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アーレイの倍返し。

アーレイの仕返し編です

 <<3週間後・ヒャンド実験棟>>


 他国から技術を盗み自分の成果として誇張するこの国でも一応技術の粋を集めた実験場は存在する。そしてフランクの偽情報を元にマイクロ・ブラックホール機関が組めると信じ懸命に組み上げていた。


「やっと組み上がったよ」


 疲れ切った表情を見せる技官達は何日も徹夜したのだろう。目の前に鎮座する小型の反応炉を見てとても満足そうだ。翌日の試験運転を控え黒いカバーを掛け終えると静かに実験棟を後にする。


 <<翌日・実験棟>>


 「お前らがバカらだから起動しないんじゃないのか!」

「そう言われましても原因不明で」


 起動するには重要なパーツが足りず電源すら入らない状態だ。まあ基本理論をすっ飛ばし設計図を頼り組んだ結果なので仕方がない。楽して成果を求めようとする小太りな技術部長は、部下の苦言を無視して八つ当たりをしていた。


「燃料も入れ何故起動しないのだ、原因追及しろ」

「部長、理論がまだ確立していませんので原因追及は無理と思われます」

「そんなのは後回しだ、後から考えろ」


 自分たちの想像を絶する技術を目の当たりにすれば、皆で協力して技術理論を確立するのが先だろう。だが部長は成果だけを欲し、元技術屋とは到底思えない。これがこの国の現実だ。


「理論すら理解していないと原因なんてわからないよ〜(困」


 部長にムチャ振りされた部下は難題を押し付けられ、藁にも縋りたい気持ちになっていた。そんな追い込まれた状況の中、1通のメールが届く。


「デルタ・ラインスラスト工学研究会、合同新作発表会」


 主に工学系の学生が集まり、自由な発想で独自開発した技術を発表する場だ。採用されれば大金を手に入れるので皆真剣だったりする。


 <BMエンジン実用化まであと一歩。開発協力求!>


 困り果てていた技官は発表内容を読み進めると、とある一文に気が付く。それは自分たちが苦しんでいるダーク・マター機関を匂わせる内容で、当然「今の俺たちに必要な技術だよな」と気が付き部長に説明することに。


「部長、この技術を使えば起動できるかも知れません」

「そうかそうか、それなら見に行こう、使えるなら格安で買えば良い」


 まんまとアーレイの策略に陥った部長は、目の前にぶら下がる人参を追う馬のように、足早にラインスラスト帝国に向けて出発するのだった・・。


 ーー


 <<ラインスラスト帝国・大型展示場>>


 ラインスラスト工業大学とデルタ工学研究会の合同新作発表会には、大勢の研究者や軍事メーカーの営業マンが訪れ賑わっていた。


 「純度99.999999パーセントの純水を格安で作れるフィルターです!」

 「イレブンナインのフッ化水素を簡単に作れる新しい装置はここです!」


 行き交う人に対し学生、研究者達は成果発表を行いつつ出資者を募るために猛アピールを繰り返し会場は凄く賑やかだ。そんな喧騒とは無縁な会場を見渡せるティーラウンジにアーレイとマドックが現れる。


「WEBカタログはいつでも抹消出来る状態です」

「あいつらに見せるだけだ、それでいいよ」


 未来推進研究所という架空の研究機関を名乗り出展したアーレイは周りに誰もいない場所にブースを構え、展示物を配置せず今は無人の状態だ。もちろん奴らが訪れた時だけ展開して誰にも知られないように設計図を渡す計画だ。


 <アーレイ、ヒャンドの一団が入ってきたぞ>

「総員配置についてくれ」


 入り口付近で張り込むキースはヒャンドの一団の尾行を始め、アーレイは「それでは引き込み作戦開始だ」各所に指示を飛ばすと、会場内をうろついていた諜報部員と第9艦隊の若い連中数百名が一斉に動き出す。


「凄い混みようだな、中々前に進めんな」

「年に1回の晴れの舞台ですし、新しい技術に植えているのでしょう」


 御一行様が会場内に入るやいなやアーレイの仕込んだ連中が周りを取り囲み歩くのもままならない状態だ。もうお分かりだと思うがこの群衆を使い誰の目にも触れさせずブースへと導き、だれにも知られ無いようにBMエンジンの情報を渡すためだ。


「BMエンジンの開発に協力を!カタログをどうぞ!」


 学生に扮したデルタ軍の若い下士官は近づくタイミングを見計らい、するりと脇を抜け技術部長にパンフレットを渡す。一目見るなり「これだこれだ、おい学生ブースまで案内するんだ」とアーレイの撒いた餌に食いつきいきなり前のめりになる。


「こちらです、このまま付いてきてください」


 偽学生が誘導に入るとアーレイは「狼煙を上げろ」と指示を出す。すると殺風景だったブースにBM機関の模型や、性能図などが運び込まれ速攻で準備が終わり。そして意気揚々と技術部長達が姿を現した。


 「このBM機関はダークマターエンジンを実用化に不可欠な技術です」

 「おお、大当たりじゃないか、それでこの技術を売ってくれるのか」


 部長は小躍りして買い上げ宣言すると「予算不足で起動実験が出来ていませんが、宜しいのでしょうか」と勿体ぶる。欲に目が眩んでいる部長は後先考えずに「後は我々に任せろ」と啖呵を切るとさっさと支払いを済ませ「さあ戻って実験だ」と足早に去ってゆく。


 <即座に撤収するように>

「了解しました!」


 ヒャンド御一行様は満足そうな笑みを浮かべながら善は急げと言わんばかりにラインスラストを後にする。そしてアーレイは即座に撤退の指示を出し、これまたデルタに向かってさっさと消えていくのだった。


 >

「鬼だな」

「何か?」

「ここに鬼がいますよー!」

「ふん、何とでも言え!」

 >


 フェアリーが流石に文句をいってくるが、当事者の気持ちなどわからいだろうと一蹴すると、悔しいのかウザいくらいモニターの中をグルグルと飛び回っていたよ。


 ーー


 <<ヒャンド共和国・実験棟>>


 BM機関の設計図を手に入れた部長は意気揚々と帰国すると早速組み上げの指示を出し、今は取り扱い説明書を読み悦に浸っている最中だ。


「色々条件を守らないと起動しないのだな、そうかそうか」


 起動する条件を読み進めているものの内容の一部は首を傾げるような事が書かれていた。例えば「重力の影響を極力避けるためできるだけ高い場所に設置」とか「太陽フレアの影響を受けないよう実験すること」など、暗黒物質を知る技術者なら全く意味がないことばかりだった。


 「部長、重力の影響って書いてありますが、周回軌道上で実験しますか」

 「地上の高い所でいいんだろ、金のない学生が宇宙ステーションで実験しないだろ」


 技術者は”物理は嘘をつかないと”考え、条件に意味があるのか検証するのが当たり前でそれが普通だ。しかし面倒なのか、それらをすっ飛ばす部長は「指示通りに実験すればいいのだろ簡単だな」と語りヒャンドで一番高いビルを探し始める。


 「部長大丈夫でしょうか、理論を全く理解できていません」

 「俺たちが先に実用化することに意味があるのだよ、気にするな結果は後から付いてくる」


 全てアーレイの策略だとは気が付かいない部長は大金を手にする未来が見え隠れするのか、ニマニマと薄気味悪い笑みを浮かべ、これ以上進言しても印象が悪くなるだけだと考えた部下たちは黙って指示に従い作業を始める。


 <<数週間後・首都ウルソン>>


 BM機関の開発に乗り出した技術部には新たな予算が組まれ、首都で1番高いオフィスタワー120階に実験施設を突貫工事で作っていた。最上階を借り上げるとなれば超高額な家賃になると考えるのが普通だろう。しかしこの国お得意の手抜き工事の影響でビル自体が3度ほど傾き、免震構造の不具合で揺れが酷く格安で借りていた。


「部長、電磁シールド壁がやっと構築できました。明後日には起動実験が可能です」

「そうか、遂に記念すべき日が来るのだな」


 取り扱い説明書に「臨界時に強い電磁波が発生する可能性があるので、被害を防ぐために電磁シール壁が必要」と明記してありパネルを発注したものの、途中()()()()があったため納期が遅れやっと完成を迎える。技術部長はそれを眺めながらニンマリと微笑んでいた。


 ーー


 <<実験当日・探査船フォウルスター>>


 迎えた実験当日、事前情報を得ていたアーレイは探査船フォウルスターに乗り込み、気象観察と偽って首都ウルソン上空の周回軌道上で待機中だ。付き合わされているクリスは「面白いことが起きるからヒャンドに行こうぜ」と言われ訝しげな表情をすると「G退治の最終局面だよ」と言われ意味を理解したのかアハハと笑いながら乗船していた。


「アーレイ、ところで何が起きるんだ」

「まぁ見てのお楽しみだ。ヒントは強力な電磁波だね」


 電磁波と聞いたクリスは一瞬考え「それってECM()攻撃と同じことか」と答えると「星団法では禁止されているけど実験だし」と笑っていたよ。


 ※ECM攻撃=強い電磁波を放ち電子機器にダメージを与えたり、ハッキングしてコントロールを奪う攻撃方法の一つ。


「電磁シールド壁ではありませんね。これ見てください ”炉”が見えますよ」


 実験棟を観察していたマドックが恐ろしい情報を上げて来る。電磁シールド壁は探査阻害壁とほぼ同じ構造なので通常の探査なら中を知ることは出来ない。しかしヒャンドの実験場に設置されている壁には電磁遮断性能1級と明記してるにも関わらず内部が丸見えだ。アーレイは思わず「あー、ポッケないないしたんだ」と呟いた。


「これ中身は単なるプラ板ですよ、すり替えたみたいですね」

「失敗したら被害が相当デカくなるわ~」


 間違いなく仕様変更の指示を出した技術部長が業者に手抜きの指示を出して差額を受け取ったのだろう。アーレイもマドックも呆れを通り越して苦笑いしていた・・。


 ーー


 <<高層階・実験場>>


「それではアイドリング電源投入完了しましたのでいつでも始められます」

「これで実証できれば出世間違いなしだ!」


 心待ちにしていたBMエンジンの試運転が始まりを迎え、ニヤニヤと笑いながら部長が始動ボタンのスイッチを入れる。アイドル状態だった炉に火が入り計器類の数値がグングン上昇すると、臨界を目指すコアからは青い光が漏れ始めた。


「おおこれはいけるぞ。ほれ、ほれ、そのまま臨界させろ」

「一旦止めて検証と非破壊検査を行った方が良いかと」


 1発でコアが動き出しもう勝利を手にしたと思い込んだ技術部長は「そんなの後だ臨界を目指せ」と言い放ち、割と重要な初期計測を無視して実験を進めるつもりだ。何を言っても駄目だと悟った技官は指示に従い生体エネルギーの供給量を上げ始める。


「20%変化なし、30、40、炉が完全に起動しました」


 台座の上に載っていたコアが眩いばかりの青い光を放ちながらゆっくりと浮き上がる。後はひたすら燃料を供給を行い、臨界点を超えた段階でダークエネルギーを生成できれば莫大なエネルギーが放出される筈だ。何の根拠もない自信に溢れた技術部長はドヤ顔をキメ「ほら見ろ動いただろ。俺は大丈夫だと思ったんだよ」と言い放つ。もうこうなったら結果が出るまで誰の意見も聞く事は無いだろう。


「60%さらに出力が上がります。70、80、90%」

「そろそろ臨界点突破だな」


 光り輝く炉は間も無く臨界点を迎えようとしている。このままを突破すれば星団初の快挙となるが、デルタではこの先に起きる症状を克服できずに未だ研究中だ。


「起動率98%、コアの質量に変化あり0.1%収縮し始めました」

「おお、コアが縮んでいくぞ!もうすぐか?」


 臨界点のあと一歩の所でコア質量に変化が出始め、0.1%とはいえその原因を探らずに続けるのは大変危険だ。デルタでは直前に質量変化が観測された場合、ダークエネルギーは絶対生成できないと結論付けられている。因みにアーレイが渡した設計図も同様で起動する事は皆無だ。技術部長はその現象を理解することなく実験続行の指示を出してしまう・・。


「臨界状態に近いですが、この状態での質量変化は危険です。実験を中止しましょう」


 どんな実験でも危険を顧みずチャレンジする事は大切だ。しかし原因を調べること無く先に進むのは無謀な愚か者と言っても間違いないだろう。はやる気持ちを押さえられない技術部長は「それじゃもう少し上げてみろ」と指示を出してしまう。


「起動率99%、燃料消費率最大、質量変化が更に大きくなりました」

「もう少しだ」

「臨界点突破、コア収縮止まらず」


 無事に臨界点を突破したものの青く輝いていたコアが真っ白な光を発しながら収縮を始め、見た目でも一回りほど小さくなっていた。


「微振動を感知、収縮率依然上昇中、部長中止したほうが良いと思います」

「もう少しじゃないのか、仕方ない暫く様子見するか」


 普通なら即時中止の判断が最善だろう。なにせコアは収縮を繰り返し、気が付けば50%を超え、振動まで出始めていた。星団初の快挙の文字が眼の前でチラつき、諦めきれないのかジッとコアを見詰めていた技術部長は「このまま動かし続ければどうにかなるんじゃね」と軽率に考え始め、燃料噴射装置のダイヤルに手が伸びていた。


「チョットだけ入れてみようかな・・0.1%で様子見すれば大丈夫だろう」

「コアの収縮が止まりました。エネルギー効率120%、BM機関始動しました」


 ほんのチョットダイヤルを動かすといきなりコアが元の状態に戻り、BM機関が起動を始め凄く安定した状態になると共鳴も止み静寂が訪れる。先ほどまでビビっていた技術部長はニンマリと笑みを溢し「ぐへへ」と笑っていた。


「エネルギー放出量・・えっマイナス20%ってまさか」


 理論ではダークエネルギーが放出されなければ実験は成功とはいえない。技官はマイナス数値を見て暗黒物質が生成され逆に質量を増やし始め危険だと分り、強制停止ボタンに手を伸ばすがそれは間に合わず「ブン!」と重低音が響いた瞬間、コアの光が消え失せてしまう。


「なんだ?エッ?」


 そして数秒後、ピカッとコアが光り輝くとそれと同時にバン、ボンと爆発音が響き渡り、周辺の計測機器から火炎と煙がモクモクと上がり、スプリンクラーが作動してずぶ濡れになってしまう。


 <<周回軌道上・フォウルスター>>


「やっぱりやっちまったか」

「ありゃ、こりゃ大規模停電は間違いなしだな」


 上空から観察していたアーレイ達が見たのは、実験棟を中心に眩い青いプラズマが目にも止まらぬ速さで5キロ四方ほど広がった風景だ。もちろんそれは超強力な電磁波で全ての電子機器の基盤を焼き切るほどの威力があり、シャトルはエンジンが止まり落下して大破、立ち並ぶビルも同様に全ての電子機器が破壊され僅か数秒で廃墟と化してしまう。


「物凄い電磁波が観測されました。殆どの電子機器は破壊されたと考えられます」

「あちゃー、電磁波シールドを設置しないからだよ」


 上空から観察するだけでも莫大な被害が予想され心配したクリスは「悪戯にしちゃ、ちょっとやり過ぎじゃないのか?」と言われるが「俺を拉致って失礼なことしたし、馬鹿には躾が必要なんだ」と返すと「まあそうだね仕方ないね」と笑って済ませた。


「さて陛下に報告しに帰ろう」

「アーレイ、凄く喜ぶと思うぞ(笑」


 数時間後、事故の様子がニュースで流れ、一瞬の出来事で首都ウルソンは機能不全に陥り莫大な損失が発生してしまう。この事件は後に「BMテロ」と呼ばれ関係者に重い刑罰が科せられることになり、技術部長が横領したことで直接的な被害を増幅させたと結論付けられ無期懲役の判決が言い渡された。


 <<デルタ王宮・謁見の間>>


 デルタに戻り早速ジェフに呼ばれ謁見の間に出向くと開口一番「積年の恨みを晴らしてくれてありがとう」と言われ超ご満悦な表情を浮かべていた。しかしアーレイはこの後の展開が読めるので首を横に振りつつ目線を逸らす。


 ジェフ「アーレイ、褒美にフローレ・・」

 アーレイ「貰いません!」

 フローレンス「えー!」


 後ろで聞いていたフローレンスはちょっと落ち込んでいたが「あのな、お茶くらいして帰れ」と困った顔をされたので「そうですねー」と棒読みをしつつ踵を返すのだった・・・。

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