感を持つ者や殉職者の家族が我も我もと合流し、昼前にも関わらず数千人規模まで膨れ上がって行く。


 <<総統府・セオドールの執務室>>


「どうにかならんのか、誰でも良いアイツらをどうにかするんだ」


 総統府に入る前から捕虜解放の叫び声が聞こえ超絶不機嫌になったセオドールは、執事や秘書官達に対し睨みを利かせ無理難題を押し付ける。取り敢えずこの騒動を収めなければ先に進めず、対応する下の者たちは青息吐息だ。


「事態を収集するには閣下のお言葉が早急に必要であります」


 速やかに騒動を鎮めたいならセオドールが会見を開き、今後の道筋を示さなければ収まらないのは明白だ。ヘルムートは会見を開かなければクーデターが起こるかもしれないと暗に語っていた。


「まさか何もしなければクーデターが起きると言うのか」

「事態は急を要します。実際に下士官達が頻繁に会合を開いていますので」


 溜まったマグマが吹き出す前兆と同じで、無策の政府に意を唱える人々も集まり始め、それが目につくようになれば早目に手を打たないと危険な状態になる。今回のように軍関係者が関与すれば動きは加速するだろう。


「他に手立てはないのか」

「せめて暴動が起きる前に捕虜解放に関する会見を開いてください。それでも収まらなければ逮捕すればよろしいのです」

「ぐぐぐ、くっそわかった」


 苦渋の決断をしなければ成らないセオドールは秘書官と共に執務室に籠り、会見の内容についての打ち合わせを永遠と続けることになってしまう。


 <<ディスティア軍・司令本部>>


「ルドルフ准将、これが同行する事務方と護衛のリストです」


 デモが沈静化の様子を見せないなか、セオドールより任を受けたルドルフは先立って捕虜交渉に帯同する人員の名簿に目を通していた。あの副官の男は作戦立案は微妙だけど、経歴書など必要な情報をまとめた資料も準備していて事務作業は有能だ。


「不審な奴はいないよな、向こうで揉め事は勘弁だ」


 出来れば自分の部下の中から選抜チームを組みたいと考えていたが、セオドールに指定されてしまい従うしか無い。取り敢えず履歴を確かめ不審な点がないかルドルフは丁重に調べていた。


「事務方は知った顔が多いですが、護衛が気になるところです」

「間違いなく諜報部絡みだな。武器の類は持ち込ませないようにしないと駄目だ」

「丸腰で大丈夫でしょうか、デルタ本国に乗り込むのですよ」


 副官は今回の選抜メンバーに選ばれていないけれど、ルドルフが懸念することに関してサクサクと答えていた。しかし丸腰で向かうと断言され少し不安な表情をしてしまう。


「使節団を捕虜にすれば星団会議で問題になる。だから武器は不要なんだよ」

「承知しました。中立地域までの護衛は戦艦2隻で宜しいですね」

「あまり引き連れて行ってもデルタが迷惑するだけだ。俺は艦長たちと話をしてくる」


 ディスティア第6艦隊を任されているルドルフは、信頼できる士官の中から速攻で交戦するような血気盛んな奴を外し、冷静沈着な艦長を選ぶつもりだ。少しだけ口角が上がり楽しそうな表情を見せながら司令部を後にする。


 <<総統府近くの雑居ビル>>


 総統府に程近い雑居ビルの一室には無機質な机とモニターが並び、事務員らしき黒ずくめの男が1人で電話番をしている。壁にはセオドールの肖像画や写真が並べられ、会員数100万人を目指せと書かれた横断幕が掲げてあり、一目見れば熱烈な支持者の事務所だとわかる。


「はいHSA()本部です」

 俺だ

「セオドール総統万歳!御用を承ります」


 机の上にあるモニターにアイコンが現れると同時にビィーンと通知音が鳴り響き、電話番の男は緊張した面持ちで立ち上がり、胸に手を置くディスティア形式の敬礼をした。


 <ちゃんと使節団に暗殺者を入れたか>


 画面に写る小狡いセオドールは隙あればアーレイを抹殺したいらしい。失敗したとして自身が代表の教会を使えば不満は上がらないと考えたのだろう。因みに電話番の男は連絡役で汚い仕事を振り分けるのが主な役目だ。


「諜報部のアサシンを送り込みますが、ルドルフ准将は武器を携帯するなと申しております」

「最新式の装備を用意してある、特殊武器課に取りに行くよう指示を出せ」


 正々堂々と交渉に望もうとしているルドルフに水を差すような行為を平然と指示するセオドールは生粋の独裁者で、目の前に立ちはだかる者には容赦をしない。念には念を入れてシールド無効化弾まで準備していた。


「承知いたしました総統閣下様」

「下士官より会長を優先して連れて戻ってこいと伝言を頼む」


 小狡いセオドールは下士官などは畑で取れると思っているのか見捨てるつもりだ。もちろんルドルフはこんな裏工作など知る由もなく、デモが落ち着けばアサシンを引き連れデルタに向かうことになってしまう。


 ※HSA=人間至上主義協会(human supremacy associationの略称)


 ーー


 <<週明け・ディスティア総統府>>


「流石に週を跨げば静かになったな」


 週末前にセオドール自ら会見を開き、捕虜解放交渉を始めると公言したが、デモの熱は直ぐには冷めず、そのまま週末に突入してしまう。翌日に解放を待つ家族の御涙頂戴特集が何度も流れ、週明けには怒りの矛先が望みへと矛先をかえやっと沈静化した。


「ここまで長引くとは想像も出来ませんでした」

「今がチャンスだルドルフと繋げ、早く進めないとろくな事にならん」


 騒ぎが活発化するときに交渉を始めれば無駄に燃料を補給する事になり、収まるどころか早くしろと文句が出てしまう。そうなれば相手に足元を見られ賠償金が跳ね上がっていた筈だ。今がチャンスと捉えたセオドールはルドルフに対し緊急呼び出しを行った。


 総統閣下お呼びでしょうか

「とりあえず安否確認と金額の当たりをつけてくるんだ」


 デルタの捕虜の数が圧倒的に少なく、交換したところで結局は賠償金の話になる。なる早で急ぎたいところだが、相手の出方を見なければどうしようもない。高額が予想されセオドールは苦虫を噛みつぶした表情を浮かべていた。


「承知しました閣下、ジェフ陛下に何か言付けは御座いますか」

「何で俺がジェフと話さなければならんのだ。考えるだけで獣臭くて気分が悪くなるわ」

「承知しました」


 争っている間柄とは言え最低限の礼儀は必要だろうと考え一応聞いてみた。けど予想通りの答えにルドルフは、セオドールが画面から消えると苦笑いしていたよ。

よろしければブクマ、評価お願いします。

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