旅支度をするために
星歴1314年 4月20日 13時30分
重い沈黙を破ったのは、シナンだった。
「ま、まぁ。それじゃあまずお金をどうするかだな」
俺はこの昼食代を払うと全財産残り10Eとなってしまうのだ。旅に出るどころか、明日の昼ごはんすら厳しい状況だ。
そういえばシナンはどれくらいお金を持っているのだろう?
「シナンは、どれくらいお金持ってるんだ?」
きっと聞くことができるのは今だけだろう。
「私か? 私は今財布の中に入っているお金が5000Eだろ、貯金は25000Eほどあるが旅に出るならこれだけでは足りないだろうな」
俺より圧倒的に多い、羨ましい限りだ。
これから先、協力しあわなければいけないような場面もきっと出てくるだろう。
ここで1つ提案してみようか。
「なぁ、これから協力しなきゃいけない場面も出てくるだろうから、こういうときに協力しあった方がいいんじゃないのか?」
変に期待しながら聞いたせいか、声がうわずってしまった。
「最低限は協力してやらんこともないが、今は無理だ。せめて明日になってからだな」
そうですか、そうですよね。そういう人ですもんねシナンさんは、最初からこうなるだろうとは分かってましたよ。しかし、僅かながらも成果は得られたようだ。
「それにしても、本当にお金の問題をどうするかだな」
そうなのだ、そもそも根本的な解決には至っていない。基本的にこの国では、お金というものは職に就くことで手に入るものである。しかし、俺たちはまだ、学生という身分のため通常の職に就くことはできないのだ。だとすれば、考えられるのは旅をしつつ薬草や、鉱石などといったものを採りながら進み、街で売るくらいだろうか。たいしたお金にはならないだろうが。
「旅をしながら金を集めるしかないだろ」
王都で、お金を集める方法などあっただろうか?いやほぼない。1つだけあるにはあるが、かなり根気と運が必要だ。
お金の問題は置いておくことにしたのか、シナンは鞄から一枚の地図を取り出し、机の上に広げた。それは、どうやらヴィージャンド王国の地図のようだ。
「ここが、王都だな。ここから北へ向かって行くとセントラという街がある」
セントラは四街都と呼ばれる街でセントラから東西南北四方向へ向かうことができる。
「そうだな、とりあえず街道を北へ進んで四街都セントラへ向かおうか」
それが一番がいいだろう。
「そのためにも、ラナー明日までに旅費として……そうだな、最低でも1000Eは用意しとけよ」
旅行をするときは、距離によっても変わってくるが最低でも5000Eあればなんとかなるといわれている。しかし半日では集めれる額に限界がある。
しかも今回は、ただの旅行というわけではないのだ。旅行と旅は何が違うのだろう。
「う〜ん 1000Eねぇ、まぁなんとか用意してみるよ」
1000Eともなると、宿の1番安い部屋に一泊できるくらいの額だ。どうすれば用意できるだろうか。
「それでは、旅支度やお金の問題など、時間がかかるだろうから明日の朝正門前に7時集合出発だ」
壁掛け時計の時刻は、13時45分を指しているため7時まではあと約18時間ほどあることになる。
昼食を終え、俺は急ぎ家に向かっていた。家は、正門の前の道の向かい側にある学生寮だ。
この学生寮には、学園に在籍する9分の1ほどの学生たちが住んでいるのだが、授業中の生徒が多いらしくカフェテリアと同じように人の気配がない。
315号室が俺たちの部屋である。鍵を取り出し、扉を開け部屋に入り、学習机の上にいらない荷物を置く。どうやらまだ、お金の節約のために一緒に同居してもらっているシャレーは帰ってきていないようだ。普段なら俺も一緒に授業を受けているはずなので、当たり前といえば当たり前だ。
よく見慣れた一室だ、つくづくそう思う。そんな部屋を後にし、もう一度外へ出て、王都の街へ繰り出す。それは、お金を手に入れるためだ。王都でお金を手に入れる手段は、職に就く以外にはほとんどないのだが、例外が依頼板というものである。依頼板は、王都中央広場にありここから10キロほど離れている。さすがにそこまで歩いていくのは大変だ。
綺麗に整備された街を5分ほど歩き、王都の主な移動手段である移動魔方陣のある地下室の入り口へたどり着く。王都の住民に開かれたタダの移動手段だ。これがなかったとしたら、王都の住民の苦労は計り知れない。
なにせ街が広すぎるのだ。地図を作るために街を測量した際衝撃な事実が発覚した。王都は東西125キロ南北50キロに広がる巨大すぎる街だったのだ。そのため、主な移動手段として王都の住民は移動魔方陣を使うこととなる。
移動魔方陣は地下にあることが多い、理由は周囲の環境に悪影響を与えないためらしい。もし、何か事故などが起こったりしたら大変だ。万が一の場合に備えて地下にあるのだろう。万が一の場合とはなんなのだろうか……。
移動魔方陣の便利な点は、魔方陣の真ん中に立ち目的地を言えばその目的地の近くにある移動魔方陣に一瞬で移動することができるというものだ。王都に約30個ほど移動魔方陣はあるらしい。少ないと思うかもしれないが、魔法が消えつつある今の時代では増設ができないので仕方がない。
「王都中央広場へ」
移動魔方陣の真ん中に立つ。その場で、目的地を言うと、視界が白い光で塗り潰される。思わず目を瞑らずにはいられないほどの眩しさだ。
目をつぶっても収まることのなかった眩しさがようやく収まり、目を開ける。するとそこは先程までいた場所とは全く別の場所だった。
まず、目に入ってきたのは壁にぎっしりと貼られた大量のチラシ類。王都中央広場は、文字通り王都の中心部に位置する場所でありながらヴィージャンド王国随一の繁華街でもあるのだ。
しかし、今回ここに来たのは決して買い物をするためではない。依頼板を見にきたのだ。
どんな依頼だろうとこなしてやる。そんな気持ちで俺は、地上へと続く階段を登り出す。
新しい話が始まりました。
王都編 1です。
この話はそこまで長くならないはずです。
次話はほぼ説明回になります。




