表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/28

第十七話 そして唐揚げを作ることになった

「さて、話がまとまったところで」


 ミノリさんが、テーブルを軽くノックしてみんなの視線を集める。


「わたしはね、唐揚げが食べたいんだけど」


 ちなみに、ミノリさんの右手は、未だオーエンさんに握られたままだ。ミノリさんはその手を引っ張って、挑発するようにオーエンさんの顔を覗き込む。

 オーエンさんは眉を寄せた。


「だから、あれは魔力の塊だ。君に食べさせる訳には……」

「オーエンはさ、シンイチくんが出した唐揚げが駄目だって言ってるんだよね?」


 オーエンさんは言葉を止めて、ミノリさんの様子を伺う。そうやっていれば、相手が何を考えているのかわかるのだろうかと思うくらいじっと、ミノリさんを見詰める。


「そんなに警戒しないでよ。シンイチくんに唐揚げ出してもらおうとは思ってないよ。それは諦めた」

「本当に……? じゃあ、どういうつもりだ……?」


 ミノリさんは、くすくすと笑う。イタズラを思いついた子供みたいに。そして、俺の方を見た。


「さっき、『唐揚げを作ろうと思ってた』って言ったよね? じゃあ、唐揚げ作れるんでしょ? 考えたら、魔法なんかで出さなくても、作れば良いんだよね! 唐揚げ、作ってよ!」


 そして、俺の返事も待たずに、またオーエンさんを見る。


「ね、実際に料理して作ったものなら、食べても良いでしょ?」


 俺がオーエンさんを見ると、オーエンさんも俺を見た。


「君は……その『カラアゲ』を作れるのか?」

「えっと……材料があって、それでここが日本の俺の部屋なら作れますけど……材料があるかどうかもわからないのに」


 困惑した者どうしの会話に、ミノリさんが割って入る。


「材料があれば作れるの? 材料、なんとか集めるよ。そしたら作ってくれる? ね、オーエンも食材集め、手伝ってくれるでしょ?」

「君は……そんなに『カラアゲ』が食べたいのか?」

「食べたい! だって、二十年ぶりだよ! オーエンばっかり食べてズルい!」

「わかった……わかったよ」


 オーエンさんは溜息をついて、ミノリさんの頭を抱き寄せるとつむじに口付けた。こんな気障な動作をこんな自然にやるとは思わなかった。


「ね、お母さんは『カラアゲ』作れないの?」


 マコトが不思議そうにミノリさんを見る。

 ミノリさんは、オーエンさんの袖を両手で掴んで、そこに顔を埋める。


「家だとお母さんが作ってたし。料理、あんまりしたことなくて。そりゃ、たまにはしてたけどさ。日本でやる料理なんて、スーパー行けば食材が全部揃ってて、レシピの通りに買ってきてレシピの通りに作るだけだしさ。レシピないと作れないの、仕方ないよね。しかもこっちだと火を起こすのも大変だしさ。だいたいまだ高校生だったしさ」


 ぐずぐずといろいろ並べ立てているけど、要するに、ミノリさんは料理ができないのだろう。

 俺だって高校生くらいの時は、家に帰れば料理が出てくるのが当たり前だと思っていた。大学生の後半になって一人暮らしを始めたけど、その頃だって自分で作ったりなんてほとんどなかった。外食か買ってくるか、せいぜいレトルト。最近たまに自炊っぽいことをしてるのは、休みの日に多少の余裕があるからだ。

 ミノリさんは、そういうことを知る前に死んでしまったのかと思い至って、思わずフォローするようなことを口にしてしまった。


「俺も高校の頃なんてロクに料理したことなかったし、できなかったと思いますよ。今だって別に一人暮らしで多少慣れたくらいで、料理できるってほどでもないんですけど」


 ミノリさんは、オーエンさんの腕からわずかに顔を上げた。


「でも、唐揚げ作れるんでしょ?」

「だから、それは……材料と、水道とガスコンロがあればですよ。日本の台所しか知らないんですから、俺は」

「材料は集める。水と火も、日本とは勝手が違うけど、ある。だから大丈夫、ね?」


 オーエンさんは、ミノリさんの頭に手を置いて俺を見た。


「すまないが、作ってやって欲しい。必要なものがあれば、何としても手に入れるから」

「ね、お母さんに食べさせて上げて」


 マコトが、俺の袖をそっと引っ張って見上げてくる。マコトの顔を見下ろす形になって、俺は言葉に詰まった。そして、上目遣いのまま「わたしも手伝うから」と言われて、俺はそこで諦めた。


「……わかりました。できる限りはやりますけど、唐揚げにならなくても文句言わないでくださいね」

「やった!」


 ミノリさんはパッと表情を明るくすると、よっぽど嬉しかったのか、目の前のオーエンさんの腕にぎゅっと抱き付いた。

 オーエンさんはそんなミノリさんを見て口元を緩めた。にやけているのにだらしなく見えないので、イケメンはズルいと思った。


 マコトが、隣で小さく「ありがと」と言って笑いかけてくる。その笑顔を見て、俺はまた言葉に詰まる。仕方ない。

 結局ここまでもこれからも、俺は助けてもらってばかりなのだ。これはそのお礼だと考えよう。そうであれば、できるだけ頑張りたいと思った。


 ミノリが日本にいた頃作ったことがある料理


 ・カレー(市販のカレールーを購入して、パッケージに書いてあるレシピの通りに作った)

 ・チョコレート(チョコレートを溶かして少しトッピングして冷やし固めただけ)

 ・クッキー(レシピの通りにスーパーで材料を集めてレシピの通りに作った)

 ・炊き込みご飯(米を研いで親に言われた通りに材料を入れて炊飯器のスイッチを押した)

 ・焼き魚(スーパーで買った魚の切り身を魚焼きグリルに入れてひっくり返しただけ)

 ・味噌汁(出汁の取り方はほとんど忘れてる)

 ・餃子(親が用意した具を市販の餃子の皮で包んだ)

 ・オムレツと目玉焼き


 パッと思い出せるのはこのくらい。実際はもう少し色々作っているはずだが、ほとんど忘れている。

 作ったことは思い出せても細かなレシピは思い出せないものが多い。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ