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志願兵とマテウスの引越し。

獣人乗組員と、おバカマテウスのお話

 <<クーン城・客間>>


「アーレイ様、志願者の数が増えてしまいました」


 レティシアを後にしたアーレイはクーン城に戻り、お茶をしながら志願者たちの説明を受ける事になるものの、勤務先がデルタ宇宙軍第9艦隊所属と知るや否や、応募者が殺到したらしくアデールは半笑いを浮かべていた。


「あはは、意外に現金なんだな」

「もう、給与が良いからって失礼しちゃう」


 贅沢を左程好まないと知られる獣人とてクーン軍の3割り増しだと知るや否や、殺到するその姿を見たアデールはご立腹だ。アーレイは星団統一を目指すならこの国の協力は不可欠と考え、いつしか経済を発展させなければ前に進めないと実感していた。


「アーレイ様、クーンの人たちは第9で使うナノ」

「そうだ第9艦隊で使うつもりだ。てっ言うかあそこでしか使えん!」


 脳筋の彼らをバラバラに配属すれば間違いなく軋轢を産むので、全員纏めて第9艦隊に採用したい考えだ。頭の痛い問題だけど人員不足なので贅沢は言ってられない。ポコは「脳筋は力でねじ伏せないと駄目ナノ戦闘機乗りは任せるナノ」と語り協力的なので、ここはひとつ頼りにするしか無いだろう。


「ポコ頼りにしているぞ、空軍は任せた」

「ご褒美はモフモフウフフ(交尾)したいナノナノ」

「キャ!モテますね」


 どこで覚えたのか知らんけど、性的本能が目覚めてしまうのだけは勘弁なので、全力で聞いてない振りをして「さあ行こうか!」と言い放ち、逃げるように席を立つ。


 <<クーン城・大広間>>


「アーレイ少佐入ります!」


 広間に出向くとパイロットと艦隊勤務の士官数十名が集められ、アーレイが入ってくると一斉に立ち上がり、息の揃った敬礼をする。因みに1回目の召集に応じたやる気のある連中だ。


「デルタのアーレイだ、今回アデール女王の呼び掛けに応じてくれた事を感謝する」


 軍人らしい喋り方で礼を言うと集まった連中は真面目に聞いていたが、初めて会うアーレイを睨んで値踏みしているようにも見える。ポコが斜め後ろに直立不動で立ち、厳し表情をしていたので不満の声が漏れる事は無いが、1番前に立つ空軍の制服を着た熊族の男が、何か言いたげな顔をして1歩前に出た。

 

 「アーレイ少佐、ニコラ少尉と申します。発言よろしいでしょうか」

 「何なりと聞いてくれ」


 聞く姿勢を見せるとニコラは自己紹介を始め、パイロットとしてはそこそこだけど、力比べ(格闘技)で勝ち抜き現在の序列は1位だと語る。まぁ自慢するだけあって身長こそ低めだけど腕や顔には無数の傷があり、デカい図体から発する気合を感じれば物凄く強い事は理解できる。


「君らは今後デルタ軍で働く事になるが俺の命令に従うのか」

「命を賭する命令ならば、私より強きものでなければなりません」


 やはり彼らは強き者に従う事を本能的に求めている。それはそれで統率が取れ良い事だが軍隊を動かすには少々厄介だ。もし艦長がNo10で機関士がNo1だと序列が逆転してしまい、命令を聞かない可能性が出て来る。アーレイは今までどうやって戦っていたのか質問すると「クーン宇宙軍は準中立国として認められて以来、ほぼ戦闘経験がありません」と答え、思わず笑ってしまう。


「第9艦隊は勝ちに行くための軍隊だ。ひとりだけでは絶対動かせ無いぞ」

「自衛軍とは訳が違うということですね」


 第9艦隊が想定された規模まで大きくなれば乗組員は1万人は下らない。そうなればニコラの命令だけでは完全に機能しないだろう。補佐のNo.2、3は存在するもののそれだけでは足りず、実戦ともなれば、お気楽自衛軍とは違い混乱すると理解したニコラは「大昔のように組織化するしかないですね」と返してくる。


「実力主義の軍隊を作り上げればいい、まぁそれが正しい軍本来の姿かもな」


 実力がない者が上に立つと本能的に拒否する彼らは真の実力主義者だ。以前のように階級をそれに見合ったものにすれば、普通の軍隊より統率が取れるだろう。アデールが「力を誇示しなければ従いません」と言ったことが身に染みてわかった瞬間だ。


「ところでアーレイ少佐は私より強いですか」


 先に空軍のトップにポコを据える予定だったが、アーレイが切り出す前にニコラは殺気を放ち、この場で決着をつけようとギラギラとした目で睨んできた。

 

「俺の実力はこの場で示す事が出来ない程に強力なのだ。別場所で見せてやる」

「承知しました」


 ギラリと光るニコラの眼光は格闘家、いや獲物を狙う猛獣のように鋭く「お前の実力を早く見せてみろ」と言わんばかりだ。そしてNo2である馬族のシーグルに向かって人差し指をクイクイと動かし近くに呼ぶ。


「今からアーレイ少佐の実力を試す。お前が見届け役だ」

「御意」


 ポコを含めこの場で黒の覇気を見せる訳にはいかないので「パイロット達と勝負についての方法を検討してくれ」と頼み、挑戦を受けてやるぞの構えを見せるニコラを引き連れ、アーレイは祠近くの森に移動する。


 <<裏手の森・祠近く>>


「さてニコラ、勝負の前に俺の守護神を見せてやる」


 ニヤリと笑ったアーレイはブラッドに覇気を全開で頼むと呟く。すると体中から大量の黒い霧がパチパチと火花を纏いながら出現すると、驚き立ち竦むニコラとシーグルを包み込む。


「ウギャー、ウググ、も、も申し訳ございません黒の精霊様」

「ヒャ、ヒャ、ブヒィーン!」


 2人は霧を見た瞬間に足がすくみ、包み込まれると背筋が凍るような死の恐怖が全身を駆け巡り、朽ち果てて行く未来が走馬灯のよう駆け巡ったのか一瞬で青ざめていく。


「俺はクーンの支配者だが無益な争いは望まない」

「承知」

「御意」


  威圧に圧倒された2人は膝を突きそのまま崩れるように地面に頭をこすりつけ「平伏せ」と言う前に服従の意志を現す。サムズアップしながらアーレイは 「ニコラ、シーグル、俺の秘密を喋ったら殺すぞ、わかったか!」と言い放つと面を上げ背筋をピンと伸ばし、承知しましたと答えるだけで精一杯だった。


 <<大広間>>


「アーレイ様は俺より数倍は強い」

「残念だがニコラは瞬殺された」


 ニコラは大広間に戻るなり敗北宣言をすると、聞いていた連中は目が飛び出るほど驚き驚愕の表情を露わにする。そしてアーレイ様に挑むには俺を倒した後だとニコラが言い放つと、皆納得したのかウンウンと頷いていた。


「パイロットは空戦で順位を決めるナノ」

「よし分かったポコ頼むぞ」


 裏手に行っている間にパイロットの1番を決める方法はドッグファイトと決定され、ポコはアデールに空軍を動かす要請を行いつつアーレイの帰りを待っていた。そして18名の選抜者が名乗りを上げると、ニコラは「パイロットはデルタから呼び寄せるのでしょうか」と聞いて来る。まあデルタのトップガンが、まさか目の前にいる中学生みたいな女の子とは思いもよらないのだろう。


「デルタ軍のトップガンは可愛らしい犬族の女性だぞ」


 犬族女性と言われてもイメージが一致しないのか、キョロキョロと周りを見渡し、その間抜けな面を見たポコはブチ切れそうになる。即座に可愛らしいとフォローを入れるとチョロい彼女は顔を真っ赤にしてイヤンイヤンしていたよ。


「ま、まさか(汗」

「そうだよ、目の前にいるポ・コロン少尉がそのパイロットだ」

「あれ昇進したナノナノ」


 ちっこい女の子がデルタのトップガンだと分ると、ニコラは顎が抜ける程に驚き、更に少尉昇進と聞くなり目が点になっていた。そりゃ10代に見えるポコが同じ階級なのだから仕方ないだろう。


「ベクスターでいいのか」

「任せろナノ!」


 気合の入ったポコは普段と違う真剣な表情に変わると選抜者には目もくれず、大広間を駆け抜け駐機場で翼を休めているベクスターへと乗り込んで行く。


 ーー


 <<クーン城・駐機場>>


 機内にある余計な荷物をブン投げるように下ろしたポコは、スルリとコックピットに納まりパチパチとイグニッションのスイッチを入れる。スクランブル対応のこの機体はすぐさま眠りから覚め、ヒュンヒュンと始動音を響かせ始めた。


「ベクちゃん頼むナノ」


 数秒後にはキーンと甲高い音を奏で、モニターにはAll Readyの表示が映し出され、ポコは手順通りフラップを展開するとReady to departの表示へと変わる。


 <頼むぞポコ、君の腕前に第9艦隊の未来がかかっている>

 「さっさと終わらせて1番になるナノ」


 そしてベクスターはアーレイの願いを叶えるべく、大空へと舞い上がっていく。


 <<クーン城・上空>>


「のろまな猫さん遅いナノ〜」

<ひゃ~近すぎ早すぎるニャ~>


 最初に上がって来た暫定18位の猫族の女の子は気が強く怖いもの知らずだけど、交差する際に余りの至近距離にビビリってしまい反応が遅れ(いと)も簡単にベクスターに後方を取られてしまう。


「ベクちゃんは羊の皮を被った狼ナノ」

 

 強力なエンジンと可変翼を採用してるベクスターの逃げ足は、速さもさることながら翼を不安定方向に向けると戦闘機並みの機動力を発揮する。張り付いたら最後、逃れる事は不可能だろう。 


「駄目ニャ、振り切れないニャ」


 ピッタリと後方に張りつかれ必死になって急旋回や急上昇を繰り返し行うが、ポコの腕前には敵わず常に照準器に捉えられ、やがてグリーンマークがレッドへと変化する。


 Ai「ロックオンされました」

「終わった、たった数十秒でオワタニャ〜(泣」


 撃墜認定された女の子はガックリと肩を落とし酸素マスクを外すと、クーン空軍基地に機首を向ける。横目でそれを見送ったポコは次の挑戦者を待つため急上昇してゆく。


 <<数十分後・・>>


 Ai「敵機撤退していきます」

「ナノー!ナノー!次で18機目ナノー」


 摸擬戦がスタートして小一時間が経過、圧倒的な飛行技術を持つポコは17連勝中だ。大広間でガンカメラの映像を見ているニコラは到底敵わないと思ったのか一歩も外に出ようとはせず、徐にパイロットスーツのジッパーを下ろす。


 <<クーン城・大広間>>


 「ニコラ、君が最後だがどうする」

 「レベルが違いすぎます私には無理です」


 戦わずしても結果が見えたニコラは敗北宣言を行うと、ジッとアーレイを見つめていた。少しのあいだ静寂が流れそれを断ち切るようにベクスターのエンジン音が大広間に響き渡るのだった。


 ーー


 <<数日後・デルタ指令本部>>


 <アーレイ様、お暇でしたらぜひ来て頂きたいのですが(困>


 第9艦隊の序列問題を取り敢えず解決したアーレイは各種手続きに追われ、忙しい日々を送っていた。そんなある日、ラーが連絡を取って来ると苦い表情からマテウスが問題を起こしたと一発で分かり「おバカ将校の件だね」と言うと苦笑いしながら「お暇でなくてもぜひお越しください」と言われてしまう。


 <<ディスティア軍・捕虜収容所(仮>>


「こちらに引っ越しました(笑」


 レティシアにも留置場はあるにはあるが規模が小さく、そこに放り込めばマテウス達のあの態度だ。他の受刑者に瞬殺されるのは間違いなく、隔離が必要と考えたラーは首都近くのにある大型刑務所の一角を将校専用捕虜収容所に変更して、マテウス達を一括管理していた。


 「手間ばかりかけさせて悪いね」

 「仕事ですので仕方ありませんが、暴言や暴力が酷過ぎまして・・」


 話を聞くと常に暴言や嫌味を言い放ち、見えないところから物を投げてくるなど陰湿極まりない悪行を繰り返していた。掟に従い弱い者には手を出さない刑務官達はひたすら耐えていたが、心を病む者が出始め、我慢の限界を越えたラーはレティシアから叩き出したのだ。


「良く耐えてくれた。今から面会して今後の対応を決めるよ」

「アーレイ様、宜しくお願いします」


 疲れ切った表情を見せるラーは我慢強く彼らと接していたことがよく分かる。これ以上負担を掛けられないと判断したアーレイは「自給自足をしつつ逃げ出せない場所を探してくれないか」と指示を出し、気合を入れ直して留置所へと向かう。


 <<クーン刑務所>>


 収容されている上級士官50名は星団法に基づき独居房が与えられ、下士官22名は雑居房にて収監されている。囚人とは違い日没まで自由時間があり食事は軍と同じものが支給されているので割といい生活環境だ。


 <<マテウスの独居房>>


「マテウス君久しぶりだね~行儀が悪くて引っ越ししたんだってな」

「けっ、獣人の飼い主のアーレイか」


 鉄格子の窓越しにマテウスに声を掛けたら相変わらずの態度で思わず苦笑。反発精神は相変わらずのようで「臭い飯を食っているのに改心できない馬鹿だな」と言えば「飯が不味い」「動物は嫌いだ」「獣臭いなんとかしろ」などと不満しか返って来なかった。


「ほんと、お前は1ミリも変わっていないな」

「獣と仲のいいお前に言われたく無いわ、待遇改善として三ツ星ホテルでいいや」


 予想通り反省の弁どころか阿保な要求をしてきたので、切れたアーレイは「もうお前らは放置する、また引っ越しだ!」と言い放つ。慌てたマテウスは大声で何か喚いていたが「ばーか、自業自得だ」と啖呵を切り、踵を返すとラーが待つ会議室へと急ぐ。


 <<収容所・会議室>>


「それで最適な場所は見つかった?」

「立ち入り禁止のリゾート施設など如何でしょう」


 様子を見に行っている間に調べてくれた場所は、とある理由で立入禁止になったリゾートアイランドだ。当時の建物はほぼ無いが管理棟として一棟だけ残してあり、水もある事から自給自足は可能だと説明を受ける。


「あら廃墟なんだ。けど海を渡って逃げないかな」

「潮流が早く大型船でしか近づけませんし、手漕ぎボートだと人喰い蝦蛄とかに襲われますわよ(笑」


 バケモノが出る理由はリゾート開発後、海水が富栄養化してしまいプランクトンが大量発生、食物連鎖に則って地球では考えられないほど超大型の蟹や蝦蛄が湧いてしまう。とは言え陸上には上がってこないので、危険性だけ教えれば放置しても構わないだろう。放置が決まったことでラーの表情は晴れ晴れとしていたよ。


「夜の波打ち際に1分も立っていれば蟹、蝦蛄、蛸が現れ一瞬で海に引きずり込まれます」

「中々いい所だね、とっとと奴らを送り込もうじゃないか」


 善は急げと言わんばかりに輸送機が到着する前に、サクッと危険性と住処の説明を終えたアーレイはマテウス達をその島へと移送するのだった。


 ーー


 <<元リゾートアイランド・天国への入り口>>


 陸地から100キロ以上、首都クーンから7000千キロほど離れた赤道直下にある孤島を上空から眺めれば、澄み切った空と海、真っ白い砂浜が奏でるグラデーションは最高だ。新婚旅行ならまず間違い無くテンションが爆上がりするだろう。しかしマテウス御一行様はシャトルから降ろされると愕然(がくぜん)とした表情へと変わる。


「流石元リゾート地だね、思ったよりいい所だね(笑」

「なんだと、あの古ぼけた建物で生活しろというのか」


 これからの寝床を共にする木造建築物は老朽化が激しく幽霊屋敷のように見え、周囲には雑草が多い繁り無数の廃材が放置され、廃墟といった方が正解だろう。一応、雨漏りと害虫が入らない処理はされているものの、連れてこられた連中は諦めた表情を浮かべていた。しかしひとりマテウスは顔を真っ赤にして激オコだよ。


「君たちがちゃんとしていればここまで連れてくる事はなかったんだよ、将校マテウスくん」

「ふざけるな!」

「ほんと、軍人としても人間としてもアカン奴だね、じゃさよならだ」


 このバカと口論しても埒が明かないのでサクッと農機具と種子の入ったコンテナを下ろし、アーレイは逃げるようにベクスターに乗り込む。小窓を覗けば恨めしそうに眺めるマテウス御一行が見え、同時に怒気と殺気が感じられたが、そんなことは無視するに限るのでチャッチャと飛び立っていくのだった。

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