幸運の錬金術士は新たな錬金を覚える
今日もチームハウスにやって来た僕。
もちろんポーションの錬金をするためだ。
でも僕の先生と言うかビジネスパートナーのリサさんは今日はポーションは作らないという。
やる気出して来たのに削がれるな。
「なんでポーションを作らないんですか?」
「いい質問ね。ねえアーキ君、人生の波って知ってる?」
「波ですか? なにをやっても上手くいかないとかそんな感じのことです?」
「そうね、でもそっちは悪い波の方ね。いまアーキ君に訪れているのはなにをやっても成功する人生絶好調の波よ。この最高潮の波を逃したら、あとはなにをやっても上手くいかない人生の波の谷間だからね! あとは落ちるだけの人生よ!」
リサさんは悪気が有って言ってるんじゃないとは思うけど、後は落ちるだけの人生って……思いっきり嫌なことを言われたよ。
「私にも今人生最高潮の波が訪れてるわ! それはね」
リサさんがグイと顔を寄せてくる。
「アーキ君との出会いよ! 私はこの幸運を逃すつもりなんて無いですから! ガッツリ幸運を抱きしめてガッポリお金を儲けまくって後は寝てるだけでも暮らしていける成功者になるのよ!」
おまけに思いっきり俗な夢まで語ってるし。
リサさん、お金が好き過ぎっぽい。
そんな彼女は机の上にドンと錬金材料を置いた。
今日は錬金はしないって言ったのになんで?
「違うわ、アーキ君。これはいつものポーションの材料じゃなく、マナゲインの材料よ。今日はハイポーションで儲けたお金をマナゲインの材料に先行投資したわ。さあ、この私にマナゲインを作って見せて!」
いきなりマナゲインを作ってみろと言われてもなー。
マナゲインはかなり作るのが難しいらしく一人前の錬金術士でも苦労するみたい。
作り方どころかレシピもわからないぞ。
「マナゲインはポーションと比べてかなり錬金の難易度が高いんじゃないんです?」
「高いわよ。私にはめったに作れないぐらいだし、作り方を教えることも出来ないわ」
胸を張ってそう自慢された。
ちなみにリサさんの作るマナゲインはいわゆる失敗作で、飲んだら3日間お腹ピーピーになってトイレから出れなくなるような破壊兵器だそうだ。
「僕は作り方がわからないんですが、リサさんに教えてもらえないのならどうやって作ればいいんです?」
「それなら安心して。町一番の錬金術士を紹介するから安心して」
そして紹介された家の住人は……。
シェーマス爺さんだった。
「アーキ、畑仕事は順調か?」
「ええ、順調です。シェーマス爺さんは畑だけじゃなく錬金も出来たんですね」
「錬金するのはワシじゃないぞ」
シェーマス爺さんは部屋の奥に声を掛ける。
「婆さんや、アーキが来たぞい」
「はいはい、ちょっと待っておくれ」
奥の部屋からやって来たのはアンナ婆さん。
姉さん女房なのでシェーマスさんより歳を取ってるみたいで、足がおぼつかなく杖を突い歩いていた。
「婆さんは、アーキの親父さんが錬金術ギルドを作るまではこの町で唯一の錬金術士だったんじゃぞ」
「錬金術士と言ってもあんたのお父さんみたいにすごい事はなにも出来なくて、病人が来たら毒消しやポーションみたいな簡単な薬を調合するだけの魔女みたいなものだったけどね」
リサさんがアンナ婆さんに挨拶をした。
どうやら口調から知り合いだったみたいだ。
子供の頃に何度か病気を見てもらってみてたみたい。
「アーキにマナゲインの作り方を教えてやって欲しいんですが」
「もう何十年も作ってないけど、いけるかの?」
そういってマナゲインの錬金を始めたアンナ婆さん。
錬金するのは久しぶりで最初はおぼつかない感じだったけど、錬金しているうちに段々と思い出してきたのか手つきがかなり様になって来た。
「これでどうかの? ギリギリ劣化マナゲインにはなってないはずだのう」
マナゲインが出来たのを見て、リサさんのテンションが上がりまくり。
「1本2万ゴルダのマナゲインが出来たわ。さあ、アーキ君も作ってみて!」
瞳の奥にキラキラと光るお金を思い浮かべて顔をグイグイ寄せてくるリサさん。
アンナ婆さんがマナゲインを作ったことで僕も錬金を成功するとしか思ってないみたい。
難易度はかなり高そうなんだけど、失敗したら怒られそう。
「材料は沢山あるので失敗しても構わないわ!」
アンナ婆さんに教えてもらいながら錬金を始める。
材料は
・薬草×5
・魔石小×1
・水
魔石小はこの町の外すぐ近くを徘徊するホワイトウルフクラスの強敵が落とす素材だ。
材料費は魔石だけで1万ゴルダ。
薬草も5束なので材料費だけで12500ゴルダもする。
冒険者の日当はこれぐらい貰っていると聞いたことがあるんだけど、成功するかわからない錬金の材料にこんな大金をつぎ込めるリサさんは凄いな。
でもリサさんは気にしてなかった。
「なにごとにも投資は必要よ。大きく儲けるならなおさらね!」
僕はリサさんの期待に応えるべく、本気で錬金をする。
魔力を注入する工程が大変だったけど……。
「出来た!」
「アーキ君すごい!」
早速出来上がったマナゲインの鑑定をアンナ婆さんが始めた。
「品質は普通のマナゲインで特に問題ないの。あとは訓練じゃの」
僕は一人前の錬金術士が作ることが出来るマナゲインの錬金を覚えた。
今の僕は最高潮で波に乗りまくっている。
だがアーキの波はまだまだ上り調子で頂点を迎えたわけではなかったのだ。