新型戦艦「暴虐」誕生!
とんでも戦艦、暴虐が完成します。
そろそろ新型艦の最終エンジンテストが終わると聞いたアーレイは珍しくウキウキとした気分で連絡を待っていた。それだけ気合を入れて建造したから仕方ないだろう。そのにやけた顔を見たキースが寄ってくる。
<<司令本部>>
「アーレイのつける名前はおもろいな」
「長いのは好きじゃないし、インパクト重視だからな」
旧日本海軍の艦船名は2文字が多く、アーレイもそれに因んで間もなく完成する新型艦には「暴虐」と言う艦名を与えてみた。その名が表す通り乱暴で暴れまわると言う意味で、この戦艦に乗って暴れまわり星団統一の夢に向かって突き進んで行くつもりだ。
<<翌日・午後>>
「アーレイ大尉、大変お待たせしました。新型艦の試運転が可能になりました」
「おお!」
膨大なエネルギーを放出するエナジーコアの最終調整に手間取り、約半日遅れの試運転になってしまうが、期待を胸にアーレイは足早に宇宙ステーションへと向かう。
ーー
<<最終組み立て専用ドッグ・2番スポット>>
デルタ宇宙ステーションに到着したアーレイは手始めに隣接する最終組み上げ専用ドッグへと向かい、先に完成している専用支援艦翠雨の見学を始める。この船のデザインは実用性を重視したので見た目は長方形のタンカーと言われても仕方ないほど無機質だ。
「素粒子砲を載せているけどフロントサイトみたいだな」
「いいんだよ、最終的には別の船に搭載するんだ」
20万トン級にもなると全長が300mを優に超え、あのデカいと思った素粒子砲をカバーで覆い船首に装備すると、キースが話していた通り拳銃のフロントサイトのように見えなくもない。第9艦隊の艦船数が増えるまでは翠雨を固定砲台代わりに使用するつもりだ。
<<専用ドッグ・1番スポット>>
「アハハ、業火級より少しは戦艦らしくなったじゃないか」
「そうだけど想像より船体が膨らんでポッチャリさんだな」
「カッコいいナノ」
次に業火級6番艦になる10万トン級特殊戦艦暴虐を眺める事に。このクラスに普通は搭載しないエナジーコアと、それに耐えうる装置やエンジンを載せた影響で、最初に描いた超シンプルな直線的なデザインとは異なり艦尾に向かって膨らみを帯びていた。それが逆に戦艦らしく見えたのだろう。キースとポコは悪くないと頷いていたよ。
<<暴虐・艦橋>>
「アーレイ艦長入りまーす」
後部格納庫に着艦して艦内に入り、まだ完全に完成していない船内を見つつ艦橋へと上がり、今日は副官として任命されたアランが案内してくれる。アーレイは新品の臭いがする艦長席に座り、ポコはパイロット席に座ると出港準備を始め、キースは新たに作り変えた機甲歩兵用出口を見に行った。
「艦長、吸着舫を解きましたいつでも出港可能です」
通常の戦艦なら強力な磁石を使った電磁舫と呼ばれる固定器具で船体を固定する。しかし暴虐の外殻は磁性体では無いので真空吸着器を改造して代用している。ぺコンペコンと吸盤が剝がされる音が響くと一瞬床が微妙に揺れ、離岸したことが足先から伝わって来た。
「それでは試運転に行こうじゃないか、微速前進」
「ナノ!発進するナノ」
ポコはニンマリとした表情を浮かべスロットルレバーを引くと、暴虐はスルスルと動き出し、決められた速度を維持しながら徐々にスピードを上げ恒星圏内の中をお散歩する事に。
<<惑星デルタリア・恒星圏内>>
「全速前進ナノナノ~」
宇宙ステーションを出港した直後は航路が複雑で速度を上げる事は禁止だ。5分程静かに進むと最大巡航速度が出せる分岐点に差し掛かり、警告灯がグリーンに変わるとポコはスロットルをワイドオープンにする。
Ai「加速警報発令」
Aiが警告を発した直後、ズズと地鳴りのような重低音が艦内に響くと同時に強烈なGが全身を襲い、キャプテンシートに押し付けられたアーレイは「ウググ、こりゃ桁違いだわ」と戦艦とは思えない加速感を楽しんでいた。
<<専用ドッグ・1番スポット>>
順調にテストが進み恒星圏内を走り回った後はジャンプテストを行う事になり、自艦を示す識別信号の元になる船舶認証を取らなければならない。なので今は国際船舶監視委員会、通称ISSC(International Ship Surveillance Commission)と呼ばれる検査機関の職員が暴虐の元を訪れている。
技官「このエンジンは大きすぎませんか、常識的にコアを含めてオーバースペックですよね」
アーレイ「何か決まりがありましたっけ?特殊艦ですし実証実験中ですから、なにかあるなら言ってください」
強力なエンジンとエナジーコアを確認した技官は訝しげな表情を浮かべ、常識的じゃないだろうと言いだす。そしてアーレイの屁理屈が炸裂すると法的に縛りが無いので言い返せず黙ってしまう。
「それじゃ問題が無ければ認証お願いしますね~」
無事に艦船認証を取り全星団に暴虐の存在が行き渡る事になる。と言ってもアーレイが作った新型艦とか、細かいスペックに関しては載せる必要はない。しかし業火級6番艦が就航するとなれば嫌でも注目が集まるだろう。
※船舶認証=識別信号を発する事で艦船情報が一目でわかり、同士討ちを防ぎ、不用意な出会い頭の事故を未然に防ぐ効果がある。それと各国に与えられた総排水量を監視する目的もあり、全ての戦艦は必ず認証を取らなければならない。因みにステルス航行中は電波を遮断するので隠密行動が可能だ。
ーー
<<暴虐の処女航海の日>>
「アーレイ艦長入りまーす」
数週間後、内装やら何やらを完成させ、今日は正式な処女航海の日だ。真新しい軍服を着たアーレイは緊張した面持ちで艦橋に姿を見せる。
「緊張するね、だが俺の船だと思うとやっぱ嬉しいな」
前回テストで乗ったとは言えやはり最初の航海は緊張するが、自分専用艦だと思うとジワジワと嬉しさが込み上げてくる。
「アーレイ、俺たちも乗せろ!」
「えー、むさい男は乗せたくないな」
「むさいとはなんだ漢はいないぞ」
「いや、それ論外だから」
呼んでないのに5名程の部下を引き連れキースが乗り込んできた。暴虐は旗艦扱いになるので機甲歩兵の出番は限られている。一応説明したが最初は肝心と考え出向いて来たのだろう。アーレイは「業火でよくね、隊員増えてね―し」と言うと「最初に突撃したいし」と小さな声で自信なさげに言い返して来た。
「キース!暇なんだろ」
「煩いな、いいだろ」
艦隊戦も少ない今、機甲歩兵は更に暇だ。訓練ばかりで流石に飽きてきたのだろうが、乗せたく無いので首を横に振ると女性隊員が一歩前に出てくる。間違い無くこの展開を予想して連れてきたのだろう。
「アーレイ艦長お願いします」
「仕方ないな〜女性専用射出口の増設費用はキースに請求するか」
「おい!」
「冗談だ、ようこそ暴虐に(笑」
キースを弄るのはこれくらいにして頭を下げた女性隊員を見て人手不足だから転属させようかなと一瞬考える。しかし頬に傷があって大胸筋が盛り上がっているのを確認すると、きっと脳筋で細かい仕事は無理だろと考え笑いながら乗船許可を出すのだった。
「じゃ、サクッと行きますか」
「はいナノ!」
アーレイの号令を待っていたらしく、スポットの端からシャンパンと同じような発泡系の酒瓶がクルクルと船尾に向かって投げ入れられ、割れた瞬間パーンと放射状に飛び散りながら消滅してゆく・・。
「暴虐発進!」
処女航海は熾烈と翠雨を従え中立地域に向かうことになり。シンクロを効かせた3隻は漆黒の闇に消えていく。
ーー
<<デルタ・中立地域>>
「あはは注目の的になっちゃたよ」
「どうするんだアーレイ、探査船がウヨウヨ沸いてるぞ」
1番近い中立地域にジャンプアウトした途端、各国の探査船が物凄い勢いで暴虐に向かって突進してくる。この地域では精密探査は出来ない決まりなので、出来る限り近づき少しでもデータを取りたいらしい。
「ちょっとおちょくりに行ってくるわ」
「・・・(呆」
面白がって中立地域を半速で流すと探査艦が金魚の糞のように付いてくるものの、速度が違い過ぎて諦めたのか艦載機飛ばしてきた。因みに翠雨は無視されポツンとおひとり様でお留守番中だ。
「うーん、高速哨戒機を飛ばして来たか・・」
重巡洋艦がベースのほとんどの探査艦はアンテナや測定装置を所狭しと搭載しているので重量が嵩み足は遅い、それに高価な機材が多いので乱暴な操船はご法度だ。代わりに哨戒機を飛ばすことになるが・・。
「探査艦ってロバの馬車?哨戒機ってなにそれいたの?付いてこれないし」
そして暴虐は高速巡行速度、いわゆる作戦速度の3/4まで上げて哨戒機を振り切る。この速度は高速駆逐艦の最大速力と同じでこれ以上スペックを晒す訳にはいかないので追いかけごっこはこれで終了となる。
「どうだポコ、上手く飛ばせるか?」
「結構辛いナノ、業火級の方が楽ナノ」
「ですよね〜一旦休憩だな」
<<2時間後・中立地域>>
中立地域を一旦抜け出した暴虐は翠雨に熾烈と共に艦内に逃げ込み、アーレイ達は休憩を取り、次に新型ステルス装置のテストを行うことにする。
「それでは予定通りステルス起動後、探査艦に接近しつつ新型装置の試験を始める」
「了解しました、熾烈続きます」
「全速前進ナノナノ」
翠雨から離脱した2隻は直ぐさまステルス化すると無線封鎖を行いつつ、中立地域で待ち構えている敵の探査艦に接近しながら新型装置の性能を試すつもりだ。作戦としては後ろから追い抜き前方に出た時点で熾烈は取り舵を、暴虐は面舵を切って探査性能を試す。
ーー
暴虐が姿を消して各国の探査艦は引き上げていったが、アーヴィン王国の船は諦めが悪いのかまだ中立地域に漂っていた。そして暴虐と熾烈が忍者のように静かに接近していた。
<<中立地域・アーヴィン王国の哨戒艦>>
「艦長、16時、マイナス10度方向に2つの熱源反応を感知しました」
「間違いなく業火級だな、あいつらステルステストを行うつもりらしい」
隠れてるとはいえ距離が近くなれば熱源を感知される。もちろん出力全開で排熱なにそれ状態なので発見できるのは当たり前だ。そんなことは百も承知の暴虐と熾烈は惰性航行に切り替え間もなくしてレーダーから消えることになる。
「艦長、反応が消えました」
「エンジンカットしたな10時方向、ダウントリムマイナス3度に回頭」
観測艦の艦長は暴虐の進行方向に向かう指示を出し、少しでも近くを通過して相手のステルス性能を調べるつもりらしい。
<<暴虐・艦橋>>
「哨戒艦が動いた、面舵5度」
「ナノ!」
一方の暴虐は取り決めに従い面舵方向に回頭、熾烈もほぼ同時に取舵を切っているはずだ。敵は最初の進路上に向きを変えたのでこのまま進めば少しづつ広がりながら真横を通過するだろう。
<<数十分後・・>>
「敵観測艦14時方向、距離10キロ、位置ほぼ水平」
「ポコ減速しながら並走しつつゆっくり追い抜こう」
「ナノ!取舵5度に修正、第1宇宙速度まで減速ナノ」
ここでアーレイは観測艦の観測精度を試すために作戦指示とは違う並走を行う指示を出し、熾烈は少しづつ離れていくが暴虐は回頭してほぼ横並び状態になる。調べたければ方向を変えず接近してくるだろうと考え、熾烈を特定しているなら旋回すると考えたのだ。
「艦長、敵観測船が急旋回を始めました」
「あはは両艦ともロストしたんだな(笑」
数分後、いきなりアーヴィンの探査艦が旋回を始めてしまうのだった・・。
ーー
<<少し前のアーヴィン王国・観測艦>>
「敵船いまだロスト中、艦影見当たらず」
「くっそ忌々しい連中め、コースそのまま新型音響解析を試せ」
業を煮やした艦長は絶対に探し出せと試作品の音響解析装置を使う指示を出す。真空では音波は響かないのでこの装置は船体が音で振動を起こす僅かな揺れを測定する装置だ。だが船体が物凄く硬い業火級を見つけることはできないだろう・・。
「駄目です全く反応がありません、後は艦尾を調べるくらいしかありません」
「やっぱり役立たずか・・」
解析装置のデーターはノイズだらけで全く使い物にならなかった。強いて言うなら熾烈のエンジンマウントが微量な振動を放ちそれを拾った位で、そもそもノイズ混じりの映像では発見には至らなかった。。
「それでは各位急旋回に備えよ」
打つ手がなくなった艦長は排熱で探査できない自艦後方を探るために急速ターンの指示を出す。パイロットが操縦桿を回すと船体が傾き急旋回を始めるのだった・・。
ーー
<<暴虐・艦橋>>
「急速ターンをするとなると、やっぱり見つけられないのですね」
「あははこれは俗に言うクレイジーイヴァンだな、取舵最大ダウントリム20度」
急速旋回を開始したアーヴィンの観測艦は角度をつけるために途中から上下のどちらかに船体を振る可能性があり、衝突は避けたいので暴虐は潜航するように下に潜りながら左に大きく舵を切る。
「アーレイ艦長なんですかそのクレイジー何とかは」
「海中の中の話だよ、自艦の真後ろはスクリュー音で探査できないから旋回して確認するのさ」
「なるほど宇宙だと排熱ですか」
アランが指摘した通り後方排気の熱によって探索できない場合によくやる作戦行動の一つだ。とはいえ暴虐は既に15時の方向に離れ始め、このまま見つけられないとなれば試す方法は一つしか残っていない。まあ360度方向に素粒子砲をぶっ放すというやり方もあるがこの場所での発砲はそもそも禁止だ。アーレイは次の行動を予測して探査艦との距離を置く指示を出すのだった。
「敵まもなくターン終了、速力上げ離脱していきます」
「もう潮時だし、やっぱ奴らは圏外にでてピンガーを使うはずだ」
「了解ナノー」
諦めたアーヴィンの探査艦はスピードを上げ、急速に中立地域を抜け出そうとしていた。
※電磁ピンガー=海の中と違って真空の宇宙空間では音が伝わる事が無い、ステルス状態の船を見つける方法の一つとして、電磁ピンガーと呼ばれる強力な電磁波を発砲して位置を測定する観測方法。
ーー
<<アーヴィン王国・観測艦>>
中立地域を出た観測艦は旋回すると全てのアンテナを暴虐が潜んでいるであろうその場所に向けていた。
「ピンガー撃ちます!」
電磁ピンガーは音響ピンガーのようにピーンと甲高い音は響かない。そのかわりに電磁波を発生した振動だけがブーンと響き、数秒後には長距離レーダーに2隻の艦影が緑色で映し出される。
「艦長、かなり遠くですが2隻の反応ありました」
「やはりいたのか、アーレイめ忌々しい船を作りやがって、至急本部に打電だ」
近い位置には熾烈と思われる小さな反応が一つ、そのさらに奥に一回り大きな緑色を確認できる。これで中立地域での隠れんぼはアーレイの勝利と判明した瞬間だ。苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる艦長は強力で探すのが困難な業火級がとんでもない脅威になると肌で感じた瞬間だった・・。
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