僕の日常 - ギルド長の無理過ぎる要求で酷い目にあった
※コメディ少々
※いきなり最強ではありません
※徐々に強くなります
※ハーレム要素有ります
「アーキ! ちょっと来い!」
僕は錬金術ギルド長のボーゲンに呼ばれた。
ギルド長とは言ってもこの小さなリタリフの町の錬金術ギルドの関係者は親代わりであるボーゲンとギルドメンバーの僕しかいない。
ちなみに他の人の前で『ボーゲンさん』というと殴られるのでギルド長と呼んでいる。
「なんですか? ギルド長」
「てめー、舐めてるのか? 昨日に続いて今日も薬草の納品が少くねーじゃねーか! どうなってるんだ!」
そして飛んでくる拳。
避けると滅茶苦茶怒りまくるので勢いを殺すように少し下がりながら鼻血が出ない程度に殴られる。
毎日殴られているので、だいぶ慣れてきた。
なんで怒るんだろう?
少ないと言っても納品袋の規定量はちゃんと超えている筈なのに。
薬草のシーズンなら納品袋をいっぱいにするのは簡単なことだけど、シーズン外れのこの時期に納品袋いっぱいの薬草を集めるのは大変だったんだよ。
僕だからこそここまで集められたのに……。
「でもギルド長、この時期は薬草のシーズンじゃないから、それだけの量を採るのも大変だったんですよ。多分僕じゃなければその袋の半分も集められていないはずです」
僕が口答えしたのが気に入らなかったらしく、また殴られた。
まさか連続で殴られるとは思っていなかったので避けそこなって唇から血が滲んでいる。
僕が睨むとボーゲンは僕の眼付が気に入らなかったのか怒鳴り散らす。
「つべこべ言ってないで足りない分をすぐに採りに行け!」
「そんなー。もうすぐ日没になる時間だから明日で勘弁して下さいよ」
「つべこべ言うんじゃない! 明日じゃ錬金が間に合わないだろ! また夕飯抜きにされたいのか? 珍しくポーションの注文が入ってるんだ、その袋が満タンになるまで帰ってくるんじゃねーぞ!」
僕の抗議もむなしく、ギルドを追い出された。
日の傾き始めているこの時間から新たに納品袋いっぱいの薬草を集めてこいとか、無茶振りすぎる。
錬金術ギルド長はやたら僕に難癖をつけてくる。
この時間から薬草を採りに行ったって大した量採れないのはわかっているのに……。
今日も殴られるだけ殴られてご飯抜きなのかな……。
はぁ、こんな最低な生活から抜け出したい。
*
元々あの錬金術ギルドは僕の父と母の物で、僕の家でもあった。
でも半年前に起きたモンスターによる馬車襲撃事件で父と母は他界。
唯一のギルドメンバーだったボーゲンに給料の未払いがあったと言うことで、村長の口添えもあって給料の代わりにボーゲンがギルドを手に入れた。
父さんが給料の未払いなんてするはずもないのに……。
僕が給料明細の控えを証拠として抗議しても村長たちは誰も信用してくれなかった。
それ以来、錬金術ギルドを乗っ取りボーゲンがギルド長になったのだ。
ボーゲンのお情けということで屋根裏部屋に住まわせてもらって、寝食の代わりに錬金術ギルドのメンバーとして働くことになったんだけど、さっき見て貰ったように殴られてばかりで下働き以下の扱いだ。
何かあるごとに怒鳴られるか殴られるかの毎日。
早くこの町を離れて王都バーナリアに行きたい。
錬金術学校に入って本格的な錬金術師を目指すのが僕の夢。
でも成人になるまではこの町を一人で離れられないのがこの町の掟だった。
村の西門に辿り着くと門兵のゴッサ兄ちゃんが心配そうな顔をする。
僕が小さなころからの知り合いで本当の兄代わりみたいな人だ。
「またこんな時間から薬草採りなのか?」
「ええ。ギルド長に薬草の納品量が足りないとどやされました」
「うそだろ? 今日はあんなに薬草を集めていたのにあれで足りないのか?」
「結構多かった筈なんですけどね」
二人して肩を落としため息をつく。
「この時期にあれだけの量の薬草を集められるのはアーキぐらいのもんだろ」
「それも言ったんですけど、聞いてもらえませんでした」
「そうか……僕の方からも商工会長のクラウスさん経由で町長のワーレンさんに話をしてみるから、今日は気を付けて薬草を集めてこいよ」
「ありがとう。行ってきます」
僕は夕日に染まる森へと向かった。
*
この時期外れに薬草を採るといっても町の近辺には生えてるわけもなく……。
薬草を求めて山の奥に踏み込むと暗さのせいか迷子になった。
嘘だろ?
この森には数えきれないほど入って目を瞑っていても歩ける庭みたいなものなのに、なんで迷ったんだ?
頭上は樹木に覆われて月どころか星も見えない。
ただただ暗いだけの森。
今は何時ぐらいなんだろう?
もうご飯が済んだ時間なのかな?
空が見えないのでそれさえわからない。
薬草を探してみるけど辺りに見覚えがなく、どこに薬草が有るのかさえ分からない。
ここは下手に動き回るとホワイトウルフに匂いを嗅ぎつけられて襲われるかもしれない。
僕は日が昇るまで高い木の上で過ごすことにした。
幸い目の前の小高い丘の上に大きな木が生えている。
今日はあそこの木の枝の上で過ごそう。
木の上に登ると横になれる枝を見つけた。
これでぐっすり休める。
……ぐぅ。
イビキじゃない。
お腹が鳴ったんだよ。
今日は朝しか食べてないもんな。
こんなにお腹が空いてたら寝れやしない。
ボーゲンが保護者代わりになってから一日三食の普通の食事は朝食と夕食の一日二食で粗末なものとなった。
当然お弁当なんて持たせて貰ってないから昼は食べていない。
父さんと母さんが生きてた頃は昼を抜いたことなんて無かったのに……。
お腹すいたな。
日が昇るまでここで過ごして、薬草を集めて戻ったら朝食の時間は終わってるはずだ。
昼食なんて無いので、当然夜まで何も食べられない。
明日の夜まで何も食べられないと思うと目の前が真っ暗になった。
母さん、父さん、僕はもう耐えられないかもしれない……。
『アーキ、元気にしてるか』
『男の子なんだから頑張るんだよ』
もう会えない優しく懐かしい両親の姿が瞼の裏に浮かぶ。
懐かしさと同時に僕の心から弱音があふれ出た。
「もう、僕疲れたんだ……。父さんと母さんに会いに行ってもいいかな?」
瞼の裏の父さんと母さんは返事をしてくれなかった。
その時!
目の前が明るく光りだした。
なんだこれは?
目の前の枝から光る果実がぶら下がっている。
さっきまでこんなものは無かったのに。
果実から漂うみずみずしい香り。
でも手に取るか悩んだ。
だって……紫色を中心に毒々しい七色をした果実なんだよ。
見たこともない果実だ。
これ食べたら絶対にお腹を壊しそうな見た目。
お腹を壊すで済めばいいんだけど……この色じゃ間違いなく毒が入っていて口にしたら死ぬかもしれない。
でも、空腹の僕はその匂いに耐えられなくなっり果実を口にしてしまった。
口の中でほとばしる果汁。
あっまーい!
うんまーい!
なにこれ?
こんなおいしい果物を初めて食べたよ!
シャリシャリとした独特の食感も心地いい。
ほとばしる果汁が僕の喉の渇きを一瞬で潤す。
あまりの美味しさに身体の疲れも吹き飛んだ。
もっとないかな?と思っていると、次々に実り始めた。
僕は片っ端から食べる。
「うまうま、うまーい!」
気が付くと10個の実を食べていた。
食べてから毒のことを思い出したけど死ぬことどころかお腹が痛くなることも無かった。
*
翌朝、日が昇ると共に薬草を集める。
あれほど見つからなかった薬草だけどすぐに集まり納品袋から顔を出すぐらい集めた。
これなら殴られることはないだろう。
急げば朝食の時間にも間に合いそう。
今日はすごくついているな。
まあ、道に迷って野宿までして、ついているも糞もないんだけど。
これだけ集めればギルド長も文句言わないはずだ。
僕は昨日の迷子はなんだったんだろうと思うほどあっさりと町へと戻れた。
町の外ではゴッサ兄ちゃんが僕の捜索に出るところだった。
「おお、アーキが戻ってきた! よかった」
「ゴッサ兄ちゃん!」
「心配したんだぞ」
ゴッサ兄ちゃんは優しく僕の肩を抱きしめてくれる。
町へ戻って来れた安堵感で僕の頬から涙が流れた。
*
実は……。
アーキの食べた果実はただの果実ではなかった。
その果実は『幸運の実』と呼ばれる果実。
『世界の狭間』にだけ生える『精霊木』のうち、10000本に1本の確率で生えると言われている『大精霊木』が100年に一度だけ実らす果実だった。
その実を食べたことで『幸運+2』と『幸運×10倍』の効果。
しかも10個も食べたのでその効果は更に10倍の『幸運×100倍』。
つまり『幸運+20』と『幸運×100倍』の効果で『幸運+2000』というこの世で一番、いや神をも凌駕するほどの幸運のステータスを手に入れたのだ。
その幸運のおかげで、普通は入ったら二度と戻れない『世界の狭間』から戻ることが出来、簡単に薬草を集めることが出来、山を下りることも出来たのだった。