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強制的な冒険譚 魔法が消えつつある世界にて  作者: 川理 大利
第1章 5部 フォレット過去編
53/61

寝不足の幼馴染

 俺は考えていた。どうすれば襲撃を止める事ができるのか。止めることはできずとも、せめて被害を少なくさえできればいい。そんなことを考えているうちに、気がつけば3日も経ってしまっていた。こうしているうちにも、刻々と襲撃の日は近づいてきているようで、夜空を照らす月は、日に日に欠けていっている。なんとかしなければ、でもいったいどうすればいいのか。何も思いつかない。せめてシナンに連絡がつけば、頼る事ができるのだが。過去から未来に連絡を取る方法など無いだろう。今回ばかりは俺自身でどうにかするしか無いのだ。

 問題はそれだけでは無い。一昨日行った博物館に収蔵されていた死纏い杖。その杖に俺は、恐ろしいものを感じた。たしか、子供の頃見た時も恐ろしいと感じたのを覚えている。本能に訴えかけてくるような恐ろしさだ。魔法を使えるようになった今だから分かることだが、死纏い杖から魔力に似た邪悪な何かを感じた。あの杖はいったい何なのだろうか。

 おや、そろそろ少年ラナーが起きなければまずい時間だ。しかし、まったく起きる気配がない。寝坊して遅刻したりしたら大変だ、起こしてあげよう。


(おい! 起きろ! 朝だぞ!)


 できるだけ大きな声で起こす。起きてくれるだろうか。


「うるさいよー」


(起きろって!)


「うーん」


 ダメだ、起きる気配がない。こうなったら、セントラの町で一度だけ使った、あの魔法を使うしかないだろう。


((起きろ! 朝だぞ!))


 そう、その魔法は声を大きくする魔法。魔法用語っぽく言うのなら、拡声魔法といったところだろうか。シナンに使用を禁止されていたが、今ここにシナンはいない。それにやむを得ない場面だ。使ったとして問題はないだろう。


「うわー! 何の声!? びっくりしたー。ってもう朝か」


 どうやら声を大きくする魔法の効果はあったようで、少年ラナーは目を覚ます。謎の声の正体が気になるようで、視界がぶんぶんと揺れる。


(落ち着け、落ち着けって)


「朝から何なの? 何の声? 誰の声?」


 もしや、こちらの声がはっきりと聞こえているのだろうか。


(俺の声が、聞こえるのか?)


「聞こえるけど、誰なの?」


(俺はだな……)


 何と自己紹介しようか。未来から来たラナーだと言っても、信じてもらえないだろうし、混乱させるだけだろう。だとしたら何だと言うべきか。良い案が思いつかずに考えていると、下の階から声がした。


「ラナー、早くご飯食べないと遅刻するわよー」


(行かなくていいのかい?)


「うーん。まずはご飯食べないとね」


 どうやら、朝食の時間らしい。少年ラナーは立ち上がり下へと降りて朝食を食べ始める。

 本日の朝食もチーズパンだ。相変わらず美味しい。やっぱり朝はこれだな。毎日、チーズパンを食べる事ができて幸せだ。

 少年ラナーは、朝の準備を済ませて学校へと向かう。

 自己紹介の機会は、結局無かった。夜通しいろいろと考えていたからだろうか。なんだか眠くなってきた。学校の授業を受けるのは退屈だから、昼まで寝ることにしよう。おやすみと少年ラナーには聞こえないであろう小さな声でつぶやく。


 ―――――――――――――――


 気が付けば、謎の声は聞こえなくなっていた。あの声は何だったのだろうか。学校で、シャレーとガランに相談してみることにしよう。二人なら何か知っているかもしれない。

 なんやかんやで準備に時間がかかり、家を出るのが遅くなってしまった。家の外に出てみるも、既にシャレーの姿はない。少し急ぎめ、どころか全力ダッシュで学校を目指す。家から学校まではそれほど距離はない。約1キロほどといったところだ。

 どうやら僕は、人に比べて運動神経が良いらしく1キロという距離を全力で走ったとて、息が切れる事はない。

 なんとか、朝礼開始の5分前に着く事ができ、一安心だ。とは言え、油断は禁物だ。安心して遅れると急いで来た意味が無いので、荷物を持ったまま朝礼が行われる修練館へと向かう。朝礼は自由参加のため、参加しなかったとしても問題は無いのだが、成績が良くなるのだとしたら参加しておきたい。本当に成績に関係あるのかの真偽は分からないのだが。

 修練館は、朝礼開始5分前ということもあり既に多くの生徒が集まっている。この中からシャレーを探すのは大変だ。大人しく、後ろの方で校長先生のありがたい話を聞いておくことにする。

 相変わらず、校長先生の話は長く退屈だ。聞いているうちになんだか眠くなってくる。こういうとき、いつもはシャレーが起こしてくれるものだが、今はシャレーはいない。まずい、このままでは本当に寝てしまう。なんとか、耐えなくては。

 眠気と戦うも打ち勝つことができずに、眠りに落ちそうになったその時、後ろから手で優しく叩かれているかのような衝撃を感じた。慌てて後ろを振り向くと、そこにいたのはアリアだった。

 アリア・ルピナス。僕の家の二軒隣に住んでいる、同級生で幼馴染だ。透き通るような白色の髪は、肩にかかるほど長い。常に寝不足なのか、青緑の瞳は焦点が合っておらずどこか眠そうだ。目元には隈までできている。なんだか今日は、いつも以上に眠そうだ。


「ラーくん、寝ちゃだめだよ」


 ラーくんとは、アリアが勝手に呼んでいる僕の呼称のようなものだ。というか、なぜアリアはこんな後ろの方にいるのだろう。


「寝るところだったよ、ありがとう起こしてくれて。ところでアリアはどうしてこんなところに?」


「それは……。さっき来たから」


「……それって遅刻なんじゃ」


「大丈夫。鐘がなると同時に校内に入ったから」


「それは大丈夫と言わないんじゃない?」


「大丈夫なら大丈夫」


 校長の話を聞き続けていると、また寝てしまいそうなのでアリアと声を抑えて会話を続ける。今いる場所は、校長先生から遠いうえに周囲に教師の姿も見えないので大丈夫だろう。


「なんだか眠そうだね。目を見れば分かるよ」


「この目は生まれつき。寝不足なのは事実だけど」


 眠そうな目は、生まれつきらしい。たしかに言われてみれば、小さい頃もどこか眠そうな目をしていた。だとしても、今日はいつも以上におかしい。普段は、目元に隈など無いし、焦点のぶれもひどい。


「そんなに寝不足になるまで、いったい何をやってたの?」


「力をつけなきゃいけないの」


「力?」


「そう。力」


「力って……」


 なんで、と聞こうとしたところ修練館が騒がしくなり出した。どうやら、朝礼が終わったらしい。終わると同時に、横にいたはずのアリアの姿はなくなっていた。

 力をつけなきゃいけないとは、いったいどういうことなのだろうか。訳が分からずその場に突っ立ていると、シャレーがやってきた。


「おはようラナー。そんなところに突っ立ってどうしたんだ?」


「力って、どうしてつけるんだろう」


「何を言ってるんだ? 教室行くぞ」


 シャレーのその言葉で、はっと我に返る。


「そうだね。教室行こうか」


 アリアとクラスは、別だ。そのため、授業や合間の短い休憩時間ではアリアに話を聞くことはできない。聞く機会があるとしたら、昼休憩の時くらいだろう。

 4時間目までの授業を終えた僕は、席を立つ。


「ラナー、昼ご飯食べに行くぞ」


 いつもは、シャレーと食堂で昼ご飯を食べる。しかし今日はアリアに話を聞きたい。朝聞こえた、謎の声がどうでもよく思えるくらいには、アリアの力をつけたいという発言が気になっていた。


「ごめん、シャレー。今日は用事があって一緒に食べれないかも」


「そうか。それならガラン、一緒に食べないか?」


 シャレーは、残念そうな顔をした後、教室内を見回してガランに声をかけた。


「どうして僕に……。まあいいですけど」


 そんなことを言いながらも、ガランはどこか嬉しそうだ。

 シャレーとガランは、話しながら食堂へと向かっていった。こないだ、ガランの家にお邪魔した時以来僕たちは、少し仲が良くなった。

 さて、僕もアリアを探しに行こうか。問題はアリアがどこにいるのか、見当がつかないことだ。小さい頃からの、幼馴染ということで仲は決して悪くは無い。しかし、仲が良いことと、常に仲良くしていることに結びつきは無いはずだ。クラスが別々になってしまってからは、学校で話す機会が無くなってしまった。もちろん、町中で会ったときは会話をする。学校内で、どう過ごしているのかを知らないだけだ。少なくとも、食堂でアリアの姿を見たことは無い。ならば食堂以外のどこかだろう。早速探しに行こうと思ったのだが、もし、アリアを見つけることができず、昼ご飯も食べられないとなれば大問題だ。先に昼ご飯を買いに行くことにした。正面玄関横に、売店がある。そこでは、軽食が売っているため、サンドイッチとクロワッサンを購入する。お金は、今朝お母さんに貰えたため問題なく購入できた。

 一階、二階、三階とくまなく探すが見つからない。校舎の中にいないということは、外にいるのだろうか。廊下の窓の外を見る、生徒でも入ることのできる林道。その入り口の横のベンチに座っているのは、アリアではないだろうか。後ろ姿だけでも分かる。あの特徴的な長い白い髪はアリアだ。


 _______________


 なんだか懐かしい香りにつられて目が覚める、ふわっとしていて、不快ではない優しい香りだ。


「こんなところにいたんだね。アリア」


 アリア? アリア! 懐かしい名前だ。


「ラーくん。どうしてここに?」


 もう一度聞きたかった声、もう一度呼ばれたかった愛称。俺をそんな風に呼ぶのは、アリア一人だけだった。


「一緒にお昼ご飯食べたくて……」


 アリアは、心の底から嬉しそうに微笑む。


「いいよ。一緒に食べよ」


 少年ラナーは、アリアの隣に腰掛け、サンドイッチを食べ始める。それにしても、面白い状況になっている。俺の記憶では、アリアと共に昼ご飯を食べた覚えなどない。


「ねえ、アリア」


「なあに、ラーくん」


「聞きたいことがあるんだけど、良いかな?」


「いいよ。何でも聞いて」


 少年ラナーは、よほど言い出しにくいのか沈黙してしまう。応援してあげよう。何を言いたいのかは分からないが。


(頑張れ)


 その声が聞こえたのか、少年ラナーは意を決して質問を始める。


「朝言ってた、力をつけなくちゃってどういうことなの?」


「そのことね。うーん……」


 少し、迷うかのような表情を見せた後アリアは話し始める。


「数日前にね、夢を見たの。ラーくんが殺される夢を」


 アリアの目からは、涙が溢れ出す。


「すごくリアルな夢だったの。それで理解しちゃったんだ、この夢は現実になるんだって」


「夢が現実に? そんなこと……」


「ラーくんが死んじゃうのは嫌なの。生きていてほしいの。絶対に。だからね、私は力をつけなくちゃいけないんだ。無理だってのは分かってるんだ。でもね、諦めたくないの」


 震える声で振り絞るように、アリアは言った。


「ラーくんは、私が守るんだ」


 あの日、襲撃があった日。アリアは、殺されそうになった俺をかばって死んだ。アリアがかばってくれたおかげで、俺は逃げて生き延びることができた。俺のせいでアリアは死んでしまったのだ。悲しかった、苦しかった。やるせなかった。もう二度と会えないのが寂しかった。

 何より、アリアがなぜ、あの時あの場所にいて俺をかばうことができたのかが不思議だった。あらかじめ、俺が殺されることを、分かっていたのならかばうこともできただろう。

 知ってしまった事実を、俺は受け止めきれるのだろうか。いや、受け止めて先へ進まなければならない。今の俺には、未来を変えることだってできる。俺とアリアどちらも生きている未来の可能性だってあるはずだ。何より、アリアが俺に生きていてほしいと言ったように、俺もアリアに死んでほしくないと思うのだから。

読んでくださりありがとうございました。

ラナーから見て、シャレーは親友。アリアは幼馴染です。

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