閉話、星団会議とフェルディナンド号の悲劇。
ある旅客船の悲劇のお話。
星団会議とは三百数十年前デルタリア王国に同盟国とそれに賛同する仲間が集まり、今後の話し合いをしたのが始まりと言われている。数年後、完全中立国家フェデラリー共和国が誕生すると同時に3星団の全ての代表者が集まり、それぞれの国の立場を主張する星団会議なるものが正式に誕生した。
<<開催に至った経緯>>
初会議が開催されるまでの大まかな経緯は、ディスティア帝国軍が誤って惑星破壊ミサイルを使用し、アーブラハム王国を消滅させた事が起因となり、時のフェデラリー共和国グスタフ大統領が国籍を変更してまで星団中を駆け巡り、尽力したお陰で開催に漕ぎつけたと歴史書には記載されている。
<<星団法>>
最初に議題に上がったのは全星団の共通ルールである星団法と呼ばれる法律作成だ。内容は多岐にわたり共通マップとそれに付随する中立地帯、支配地域の確定、一般人の往来の自由、武器使用に関する制限、捕虜の扱いや降伏宣言などを含む交戦協定が制定され、その結果無駄な戦死者が減り一定の効果があったが、戦争を長引かせる要因にもなっていた・・。
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<<フェデラリー共和国・星団会議議会棟>>
三百数十年前フェデラリー共和国の議会で初めて星団会議が開催された数年後、専用の議会棟が作られ、今でも毎月会議が開かれ白熱した議論が展開されている。
「議長入場」
ズズズと重量感のある扉が開き、儀礼服に似た紺色のスーツに身を包んだ議長が壇上の裏手から入場してくる。各国代表者の拍手で迎えられ代理人達を一瞥すると静かに着席した。
「これより会議を始めます。日程6議題21号。宇宙空間における武器使用に関する禁止事項についての討論を始めます」
議長は開会宣言すると議題を読み上げ一呼吸置き、議場を見渡し異論が無い事を確認すると次に進む。
「デルタ王立公国草案。炸薬ならびに電磁加速を含む質量を伴う実弾使用廃止に関する議題の討論を始めます。まず初めに廃止の必要性とそれに伴う有効性に関しての報告が有ります」
「異議あり!」
「異議あり!」
「議長、異議あり!」
早速、生産国であるフェデラリー、ラインスラスト、販売を担うブラインから異議が唱えられる。自国の産業を守るのも代表者の務めでもあり、利益を最大限確保しながら規制を掛けていくので毎回会議が紛糾するのが常だ。
「現段階での異議は認められません。発案者であるデルタ王立公国全権代理人、フランダル君は趣旨説明を行ってください」
初老のフランダルは元宇宙軍准将で、戦争にまつわる議題の際に代理人として参加している。発言台に立つと銃弾の危険性と被害に関する報告を行い、前時代的な武器の禁止を訴える事になる。しかし原料となる鉄鉱石、銅、タングステンなどを供給するフェデラリー共和国、銃弾、砲弾などの販売を手がける商業国家ブライン国、砲身など重火器製造するラインスラスト帝国が猛烈に反対して会議は紛糾してしまう。
「今回の議案は持ち帰り再度検討の上、新たに議題として再提出する事とします」
レーダーに探知されるもののエンジンを直撃すればそれなりのダメージが入り、一度放たれれば射線を交わすために進路変更を余儀なくされ、使い方一つで劣勢から優位に変わる切り札的要素がある銃弾や砲弾は、各国の思惑があり中々禁止には至らない。もうこの議論に関しては100年近く続いていたりする。
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<<デルタ王国・代表者控室>>
「陛下、申し上げます。今回もあの3か国が猛烈に反対して会議は紛糾しました」
<粘り強く交渉していくしかない、頼んだぞ>
控室に戻ったフランダルはジェフに会議の報告を行っている最中だ。毎回否決されやるせない気持ちにはなるが、彼としては戦争とは無関係な人たちに被害が及ぶこの兵器を、是が非でも規制したいと考えている。
「大きな被害が出ない限りこの法案は通らないな」
なぜ銃弾の禁止を求めてるのかその理由は凄く単純で、放たれた銃弾は速度を落とすことなく死弾として飛び続け、シールド装甲の弱い船に甚大な被害が出るためだ。法案成立を願うフランダルも被害者の1人で、宇宙遊泳の訓練中、彷徨う銃弾が宇宙服を掠り危うく命を落としそうになりその実体験から執念を燃やしている。しかし議論は進まず結審には程遠く千日手の様相を見せていた。
<<一週間後・星団会議議会棟>>
「起こるべきして起きてしまった・・」
いつ終わるかわからない混迷を極めていた議論にある日突然、終止符が打たれる事になる。その証拠に議場に参集する全ての代理人達は黒い喪服を身に纏っていた。
「会議を始める前に亡くなられた学生諸君と乗組員に対し、哀悼の意を示すと共に、安らかな眠りを願って黙祷を捧げたいと思います」
開会宣言の前に本日未明に起こった事故に対し議長は参加者全員に黙祷を求めた。後に「旅客船フェルディナンド号の悲劇」と呼ばれるこの事件は、彷徨っていた約数万発の流れ弾によって引き起こされ、被害者は「全星団学生会議」に参加するために乗船していた数百名の学生たちだった。皮肉な事に反戦を願う学生が犠牲になったことで膠着していた議会を動かした瞬間でもあった。
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<<全星団学生会議>>
星団会議議会棟は全日会議が開かれるのでは無く、閉会日には一般にも貸し出され学生は無料で利用できる。志が高い学生達はこの場を利用しない手はないと考え、時を遡ること90年ほど前、敵味方関係なく反戦を望む有志を集い、話し合いをするために議会棟に集まったのが全星団学生会議の始まりだ。その会議は星団の対立を無くし戦争を終わらせることを目的として、新しい未来を築く礎となるであろう若者の人材交流と、広い視野を持たせる人材育成の場として機能していた。
<<旅客船フェルディナンド号>>
学生たちを乗せた旅客船フェルディナンド号は2日前、デルトリア宇宙港を出港するとクーン、フォーレスト、ラインスラストを経由し、反星団が支配するクロウ星団に向かっていた。ディスティア帝国支配地域近くにジャンプアウトするとカルネ、ディスティアの学生たちと合流を果たし、船内で事前打ち合わせをしつつフェデラリー共和国を目指していた。
Ai「多数の質量弾を感知、緊急回避します」
惑星バルディの恒星圏内に入り超巨大ガス惑星バル付近を航行中、惑星の陰から突然大量の砲弾がレーダーに映し出され、危険を察知したAiが自動で緊急回避行動を行いつつ速度を落とし、流れ弾は遥か前方を通過する予定だ。
Ai「惑星バルの重力変動を感知」
流石に肉眼では見る事は出来ないがレーダーには霧のような大量の砲弾が映し出され、進行方向が赤い線で表示されている。余程のことが無ければ方向を変えることはないので、Aiが変動を知らせても船員たちは安心して観察していた。
「艦長、軌道が変わり始めました」
Ai「大口径質量弾多数接近」
ガス惑星内部で質量変化が起きてしまい重力変動がプラス方向に発生し、砲弾は地表に引き寄せられ、更にスイングバイ軌道に乗ると加速しながらフェルディナンド号に接近しつつあった。3Dレーダーを見ていた艦長は広範囲に広がる弾幕が旅客船を包み込む予報を見て「駄目だ。広範囲すぎで被弾は免れない、全員緊急避難の指示を出す」と宣言をするものの、もう目の前まで砲弾が迫っていた。
「艦長、シールド最大ですが崩壊しそうです」
艦隊殲滅を狙った数万発の大口径の砲弾の雨を懸命に弾くが旅客船のシールドなど物ともせず、ジェネレーターは直ぐさま悲鳴を上げ無情にも崩壊を始めてしまう。
「艦首被弾、内部に侵入してきます」
「退避だ、一人でも多く逃がすんだ」
加速した砲弾は非情にも船体を貫きながら人間を血霧に変え、僅か数秒でフェルディナンド号は虫食状に変わり果てる。最後にエンジンコアに到達すると大爆発を起こし木っ端微塵に吹き飛んでしまう。
<<駆逐艦・ディザート>>
「なんてことだ、生存者は5名だけだと」
救難信号を受信した哨戒活動中の駆逐艦が事故現場に向かうことになるが、その場所には夥しい残骸が散乱するだけで、救出作業虚しく生徒125名、乗員35名、政府高官8名、引率員10名の合計178人の死亡が確認される。唯一の生存者は天体観測で切り離されていたゴンドラに運良く乗っていた5名だけが救出されたのだった。
「この砲弾の雨はヴァル海戦でディスティアが放った殲滅兵器だったとは・・」
調査が進められると事前予報ができなかった理由が明らかになる。原因はガス惑星の成分が金属を多く含み、更に砲弾が周回軌道上を低空で周回していたことで発見が遅れたと結論付けられる。そして凶弾の種類が特定され、それは遡ること数ヵ月前、ディスティア軍がデルタ第9艦隊に向け放った懺悔の雨だと判明するのだった。
<<星団会議議会棟>>
「この度の悲報はここに集まる皆の心を動かし変化を齎すと私は信じています。亡くなられた未来ある若者の死を無駄にするわけにはいきません。悲劇を直視し彼らが望んでいた新しい未来を皆で考え、難題を解決し成し遂げようではありませんか」
黙祷が終わると議長は砲弾規制の事を直接口にはしないが、同じような犠牲者を出すわけにはならないと暗に語り、強い目力で各国の代表者を眺める。流石に今回の事件を受けて反対できる雰囲気など皆無で、デルタのフランダルが発言の許しを請うと「たとえ友好国でも反対すれば制裁を加えると陛下のお言葉をお伝えします」と代弁した。
「今後この様な悲劇を生まない為にディスティア帝国は本日を持って宇宙空間における銃弾、砲弾の使用禁止並びに、喪に服す意味を込め1ヶ月の停戦を提案いたします」
次にディスティア帝国代表者が発言を行い質量弾の即時使用中止と停戦を提案すると、アーヴィン王国、カルネ共和国も賛同すると表明をする。そして星団側は今回の事件に対し声明を発表し、大きなスクリーンには沈痛な面持ちのアイシャ女王が映し出される。
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<この度の悲報は我が国にも衝撃が走り、これから活躍するであろう若人の命が無残にも散った事を大変憂ております。彼らの死が無駄になる様な事は避けねばなりません。皆様の協力がなければ成し遂げることができない難題が山積しております、散っていった彼らの意思を尊重する為にも今は一致団結をし、この苦難を必ず乗り越えられると信じております>
<デルタ国女王 アイシャ・オブ・フォンテーン・デルタ>
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ここで一旦会議は中断すると小委員会に場所移し事前協議が執り行われ、短時間で全面規制の採決を行い、数十分後本会議が再開されることになる。
「それでは会議を再開します。事前通告によりこの法案に対する反対意見は全て取り下げられ、よってこの法案は全星団一致とします。それでは採決を始めます。この法案に賛成の諸君の起立を求めます」
議長が採決の宣言をすると、皆静かに立ち上がり賛成の態度を示す。これによって質量がある実弾の使用が禁止されることが決まった。
「全員起立、よってこの法案は可決成立と認めます。本日の予定はすべて終了。これにて散開とします」
絶対成立できないと言われた「炸薬ならびに電磁加速を含む質量を伴う実弾使用禁止法案」は若くして散った200名弱の命と引き換えに成立した。数年後、この悲劇は「星団統一に向け、初めの一歩」となったと歴史学者は皆口を揃えて言うのだった・・・。
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