ナーの決意。
ナーのお話です
<<カルネ共和国・旅客ターミナル>>
昨日ヒャンド共和国を出発した大型旅客船がカルネ空港に間もなく接岸しようとしていた。近距離用のスラスターを使いゆっくりとターミナルに接近すると、乗降用のボーディングブリッジが取り付けられ「やっと着いた」と口々にしながら大勢の乗客が降りてくる。
「連絡が入りました、まもなく開きます」
ボーディングブリッジとは別に地上に近い後部乗降口の扉が開き、待機していた数台の黒いシャトルが動き出し横づけすると若いトラ族の女性が降りてくる。
「ご苦労様、貴方がアーレイ中尉ですか」
「代理のグランと申します、それにしてもジャクリーヌ副将軍が直々のお出迎えですか」
ジャクリーヌは良家の出でにして20代のうちに副将軍まで上り詰めた実力者だ。トラ族特有の黄色の髪色、はち切れんばかりのナイスバディを持ち、眼光鋭く怖い系の美人さん。因みに今の洋装は黒のVカラーのジャケットとパンツの組み合わせだったりする。
「私の頼みを聞いてくれたデルタの方に失礼じゃありませんか、アーレイ様はお忙しいのでしょ」
「いつも忙しく動き回っておりますので、私がお連れしました」
休みなく働き続けたアーレイは休暇を取れると思われたが、コロンの件もあり結局なしだ。なので代理を立てたがジャクリーヌは直接お礼を言いたそうだった。
「ジャクリーヌ様、ありがとうございます」
「私のこと知っていたの」
身元が判明しないように帽子を深く被り、護衛に取り囲まれながらナーと妹が降りて来る。そしてジャクリーヌに対し深く頭を下げていた。
「もちろんです、私はナー、この子はミーと言います」
「ジャクリーヌ様、ミーと申します。助けていただいてありがとうございます」
「ナー、ミーごめんなさいね、私の力が及ばなくて大変な思いをさせてしまって、さあ乗ってください」
挨拶もそこそこにシャトルに乗せられた2人はジャクリーヌの屋敷へと向かう事になり、今回の救出劇の詳細を聞くつもりだ。
「ジャクリーヌ様、これが保護されたカルネ国出身者のリストになります」
「ありがとうグラン、このリストに載っている3名がカルネ出身者ですね」
ナー姉妹の他に3名保護されたが栄養状態が悪く駐屯基地の病院で治療中なので、明後日の定期便で戻って来る事になっている。
「ところでカルネでも奴隷を一掃したと聞いたのですが」
「そうなのですが、星団側に引き渡したいのですが色々問題がありまして」
効率よく検挙するために同じタイミングで救出作戦を行い数名の商人は取り逃がしたものの、囚われていた奴隷は1人残らず保護したが人数が多すぎて困っていた。現在のカルネ共和国はディスティアの支配下に置かれているため、自国民が星団外に出れないのと同じ理由で保護した奴隷を簡単に返すことが出来ないらしい。
「それなら星団会議の議題に上げ、素早く帰国させる形が1番良いかと」
要するに返還要求を出される前にさっさと帰国させた方が得策だとディスティアに思わせるという事だ。そしてグランは正式な表敬は無理だが引き渡しの際に《《偶然》》を装い立ち話程度なら問題ないでしょうと締めくくる。
「それ名案ですね、早速ディスティアに連絡を入れます」
取り敢えず帰国させる目途が付き、ジャクリーヌはこのタイミングでアデールと繋がりを持ちたいと考えグランに親書を託す。
「承りました、必ず直接渡します」
「機会があればアーレイ様とお会いしたいとお伝えください」
今はまだ誰も想像すらできていないがアーレイが奴隷解放を行った事で事態が動き、実現不可能と思われている星団統一の夢が動き出そうとしていた・・。
<<ダイニングルーム>>
帰り時間が迫りアランは屋敷を出て国際空港へと向かい、ナーとミーを交えてお昼を食べることになった。
「ジャクリーヌ様、私たちは家に戻されるのでしょうか」
「そうね、それがいいと思うけど」
食事が進み助けてくれた詳細など一通り話し女子大好きのスイーツタイムに入るものの、ナーの表情は優れずうつむき加減だ。
「2人だけでお話したいことがあります」
「良いわよ、相談事ね」
何か悩みがあるのかジャクリーヌと2人で話したいと言い出し、執務室へと場所を変える・・・。
ーー
<<ナーの実家>>
ジャクリーヌの屋敷を出たシャトルは街で一番大きな屋敷の前に止まり、ドアが開くとナーとミーが降りて来ると、2人を心待ちにしていた母親のアンと族長であり父親のアルが満面の笑みで駆け寄ってくる。
「ナー、ミー」
「お父さん、お母さん」
再会を喜び抱きしめ合う母親とミーはボロボロ泣き崩れ、ナーは涙するもののアルと軽く抱擁するとジッと立ち竦んでいた。
アル「良かった良かった、本当に良かった・・」
ナー「お母さん、会いたかったよ〜」
アン「ごめんなさい私が目を離した隙に」
家族で感謝祭に出掛け見せもの小屋に入り薄暗い通路を歩いていると、2人まとめて転送され気が付けば既に檻の中に囚われていた。毛並みのいい2人に狙いを定めた奴隷商が、視界が悪くなる瞬間を狙い拉致したのだ。少し前を歩いていたアンは自分を叱咤し謝ると、ナーはその時の様子を話し「お母さんのせいじゃないよ」と慰めるのだった・・。
「さあ、みんな中に入ろう」
「うん」
<<屋敷・広間>>
屋敷の中に入り事の顛末の説明になるものの、幼いミーの説明は抽象的過ぎて要点を得ないのでナーが順を追って説明を始めることになり、最初から狙われていて遅かれ早かれ誘拐されていたて決してお母さんの責任ではないと重ねて語る。
「助けたのはデルタ軍の人間なんだな」
「はいアーレイ様です。副将軍様は無闇に教えるなと言われました」
未だアーレイの名は知られていない。しかし奴隷解放の立役者だと広まれば反星団側に狙われる恐れがありジャクリーヌは口止めをしていた。
「そうか、デルタが救ってくれたのか」
「はい、ジャクリーヌ様とアーレイ様のお陰です」
敵国である筈のデルタが獣人を救い、自国の副将軍と繋がりがあると聞いたらアルは嬉しそうに「やはりクーンは我々を見捨てるつもりは無いのだな」と呟く。自分たちの主はクーン精霊女王だと信じてはいるものの、ディスティアのせいで歯痒い思いをしていた。
「アーレイ様にとても優しくしてもらったよ、それとね犬族の女の子と一緒に動いていてコロンて呼んでたよ」
「そうか、そうか」
仲が悪いとは言え作戦中は悪態はつかずコロナは真面目に動いていた。なので仲間と見ていたのだろう。一通り話が終わり、覚悟を決めたのかナーは姿勢を正す。
「お父さん、お母さんとだけお話ししたいの」
ナーは重要な事を伝えたいのか「ミーは自分の部屋に行きなさい」と少し低めの声で言い放つと、ただならぬ気配を感じたのか黙って席を立つ。
「ナー、何かあったのか」
ナーは話を始める前にボロボロ泣き始め「操を奪われました」と小さく呟く。アンとアルは驚愕の表情を浮かべつつナーの身を案じ寄り添い抱きしめた・・。
「私が拒否するとミーが先にと言われて・・」
「辛かったわよねナー」
母親が優しくナーを抱きしめ少し経つと落ち着いたのか涙は止まり、同時に真剣な眼差しになると2人に向き直る。
「お父さん、お母さん今まで育ててくれてありがとう、私は家を出ます」
「ナー!何を言い出すんだ」
「お父さん分かっているでしょ、族長の娘が傷物になったんだよ」
間もなく成人を迎えるナーは婿養子を取り家督を継ぐと決まっていたし、古くからのしきたりで生娘が絶対条件なのでその座をミーに託すつもりだ。そして邪魔者になる自分は家を出ると決めたのだろう。
「再生すればいいじゃないか、俺が何とかするから」
「秘密にしても必ず漏れるよ、それにここじゃ幸せにはなれないわ」
アルは傷物でも大事な娘には変わりは無く嘘をついてでも守るつもりだ。しかし婚姻を結んだ後に生娘では無いと判明すれば、たとえ事情を話したとしても責任を取って族長の座を降りなければならないし、後ろ指を指されこの地域で生きて行く事が困難になるだろう。全てをわかった上でナーは決断をした。
「あのね、私は死んだ事にしてね。辛いよね私も辛いよ。けどミーは助かったんだよ」
「ナー・・」
詳しくは語らないくても意味を理解したアルは腕を組み黙ったままで、辛い決断をした娘が可哀そうで仕方がないアンは涙を溢し「本当にでるつもりなの」と聞くと、ナーは決意を固めているのかジャクリーヌを頼りアーヴィンのレジスタンスに加わると言いだした。
「駄目だ駄目だ、レジスタンスなど危険すぎる」
当然のように猛反対されてしまうが、ナーは駐屯基地でアーレイと話した時に「星団を統一を目指している」と聞き共感を覚え、いつの日か自分を必要とする日が来ると考えレジスタンスに加わる決断をしたと語る。
「覚悟はできているわ、こんな私になっちゃたけどきっとアーレイ様のお役に立てると思うの」
「星団統一だと・・俺は、俺は決めれない」
ナーの表情は覚悟を決めた凛々しい顔へと変わり、それを見たアンは何かを感じたのか「その彼の為に働きなさいと」と背中を押してくれた。アルは決めきれないのかムスッとした表情のままだ。
「お父さん優しいもんね、あのね最後の我がまま、初めての我儘を聞いて!」
その「初めての我儘」一言でアルは頭の芯から痺れる。これまで何でも言うことを聞いてまっすぐ育ってきた自分の娘は、覚悟を決め独り立ちをさせてくれと頼んでいるのだ。
「ナーは我儘を言ったことは無かったね、ナー行きなさい」
「うん、ありがとうお父さんお母さん」
アルは近くでナーの幸せを見て過ごすのが夢だったがそれも叶わぬ夢へと変わり果て、どうする事も出来ない歯痒さを感じていた。しかし自分の幸せは自分で勝ち取ると決めた娘を見て、手元に置けば辛い思いをするだけだと気が付き、快く送り出そうと決断するのだった。
「お姉ちゃん!」
「ミー!あなた聞いていたの」
襲われそうだったミーは暗い表情をみてあの男に乱暴されたと薄々感じていて、間違いなく姉は重大な決断をすると考え部屋を静かに抜け出し、3人のやり取りを陰から伺っていた。そして自分を守ってくれた姉に感謝したくて名を呼んだのだ。
「お姉ちゃん、私を守ってくれてありがとう」
「いいのよ、だってあなたは可愛い妹ですもの」
そして2人は抱きしめ合い間も無く訪れるだろう別れを惜しむのだった・。
<<数時間後・ダイニングルーム>>
その日の夕食は、帰ってきた喜びと少し暗い表情が混じる少し静かな食卓となった。
「今日は2人が大好きな、スターゲイジーパイとお刺身よ」
「わぁ美味しそう!」
そんな暗い表情を打ち消そうとアンは2人の大好物である見た目がアレなパイと、新鮮なお刺身を用意してくれる。そしてミーは怖い物知らずなのか猫族の血が騒ぐのか上を向いている頭を掴み取るとそのまま口に入れ、ムシャムシャバリバリと美味しそうに食べていたよ・・。
「ミー、頭だけだべちゃダメよ」
「だって美味しんだもん」
「ふふ、人間は気味が悪いと言って頭は食べないんだよ」
普通は頭を残して食べるが猫族の常識は違うらしく奪うように食べていた。ミー曰く「歯応えが最高ニャー」だそうです・・。
ーー
ナーは人目につかぬよう静かに屋敷で過ごし、数日後ジャクリーヌから準備が出来たと連絡が入りまだ薄暗い早朝の中、人目を避けるように部屋の中で別れを済ませ黒いシャトルに乗り込みレジスタンスになるためにとある場所へと向かう。
<<特殊部隊養成学校>>
「ようこそ特殊部隊養成所に」
「よろしくお願いします、ジャクリーヌ様」
通常の教育科では時間の無駄だと判断したジャクリーヌはいきなり特殊部隊養成所に放り込み鍛え上げようと考えた。もちろん今まで戦闘経験のないナーは驚くと思われたが、覚悟を決めた彼女は怯むことなく門を潜る。
「明日までに身体測定と座学を強制学習で終わらせ戦闘訓練に入ります」
この施設は暗器を駆使した殺人訓練から始まり銃を使ったCQB訓練、野外サバイバル訓練、水中訓練など多岐にわたる。
「貴女基礎体力が凄いわね」
「ええ、スポーツ大好きですから」
スポーツ好きのナーは猫族特有の柔軟な身体能力をフルに発揮し、簡単に身体測定試験をクリアする。反射能力や視力が特に優れ、鍛え上げれば間違いなく対人戦闘で優秀な成績を収める事だろう。ジャクリーヌもこればかりは血筋だと認めざる得なかったそうだ。
<<数ヶ月後・模擬戦>>
先に訓練を始めていた先輩たちを相手にナイフ1本による模擬戦を行いトーナメント制で勝ち上がったナーは、訓練生の中で一番の技術を誇る豹族の男性と優勝を掛けた戦いに挑む事になる。
「それではここまでとする、勝者ナー!」
「やっと勝てた・・」
時間切れ寸前に繰り出してきた先輩の前蹴りを利き足で右に受け流すと開いた胸を狙いカウンターの刃が突き出される。ナーは紙一重で右回転しながらかわしつつ左腕で相手の利き腕を巻き込み体制が崩れた所で喉にナイフを当て勝負が決まった。
「ここまで飛び込んで来るとは」
「だって巻き込まないと斜めにバッサリと首を切られちゃうもん」
ナーが利き足で右にかわしたので突っ込んでいけば軸足だけでは十分に下がれず、間合いが詰まるのでカウンターを逸らしたところでナイフをそのまま振り上げれば首を獲れると思ったのだろう。しかし可愛らしい彼女は度胸があり逆カウンターを入れられ負けてしまったのだ。
「見事だったわナー、ここまで上達するとは思わなかったわ流石ね」
「ジャクリーヌ様ありがとうございます」
ナーが勝ち進んでいると聞いて様子を伺いに来たジャクリーヌは凄く満足した表情を浮かべていた。この後もナーは期待を裏切ることなくメキメキとその頭角を表していくこととなる。だがアーレイと再会するのはまだ少し先の事だ。
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