第1話 僕の星を探してください
「僕の星を知りませんか」
そう言われてハンスは困ってしまったのです
もう夜半過ぎ。こんな小さな子が出歩くような時間ではありません。
森の奥深く。一人で暮らすきこりの家へやってきた男の子。玄関で光に照らされる顔はあどけないものでした。
「知らないよ。落としてしまったの?」
ハンスが問いかけると男の子はコクリと頷きました。それは大変なことだ、ハンスは思いました。
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ハンスの国では赤ん坊は星とともに産み落とされます。
星は最初薄いピンク色をしているのですが、日がたつにつれて徐々に輝きを増してゆきます。白く強い光をピカピカと放つようになれば『大人になってよい』という合図でした。
満月の良い晩を選んで子供たちは星を飲みほします。やがて眠りにつくと、星から放たれる糸がまゆとなって柔らかなベットのように子供たちをおおいます。目を覚ました彼らは大人の姿でまゆを破ってでてくるのでした。
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男の子が星を無くしてしまったということは、いつまでたっても大人になれないということです。なぜ両親がつきそって一緒に探してあげないのかと、ハンスはいぶかしがりました。
ハンスは玄関先でしゃがみこみ、男の子に問いかけました。
「いつなくしたの?」
「ついさっき」
森で遊んでいたら、首からぶらさげていた星がどこかへいってしまったの。
「ご両親は?」
わからない、男の子は唇をかみしめました。わからない。
ハンスはなんだか男の子がかわいそうになりました。
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「わかった。一緒に探してあげるよ」
ハンスはいったん家の中に入るとカンテラ(持ち運べる灯りのこと)を持ち出して男の子と一緒に外にでました。ハンスの左手が男の子の右手をつなぐと、それはとてもあたたかくて柔らかなものでした。
暗い森に、一本の白くてうねうねとした道。雲におおわれた月からささやかな光りが差します。二人はなんだかとぼとぼと男の子の星を捜すのでした。
「そうだ。きみの名前を聞いてなかったね。お名前は?」
ハンスが問いかけると男の子は言いました。
「ファルコン」
「ファルコン!」
ハンスは驚いてみせました。
「それはとてもいい名前だね。空の神さまの名前だよ。」
ハンスは教えてあげました。
「空のファルコン。海のポセイドン」
ファルコンはただ首をかしげました。
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「あなたのお名前は?」
聞かれてハンスはびっくりしました。ずいぶんしっかりとした男の子だと思ったのです。
「ハンスだよ」
ファルコンは繰り返しました。「ハンス」
「ハンス。ありがとう」
「どういたしまして」
その晩中2人は星をさがし歩きましたが、ぼんやりとしたピンクの光りは見当たりませんでした。ハンスは男の子を家に連れて帰りました。
綿の真新しいパジャマの上着を与えハンスは男の子とともに眠りにつきました。
目が覚めると男の子はいませんでした。
【次回】
第2話 意外な正体
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初めて「小説家になろう」に投稿しました。よろしくお願いします。
2008年3月12日に作成【全6回】
課題小説
右記単語を小説中に入れることを課題にしています。「ぼくの」「あなたの」「黄昏」「くま」「毒の」