1枚の写真。
デルタ恒星圏内の偵察をするディスティア。
ディスティア帝国はラインスラスト帝国同様に数百年前、帝国議会を経て皇帝として選ばれた総統と呼ばれる統治者が国を取り仕切り、数十年前父親からその座を譲り受けたセオドールが以降権力の座に付きこの国を支配していた。ちょび髭を生やし少し小さめの目は眼光鋭く、やつれた頬が神経質な面持ちを強調している。
<<セオドール総統の執務室>>
「何だこの不鮮明な写真は」
間も無く昼食の時間を迎え侍女達が料理を運び込むそんなひと時に、執事が一枚の写真をセオドールに手渡すが、あまりに不鮮明で訝しげな表情をしてしまう。
「デルタ恒星圏内の深部領域に侵入した探査船から送られて来ました」
その1枚の写真は最新鋭の10式を焼成するために恒星に向かっていたあの焼成専用船だがパッと見赤黒い倉庫にしか見えず、とても焼成施設とは技術者でも判別できないだろう。それだけ不鮮明だった。
「歪んでよく分からない写真だな、もっと鮮明なやつはないのか」
文句を言われ苦しい表情をする執事の男は軍人では無いし、連絡役に言われたまま「業火級の製造設備と思われます」と、畏縮しながら答える。セオドールはこのままでは埒が明かないと思ったのか「誰でもいい将校を呼べ」と不満げに言い放ち、出頭したルドルフの口から3隻の特殊艦並びに、約600名の乗組員が行方不明と知り、顔を真っ赤にして怒り狂う事になってしまう。
「新型艦の暴虐に全く歯が立たなかったようです」
「なぜこうも情報が後出しなのだ」
あの写真は探査艦の乗組員のそれも個人のスマホから一般回線で指令本部宛に送られ、不鮮明で重要視せず放置され数時間後、デルタの協力者から暴虐が恒星圏内で国籍不明艦を撃破したという情報が齎され、慌てた軍部は先にあの不鮮明な写真を先に提出して良く分からない状況を作り出し、後から悪い報告をして批判を和らげようと画策していたのだ。
「確認するのに時間を要したと聞いております。私としては何らかの連絡が入ると考えております」
「ふん、デルタの動きを注視するんだ。もう下がっていいぞ」
最近、悪い知らせの時には必ずルドルフが来ることが多い。損な役回りをただただ真面目にこなし、頓珍漢な見立をせず、的を得た意見を進言するので評価が高くなりつつあった。赤髪の熱血漢は敬礼をすると踵を返し静かに部屋を出ていく。
ーー
<<カラミティ星団内・デルタ支配地域>>
遡ること72時間前、ディスティア宇宙港から3隻の特殊ステルス艦が出港する。その船はデルタ支配領域内部をステルス状態で警戒網を潜り抜け、デルタ恒星圏内に近づきつつあった。
「この先の警戒網は一筋縄じゃ抜けられない、2番艦コバートを先行させて手薄な恒星に向え」
小太り中年男のマテウス総司令官は、バーコード状の髪をしきりに弄りながら命令を下す。因みに禿げチビデブの三拍子が揃い、あのニーダ艦長と同じ匂いが漂う残念おっちゃんだ。そして3隻の特殊艦は恒星圏内へと侵入を果たす。
ーー
<<数週間前・デルタ工学研究会定例発表会>>
熱核兵器の問題が出てくる前の事だ。暴虐の処女航海を終え申請書などの事務作業を終えたアーレイはステルス艦を発見できるレーダーを作るヒントを求め、デルタ工学研究会の発表会にキースと共に出向いていた。
学生「レーダーノイズを劇的に軽減するこの装置は・・・」
アーレイが目を付けたのは、反射したレーダー波の中に含まれる変調ノイズを消すために、特定の周波数を発砲して中和することでクリアにするという珍しい装置だ。
「発想はいいが、戻って来た波まで減衰するな」
「実は実験結果を見て迷っているのです」
話を聞くとノイズキャンセルできるけど電波自体が減衰してしまい、出力を上げるとノイズが多くなるという無限ループに陥り、いっそのこと電波遮断に応用できないかと迷っているそうだ。
「だが反射したノイズを打ち消す技術は興味あるな」
「この指向性電波発生装置を使いノイズを打ち消し、Aiを使い解析します」
その可変装置は既存の物を数種類を組み合わせた物なので直ぐに作れるだろう。重要なのは解析ソフトの方なので即決でお買い上げすることにした。
「アーレイ、買ったはいいがこれどうやって使うんだ」
「ノイズを除去して特定の波だけを測定すればいい、これは使えるぞ(笑」
そしてアーレイはステルスは電波を吸収するのでノイズも減るという、当たり前のことを逆に利用することを思いつく。
<<2日後・技研>>
「発砲するレーダー波に、識別信号を加える発想はありませんでした」
マドックに学生たちが作った解析ソフトのブラッシュアップと、識別信号を加える装置の制作を依頼していた。要は特定の電波だけを拾い、減衰した場所を探索すればステルス艦が察知できるという事だ。
「これならステルス艦を発見出来るぞ」
「例えるなら固定が網で、移動する物体がサーチライトですね(笑」
マドックが例えたのはキャッチボールのように発信と受信が一直線なら網と表現して、多種多様なものに反射した波を測定するのがサーチライトという事だ。但し受信部を大量に設置しないと測定できないので、敵地では無理だが実用化すれば支配地域防衛に大きく役に立つだろう。
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<<熱核兵器発覚後・デルタ恒星圏内>>
時は戻り熱核兵器の問題は星団会議が会期延長に入り、それを境にディスティアは鳴りを潜め、哨戒活動中の空母ラインハルトには隠密行動に優れている探査船フォウルスターを向かわせ情報収集の指示をだす。時間が空いたアーレイは惑星デルタリア近くの航路上で業火、烈火、熾烈の3隻を使い新型レーダーの実証実験を始めようとしていた。
「アーレイ艦長、今回の実験は2種類の方法で速やかにステルス艦を探し出すのですね」
<理解が早くて助かるよバート、成功したら飲みに行こう(笑>
囮役として暴虐に乗船するアーレイはレーダー波が交差する事で起きる干渉波のズレを測定する違う方法も同時に試すつもりで、実験が成功すれば艦隊戦などで運用が可能になり索敵能力向上に貢献できるはずだ。
<<暴虐・艦橋>>
「アーレイ艦長、予定の座標に3隻が到着しました」
「各艦に告ぐ哨戒行動開始せよ」
号令が出されると半光年程離れた3隻はレーダーを発砲して哨戒活動を開始する。その網の中にステルス化した暴虐は消音、省熱モードを使い完璧に隠れた状態で侵入していく。
「それではコースに乗せます。暴虐は見つかりますかね」
「既存のステルスを改良しただけだから直ぐに見つかると思うよ」
数分後、アーレイが断言した通り早期警戒レーダーに不審な影が現れ、干渉波レーダーも同時に検証を行い問題なく暴虐を捉え実験は成功する。
「解析データーが送られてきました。何と無く暴虐の形をしていますね」
「あはは思ったとおりに結果が出たわ」
僅か数十分の実験でステルス艦発見という偉業を成し遂げる事になるが、当たり前のように艦影がモニターに映っていたのでこれといって実感が全く沸かない。しかしクリスは「おい、陛下に報告すればきっと喜ぶぞ」とチョット興奮気味だったよ・・。
「それじゃクリス、実戦配備の手続き宜しくな」
対ステルス専用に開発したこの装置は汎用品を使用するのでビックリするくらい安価で、一番重要なのはソフトの方だから当分の間は敵が真似する事は無いだろう。それと面倒な事は全てクリスに丸投げだ。
「おいこら、プログラムはアーレイ・ワークス製だと(呆」
「権利の半分はマドックだけどな」
仕様書の最後に記されたメーカー名を見たクリスは呆れるが、アーレイ・ワークスが釣具から軍用品に手を伸ばした瞬間だ。これでまたアーレイの資産が増えることになるだろう。因みにマドックはもろ手を挙げて大喜びしていたのは言うまでもない。
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<<デルタ恒星圏内・ディスティア特殊探査艦>>
「艦長、さすがに恒星の近くには何もありませんね。あれはごみ焼却用の船ですね」
「ああ、耐熱船が恒星に運んで落とすんだろ」
マテウス率いる特殊探査艦は警戒網を潜り抜け比較的警備が手薄な恒星近くを航行中だ。少し離れた所を逆方向に進む焼成専用船がモニターに映し出されていたが、ステルス起動中は歪んで見えてしまう。
「大きい施設ですが数名の反応しかありませんね」
「そろそろ惑星デルタリアに進路を変えよう、シュノーケルを出して安全確認だ」
観測窓を覗いていた副長は懐から通信制限中のスマホを取り出し何気なくその大きな施設をパチリと撮るものの、ステルス作動中なので画像が歪んでしまう。そして3隻の探査艦はシュノーケルと呼ばれる特殊な観測装置を伸ばし周囲の安全を確認すると進路を変え惑星デルタリアへと舵を切った。
「右舷前方に感あり、このまま直進すると15分後に前方を通過します」
「出力そのままエンジン消音モード、相手の船名が分からないこのままやり過ごすしかないな」
シュノーケルはステルス航行には欠かせない装置だが、隠密行動中は何せ弱い電波しか出せない。周囲の安全確認を終え収納しようとした矢先、大型船の反応が出てしまいマテウスは様子を伺いやり過ごすつもりだろう。だが既に烈火が探査船後方にピッタリと張り付いていた。
「おい、あれは何を運んでいるんだ?」
「なんでしょう、小さい船ですか戦闘機ですかね」
数分後、近づく大型船は先ほどと同じ焼成専用船なのだが、ハンガーには熱処理前の10式のメインフレームがずらりとぶら下がっていた。
「艦長、あれは噂ではスペック11と言われている10式のメインフレームですね」
「公表値が8とかなんとかだったな、今さら戦闘機を強化して無駄なのに馬鹿だなデルタは」
10式に見えるこれは実は次期主力戦闘機12式の試作機のメインフレームだ。業火と同じシリコンカーバイト製に変更する為の実験中で、星団最強戦闘機を目指している極秘機体とは知らず、マテウスは時代遅れと言い放ち無視していた。だが副官は少しでも情報を得たいのか先ほどと同じようにスマホを取り出しパチリと写真に収めていた。
ーー
<<同地域・暴虐>>
新たな哨戒レーダーを設置して数日後、3隻の国籍不明艦を察知したデルタ宇宙軍は直ぐさまジェフにその報告を上げ、そしてアーレイとクリスを呼び出し「拿捕するのだ」と命令を下す。作戦行動を開始するものの追跡を始めて既に10時間が経過しようとしていた・・。
「3次防衛ラインを超え、完全に惑星デルタリア領域に侵入しました」
「はぁ~長かったな~、これで奴らは全員死刑に出来るわ」
恒星圏内に入った時点でスパイ防止法が適用され、士官はうんも言わさず強制尋問後、死刑を執行できる。しかし下士官は別で3次防衛ラインを越えなければ単なる捕虜としての扱いになるためずっと攻撃を控えて追跡を続けていた。因みに暴虐はマテウスが乗る特殊艦の真横に張り付いていたりする。
<アーレイ指令、そろそろ行動を起こしませんか>
「そう焦るなアラン、あと2〜3分の我慢だ。一気に蹴りを付けようじゃないか」
烈火との連絡は敵に探知されないよう赤外線を使った近距離用特殊無線機を使用している。アランはずっと後方で探査艦の尻を10時間見続けイライラが溜まっているのか、さっさと主砲をぶっ放して終わりにしたいらしい。顔に似合わず結構過激な奴だと今更アーレイは気が付くのだった。
ーー
<<ディスティア探査艦・艦橋内>>
Ai「近距離接近警報発令、回避してください」
「なん・だと」
「艦長、真後ろに業火級烈火を確認」
少し勇み足のアランが早めに命令を下し烈火が姿を現すと、探査船の艦橋は蜂の巣を突いたように慌ただしくなる。Aiは緊急事態と判断したのか室内灯を赤色に変更すると共にキューンキューンと警報が鳴り響く。
「緊急回避行動をとるんだ」
Ai「前後より火器管制レーダーを感知、危険です回避してください」
「前方より業火、憤怒が猛スピードでこちらに向かっています」
それに続けと言わんばかりに焼成専用船の陰に隠れていた業火と憤怒がステルスを解除すると共に、攻撃準備を始めたのか主砲の発射口が真っ赤に染まり始めていた。艦内はロックオンを知らせる警告音がピーピーと鳴り響きマテウスは脂汗をにじませ顔面蒼白になりつつあった。
「ヤバい完全に挟まれたぞ、エンジン停止消音モードに移行だ」
<デルタのアーレイだ。国籍不明の3隻に告ぐステルスと武装解除しろ、即座に攻撃するぞ>
「真横に暴虐確認」
「嗚呼もう駄目だ詰んだ・・」
前後を挟まれ既に詰んだ状態で逃げ場などある訳ないがマテウスは今だステルス作動中で隠れられていると思っているのか指示を出す。しかし無情にも暴虐が真横に姿を現し、急いで観測窓に向かい確認すると諦めたのかガックリと肩を落としその場でしゃがみ込んでしまう。
<もう一度警告する武装解除しろ>
「クッソ、この写真だけでも送らないと」
副官の男はスマホを取り出すと航海日誌をダウンロードを始め、先に12式が映った不鮮明な画像を本部宛に送ろうと送信ボタンを押す。
「コバート被弾!」
すると同時にパッと閃光が走り、先頭を走る2番艦コバートがステルス解除して主砲を業火に向け発砲するが、次の瞬間、無残にも艦橋がバラバラに吹き飛び船体が大きく傾くのだった。
ーー
<<暴虐・艦橋>>
「すみません通常回線で写真1枚程のデータが送信されてしまいました」
「気にするな僚艦の確認の為に通信阻害しなかったから仕方ない、拿捕できたので問題はないぞ」
新しいレーダー網はまだ完全ではないため、他に潜んでいる可能性を考え無線封鎖の指示を出さなかった。まあ送った写真を確認すればいいし、そもそもステルス中は鮮明な映像は撮れない。それを分かっているアーレイは「さあ司令官を呼び付けて降伏祭りを楽しもう」と、反省の色を見せる副長の肩を叩きながら笑うのだった。
<<暴虐・後部格納庫>>
「ディスティア帝国軍マテウス・ホーフマイスター准将だ」
「デルタ軍アーレイ・ウェブスター大尉だ」
「お前が悪名高いアーレイか」
初対面にも係わらず太々しい態度を取るマテウスを一瞬ブッ飛ばそうかと思ったアーレイだったが、グッと堪えて「さっさと降伏して頭ぐらい下げろこの馬鹿」と言い返すと、ギョッとした表情を浮かべつつ「捕虜になりますので協定順守でお願いする」とドヤ顔を決めていたよ・・。
「お前マジで馬鹿だろ、デルタ領内で捕まったよねこの場で銃殺してもいいんだぞ」
銃殺と言われたマテウスは自国の法律を思い出し、どう足掻いたとしても逃げ場が無く後は死刑を待つばかりだと気が付き、愕然とした表情を浮かべ泣きそうになる。
「ほ、捕虜は600名もいるんだぞ、全員殺すつもりなのか(驚」
「まあ俺に考えがある、従うなら死刑を回避してもいいぞ(笑」
前代未聞の約600名もの捕虜の数を見て、何か思いついたのかアーレイは不敵な笑いを浮かべていた。実はその思い付きが新たなる出会いと新たなる運命の扉を開く鍵になるとは本人すら思ってもみなかった・・。
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