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手紙。

フローレンスがやる気を見せます。

 <<レティシア捕虜収容所・会議室>>


「バグナー大尉、アーレイ少佐の評価を教えてください」

「あのー自分はディスティアの兵士ですよ(困」


 手紙の事より先にバグナーに評価を聞く事から始める。もちろん自分の知っているアーレイとの齟齬が無いか見極めるためだ。聞かれたバグナーは敵国の兵士に聞く事なのかと困惑していた。なので重ねてお願いすると渋々話し始めてくれる。


「理論的で冷静だけど、冷たいわけでもなく人情も持ち合わせているし、外出許可を出す大胆な決断はとても真似できません。外に出た時は夢のようでした。彼は元々愉快な人だと思いますが、ごく稀に威圧を発しているのか、怖く感じることがあります」


 今までの事を振り返りながらバグナーは淡々と述べ、フローレンスは自分が知るアーレイと何ら変わることが無い事を確認すると、満足したのか少しだけ口角を上げる。


「有難うございます。それでは本題に入りましょう。手袋の消費割合を教えて下さい」

「大雑把に言って2週間で1双でしょうか」


 割合を聞くとフローレンスはサクッとタブレットを使い計算を終え、バグナーが使っていた同じ商品の画像を見せた。が、既に1000双もの発注を終えていたりする。


「決断早いですね」

「補佐ですから!それでは手紙の内容を検討しましょう」


 補佐として決意をみせる彼女をアーレイは断固拒否しそうだけど、デルタに戻れば明らかになるが、実はフローレンスには勝算あっての行動だったりする。そしてバグナーは手紙の話になると俄然ヤル気を出し、頬をパシパシと叩き気合を入れていた。


「安否情報などに限定します。届かなければ意味がありませんからね」

「理解が早くて助かります。あと問題になるとしたら・・」


 検閲を前提に本文を自ら限定してくる聡明なバグナーを見て、アーレイが信頼する気持ちが少し理解できたのか、フローレンスはウフフと笑みを溢しつつ、ディスティアに送った際に問題点がないか相手の立場で考え始めた。


「何か問題でもありますか」

「あのですね、獣人に関する情報は控えた方が良いと思うのですが」

「それは盲点でした。さすがアーレイ少佐の補佐ですね(笑」


 獣人達と仲良くとか、世話になっているなどと書けば差別している手前、検閲で弾かれるのは目に見えている。フローレンスの指摘に気がついたバグナーは苦笑いをしていたよ。


「バクナー大尉いますか〜」


 ノックもせずにいきなり扉が開き、バグナーを探している下士官の人相の悪い若い男が入って来る。


「ジュルジュ何かあったのか、いま取り込み中だ」

「大尉様、こんな所に女を連れ込んでいいすかぁ~」


 久しぶりに人間の、それもかなりの上玉を見たジョルジュは目を細め、ニヤニヤとした表情に変わる。だがフローレンスは気後れすることなくキッと睨み返す。


「おい、失礼なことをするなジョルジュ少尉、デルタの高官だぞ」

「要件があるなら手短にお願いします」


 舐め回す様な視線を送るジョルジュに対し、汚物を見る様な目付きに変わり強めの口調で返すフローレンスは、実は耳元でジジジと鳴る、見えないレーザーソードのノイズが聞こえ、アーレイの置き土産(ピンキー)に思わず心の中で小躍りして喜んだのは秘密です。


「おー怖い怖い、みんな女に飢えてますからね〜襲われちゃいますよ〜」

「馬鹿かお前は、それでもディスティアの軍人か、今すぐに謝れ」


 美人と接しているのが気に食わないのか、それとも久しぶりに疼く下半身がそうさせるのか分からないけれど、ジョルジュは態度を改めるどころか更にニヤつき、ヤレたら死んでも構わないとか言い放っていた。


「君が死刑になっても構わんが、我国に恥をかかせないでくれ」

「へっ、この小娘はそんなに偉いの?」


 ヤレヤレの表情をしながらフローレンスの身分を教えた後に「暴言は不敬になり死刑なってもおかしくない」とバグナーはドスの効いた声で脅す。


「またまたご冗談を、えっヤバい」


 冗談を言ってはぐらかそうとするとフローレンスが歪んで見え始め、ジジジとあのノイズが聞こえると同時に、股間の辺りからブーンと高周波ブレードソード特有の振動が伝わり、一気に恐怖心が湧き上がってくる。


「御免なさい、僕が悪かった」


 よくよく考えてみれば王女様を1人で放置などするわけもなく、今すぐに謝らなければステルスドロイドによって無惨な姿を曝け出す未来を想像したジョルジュは、青ざめながら謝罪の言葉を口にすると歪みが消え事なきを得る。


「謝罪を受け取りました。バグナーさんそれでは手紙の送料について話しを進めましょう」

「お、おい! い、今なんて言った、なんて言った」


 横目で謝罪を受け流すと直ぐさま無視して送料の話を始め、本国に手紙が送る事が出来ると聞くや否や、ジョルジュの顔色が驚きに変わる。怪訝な表情のフローレンスは「手紙ですが何か」とつっけんどんに答えたが、ジョルジュはゆっくりとにじり寄ってきた。


「ジョルジュ少尉、早く下がれ」

「先ほどは大変失礼な態度を取ってしまいました。どうか許して下さい。手紙を手紙を出したいのです」


 謝罪する為に膝まづいたジョルジュは大切な誰かに手紙を送りたいのか、既に涙目になっていた。落ち着かせるために「今すぐは無理、アーレイ少佐の許可が必要です」ときつく断りを入れるものの諦める様子は無い。


「安否だけでも知らせることが出来ればそれで良いのです。どうかお願いします」


 懇願する姿からは哀愁が滲み出ていて良く見れば父親みたいな顔になっていた。理由を聞けばジョルジュにはまだ幼い子が2人いると言う。長期任務ならまだしも捕虜生活ともなれば我が子に対して想いが募るのは当然だろう。フローレンスは心情を理解すると厳しい表情を少しだけ緩めた。


「お気持ちは理解しました。そのことも併せてアーレイ少佐に進言いたします」

「あ、有難うございますフローレンス様」


 手紙を送れると聞き安堵したジョルジュは何度も頭を下げながら部屋を後にする。寂しそうな彼の背中を見送るフローレンスは、少しでも早く送ってあげたい気持ちにはなるが、後に控える許可の多さ(許可→検閲×2→手元)を考えるとため息しか出てこない。


「提案なのですが安否情報だけ先に送りませんか、もちろん観光協会の掲示板ですけど(笑」


 現在ディスティアにはデルタ大使館は存在しない。とは言え観光協会の名目で、秘密裏ながら邦人保護など機能を有する団体は存在している。そのことを知るフローレンスは考えを凝らし、観光案内の掲示板を利用して安否情報を表示したらどうですかと、少し無理目な提案をしてくる。言われたバグナーは一瞬考え「良い提案ですが、どうやって船員たちの家族に連絡を取るのですか」と安直に聞いて来た。


「どこの国にも船員会は存在しますよね、そこに密偵を使い伝言を渡せば済む事です」

「なるほど、理解しました」


 とまあフローレンスの思い付きはバグナーの心情に刺さったのか、船員会の名簿を素直に教えてくれることに。あとはアーレイの許可待ちだけなので、視察から戻って来るのを心待ちにしたのは言うまでもない。


 <<15分後・・・>>


「と言う訳でして、手紙と安否情報の開示についての許可を貰いたいのですが」


 手紙に関する要点をタブレットに纏め、視察を終えたアーレイとラーが戻ってくると、早速フローレンスがプレゼンを始める。アーレイは手際の良さに感心しつつ、話の途中でケチをつける事無く最後まで聞き入っていた。


「よく短時間でここまでまとめたな、もちろん許可は出す。それとこの安否情報は使えるな」

「ありがとうございます。アーレイ様の”補佐”ですからこれしきの事は当たり前です!」

「いつから補佐になったんだ(汗」


 本気度を試すために突き放してみたものの、役に立ちたい強い思いが彼女を突き動かし、想像以上の結果を齎してしまう。さらに補佐になれば常に一緒にいられる最高な役職と考えたのか、認めてくださいとグイグイと迫って来て、互いの鼻息が分かるくらいの距離まで詰め寄られ、押しの強さにアーレイはたじたじだ。


「これは補佐の役目ですよね!ね!決めました。今日から補佐になります。なにせ少佐には必要ですからね~(喜」

「はっ?・・嗚呼まさか(汗」


 勝算あっての行動とは上級士官に昇進すればデルタ軍では《《補佐》》を雇うのが義務付けられている。アーレイの場合は技術的な事はマッドク達に任せているのでサポート不要と言えばそれまでだけど、事務作業の軽減の為に下士官か一般人を雇うのが通例だ。フローレンスはその隙間に潜り込もうとしていた。


「上級士官ですので必ず”秘書”か”補佐官”が必要ですよね~、確かまだ準備していませんよね~」

「は、はい、そうですね(大汗」


 昇進後、事務方に口頭で言われていたが特に困って無いので放置していた。そしてこの場で指摘され「近日中に秘書を雇えよ、決めなきゃ俺が勝手に決める」とクリスに宣言された事を思い出す。とはいえ王女様を補佐にするなど前代未聞なので、全力で拒否しようと口を開こうとするが、そんなのお見通しよと言わんばかりにフローレンスはタブレットを目の前に差し出してくる。


 <フローレンスを補佐として任命する。Byジェフ>


「デルタに戻ったら執務室に案内お願いしますね~(笑」

「親子揃って策士だな(呆」


 補佐を決めていないことをジェフかクリスか、はたまたレティなのかは分からないが、誰かしらから聞いていたのだろう。勅命という断れない理由を準備してチャンスを伺っていた策士フローレンスの笑顔を見みて、覆す理由が見当たらないアーレイは渋々認めるしかなかった。


「クスクス、うふふ(笑」

「こらラー!笑うな」

「だって、《《あの》》アーレイ少佐が押されているのですよ」


 やり取りの一部始終を見ていたラーは味方(女性)に弱いアーレイを見て、思わず微笑んでしまったらしい。そしてその反応に興味津々の フローレンスが反応してしまう。


「ラーさんアノってなんですか?」

「この前、捕虜の士官とやりあって相手をボロボロにしたのよ。出会った当初は凄く怖かったのよ」

「そうなのですね。それからそれから(笑」


  普段から冷静で怒りを表に出さないアーレイはあのマテウスの態度には心底腹が立ちブチ切れ、その時の様子をラーは凄く楽しそうに語り、色々知りたいフローレンスはこれもまた楽しそうに聞き入っていた。


「こら必要ない事は喋るな。あのバカどもは生きていたよ」

「詳細情報が必要なら職員を現地に向かわせますが」

「あいつら放置でいい、これから引き上げる、当分来れないから後は任せた」

「はい、ウフフ承知しました」


 女性2人はニコニコと笑い、反発するように不機嫌になったアーレイはさっさとベクスターに乗り込み、中で待っていたポコの頭をなでながら「忠犬の方が扱いが楽だな」と、ぼそりと呟くのだった・・。


 <<クーン城・客間>>


「フローレンス、収容所の視察はどうでしたか、勉強になったかしら」

「とても勉強になりました。初めての経験で戸惑いましたが現場に出向くのは大事ですね」


 クーン城に戻るとアデールは嬉々としてフローレンスを隣に招き寄せ、収容所の報告を早く話せの勢いだ。送り出した手前何かしら成果を欲するのは自然な事だろうし、手袋や手紙の事を聞けば初めてにしては成果として十分なので大変ご満悦の様子だ。


「アーレイ様の補佐ですので当然のことをしたまでです、アデール様」

「予想以上に結果を残したわね、よく頑張りました。それにしてもいつの間に補佐になったの(笑」

「もちろん今日からですし、陛下公認ですわよ(喜」


 勅命という多少強引なやり方で補佐の座を得たフローレンスの勢いは止まることを知らない。アーレイは「今日だけだ」と断りを入れても「お父様が喜んでいましたよ」と聞く耳を持たず、終いには「アーレイ、やる気を削いだらダメでしょう」とアデールが援護射撃を放ってくる。


「補佐は戦場に赴く、それに耐えられるか疑問なんですけどー」

「それは彼女が決める事でなので、限界を感じるまで試せばいいでしょ」

「温室育ちで柔らかメンタルの王女が戦場に出向くと・・」


 補佐なら戦場に向かうのは当然で絶えず行動を共にする。なので危ないと遠回しに牽制しても勢いのついた彼女には馬耳東風で「私は何処までもお供する所存でございます(笑」と自信を見せていた。


「いい事じゃ無い、私も最前線に出ていましたわよアーレイ」

「致し方ありませんね、承知しましたアデール様」


 言わなくても分かると思うがこの時アーレイの頭の中では「後できつ〜く〆てやる」と考え、アデールは「後で絶対怒られるわ〜」と思っていたのは言うまでもないだろう。


「有難うございますアデール様」

「この先は貴方が頑張ればいいの、そうしたらアーレイは認めてくれるわ」

「はい!頑張ります」


 >

「ロックオンされたのかな」

「エルフ並みのしつこさで間違いなくですね」

「諦めてくれないかな〜」

「予想ですと99.99%諦めないという結果が出ています。モテ期再到来!」

「はぁ〜」

 >


 その後、昼食会が開かれることになったが、視察に同行出来なかったフリップを宥めるのに苦労したのは言うまでもない。帰国の時間も迫りポコはベクスターの最終チェックに勤しみ、王子と王女様はピンキーを引き連れてお土産を買いに行く事になったが・・。


 <<フリップが寝泊まりする客間>>


「フリップちょっと頼めるかしら、適当にお土産を買ってきてよ」

「えー、また1人で動くの〜ずるいよ姉さま〜」


 朝の会話に引っかかりを覚えるフローレンスは、食堂で話し込んでいるアーレイとアデールが気になり、確かめるために1人で偵察に行くつもりだ。


「1人じゃないと駄目なの、頼むわね私はもう行くから!」

「ああ、もう姉さんたら〜」


 フリップはまた単独で動こうとする姉に対し不満をもらすが、逆らえないので頬を膨らますだけに留め、去り行く姿を寂しそうに眺めるしかなかった。


「絶対あの2人には秘密があるはずよ」


 見つからないようにキョロキョロと周りを見渡しながら城内をコソコソと歩くフローレンスの姿は、まるで浮気調査員を彷彿させる。今は好奇心が突き動かしているけど、もしアーレイの秘密を知ったら彼女はどう判断するのだろうか・・。

よろしければブクマ、評価お願いします。

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