アーヴィン王国、救出作戦(下)
続きです。
2人の侍女を転送したアーレイはコンドラトを捕まえようと一瞬考えたが、鬼の形相の応援部隊数十名が一直線に向かって来るのが見え、流石に無理だと判断すると3階へ移動した。
<<コンドラトの城・3階>>
>
「サイズ的に子供ですね~」
「ああ、そう祈りたいよ」
>
昨晩出向いた部屋を探査すると8名の反応があり、間違いなくミリアの姉もいるだろう。しかし既に2人助けたので引き算すれば6人の筈で、昨日より人数が増えていた。とは言え全員助けるしか無いので頑張るしか無い。
「コロン、背中を見てくれないか?」
「何か刺さっているのだ、引き抜くのだ」
慌てて3階に上がったものの、常に背中に痛みと違和感を感じていたアーレイはコロンに見て貰う。そして引き抜き見せてくれたのは直径2.5センチほどの小型ロケット弾だった。
「ヤバいわ~爆発したら真っ二つだったわ」
「距離が近くて良かったのだ」
至近距離で撃ったため十分に速度が上がらず、信管が作動しなかったので爆発を免れたようだ。とは言え血が滲み始めズキズキと痛みが走り、あばら骨にひびが入っているかもしれない。
「機長、まだ載せれるか?」
<《《子供》》ならこの機体に6名もう1機に5名です>
「少ない方に転送して1機は引き揚げてくれ」
アーレイは痛みをこらえ近くで待機している輸送船に連絡を入れる。少ない方に再転送を行い満員にして現場を離脱するように指示を出す。少しでもリスクを減らさないと元も子もないからだ。
「さて、サクサクと終わらせよう」
怯えさせないためにステルス解除したアーレイは扉をノックしてから中に入る。すると8名の侍女達が1ヶ所に集まった状態で部屋の隅っこに佇んでいて、姿を見て驚きはしたが悲鳴を上げることはなかった。
「デルタ軍アーレイ中尉だ、助けに来た」
「デルタだ、本当にデルタの兵隊さんだ。助かるんだ私達」
デルタと話しても固まったままなので、肩に貼る王家の紋章をポケットから取り出して見せると、途端に表情がパァと明るくなり助かる希望が湧いたのか涙が溢れていた。
「君がミリアのお姉さんだよね、妹さんは既に脱出した」
「アーレイ様ありがとうございます。妹から聞いていましたが、本当に助けに来てくれるとは思っていませんでした」
姉の名はユリアと言い、ミリアが話していた通り父親に売られ、数か月前ここに連れて来られたと話してくれた。ゆっくりと全員の身の上話しを聞きたいところだが時間が無いので、転送用マーカーを取り付け急いで逃げて貰う事にする。
「ミリアが乗っているか分からないけど、もう大丈夫だから」
「アーレイ様、エルフの女の子が玄関下の地下牢にまだ2人います。お願いできますか」
「ああ、任せろみんな連れて帰るよ」
ユリアは連れて帰るの言葉を聞くと「アーレイ様ありがとうございます」と礼をいい頭を下げ、そのまま金の粒子に変化して転送され消えていった。
「さて、どうするコロン探査じゃわからなかったんだぞ、それでも行くのか」
「いくに決まっているのです」
奴隷救出は順調に進み、いままで性奴隷の被害者は奇跡的に1人もいなかった。しかし地下牢と聞いたアーレイは凄く嫌な予感が走り、それはコロンも同じなのか表情が硬くなった。それに玄関下と言われたが場所は特定できていないし、間違いなく黒服達が出口を塞いでいるだろう。緊張感が増す中、行くと決めた2人は装備を再確認すると拳をガツンと合わせ気合を入れる。
「このまま降りればハチの巣になるだろう。多少やり辛いが火災報知機を作動させよう」
「それは名案なのだ」
決まったら急げだ。コロンは火災報知機のボタンを探し、アーレイはスプリンクラーを作動させるために熱探知機に銃口を向ける。
「押すナノ!」
「行くぞコロン」
そしてジリリとけたたましい音が鳴り響き、アーレイが発砲するとザーッと水のシャワーが降り注ぎ始めた。
>
「転送マーカーは残り2個ですよ」
「分かっている予定より救助者が多い」
「それに搭乗人数が」
「言わんでいいわ」
>
転送する際は動かず突っ立っていれば回収してくれる。しかし動きながらだとマーカーが絶対必要だ。救助者は残り2名でマーカーの残りが2つでギリギリで、アーレイとコロンはモジュールをマーカー代わりに出来るので問題はない。しかし搭乗人数が子供換算で足りないが、アーレイは考えないことにして助ける事を最優先に部屋を飛び出す。
ーー
<<1階・玄関ホール近く>>
玄関ホールに向かいながら熱センサーに向かって発砲を繰り返し、城の中は夕立状態で視界が悪く、おまけに黒服は発見しづらい。何度か鉢合わせをするものの、表面温度が下がりセンサーが感知できず、何とかやり過ごし1階まで降りることが出来た。
「さて、このまま地下に向かうぞ」
地下に向かう階段は玄関ホール奥の大階段の裏手にあり、普段は蓋が閉まる構造で床に見えるが、火災報知器が作動した影響で開いていた。単純な作りなのに探査の際に見過ごしたのは意外だった。
>
「地下全体が探査阻害壁と思われます」
「マジですか怪しすぎませんか」
「手前はまだ何とか探査できますが、その先は全く見えません」
>
<<玄関下・地下室>>
地下に潜ったもののスキャンは大して役に立たないが、時間が無いので銃を構え取り敢えず前に進む。
「行くぞ!全ての部屋を確認する」
「わかった扉を開けるナノ」
アーレイが銃を構え認識阻害幕を被ったコロンが扉を開け、テンポよく部屋を捜索しながら廊下を奥へと進むが人影を見つけることは出来ない。一番奥に行きつくと電磁ロックが施された頑丈な扉に行く手を阻まれるが、避難指示が出たのが功を奏し開いた状態だった。
「頼むからここにいてくれよ」
中に入ると2つの扉が見え鍵式で施錠されていた。アーレイはレーザー銃を使い鍵穴を溶かし強制解錠する。そして「デルタ軍が助けに来た」と言いながらゆっくりと開けると、半裸の15、6歳くらいのハーフエルフの女の子がベッドの隅で怯えているのが見えた。
「ヒッ!いや、いや、来ないで、もうやめて(泣」
彼女は間違いなく性奴隷として蹂躙されていたのだろう「デルタ軍だ」と言っても聞く耳を持たず慌てて部屋の隅に逃げ、しゃがみ込んで膝を抱えフルフルと震えていた。良く見れば殴られたのか頬に痣があり、目は虚で悲壮感が漂い誰も信じられない精神状態なのだろう。
「コロン、中はクリアだ入ってこい」
「ここにいたら駄目ナノ、逃げるナノ」
犬族のコロンを見た途端、信じられない表情へと変わる女の子は武装した姿を見て本当に助けに来てくれたと思い、思わず「ああワンコちゃん」と呟いてしまう。因みにコロンは「ガルゥ!」と唸り、ちょっと不機嫌になったのは仕方ないです。
「さあ行こう、侍女のユリアと妹のミリアは既に逃げた、残りは君達だけだ」
「うん、わかった」
ユリアが彼女の世話をしていたのだろう。名前を聞き助けてくれると実感したのか、女の子はコクコクと小さく頷いて立ち上がった。
「ほらこれナノ、安心するナノ」
「あ、ありがとう」
コロンはサバイバルシートを取り出し女の子の身体に巻き付けた。この布は簡易的だけどレーザー防弾も兼ねているので、脱出の際に間違って撃たれても死ぬことはないだろう。暖かくなってきたのか血の気が戻り始めるとコロンに抱きついていた。
「悪いが隣の部屋を開けたら君が話してくれないか」
「わかりました」
同じように解錠して扉を開けると「いやー」と叫び声が聞こえたが、保護した女の子が顔を覗かせ「逃げるのよ」と言うと、ぽかんとした表情を浮かべ、アーレイがデルタ軍だと言いながら紋章を見せると素直に出てきてくれた。
「助けてくれるの」
「そうだよ、さあ家に帰ろう」
出てきた子も半裸で双丘があられもない状態で露出していたので、アーレイが認識阻害膜を巻きつけると、胴体だけ見えなくなってしまったのは御愛嬌です。
「慌てないで付いてきて」
「うん」
来た道を戻り階段下で一旦止まり「ここを上がれば転送される」と説明すると2人は出るのが怖いのか、泣きそうな表情でコクリと頷く。まだスプリンクラーは作動してたので止まる前に移動しなければと考えていると輸送機から連絡が入る。
<地上から攻撃を受けました。火器レーダー警報が出ています>
「高度を下げて離れてくれ、準備ができたら呼ぶ、まもなくだ」
ステルス機とは言え熱を放出するので何となく見えるのだろう。通話する後ろでピーピーと警告音が鳴り響いていた。まあ視界から外れれば撃たれることはないので一旦離れて貰い、準備ができたら一気に拾ってもらうことにする。
>
「3名ほど待ち伏せ、噂《※》の対シールド弾を装備しています」
「それ、聞きたくなかったな〜」
「私は痛くありません」
「ふん、壊れたらお前もおしまいだぞ」
「ひゃー」
>
※=ディスティアが開発中のシールドを無効化出来る特殊な弾丸。
フェアリーが探査して碌でもない情報も上げてくるが、何より高性能なモジュールを装着している黒服がいないのは助かる。もし上にいたらフラッシュバンが投げ込まれていただろう。しかしここにいてもそのうち見つかってしまうので嫌でも動くしか無い。
「上に待ち伏せている連中は強力な武器を持っている」
「どうするのだ、特攻でもするのか」
「あのな、直前にシールドブーストを掛けて一気に上がれ」
地上に上がり転送して逃げれば勝ちだ。なのでシールドをオーバードライブさせて1分間だけ無敵状態を作り逃げ切る作戦だ。2人はモジュールを弄りブーストモードのアイコンを出し準備する。
「コロン、輸送船には全員乗れない、お前は子供達と一緒に行け」
「・・・」
コロンも通信を聞いていたので誰かが残らなけばならないのは知っていたし、階級が低いので”残れ”と言われても仕方ないと諦めていた。しかしアーレイは自己犠牲を厭わず涼しい顔で当たり前のように逃げろと言い放ち、まさかの展開にコロンは衝撃を受け一瞬頭の中が真っ白くなってしまう。
「ほら、使え」
アーレイがフラッシュバンを渡すとコロンは無言で手榴弾を渡す。
「・・・」
「ありがとう、君は気にせず走れ」
ここまで非殺できたが子供2人を連れて逃げるのは無理な相談だ。相手は殺すつもりで撃ってきているのでアーレイは気持ちを切り替え、セレクターをキルモードに変更した。
「もう手段は選ばない上にいる3名を手榴弾で無力化する」
コロンは理解して頷くが表情は困惑したままだった。さっきのアーレイの言葉が引っかかっているのだろう。
「今から地上に出る準備してくれ、1分後に落ち合おう」
<先ほど撃たれ被弾したのでチャンスは1回です>
コンドラトは軍に手を回し警備を強化させたのかもしれない。入る前に比べシャトルが飛び交う音が明らかに増え始めていた。
「さあ、行こうかブースト展開!」
2人のシールドがブースト状態に入ると全身が少し青白く光り始め、アーレイは手榴弾のピンを抜きシューと発火音を確認すると階段上に放り投げた。数秒後、ポン、ドカンと爆発音とギャーと叫び声が聞こえ、それを合図に一気に階段を駆け上がり柱の陰に隠れた。
「どうだ、マーカーの反応は出たか?」
<まだ反応が出ません>
最悪だ、阻害装置が復旧したらしく女の子は転送されることなくそのままだ。パイロットに連絡してもマーカーの反応が出ないと言われ、こうなったら外に出るしか無い。
「ヤバいぞコロン、外に向かうぞ」
「わかったのだ」
走り出した途端、2階から銃撃を受けバキューン、パンパンと銃声がこだまして凶弾が降り注いでくる。大半はシールドで弾き返すが女の子を守りながら走っているのでいい的になっていた。
「キャ!痛い」
運悪くシールド外に靴が出て踵を撃たれバランスを崩し、更に範囲外に出た脹脛にレーザーが掠り最後転んでしまう。
「先にいけ、この子は俺が守るコロン構うな走れ!」
「ナノ!」
一瞬振り返ったコロンに先に行けと言い放ちアーレイは女の子を抱え走り始める。その間にも背中にバンバン着弾して衝撃と激痛が体中を駆け巡り、思わず苦み走った顔になってしまう。
「もう少しだ、がんばれ」
「うん」
>
「ブースト解除まで残り10秒」
「ふん、冷静だな」
「機械ですから」
>
先に走っていたサバイバルシートを巻いた女の子が玄関を抜けると、シュッと金色の粒子に変わり無事転送されたが、コロンは踵を返すと扉とは反対側の壁に張り付き銃を構え援護射撃を始めてしまう。
「コロン早く行け」
アーレイが早く行けと叫び促すが、ひたすら援護射撃を繰り返して言うことを聞かない。そうこうしているうちになんとかコロンの横にたどり着く。
>
「シールドタイムアウトです。再起動は約10分後」
>
ここでブーストが終了してしまい、体を守れるのはバトルスーツの薄い膜だけになってしまった。まあ撃たれれば貫通はしないが相当ダメージが通ってしまう。
「コロンこの子を頼むぞ、お前と一緒に外に出ろ援護する」
「ポコのマーカーは解除したナノ一緒に戦うナノ」
言うことを聞かないコロンに「お前の役目だ」と女の子を押し付け、襟を掴んで近くまで引きずる「いいか、俺が発砲したら構わず行け」そう言い残しアーレイは近づく黒服に向かって銃撃を始めた。
「キャ!」
銃撃が止むタイミングを見計らって女の子を外に押し出すと一瞬で粒子に早変わりして消えたが、コロンはマーカー解除したので玄関前に突っ立っていた。送り届けたのを確認したアーレイだったが、玄関外でコンドラトが銃を構えているのが肩越しに見えてしまう。
「まずいこのままではコロンが危ない!」
アーレイはそう思った瞬間スローモーションの世界に突入する。俗に言うタキサイキア現象だ。そして銃口から火炎と共に弾が吐き出される瞬間が見え、それも小さなアンテナが特徴的なシールド無効化強化弾だとわかる。それがゆっくりとコロンの頭に向かっていた。
「駄目だ引いたら間に合わない」
仰け反ると力が入り間に合わないと判断したアーレイはコロンの首を強く押し、そのまま斜めに倒れるように玄関の外へと出る。あの強化弾は頬の辺りを掠めながら通過していった。
「ヤッバ2発目だ」
また銃口から火炎が見え焦るが射線からして当たりそうもない、しかし地面が迫り雑草が見えた瞬間タキサイキア現象が終わりを迎え、2人揃ってゴロゴロと転がってしまう。すかさず立ち上がったが直後に背中にズン、ズン、ズンと3回強い衝撃が走る。
「ヤバい3発喰った、まずいバトルスーツも貫通した」
背中が熱くなるとともに強く咳き込み吐き気が上がってくるが、構っている暇はなく振り向きながら手榴弾のピンを抜き、玄関に向かって放り投げたアーレイの視界は出血の影響でピントが合わなくなり視野が白くなり始めていた。
「グハッ!」
コンドラトに向かって最後の1個を投げようと手榴弾を取り出そうとすると、左肩に激痛が走り、力尽き倒れてしまう。
「ドカン!ギャー」
最初に投げた手榴弾が黒服の頭上で炸裂すると、大きな爆発音と共に無数の鉄球が降り注ぎ、阿鼻叫喚の世界に早変わりしてしまい、玄関付近に集まっていた黒服が力なく倒れるのが見えた。
「グフォ・・」
しかし増援は止まることなく数名の黒服の男たちは発砲しながらアーレイに近づき、放たれた数発の凶弾は太腿や腹部、背中に突き刺さり、流れ出した血が地面を赤く染める。
「駄目だもう・・もう撃てない」
レーザー銃の銃口を黒服の男たちに向けるアーレイだったが、ボンヤリとした世界は徐々に真っ白くなり、瞼が閉じ暗く無音な世界に引き寄せられるのだった。
宜しければブクマ、感想、評価お願いします。




