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強制的な冒険譚 魔法が消えつつある世界にて  作者: 川理 大利
第1章 5部 フォレット過去編
54/61

襲撃に備えて 前編

「僕が殺される……」


 死にたくない。しかし、そんな未来を聞いたからと言って僕にできることはあるのだろうか。僕は、まだ子供だ。何もできないただの子供だ。アリアの横で、どうするべきか考えていると、唐突に頭の中に声が響く。


(未来を変えたいか?)


「うわぁ、なに!?」


「ラーくんどうしたの?」


 アリアは、僕の突然の大声に驚いた顔をしている。


「声が。謎の声が!」


「声? 声なんて聞こえないよ」


「僕には聞こえるんだ」


「謎の声……。その声はなんて言ってるの?」


「未来を変えたいかって」


「未来を変えたいか……」


 アリアは、僕の謎の声が聞こえるという言葉に疑問を持たないのだろうか。


「謎の声のこと、信じてくれるの?」


「信じる。ラーくんが私の夢のこと信じてくれたように、ラーくんの話を信じる」


「ありがとう。アリア」


「でも、ラーくん。詳しい話は放課後にしない? そろそろ、昼休憩終わっちゃうよ」


「ああ、そうだね。僕もクロワッサン食べちゃわないと」


 袋からクロワッサンを取り出して食べ始める。思っていたよりだいぶ大きい。昼休憩の終わりまでに、間に合うだろうか。少し食べたところで、何やらアリアがこちらを見ているのに気づく。


「どうかした?」


「そのクロワッサン。美味しそう」


 クロワッサンはたしかに、美味しい。ただ、このクロワッサン自体は、どこでも売っているような物だ。そこまで、物凄く美味しいわけでも無い。


「半分食べる?」


 なんだか、羨ましそうに見られながらというのも気恥ずかしくて、食べにくい。


「いいの?」


「僕も、昼休憩の終わりに間に合うか心配だったんだ。半分食べてくれると嬉しいかも」


 クロワッサンを半分にちぎって、アリアに渡す。


「ありがとう。やっぱりラーくんは優しいね」


 先ほどまでの涙はどこへやら、満面の笑みでそう言われると照れてしまう。クロワッサンを急いで食べる。途中喉に詰まりそうにもなったが、なんとか食べ終えることができた。いつもなら、これだけでお腹が膨れることは無い。だというのになぜだか今日は、サンドイッチとクロワッサン半分でお腹いっぱいだ。


「ラーくん食べ終わった? 教室戻らないと」


「そうだね、そろそろ戻らないと」


 ベンチから立ち上がったところで、5時間目の始業開始5分前を知らせる鐘がなる。早く教室に戻らなければ。歩きながらも会話を続ける。


「そういえば、アリアっていつもあのベンチでお昼ご飯食べてるの?」


「そうだよ」


「一人で?」


「うん」


 知らなかった。アリアが、お昼ご飯をベンチで一人で食べていたなど。なぜ、僕は知ろうとしなかったのだろう。


「一人で食べるのは寂しくない?」


「少し寂しいかな。でもね、ラーくんがいるから」


「たしかに、今はそうだけど」


 学校内では、アリアに殆ど関わっていなかった。今日の朝、会話したのが久しぶりなほどだ。アリアは、目立つ容姿をしている割には目立たない。おそらく、友達も僕くらいしか居ないのだろう。


「また一緒にお昼ご飯、食べてくれる?」


 期待のこもった目で見られると、物凄く断りにくい。断るつもりは無いのだが。


「もちろんいいよ」


「やったー。学校でもラーくんと一緒にいられるんだね!」


 アリアは、嬉しそうに自分の教室へと走っていく。そんなに嬉しいものだろうか、僕と一緒に昼ご飯を食べられるのが。


「放課後、忘れないでねー!」


 教室の中に、消えていく背中にそう叫ぶ。僕の声は聞こえただろうか。

 いけない、呑気に歩いている場合ではない。僕も早く教室に戻らなくては。5時間目の授業が始まってしまう。そういえば、謎の声が聞こえない。まあ、いいか。別に聞こえても聞こえなくても何も変わらない。


 今日は、五時間目までしか授業がない。謎の声やアリアの夢のことについて、考えながら授業を受けていると気が付けば終わっていた。放課後はあっという間にやってきてしまった。


「ラナー、ごめん今日掃除当番なんだ。校門で待っててくれ」


 いつもなら、シャレーと途中まで一緒に帰るため、シャレーにそう言われる。いつも通りの会話だ。ただ今日に限ってはアリアとの先約がある。


「ごめんシャレー、今日は用……!」


(シャレーにも協力してもらおう。あとガランにも)


 用事がある、と言おうとしたところ、突然謎の声が聞こえた。少し聞き慣れたので、そこまで驚きはしない。ほんのちょっと驚いたくらいだ。


「でも信じてくれるかな」


(きっと信じてくれるさ)


「そうかなぁ」


 シャレーには、一度謎の声のことを否定されている。


「誰と話してるんだ? ラナー」


「いや、何でもないよ。それじゃあ、校門で待ってるね。そうだガランも一緒に来てくれないかな?」


 近くで、掃除をしながらも話を聞いていたらしいガランに、そう伝える。


「僕もですか? まあ、構わないですけど」


 ガランの了承も得られたので、アリアを探しつつ校門へ向かう。アリアはどこにいるだろうか。

 アリアのクラスを覗いてみるも、アリアは既にいなかった。教室の窓からは校門も見える。校門の辺りに白く、長い髪の少女が見える。アリアが遠くからでも、分かりやすくて助かった。


 _______________


「ごめんアリア、待たせた?」


「ううん、待ってないよ」


 校門の横で待っていたアリアに、少年ラナーは声をかける。


「行こうか。ラーくんの家で良いかな」


(シャレーとガランを待たないと)


 なんだかそのまま、家に向かいそうな流れになっているため、待つように少年ラナーに伝える。


「実は、友達も呼んだんだけど良いかな」


「友達……って誰?」


「シャレーとガランだけど」


 アリアは少し考え込んでいる様子だ。


「シャレー君はともかく、ガランって子は大丈夫なの?」


 シャレーとガランに協力してもらうとなると、アリアの夢のことも打ち明ける必要が出てくる。ある程度信頼がある人物でないと、打ち明けるのは不安だろう。ここは、アリアの背中を後押ししてあげよう。もっとも、後押しするのは俺ではなく、少年ラナーだが。


(ガランなら信じてくれるよ)


「大丈夫らしいよ」


「らしい……?」


 アリアは、不安そうな顔で考え込んだ後、少年ラナーに向き直った。


「ラーくんの言うことなら、信じる」


 子供の頃の俺の言うこととはいえ、そこまでホイホイと信じるのは良くないと思うのだが、まあいいか。少年ラナーの言うことを信じる分には、問題は無いはずだ。

 少年ラナーとアリアの話に、耳を傾けながら待っていると、掃除を終えたシャレーとガランがやってきた。


「悪い、待たせたね」


「後ろに隠れてる子は誰ですか?」


 アリアは、ガランの姿を見るやいなや、少年ラナーの後ろに隠れてしまった。小動物みたいで可愛い。

 アリアは、ここまで人見知りだっただろうか。俺の知るアリアは、ここまで人見知りではなかった気がする。おそらくだが、ガランとは初対面なのだろうから、無理もないだろう。


「アリアっていうんだ。僕の幼馴染だよ」


 アリアは、今の状況では自分から進んで自己紹介をできそうにない。それを察してか、少年ラナーはガランにアリアを紹介する。


「そうなのですか。よろしくお願いしますね、アリアさん」


「よろしく……」


 相変わらず、アリアは少年ラナーの後ろに隠れたまま出てこない。


「というか、なんでアリアちゃんがいるんだ? 珍しい」


「それはね……」


 ラナーは、シャレーとガランにどう伝えるかを迷っているらしい。助け舟を出してやろう。


(こう伝えればいい。大事な話がある。その大事な話においてアリアも重要な存在になってくるんだと)


「大事な話があるんだ。その話でアリアは重要な存在になってくるんだ」


「大事な話ってなんだ?」


 シャレーが、尋ねてくる。急に言われては、そのような反応になるのも当然だ。


「ちょっと今、ここでできそうな話じゃないんだ」


「人に聞かれるとまずいような内容なのか?」


「まずいというかなんというか」


 少年ラナーは再び黙ってしまう。


「その話、僕も必要ですか?」


(必要だと伝えてくれ)


「必要みたい」


「みたい? まあ、用事も無いですからいいですけど」 


「そんな大事な話、どこでするつもりだ?」


「それは、僕の家でかな」


「まあ、それが無難だろうな」


 ひとまず、いったんその場は解散し荷物等を置いてから、各々俺の家に集まることになったようだ。さて、俺も少年ラナーにどう話を切り出すか考えておかなければ。とりあえず、未来から来たラナーだということは伏せておくことにしよう。


 _______________


 最初に、家にやってきたのはアリアだった。二軒隣の家に住んでいるのだから当然といえば当然だ。


「お邪魔します」


「どうぞどうぞ、入ってきて」


 アリアが、僕の家を訪ねたのはいつ以来だろうか、なんだか久しぶりな……いや、そんな久しぶりでもない。5日前に一度家に来ている。あの日は朝、突然訪ねてきて驚いたものだ。


「夢のこと話さなきゃダメ?」


「そうだね。正直に伝えた方が良いと思うよ」


「はあ……」


 アリアは、どこか気が重そうだ。何か励ましてあげれそうな言葉は……。


「大丈夫。僕もついてるから」


「うん」


 僕のその言葉で、表情は先ほどまでよりは明るくなったような気がする。少し安心だ。


「そういえば、カーネさんはいないの?」


「お母さんは畑の手伝い行ってて居ないよ」


「花の事、相談したかったのに……」


 フォレットの町で一番大きな畑は、東の突き当りにある。街を守る壁を一つ越えたところにあるのだ。フォレットの町は、東側のみ壁が二重になっており、畑も四方を壁に囲まれており安全だ。お母さんは、家の畑の手入れを終えた後、暇な時間で東の畑の手伝いに行っていることが多い。農作業とはそこまで楽しいものなのだろうか。東の畑では、農業に関する知識量の多さから慕われているらしい。今の畑の管理者がもう歳らしく、次の管理者候補に選ばれたたなどと、夕食の時に話していた。それはそれは、嬉しそうに。

 アリアを居間に通して、少し経った頃シャレーとガランが来たのだった。


「お邪魔します」


「お邪魔します。ここがラナーの家ですか、案外大きいんですね」


 どこかで聞き覚えのある事をガランは言う。それもそのはず、ガランの家を初めて訪ねた時に僕が言ったことだからだ。


「ねえ、ガラン。根に持ってる?」


「そんな事は無いですよ。言ってみただけです」


 二人を、居間へと案内する。居間には長方形の木製のテーブルと椅子が四つ置かれている。アリアが座っている椅子の隣に僕は座り、シャレーとガランには向かい側に座ってもらう。


「さて、早速だけど話を始めようか。まずは……」


(アリアの夢についてを先に話した方が良いだろうな)


 謎の声の提案に従う。


「アリアが見たという夢についてからだね。アリア、話せる?」


「うん、5日前の夜にね、夢を見たの。ぼんやりとだけど、ラーくんが殺される夢を」


 あまり詳細なことは聞けていなかったため、気になる。


「その日は、朝起きてラーくんがいなくなっちゃうような気がして、急いでラーくんの家に行ったの」


 なるほど、それであの日は突然家に来たわけか。


「その次の日も、また次の日も、同じ夢を見た。日を重ねるごとに視界が鮮明になっていったの。剣で刺されて苦痛に歪んだラーくんの顔も、傷口から滴り落ちる血も。すべてがはっきりと見えるようになってきて。怖くて辛くて」


 よほど思い出すのが辛い夢なのか、アリアの目から涙が零れ落ちてくる。口に出す辛さを紛らわすかのように、アリアは僕の手を握ってくる。僕も、手を握り返す。


「ラーくんが殺されるのはね、たぶん私をかばってなんだ。私が剣で刺されそうになった時にラーくんが、間に入って代わりに殺されるんだ」


「なんか、やけにリアルな夢だな」


「そうですね、それに毎日同じ夢を見るなどあり得るのですか?」


「それが本当なの。毎日同じ夢を見てるとね、分かっちゃうの。この夢は、そう遠くない未来、現実になるって……。だから私は力をつけることにしたの。私がラーくんを守れるように。恐怖で体が動かせないなんてことが無いように」


 部屋が沈黙に包まれる。その沈黙を破ったのはシャレーだった。


「現実になる……。ラナーが殺されるってのか?」


「もし、その夢が本当だとして、どうしてラナーは殺されるんですか? そもそも誰が殺したというんですか? あまりにも謎が多すぎる」


 アリアが驚いたような顔をしている。信じてくれるなどとは思っていなかったのだろう。


「信じて……くれるの……?」


「俺は、信じるよ。ラナーが殺されるなんて嫌だしな」


「そうですね。それに、アリアさんが見たという夢は、予知夢というやつではないですか? そのような話も聞いたことありますしね」


「みんなありがとう……。でもどうすればいいんだろう。ラーくんを守るためには」


 何も、僕を守ることが目的では無いだろうに。とはいえ、アリアはよく頑張った。ここからは、僕の出番だ。僕が頑張る番だ。


「僕たちで未来を変えてみない?」


 僕は、そう提案した。

読んでくださり、ありがとうございます。

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