閉話 エルフ族の王女エメリナ。
エルフ王族のエメリナ王女のお話です。
商業連合会頭のコンドラトはディスティアのセオドールに頼み国籍を変え、指名手配を免れ密かに活動再開していた。
<<フォーレスト王国・フォーレスト城正門>>
「エナジーボールの案件でエメリナ王女様に面会を申し込んだコンドラトだ」
「コンドラト《《Ⅱ》》様ですね、予約を確認しました」
ディスティア国籍に変わりコンドラトⅡというふざけた名前に変わったが、ロンダリングにより指名手配を免れ、フォーレスト王国としては正式なルートで入城申請を出されたので拒否することが出来なかった。
<<フォーレレスト城・客間>>
「エメリナ様、ぜひとも受け取ってください」
コンドラトが面会している相手はフォーレスト王国で生産されている、エナジーボールの商取引を一手に引き受けているエメリナ第3王女だ。エルフ族の彼女はまだ55歳と若く、人間で例えるなら16〜17歳ほどのティーンエイジャーと思っていただければ間違いないだろう。成長途中の彼女は幼児体系的で双丘は少し控えめだが、エルフ族だけあって完璧な美貌を兼ね備えている。
「コンドラトさん高価なお土産はいりませんので持ち帰って下さい!」
お土産と称して渡されたのは今から流行ると目される、Aラインの薄青色のドレスだ。手にとったエメリナは凄く困惑した表情を浮かべ、賄賂は不要ですと言いたげだ。
「エメリナ王女様、王族は本物を知らなくては駄目です。この程度のドレスは安い部類ですよ」
「わたくしは贅沢は好みません!」
エルフ族はそもそも贅沢を好まず質素と知られている。エメリナも同じで流行に全く興味ないし、シンプルなスレンダーラインのドレスがあれば十分なのだ。しかしコンドラトは「エメリナ様のサイズにて作りました。お気に召さないのであれば廃棄するしかありません、せめて1度位は袖を通して下さい」と、言い訳を繰り返し、突っ返してきた贈り物を受け取りはせず困った顔を見せていた。
「致し方ありません、そこまで言うのでしたら今回は引き取らさせていただきますが、今後高価な品は持って来ないでください」
「そう申されても、商取引の慣例ですので気になさらないでください」
コンドラトは表立って頼み辛い事をやって貰いたくて高価な品々を送り懐柔しようとしている。しかし質素が売りのエルフ族を欲塗れにするのは物凄く大変だ。今回は取り敢えず受け取って貰うことを第一に考え、ドレスを持ってきていた。そんな強かな商売人の考えなどまだ若いエメリナは理解することは出来ないし、受け取らないと失礼だと思いつい受け取ってしまう。
「今回は受け取りましたけど、適正価格での取引しか応じませんのでご留意ください」
「お気になさらず次回はお菓子をお持ちします、それなら構いませんよね」
約6割のシェアを誇るフォーレストのエナジーボールは独占状態で、自分たちが価格を決められる事は百も承知している。賢人たる彼らはボッタクることもないし、値下げして相手を潰すこともしない。皆が平和に過ごせる価格にすることに注力していた。一方のコンドラトは、はっきり言ってそんな事はどうでもいいし、もっと付加価値の高い物を欲していた。なのであの手この手で断りづらい状況を作ることに腐心している。
「その程度でしたら構いません」
「承知しました、ではまた来月お会いしましょう」
第1の関門である貢物を受け取り、コンドラトの今の気持ちは希望に溢れんばかりの清々しい気持ちだ。もちろん顔には出さず申し訳無さそうに部屋を出ていく。
ーー
<<惑星フォーレスト周回軌道上・貨物船内>>
第1関門を突破したコンドラトは周回軌道上にて待機する移動専用の輸送艦に戻り、手下のヤリスと密談中だ。
「どうでしたかコンドラト様、エメリナは物凄く頑固ですよね」
「問題ないぞドレスを受け取ったぞ、後は侍女のエルサに任せれば良い」
強かなコンドラトは側使いの一人を送り込んでいる。そいつはエルサというコンドラトの命令に何でも従うハーフエルフで、エメリナの相談役を引き受け一番信頼されていた。もちろん忠実に働かせる対価として”幸せになれる薬”を分け与えているのは言うまでもない。そして「次は希少性が高い菓子で且つ賞味期限の短くて超美味しいやつだぞ」とヤリスに言うとニヤリと笑い「承知しました極上のケーキを差し入れしましょう」と返すのだった。
「ククク、贅沢を一度でも味わえば後戻りなど出来なくなる」
「コンドラト様、懐柔するのは5年ほどでしょうか」
「エルフ族は時間をただだと思っているからな、それくらいは必要だろう」
じっくりと価値観を狂わせ、自分の要求を思いのままに通すための策略は始まったばかりだ。焦らずゆっくりと心を蝕む事に腐心するコンドラトは淀んだ目でニヤリと笑う。
「アレですよね、奴隷ネットワークの再構築ですよね」
コンドラトは莫大な利益を生む奴隷復活を画策している。しかしアーレイが未成年者単独の移動に関する規制強化を各国に要請しつつ、プライバシー侵害の恐れがあるとして進まなかった、生体認証キーの登録も合わせて実施したため、誘拐に関してはほぼ不可能になっていた。
「アーレイのせいで誘拐が出来なくなった。エメリナから《《孤児》》を都合させないとな」
コンドラトが次に目を付けたのはエメリナが兼務としている孤児の管理だ。里親に出す体ならフォーレスト国内から連れ出すことが可能になり、その制度を悪用して奴隷ネットワークの再構築を企んでいる。もし性的暴行が目的だったとしても、自分たちは里親を仲介しただけで落ち度がないと言い逃れができて、大変都合がよろしいのだ。
「それでは早速デルタに出向いて、極上のお菓子を準備いたします」
「エルフだからな素材は吟味しろ」
地道な懐柔作戦が始まり、ヤリスは手始めにエルフ族が好む店に心当たりがあるのか、連絡を取りながらコンドラトの部屋を後にするのだった。
<<1カ月後・フォーレスト城内客間>>
「ヤリスさん、それでは規定に基づきエナジーボール1200個をお渡しします」
真面目なエメリナは規定に基づき、エナジーボールを商業連合に適正価格で引き渡す契約書にサインを行い、取引はものの数分で終わる。次は来月分に関する打ち合わせをお茶を飲みながら行うのが通例だ。
「エメリナ様、お召しになってるドレスは前回送った物ですね」
「コンドラトさんにお礼をお伝えください、皆様から称賛を頂いてなんというか、恥ずかしいですね」
コンドラトが無理に置いていったドレスを、一度は袖を通さなければ悪いと思い試しに着て城内を歩くと、すれ違う人々が立ち止まり「エメリナ様素敵なお召し物ですね」「ノーラ様より洗練されています」などと自尊心を刺激する言葉を送られ、満更でもないご様子だ。
「折角お似合いなのにそのブローチですと少し勿体ないですね、プラチナの方が美しさを引き出せますよ」
「えっ、そんなに似合いませんか」
年代物の装飾品はそれはそれで価値があるが、明るめの生地に対しては少々野暮ったく見えてしまう。伝統的な衣装に合わせ作られているので致し方ないが、ドレスを気に入っているエメリナは少し残念そうな表情を見せる。
「申し訳ありません姫様、選んだ私の不徳の致すところでございます」
「気にしないで年代物だし、新しい品を少し購入しましょう」
お客様の前で臆することなく深く頭を下げ反省の意を示すエルサに対し、逆に碌な装飾品を持たない自分を恥ずかしく感じたのか、叱咤するのではなくドレスに見合った装飾品を揃えなければと感じていた。実はこのような気持ちにさせるために、褒め称えた連中も含め全て今頭を下げているエルサが仕込んだサクラだ。
「それなりのドレスには、それなりの装飾品が必要なのですよ」
「言われてみればそうですよね。ですがあまりお金を持っていませんので仕方ありませんこのドレスは諦めます」
ここで貧乏性というか倹約家の癖が出てきてしまう。もちろんそれくらい想定済みなので、ヤリスは間髪入れずにカバンの中から小さな箱を出すと、蓋を開けその中身を見せる。
「新たな品を購入するまで、これで当分の間は凌いでください」
「えっ、貸していただけるのでしょうか」
「もちろんですとも、せっかくのドレスを末永くお使いになったほうがドレスも喜びます」
褒められたことでドレスを気に入っていたエメリナは諦めきれなかったのか、プラチナ製のキラキラと輝く最新作の品を手に取りご満悦の表情を浮かべる。そしてこれは是非とも欲しいという欲が湧き上がっていた。
「さあエメリナ様、お茶にいたしましょう」
因みにこれからが本番だったりする。エメリナには上質さをもっと知ってもらって質素すぎる生活から脱却してもらわなければならない。気が変わらないうちにお茶の準備を始めながら、ヤリスにアイコンタクトを送る。
「エメリナ様、これをお収めください。デルタ有名パティシエのケーキ詰み合わせです」
「あら、本当にお菓子を持ってきてくれたのですね」
前回はいきなりドレスを渡され困惑してしまったが、今日はお菓子と聞きエメリナの表情は固くならず、逆に甘いものには目がないのか嬉しそうだ。そして綺麗な木目の箱の蓋を開けると・・・。
「まあなんて美味しそうな匂いなのかしら、うふふ可愛らしくて食べるのがもったいないですね(喜」
爽やかな果実と甘い香りが鼻腔を擽り、色彩豊かなフルーツタルトが1ダースほど並んでいる。とは言え大きさ的には3センチほどで一口で食べれるサイズだ。細部まで技巧を凝らした贅沢なお菓子を見たことがなかったエメリナは、凄く嬉しそうに眺めている。
「さあさあ召し上がってください」
「それではご賞味させていただきます」
女の子が甘いものに目がないのはエメリナとて同じだ。見たことがない美味しそうなケーキを摘んで上品に口にいれ咀嚼すると。一瞬目が大きく見開き、今まで食したことのない酸味と甘味が織りなす極上の幸せが駆け巡ったのか、その味わいに酔いしれ恍惚の表情を浮かべ「ウーンおいちい」とご満悦だ。
「お気に召されて何よりです」
「お恥ずかしながら、このような美味なお菓子は初めて食しました」
仕事の事ならプライドの高い彼らは素直には認めない。だが美味しすぎるお菓子をもっと食べたいと、欲望が湧き上がったエメリナは素直にお礼を述べる。まあデルタのトップクラスのパティシエに、高貴なエルフに送る品だからと特注で作らせたので美味しくて当たり前だ。しかも貴重な食材をふんだんに使えば当然の結果だろう。手応えを感じたヤリスはちょっとだけプライドを逆撫でしようと企んでいた。
「そうでしたか、デルタの王族の間では当たり前のお品ですよ」
「えっそれ本当ですか、教えていただきありがとうございます」
知らないことは恥だと思っていたエメリナは”王族では当たり前”の言葉を聞き少しショックを受ける。そして知ったばかりの上質さはあちらでは普通とわかり「美味しいことに罪はないね」と考え始めていた。
<<ヤリス退出後・エメリナの私室>>
「今回の頂き物はアン・プチ・デルタと言いまして、予約だけで半年待ちだそうですよ」
「そうなのそんなに凄いんだ。だから美味しかったんだね(喜」
値段の事は知らされてないエメリナは小ささも相まって、ヤリスが持って来たお菓子は精々100スカー程だと思ってているようだ。軽く答えるとエルナは既に知っているのかニヤリと笑う。
「姫様、お菓子の値段知っていますか、1万スカーはくだらないかと」」
「え゛ケーキ1ダースで1万スカー、そんな高価なお菓子受け取れいわ、今から返しましょう」
値段を聞くと目を丸くして驚き、余りに桁違いなので急いでヤリスに連絡して返そうと試みるが・・。
<既に輸送船は動き出していますし、持ち帰っても腐りますのでお食べください>
ヤリスに残りの分を返そうとするが、既に出発した後で戻れないと返答され、食い下がるものの<エメリナ様が受け取らずに私達がたべれば横領になります>と断り辛い答えを頂き、返答に困ったエメリナは「はぁ、そうなのですね」と諦めるしか無かった。
ーー
<<1年後・エメリナの私室>>
「姫様、午後のお茶の時間ですよ」
午前の政務を終えたエメリナは城に戻るとのんびりと報告書の作成を行い、休憩時間に入るといつもの様にテラス席に向かう。エルナが淹れたお茶を一口飲み、お茶請けに出された伝統的な森のクッキーなるものを一口齧るがどこか不満そうだ。
「孤児ってお腹が空いているのかしら、美味しそうにこれを食べていたわね」
「お菓子は寄付に頼っていますので仕方のないことなのです」
森のクッキーとはエルフ族が食す伝統的なお菓子のひとつで、砂糖もバターも必要以上に使うことはなくとても素朴な味がする。今エメリナが食べているのは施しと称して孤児に与えた木の実が入った贅沢品だ。しかし舌が肥えた彼女にはどうやら不評らしい。
「仕方ないヤリスが持ってくるまで我慢しよっと」
ムスッとした表情のままクッキーを1枚だけ食べると「もういいわ」といって下げさせ、あの時に食べたタルトのことを思い出しているのか、澄み切った青空を見上げていた。
「姫様、午後のドレスはピンクにいたしますか」
「そうね、あの可愛いフリルのピンクは外せないわ、靴もそれに合わせて頂戴」
半年前くらいからエメリナの好みが急に変わり始めていた。以前ならピンクなど論外だったが今は派手な洋装を好んでいる。もちろんヤリスが貢物を送ったのもあるがエルナが褒めちぎった影響が一番強い。
「あのネックレスとてもお似合いですよ〜(笑」
「でしょ!やっぱダイヤモンドはいいわよね〜(嬉」
少しずつ確実に味覚と金銭感覚が狂っていくエメリナであった。
エメリナはちょくちょく出てきます。
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