第3話 炎の中で
生きたいと願うことが、悪いことなのだろうか?
生きてる者は死を望み、
死んだ者は生を望んだ。
暗闇の中で静かな時間が流れた。
誰もいない。
誰も来ない。
誰の声も聞こえない。
ずっとこのまま、暗闇の中にいる方がいいのかもしれない。
...?
何か動いた!
音?
気配?
指?
手?
だれ?
人?
空気を吸い込む音?
.....
「こりゃイカン!」
誰かがしゃべった!
しわがれた声だ。
「ん?
ほっ!
...なかなか上手く動けんのう」
台の上で寝ていたのは、やっぱりお爺さんだった!
「お爺さん、手を貸そうか?
どうしてそこで寝ていたの?」
台の上で寝ていたお爺さんは、僕の手を取って台の上から降りてきた。
僕の頭を優しく撫でてくれた。
「すまんのう。ウチの馬鹿息子のせいでこんなところに...」
お爺さんは僕の前にしゃがんでニッコリ笑った。
僕も釣られて笑った。
「少し、このおじいと話をしよう。
話が終われば、坊やは家に帰れるからの」
家に帰れると言う言葉が、僕の心をギリギリで支えていたものを取ってしまった。
堪えきれずに溢れた涙は、すぐに頬を滑り落ちた。
僕は泣きながらお爺さんの話を聞いた。
5歳ではわからない事ばかりだったけど、真剣に聞けば家に帰れると思っていた。
長い時間、お爺さんの話を聞いていたと思う。
だんだんとお爺さんの話が途切れ途切れになる。
お爺さんは顔を歪めて何かに堪えているようだ。
「大丈夫?
誰か呼ぼうか?」
「だい...じょうぶ...だ。
もう..すぐに来る」
お爺さんの顔が真っ赤になっている。
「くっ! くっっ!!」
歯をくいしばるお爺さん。
その時、鉄製の扉が開いて、誰かが僕の手を強く引いた。
「見るな」
誰かが僕を強く抱きしめた。
「お爺さんは?
お爺さんは無事なの?」
僕は、誰かの手を精一杯の力で引き剥がして、お爺さんを振り返った。
真っ赤に焼けた骸骨が、炎を上げて崩れ落ちる姿が見えた。
「お爺さん!」
僕が差し出した手を、お爺さんが握ることはなかった。
自分の身体を盾にして、炎から僕を守ってくれたお爺さん。
さんざんなお葬式になってしまって申し訳ない。
今はどこに眠っているのだろう?
ありがとうと伝えに行きたい。
後味の悪い物語ですね。
家族とは血の繋がりではなく、心の繋がりであると僕は思います。