第2話 意外な正体
「僕の星を知りませんか」
ハンスは黙って男の子を見下ろしました。昨日と同じ場所に空の星がまたたいていました。
「ファルコン、昨日も来たね」
「星を探してるんです」
「お父さんかお母さんはどうしたの?」
「わからない」
「わからないでは困るね、ファルコン」
ハンスはしゃがみこみ言いました。
「大人をからかってるね? さもなくば……」
ファルコンは何の表情も顔に浮かべることなくハンスを見つめました。
『さもなくば、きみは妖だよ』
ハンスは心の中でつぶやきました。
妖――あやかし――ハンスはファルコンを妖怪だと思ったんですね。
いたずら好きの妖怪は人を困らせるのが大好きです。
星がないと言ってはあっちに連れて行き、こっちを探させて、道に迷わせておいてきぼりにさせるつもりかもしれませんでした。
『しかしファルコン、残念だったね』
ハンスはこっそり思いました。
今日はね。昨日とは違うんだ。晴天の空に満月なんだよ。
どんな妖であっても満月の光に照らされれば正体を隠すことはできないんだ。
こんな小さな男の子に化けて、人間をだませばどうなるか、きみは思い知らないといけないだろうね。
ファルコンとは大げさな名前だ。本当はキツネなのかムジナなのか知らないが、遊びは今日で終りだよ。
ハンスは男の子と連れ立って森の中へと進んでいきました。
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腰から下げた皮袋にナワを隠し、カンテラをかかげてハンスと男の子は進みました。
森のある一点、満月が垂直に光をおとす場所があって、そこはこう言われていました。
『しんじつの丘』
丘のてっぺんまで行けばどんな妖も正体を現さずにはいられないのでした。
ハンスは違う道に行かないよう注意深く、一歩一歩をすすめていきました。
男の子は恐がることもなくハンスとに手をとられてついていきます。
ハンスは男の子の目がひすいのような色をしていることに気づきました。
ふかい、みどりの、しずんだまなざし。
妖ならばもっと『明るいいたずらなひとみをしていても良いものを』ハンスは思いました。
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とうとう丘のてっぺんへたどりつきました。
満月の光りがようしゃなくハンスとファルコンを照らしました。
ハンスはよーーーく目をこらしてファルコンをみました。
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光りに照らされて、みるみるファルコンはその姿を溶かしました。
ファルコンの髪は、肌は、すりきれたチェックの服は、光りに照らされて細かなかけらになり、ちらちらちらちら……と音にならずに飛び散って、夜のひんやりとした大気にきえてゆきました。
しかし、残されたしんじつの姿は意外なものでした。
キツネでも、ムジナでもなかった。
小さなくま、だったのです。
【次回】
第3話 君は一生自分の星を探すことはできない