第4話 再び星を探しに
ハンスは小さくほほえむとうなずきました。
「さがしにいこうか、ファルコン。」
@@@@
空をみるとシャンパンのような淡いピンク色をしていました。夕方だったのです。
こんなに明るくては星の光もよく見えないだろうに、ファルコンはなぜ今やってきたのだろう。
ハンスは一しゅん不思議に思いましたが何も聞かず、ファルコンの背中のずっと先、ふもとの村を指差しました。
「あっちを探そうよ。」
そして昨日のようにファルコンの手をとりました。
ハンスはあることに気づきました。そして悲しいきもちになりました。ファルコンの手がたいそう冷たかったのです。
『ファルコンは本当は気づいているんだ。』
ハンスは思いました。
白いうねうねとした道をふもとへむかって歩く2人。それは黄泉路を行くことに似ていました。
黄昏に、一番星。
「おぶってあげるよファルコン。」
ハンスはファルコンをかたぐるましました。
「これなら良く見えるだろう?」
ファルコンは嬉しそうでした。
ファルコンとファルコンをおぶったハンスは、大きな一つの生き物のようになりました。
長い影を落として、黄昏から夕闇へと変わりつつある森をなんだかとぼとぼ歩くのでした。
「星やーーーい!」
ハンスは叫びました。
「ほしやーーーい!」
ファルコンも叫びました。
おー ほー おー ほーー!
どこにいるんだ。ほしやーい。戻っておいでー。光って居場所を教えておくれー。
2人は声をあげながら切実に歩きました。
月がでて、夜が空一面をおおうまで、ファルコンの星をさがしつづけました。
@@@@
おぶっていたファルコンを地面へおろすと、ハンスはファルコンとふたたび手を繋ぎました。
あんなに冷たかったファルコンの手はだんだんハンスの手となじみ、同じあたたかさになってゆきました。
あるかなきかのようなファルコンの手。
ハンスは次第に一人で歩いているような気持ちになりました。
@@@@
氷に入れたようにハンスの手は感かくをなくしてゆきました。
もはや、どこまでがハンスの手でどこまでがファルコンの手なのかハンスにはわからなくなりました。
隣を歩くファルコンの姿は透明な影のようであり、見えるようで見えない、見えないようで見えるのでした。
ファルコンはハンスの影になってしまったのかもしれず、いいえ、ハンスがファルコンの影になってしまったのかもしれません。
歩き続けるハンスの心は徐々に淋しさで沈んでゆきました。
気がついたら星はどこにもなかったのです。
お父さんに叱られると思ったから村のはずれまでさがしにいったのです。
そこにもなかったから森の入り口もさがしてみたのです。
みつけられなくて森の奥へ奥へと歩いていったのです。
お母さんの名前を呼んだけれど、お母さんは現れませんでした。
太陽が隠れて、夜になって、また現れて、天上をのぼり、また傾いて……。
何度も。
何日も。
【次回】
第5話 君の星を見つけたよ