第3話 君は一生自分の星を探すことはできない
いえ、正確に言うと『くまのぬいぐるみ』でした。
茶色の柔らかな太い糸で織り上げられたふわふわの体。ていねいに口やまゆ毛が刺しゅうされ、体にぴったりあわせてぬわれたチェックの服とベルトつき半ズボン。つやつやしたボタンの鼻に、目だけがビー球のような青い色。
青い目のくまなんて見たことがありません。
ハンスは一つの可能性に思い至りました。そしてそれはハンスをとても悲しい気持ちにさせました。
ファルコン、きみは妖ではなかった。でももし私の考えが正しいなら。
正しいのならば、ファルコン。きみは一生自分の星を探すことは出来ない。
気がつくと青い目のくまはあとかたもなく消えてきました。
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翌日、3時間はかかる隣の村までわざわざハンスはおりてゆきました。
村中に聞いてまわります。
「ファルコンという男の子の両親がいませんか」と。
なかなか見つけることはできませんでした。
そこでハンスは質問をかえてみました。
するとすぐにハンスは両親をみつけることができました。
悲しいかな、それはハンスの考えが正しいことを表わしていました。
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村の外れにくすんだ赤いレンガの家があって、そこがファルコンの両親のすまいでした。
白髪に数本灰色が混じる、もう老人といってよい年ごろの両親を前にハンスは言いました。
「昨日、ファルコンが僕の家へ星をさがしにやってきました」
2人のおどろいた顔。
「ファルコンは自分が亡くなっていることに気づいていません」
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両親が語るには、そのときファルコンは6さいだったそうです。
狩りをしていた父親がうっかりおいた瓶の毒をファルコンは間違えてなめてしまったのです。
『あっ』という間もなくファルコンはたおれ、そのまま息をひきとりました。
もう大人になれないファルコンのために両親は『星の墓』を作ってあげました。
くまのぬいぐるみのお腹に星を埋めて、ファルコンに抱かせてあげたのでした。
「とっくに天国へ行っていると思っていたのに」
両親はさめざめとハンスの前で泣きました。
「生きていればあなた程の年。それがいまだに暗い森をさまよっているとは、かわいそうに」
朽ちてしまった自分の体のかわりに、いつしかぬいぐるみの体をファルコンは借りるようになったのでしょう。
もう何十年もファルコンは星をさがし歩いているのでした。
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森へ帰ったハンスにはとても難しい宿題が残されました。
どうやって悲しませず、ファルコンを空へかえすか。
ファルコンが毎晩ハンスの家にやってくるのは、おそらくハンスにしか見えないからでしょう。自分を見つけてくれる人があらわれるまでファルコンはずっと森をさまよっていたのです。
ファルコン、星はね。どこにも行ってはいないのだよ。最初からきみの中にあったんだ。
でもファルコン。どうすればきみに気づかせてあげられるんだろうね。
ハンスは、木の椅子に座ってだまって夜を待ちました。
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とんとんとん。
ハンスの家のドアをノックする音がしました。
ハンスがドアを開けると、果たしてファルコンがそこにたっていました。
「僕の星を知りませんか」
【次回】
第4話 再び星を探しに