殲滅戦
ディスティアとの戦いの続き。
<<旗艦フロスト・艦橋内>>
「副官、どこまで進んでおる」
「はっ!砲門を追加したので1時間ほどで準備が整います」
旗艦フロストに曳航された懺悔の雨は2隻の輸送船が張り付き、追加の砲や砲弾を運び込み絶賛準備中で既に1時間ほど経過していた。そしてアロイスはデルタ艦隊を撃破する為に追い込み作戦開始の号令を下す。
「さあデルタのクリスよ、君が足掻いて死ぬところを見せてくれ!」
命令が下るとフロストの護衛の50万トン級戦艦2隻と重巡5隻、巡洋艦5隻を残し、ディスティア追い込み艦隊が遂に動きだしてしまう。
ーー
<<数十分前・旗艦エルフォード>>
「なあアーレイ、あの強力な可変シールドはどうする?」
フロストの回頭性能、懺悔の射程距離など追い込み艦隊が動くまでの間に、あらゆる事態に対応すべく多種多様な作戦を練りに練ったアーレイとクリスは、集中力が切れる事無く来るべき時に備えていた。
「フロストの可変シールドが逆に狙い目だ」
アーレイは素早い動きが得意な業火級の特性を生かし、先ず前方に烈火を出現させ艦橋に砲撃を浴びせ、シールドが前方に集中する頃を狙い業火をエンジン狙いで後方に向かわせ、強烈はその後ろピッタリと付け絶え間なく攻撃を行うと説明する。
「もしかして超接近戦を行うのか」
「主砲の仰角を取れないからな、憤怒は砲台か艦橋狙いで送り込むつもりだ」
強力な素粒子砲を持ってしても当たらなければ意味がない。砲撃戦を想定して作られている戦艦は近距離戦の事を全く考慮していないので「当てられない所で砲撃すれば楽勝だ」と語り、クリスは「今までそんな事を考えた奴はいないよ」と呆れていた。
「アーレイ、どうしてフロストだけに狙いを定める」
「あれはディスティアの象徴だ。撃破すれば寮艦は搭乗員の救助を最優先するだろうよ」
そもそも旗艦は絶対安全で沈むと想定していないし、権力者の子息などが乗っている場合が多くそう易々と見捨てることは出来ない。行動不能に陥った時点でオープンチャンネルで呼びかければ問題無いという事らしい。
「あいつらは自爆も厭わない連中だぞ」
「先に救助していいよと言えばそんな気は起こさないよ、人間は防衛本能があるからな」
「なるほどな、ほんと人の心情を読むのが上手いな」
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「そんな思考はAiには思いつきません」
「まあ死線を潜ればそのくらい察しがつくよ、君も壊されたいとは思わないだろ」
「それ、わかりみ」
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黒の精霊のお陰かもしれないが若くなったアーレイは昔のように頭が回り、人の思考がサクサクと理解できるようになっていた。それと地球のスラングを覚えて何だか人間らしくなったフェは今回は素直だったわ・・。
「だがアーレイ、追い込まれている最中にそんなに上手くいくか」
「チャフをまき散らしてフロスト攻撃を悟られないようにすればいいだけさ」
※チャフ=レーダー妨害用の細かな金属片。
アーレイはあの新兵器と追い込み艦隊の射程に入らないようギリギリに操船しつつ、業火と烈火をスキップジャンプで送り込みタイミングを見計らい強烈と憤怒を共に向かわせ、自分たちは追い込み艦隊と対峙すればいいと語る。
「緻密な作戦だから君は業火に乗るのか」
「緻密過ぎるからこそ一緒に考える。だから乗らない」
そしてクリスは「司令官が2人とは君は本当に常識破りだな」と言い放ち苦笑いをするのだった。
ーー
<<デルタ王国・王宮>>
ディスティアの多方面攻撃が明らかになった直後、有事の対応のために全ての公務をキャンセルしたジェフは、側に控えていたアニー第3王女とお茶を嗜みつつ戦況の確認をしていた。
「陛下、アーレイ中尉の態度を咎めるつもりはないのでしょうか」
「俺もつい本音で喋れてな、あれはなあれで楽しいのだよアニー、王族ならわかるだろ」
するとアニーは「ええ、わかります」とサラリと答えジェフは「あいつは大物かもしれんな」と返すと「うふふ、礼儀知らずのハンサムさんか」と笑いながら呟き嫌っている様子はなかった。
「陛下、ディスティアの狙いが判明しました。やはりあの小型戦艦を追っています」
部屋の傍に待機していた専任の将校は「フロストが現れ第9艦隊が狙い撃ちにされています」と続け、ジェフは冷静に「無闇に動かせ無いとファルコナーに言われたろ」と返す。
「たしかにそう仰っていました」
そのファルコナーとは第1艦隊の総司令官にしてデルタ宇宙軍最高責任者の任を与えられ、ジェフの学友であり良き相談相手だ。その風貌というとキリリと引き締まった顔付きと、グレイの短髪がよく似合い、未だ現役を思わせる筋骨隆々のThe司令官の雰囲気が漂うそんな男性だ。
「君は結果を可及的速やかに報告すればいい、第9艦隊には悪いが試練のときだ」
「承知しました」
ファルコナーは第9艦隊を見殺しにはしたくない。しかし膠着状態の戦場で戦艦が離脱すれば間違いなく惑星ヴァルに向かうと予想され、それを繰り返せばたちまち大海戦に発展することが容易に想像できて動かしたくても動けないのだ。
「頼むぞアーレイ」
ジェフとて犬死にはさせたくないが戦火が広がることだけはどうしても認められず。アーレイと業火級の活躍を期待するしか無かった・・。
ーー
<<エルフォード・艦橋内>>
「艦長、敵に動きありました」
「来たか、ジョアンとシミオンに最新の座標を送れ、ジャンプの指示は別途出すと伝達」
「懺悔の雨」の準備が出来たのか、遂にディスティア艦隊が動き出してしまう。クリスは慌てること無く、念入りに立てた作戦に基づいて強烈と憤怒に連絡を入れた。
クリス「さてどう動くかな、取り敢えず高度は下げない方がいいな」
アーレイ「射線に入らないギリギリまで引き付けよう」
副官「現在の速度ですと1時間ほどで射程に入ります」
いよいよ始まった追っかけごっこは如何に敵の策に乗らないかが重要だ。急いで逃げれば早くフロストと会敵するし、のんびりすれば挟み撃ちにされるので出来る限り射線に入らないよう速度を合わせるのが肝だ。
「射程圏外を保ちつつ微速前進」
数が少ない艦隊とはいえゼロ発進は混乱の元だ。追い込み艦隊の接近を待ちつつ、ゆっくりとフロストに向けて第9艦隊は発進していく。
ーー
<<デルタ宇宙港・支援艦せせらぎ>>
少し遅れて建造された強烈と憤怒は追加のテストが終わり、新造艦の「支援艦せせらぎ」のドッグに格納されていた。
「ねえシミオン、駆逐艦より何倍もいいでしょ」
「みんなこの船の性能を知ったら志願兵が殺到しそうですね」
せせらぎのラウンジで談笑する男女はアーレイが募った志願兵で「強烈の艦長ジョアン・モルダー大佐」と「憤怒の艦長シミオン・コール大佐」の2人だ。元々第7艦隊と第5艦隊所属の軽駆逐艦の艦長で、ジョアンは金髪を持つお姉さま、シミオンは濃い緑色の髪色の40過ぎのおじさまだ。
「この船は最高ですね、そういえば業火の艦長がバート大佐に交代して、烈火の艦長はアラン中佐が抜擢されましたね」
バート大佐は開発課の艦長でアーレイが応募しても集まらず実績を知るクリスが引き抜いた経緯を持つ、こげ茶色の髪色で少し強面のお兄さん。因みにパイロット上がりで相当優秀な士官だったりする。
「アランの異動届が受理されたそうよ、良かったわねパイロットが戦艦の艦長の座を射止めるなんて大出世よ」
実は業火を実践投入した際、パイロットが強烈なGに耐えながら照準を合わせる事が困難と分かり、艦長がパイロットを兼務して射撃手に武器を任せた方が良いとの結論に至った。そして2人の志願兵は軽駆逐艦の操舵手上がりでパイロットの素質があり、今回思い切って変更する事になり追加のテストを行っていた。
「傷病者が入るカプセルの方が射撃に優れているとは盲点でした」
カプセルは対Gキャンセラーが装着され照準は余裕らしいが、そもそもバーチャルなので当たり前に命中させたりする。
「ええ、私もびっくりしたわよ」
アーレイとしては全員傷病者で構わないが、パイロットと士官不足がここに来て悪影響を及ぼしてしまい、実際問題として艦長が兼務しないと業火級を運用できず苦肉の策だ。とはいえあの強力な素粒子砲は数に限りがあるので、結果さえ出せば乗務員には困らないと考えていた。
「もう凄いとしか言いようがないよ。機動性が戦艦とは思えないし主砲も超強力だ」
「装甲実証実験の結果も凄いよね、エンジンに直接当たらなければずっと戦えるわ」
「新型の射線予報システムなら当たらないし、EMC攻撃耐性が半端ない」
業火級の感想を述べる2人は「見た目で判断して志願しなかった連中は残念ね」と最後に締めくくり笑みを浮かべていた。
Ai「出撃命令発令、出撃命令発令」
<強烈、憤怒両艦は惑星ヴァルにて勃発した小規模海戦に参加せよ>
のんびり談笑しているとモジュールの中空モニターに出撃命令の文字が赤く表示され、同時に支援艦さざなみの副官から連絡が入る。
「ジョアン、シミオン両名確認しました」
「いきなり出撃命令が来ましたね、さあ行きましょう」
2人はラウンジの入口に置いてある傷病者用のカプセルに急ぎ乗り込み、スライドドアが締まると同時に宙を浮きスクランブル専用入口へと向かう。
「これ面白いよね」
「リアルアトラクションですね(笑」
センターシリンダー近くに直径1m程の入口があり、それは自分たちの船に一直線に行ける専用通路だ。医療用カプセルはその入口に吸い込まれると透明トンネルの中を走り抜け、数分後には第1艦橋の中に入っていた。
<こちらさざなみ、紛争地域に入り次第発艦するように、作戦指示書は送った通りだ>
「了解」
さざなみは急ぎ紛争地域である惑星ヴァルに向け出発するのだった・・。
ーー
<<エルフォード・艦橋内>>
さざなみがジャンプ阻害エリアを抜けた頃、まだ射程距離に達していないにも関わらず恐怖心を煽るためだろうか、追い込んで来る艦隊から放たれた無数の青いビームが頭上を通過した。
「クリス艦長、射線に入っていないのにもう砲撃してきます」
「見ればわかるよ!」
クリスはその青いビームを見て少しピリピリしたのか珍しく言葉が粗くなり、アーレイは副長席にどっかりと座り自艦とフロストの距離を測り、そろそろ始まるであろう決戦の時を静かに待っている。
「そうカリカリしないほうがいい、次に対艦ミサイルとかで揺さぶりを掛けてくるぞ」
「ああ、そうだな」
余りにも余裕のアーレイを見たクリスは逆に不安な表情を浮かべたので「それが向こうの動くタイミングだから逆手に取ってやる」と話し終えた途端レーダー手がこっちを見た。
「対艦ミサイルが来ます!数30」
「よしチャンスだ対艦ミサイル同数発射、爆炎が広がったらに敵シーカーに迎撃ミサイルを打ち込む」
「ええ、対艦ミサイルに対艦ミサイルですか?」
引き付けてレーザーで落とすつもりの砲撃手を無視して「発射だ」と命令を下すと、パタパタとセルの蓋が開き対艦ミサイルが一斉に飛んでいく。「迎撃ミサイル用意、僚艦とシンクロを取っとけ」と矢継ぎ早に命令をだす。
「相手の目を潰してもまた上げてくるぞアーレイ」
「それでいい、とりま目を潰したら速力を上げて距離を取る」
クリスはアーレイが何をするのか理解したのか「ああ、なるほど」とつぶやく。しかし下士官は意味がわからないのか首を傾げていた。
「対艦ミサイル着弾いま、迎撃ミサイル発射します」
「いいね、直ぐに落とせるから頼むぞ」
アーレイが操舵手を凝視すると緊張したのか、スロットルレバーを持つ手が震え、それを見たクリスは「アーレイ、転進のタイミングはフロストの射程ギリギリでいいのか」と聞いてくる。
「いやいや、デコイを左に配置してギリ射程内で右旋回だ」
「間違えたら直撃だぞ」
すると「織り込み済みだ」とだけ語り。深読みしたクリスはアーレイはわざと射線に乗り、襲ってくるだろう銃弾の雨を追い込みの艦隊に浴びせるつもりだとわかり呆れていた。
「迎撃ミサイル着弾いま」
「じゃ、スピード上げつつ悪戯の対艦ミサイル追加で同数発射」
「こら、悪戯だとはなんだ」
悪戯といいつつ実は真面目に対応していて爆炎の中からミサイルが出現すれば「迎撃で二手に分かれるチャンスを失うはず」と答え「何でそんなに読みが深いのよ」とまた呆れられてしまう。
「敵シーカー消滅、対艦ミサイル着弾まで30秒」
「今頃、敵さん大慌てだよ警告出たらもう目の前にはミサイルだ」
「悪戯好きだなアーレイ(笑」
「まーねー、それじゃ次はお願い(笑」
花を持たせたいらしく次の命令よろしくとアーレイはニヒっと笑い手を差し出す。クリスは頭をポリポリと掻きながら「俺の方が上官なんだけど」とボヤキながら号令を下す。
「全速前進!!旋回のタイミングを計算して敵艦が撃つであろう位置を割り出しつつ、追手と一直線になる位置を割り出せ」
「流石クリス、1発で理解してくれたね」
優秀なクリスはアーレイの考えを見抜き指示を飛ばす。しかし「デコイ、デコイ」と耳打ちされ悔しそうに追加の指示を出すのだった・・。
「対艦ミサイル全て落とされました(笑」
「そりゃそうだ、あれくらい落とさないとダメだろ」
「ですよね~(笑」
乗組員は恐怖より面白さが勝ったのか笑みを浮かべながら報告を上げていた。そしたら「どうしてお前はそんなに気楽なんだ」と言われ「斜め上が好きなだけだ」と返すと本日3回目の呆れを貰ってしまう。
ーー
<<数分前・ディスティア追撃艦隊>>
アーレイ達を追っていた艦長のアルミンは脅しの砲撃後に対艦ミサイル発射の指示を出し、いままさにセルの蓋が開き無数のミサイルが第9艦隊に向けて飛んでいく。
「敵、迎撃で対艦ミサイル発射しました」
「ふふふ慌てろ慌てろ。デルタの馬鹿は対艦ミサイル撃ってきたよ副長(笑」
「そうですね、普通に迎撃でいいと思いますけど(笑」
レーザーによる迎撃が常套手段らしくアルミンと副長は口角を上げ笑い「すべて落とされました」と聞くと「何を考えているのやら」とバカにしていたが、矢継ぎ早に「シーカー落とされました」の報告を聞くと、攻撃の手際が良く嫌な予感が走ったのか少し表情が硬くなる。
「敵対艦ミサイル出現!数30」
Ai「近距離警報」
「クッソ、爆炎を利用したな、迎撃早く」
数秒も立たずにレーダー手が報告を上げ、間近に迫るミサイルを確認したアルミンは何か意図して攻撃してきたと勘ぐり、モニターを睨むが既にシーカーを落とされ情報が少なく、ギリギリと歯を鳴らし先程の余裕の表情は消え去り速攻でイライラマックス状態に陥っていた。
「シーカーの映像が来ます」
「デルタの艦隊はどこだ?」
数分後、新たに放ったシーカーが第9艦隊の存在を探すが、時すでに遅く数千キロも先行され、副官が「二手に分かれますか」と進言してくる。
「駄目だ、今更二分して追い込むには距離が開きすぎだ(オコ」
まんまとアーレイの策に陥ってしまったアルミンは苦み虫を嚙み潰したような苦い表情を浮かべていた。
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