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捕虜たち。

捕虜のお話です。

 第9艦隊を拡大するには乗務員不足を解決しなければならない。しかしデルタでは無理だと判断したアーレイはクーン精霊王国に協力要請を出し、捕虜視察を兼ねてアデールの元を訪れていた。


 <<惑星クーン・クーン城駐機場>>


「これはこれは懐かしい、今はなきシンフォニーバードに酷似してますな」


 キーンとけたたましい音を響かせ、改装を終わったばかりの真っ白い機体のベクスターが城の駐機場に降り立つ。傍らで見ていた執事のフランクは懐かしそうに眺めていた。


 <<クーン城・客間>>


「アデール、早朝から悪いね」

「ようこそアーレイ様、何ら問題ありません」


 相変わらず凛とした表情で構えているアデールは、少し緊張した面持ちで挨拶を行い、その傍では急ぎ運びカチャカチャと茶器を鳴らす侍女達が、手慣れた手つきでお茶の準備を始めていた。


「乗組員の募集は済んでおりますが、本当にクーンの獣人をお使いになるのですか」

「アデールありがとう、適性があれば是非とも使いたいと思っている」


 事前にできる限り乗務員を募集してくれと頼んだときに「本当にお使いになるのですか」と念を押したアデールは、不安が払拭されないのか困惑した表情を浮かべ再度聞いてくる。獣人達は自分より強い相手ではないと素直には従わず、5精霊持ちの彼女はクーンを統治するのに相当苦労していたので心配しているのだろう。


「パイロット候補は220名、乗務員は7500名ご用意できています」


 とりあえず5000名集められたら十分だ、無理はしなくていいと要望を出すと「全力で頑張ります」としか答えを貰えてなかったが、アデールは黒の精霊の頼みとなればなりふり構わず集めたのだろう。予想を大幅に超える人数を揃えてくれたことで感謝の気持が湧いたアーレイは「本当にありがとう、急なお願いでここまで集めて頂き感謝しかありません」と素直に感謝の気持ちを込めて言葉にする。


「いえ、そんな・・当然です」

「意外と可愛いところあるんだね」

「もう、いやですわ(恥」


 あの凛としたアデールが感謝の意を述べた途端、少し俯き恥ずかしがっていた。その仕草はアラフィフというよりうら若き乙女のような初々しさがあり、一瞬ドキッとしてしまう。追加で「可愛い」と弄ると、みるみる紅が刺し耳まで赤くなり「マジ、思いっきり初心じゃね」とアーレイの脳裏を過ったのは秘密です。


「パイロットは戦闘機乗りの経験者だよね」

「そうですが、気性が荒く結構身勝手ですので力を誇示しなければ従いません」


 初顔合わせでデルタの士官と言ったところで従う事は無い。アーレイは黒の力を使い飼い慣らせばいいかなと考えるものの、さてその方法をどうしたもんやらと思考を巡らしながら「捕虜の様子を見た後に顔を合わせをするとしよう」とアデールに伝える。


「承知しました、お戻りになる頃に招集致します」


 捕虜の様子を見てそれから考えればいいと判断したアーレイは、出されたお茶を飲み干すと「それじゃ行ってくる」と言い放ち、気合いを入れ直し踵を返すと駐機場へと向かう。


「アーレイ様はアデール様のお眼鏡にかないますか」

「いい男よね〜礼儀正しいし〜(喜」


 少し経つとヒュンヒュンとエンジンの始動音が聞こえ、窓越しに見送るアデールはゆっくりと浮上するベクスターを眺めながら「ねぇフランク、わたし可愛いって言われちゃった」と先程とは打って変わった、まるで少女の様な喋り方をしていた。


「ふふ、喋り方が戻っていますよ」

「気をつけないとね、もう少し観察しましょう」


 含みを持たせた言葉でアーレイの事を語るアデールは柔らかな笑みを浮かべ、ベクスターが描いた飛行機雲をいつまでも眺めていた。


 ーー


 <<レティシア捕虜収容所・駐機場>>


「ベクちゃん最高ナノナノ(喜」


 同行していたポコが操縦したいとキラキラとした目で訴えてきたので、素直に操縦桿を渡すと流石デルタのトップクラスだ。既に癖を知っているかの如く当たり前の様にベクスターを飛ばし、収容所の駐機場に滑り込むように着陸を決める。


「ラー所長久しぶり、みんな大人しく生活しているか」

「アーレイ様お久しぶりです。下士官は比較的良好ですが士官が全く駄目です」


 出迎えてくれた所長のラーの現状報告は酷い物だった。上級士官は文句を言うだけで働かず、さらに暴言を吐き散らし手に負えないと語り青色吐息だ。一方の下士官は横暴な士官連中の態度に嫌気がさしたのか、淡々と農作業をこなしてくれて助かっていると語る。


「苦労を掛けるね、とりま下士官に会いたい士官は後だ」

「承知しました、案内いたします」


 事務棟を通り抜け中央広場に向うと朝の点呼の時間だったらしく、農作業服姿の下士官たちが綺麗に整列していた。もちろんマテウス一派は従わず引き篭もり中だ。


 <<中央広場>>


 横目で見つつ備え付けられた演台に近づき様子を見ていると、どうぞと言わんばかりに先程まで号令を掛けていた男が席を空け、招かれるように立つと「アーレイ少佐が抜き打ち視察に来られた。皆失礼の無いように」と紹介をしてくれる。


「サー・イエスサー!」


 元気な挨拶を返した下士官達を一瞥すると、敵意を見せる事なく堂々とした態度を見せる。先程の男が「どうですか我がディスティア軍は敵地でも規律を保てます」と言い放ち敬礼をすると、それに遅れること無く下士官達も一糸乱れぬ敬礼を披露してくれた。


「ありがとう、君らとはうまくやっていけそうだ」


 ニヤけはしないが軽く口角を上げたアーレイは返礼をしつつ、不満が噴出して無いか皆の意識を探る。すると反抗的なオーラは感じるものの好戦的な奴はいない事が分かり一安心だ。


「さて君たち、獣人と接した素直な感想を聞きたいのだが」


 以前訪れた際、獣人達と向き合い啀む事なく共に生活をしてくれと頼んでいた。数ヶ月が経ちアーレイは単純に素直な気持ちを知りたくなっていた。するとさっきの男が引き締まった表情にかわると「バグナー大尉であります、その件につきましては、わたくしが代表としてお答えします」と面と向かって言われる。


「君が責任者のバグナー大尉だね、さあ聞こうじゃないか」


 お馬鹿マテウスを弄った際、下士官達は魔獣を見ても怖がらず、彼らならきっと馴染める筈だと予感がしていた。自信に満ちたバグナーを見ればそれは確信にかわる。


「最初は戸惑い悩みましたが、見た目が違うだけで人間と変わりません」


 とまあ良好な意見を聞く事が出来たので「君たちは獣人と共存できるか」と問うと当たり前のように「勿論であります」と答え、確信を得たアーレイは更なる結びつきを得るために常識はずれな提案を披露することを決める。


「理解してくれてありがとう。ラー署長、彼らに外出許可を出して下さい」


 飴と鞭では無いが目標だった獣人との相互理解を達成できたご褒美として、ひと時の自由を与えることにする。街に出れば接する機会が増え更なる理解が進むと考えたのだ。


「はっ?が・い・しゅ・つ・ですか」


 そもそも自由を得られると思ってないのでポカンとしていた。アーレイは笑いながら「街に出ればお前ら酒飲めるぞ〜」と言った途端、意味を理解したのか大騒ぎを始め、あちらこちらから歓喜の声が上がる。


「やったぞ酒だ酒だ!」

「女でも試してみるか、だが待てよ俺達金ないぞ」


 外出と聞き狂喜乱舞していると冷静になった奴が酒も女も金が無いとダメだと言い出す。確かにその通りで仮に街に出たとしても見学で終わりだ。無銭飲食したところで獣人の腕っぷしに敵う訳もなく、瞬殺される未来が脳裏を過ったのか、先ほどまでとは打って変わって肩を落とし意気消沈してしまう。


「今回は俺が1人1万スカー出してやる、その替わりちゃんと戻ってこないと次は無いぞ」


 捕虜に金を渡すなんて前代未聞だし条件も戻るだけと超ユルユルだ。逃げるなら絶好の機会と考えるのが人というものだろう。しかしそんな心配は無用だ。入所間もない頃、数名が脱走を試みたが10分もせずに魔獣に捕まり逃げる事に関しては諦めていた。


「デルタの少佐が金配る?またまたご冗談を」

「デルタ軍ってそんなに金持ってんの」


 与える金額の1万スカーは日本円換算にすると10万程で450名全員に出すとすれば4500万もの金をばら撒く事になる。もちろん軍費では賄う事はできないので、当然アーレイの資産からということになる。みんな信じられない表情を浮かべていたが、そんなことは承知の上なので腰に手を置きドヤ顔で「俺のポケットマネーを恵んでやるから感謝しろ」と言い放つ。


「なんかムカつくな」

「じゃアンタは無しだな、水でも飲んでろ」

「なんだと」


 辛辣な態度を取ってはいるが、そもそも個人の金なので文句を言われる筋合いはない。アーレイとしては戦後のことを考え差別意識を少しでも無くすために動いているに過ぎないので「デルタ軍が下士官を厚遇する訳ないだろバーカ」と言い返すと、文句を言い放った男はごめんなさいと素直に謝罪の言葉を口にする。


「俺はここの治安を良くするために施しをするだけだ。問題を起こさなければいい」

「わ、わかりました!」


 収容所の治安維持と言われ納得したのか全員ではないが、軽く頭を下げ感謝の意を示していた。次にアーレイは「ラー所長、人間が飲める酒を教えてやれ、ぶっ倒れたら始末に終えん」と言うと、一斉に爆笑の渦が巻き起こったのは言うまでもないだろう。ラー所長曰く「くれぐれも指定された酒以外は冒険するな」との事だった。


「努力する奴にはちゃんと報いたい、ただそれだけだ。せいぜい楽しんでくれ」


 決め台詞を言い放ったアーレイが演台を降りると、敵将なのに何故か拍手が鳴り止まなかった。


 ーー


 <<事務棟・ラーの執務室>>


「バグナー君は一緒に来てくれ」

「了解しました」


 集会が終わりラーと共に所長室へと向かう。バグナーは文句を言われるんじゃないかと思ったらしく、緊張した面持ちで歩き方が少しぎこちなかった。


「アーレイ様、何故外出許可を出したのでしょうか」

「戦後、獣人達と上手く付き合うためにだよ」


 星団統一を果たせば獣人と共に総統府と軍部に出向く事になるだろう。なのでアーレイは「彼らを理解しているバグナー達に率先して対応して貰いたい」と述べるとラーは「成るほどですね」と理解を示し、バグナーは「ディスティアが負ける前提は承服し兼ねますが、相合理解は良い考えだと思います」と返してきた。


「下士官は違うみたいだが、上級士官は差別するのが普通なのか」

「総統に更なる忠誠を誓うなら必然です。なので差別しない方は少数です」


 人間は無二唯一の存在である上位人種だと謳う選民主義者のセオドールは、見た目が動物に近いという理由で獣人は野蛮で家畜に近い存在だと決めつけ、強烈に差別する事でカリスマ性を高める事に利用しつつ他国を侵略する理由の1つにしている。それと魔力保持者はミュータント扱いをして同様に差別していると教えてくれた。するとラーは「マテウスは最悪です。もう隔離したいくらいです」と苦言を述べ、アーレイは「酷いなら隔離して冷飯を喰わせればいい、遠慮する事は無いぞ」と許可をだした。


「そうします、暴言と態度が酷すぎるので留置場に場所を変えます」

「そんなに酷いのか、バグナーはどう思う」


 話を聞けば仲間のバグナーでさえ「獣人の方はひたすら我慢しています。申し訳ないです」と言わせるほどだった。例えば飯が不味いは序の口で看守に向かってひたすら差別的な発言を繰り返したり背中に唾を吐いたりと、とにかくやりたい放題で青筋を立てて語るラーはアーレイに死刑の許可をくださいと言わんばかりだった。


「そうだな、捕虜交換のタイミングがあれば彼らを1番最後にしてやろう」

「アーレイ少佐、帰還する目途がついているのですか」


 捕虜交換という言葉を聞いたバグナーは早く我が家に帰りたいのだろう。真剣な眼差しでジッと見詰めていたが、アーレイは首を横に振りながら「正式な窓口が無いので交渉にすら入っていない」と語ると諦めきれないのか「星団会議の議題にしないのですか」と問われてしまう。


「熱核兵器の問題が取りざたされるいま、個別の話(捕虜交換)まで及ぶ事は無いだろう」

「そうですか」


 星団法違反のあの兵器に関しては各国から異論が上がり次回開かれる会議は大荒れすると予測されていて、追い詰められるディスティアに捕虜交換の話をしても取り合う暇はないだろう。アーレイはあの兵器について聞くと「ええ知っています、問題になりますよね」と諦めた表情のバグナーはポツリと語るのだった。

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