放課後の博物館
ガランの家にて、クッキーを食べ終えた僕たちは、博物館に向かうため家の外に出た。
「お邪魔しましたー」
僕とシャレーはガランの母親に、そう言う。
「またいつでもきてちょうだいねー」
「僕の気が向いたらまた連れてくるよ」
ガランはやっぱり偉そうだ。
「その時はまたクッキー焼くわね」
ガランの母親にまた来るねと言い、僕たちはガランの家を後にする。ガランの家には、機会があればまた来たい。あの絶品のクッキーをまた食べたい。次はいつ来れるだろうか。
「さあ、博物館へ行きますよ!」
「ああ、そうだな。博物館へ向かおう」
「そうですよ。今日は僕の家でクッキーを食べることが目的では無いですからね」
「博物館でしょ。分かってるってー」
「ならいいですけど」
小さな川に架かる橋を渡り、少し歩けば博物館が見えてきた。小さな住宅が建ち並ぶ一帯に、大きな建造物が急に出てくる。周囲が木造の住宅の中、博物館だけは白色の石で作られており立派な建物だ。そんな博物館が、なぜ住宅街の真ん中にポツンとあるのかはよく分からない。考えるだけ無駄だろう。
「さて、着きましたね。ここがフォレット町立博物館です」
「へー、ここ博物館だったのか」
シャレーは何やら驚いているようだ。
「いやさ、前を通るたびにこの建物なんなんだろうなと思ってたんだよ」
「まったく。少しくらい興味を持ったらどうですか」
ちなみに僕は、何も気にした事がなかった。そもそも町の東の方に来る機会はそれほど多く無い。
「それもそうだな。悪い悪い」
「はあ、まあいいですよ。とりあえず中に入りましょうか。あ、そういえばお金はありますか? 入場料50E必要ですけど」
財布の中を漁る。10.20.30……55E。ギリギリ足りそうだ。危なかった。しかし、5Eしか残らないとは。これでは駄菓子屋で1番安いお菓子が2本しか買えない。
「な、なんとか足りそうだよ」
「俺も問題ない」
「そうですか。では入館しましょうか」
受付で入館料50Eを払い、パンフレットをもらってから、博物館の中に入る。
フォレット町立博物館。フォレットに関するものがほとんどだが、フォレットに関係のないものも収蔵されている博物館だ。収蔵品は、町の人から寄贈されたものが大半を占めるらしい。
館内は広い。一周するような形で回る事ができるようなので、順路と書かれた矢印に従い進んでいく。まずは、フォレット歴史コーナーだ。フォレットの町の歴史がまとめられたコーナーだ。
フォレットの歴史については、学校の授業でも習う。学校の歴史の授業においては、主に王国の歴史を習う。そのため、フォレットの歴史は少し習うだけであり、どのような歴史がこの町にあるのかは良く知らないのだ。
説明にはこう書かれていた。かつて、この近辺には鉱山と森があり、鉱業と林業に携わる人々によって小さな集落が形成されていった。その集落こそ、現在のフォレットの原点であると。ここまでは授業で習った。町の成り立ちは大事なことだ。
その後は、歴代村長の名前や功績、町での事件や起きた出来事などが年表で書かれている。
現代の、フォレットの町の立ち位置に関する説明もある。
現在のフォレットは、王国唯一の林業が行える町として重要視されています。王国で使われる木材のほとんどがフォレットの町にて伐採されたものです。王国からフォレット森林地帯が失われれば大きな損失となるでしょう。また、鉱山では稀に過去の遺物が見つかることもあり、本博物館に収蔵されています。
これから先も、ここフォレットの町はさらなる発展を遂げていくことでしょう。
との事だ。フォレットは王国で唯一森がある町らしい。いつも何気なく、教室の窓から眺めている木々達がそんなに貴重なものだったなんて……。僕は、そんなこと気にしたことも無かった。
「どうですか? 博物館面白いでしょう?」
「たしかに面白いもんだな。フォレットにこんな歴史があったなんて知らなかったよ」
シャレーもフォレットの歴史について、あまり詳しくは知らなかったらしい。
「さて、次のコーナー行きますよ」
順路に従い次のコーナーへ向かう。次のコーナーは芸術品コーナーだ。フォレットに関するものから、なんの関係のないものまで、数多くの絵画や彫刻が展示されている。
僕は、その中でも風景画に目を惹かれた。世界を巡り、絵を描いたフォレット出身の画家の絵が20枚以上飾られている。名をイスト・レミエラというらしい。
北の方の国だろうか。どこまでも続く雪原とそこに建つ城塞都市を描いた絵や、街全体が白色で、美しい街の絵。これはどこの街だろうか。分からない。
絵はまだまだある。どこまでも続きそうな草原と丘に佇む赤褐色の街。これはウィージャンド王国内のどこかの街だろう。巨大な木々が絵の中いっぱいに描かれた緑に覆われた森林地帯。こんな巨大な木々が世界にはあるのだろうか。様々な建築様式が混ざり合い、雑多な雰囲気が漂う街の絵。どこか、この世のものとは思えないような美しい花畑の絵。そして、大海原を行く船の上で描いたのだろう。青い空と青い海、全て虹色の島。地面も、建物も、島の上空でさえも、何もかもが虹色だ。虹色の島など実在するのだろうか。絵の名前は幻の島と名付けられている。
絵に夢中になっていると、シャレーに話しかけられた。夢中になりすぎるあまりしばらく話しかけられたのに気づかなかった。
「おい、ラナー。何をそんなに夢中になって見てるんだ?」
「おーいラナー!」
「はっ。何シャレー?」
「だから、何を夢中になって見てるんだって?」
先ほどまで、彫刻ばかり見ていたシャレーが近づいてくる。
「風景画か……。どの絵も綺麗だな」
「だよね。綺麗だよねー」
僕たちの会話を聞いてか、ガランも近づいてきた。
「この絵は……。フォレット出身の画家、イスト・レミエラ先生の絵じゃないですか」
何か気になった事があったのか、シャレーは尋ねる。
「ガラン、この絵を描いた人のことを知ってるのか?」
「イスト・レミエラ。世界を旅して世界各地で絵を描いては、たまに戻ってきて絵を博物館に寄贈してくださるんですよ。なんでも、相当な変わり者だとか」
「へー。そんな人がいるのか」
絵を寄贈する事でお金は手に入るのだろうか。手に入らないのなら、旅費はどうしているんだろう。そんな事が少し気になった。そんなことよりもだ。
「いつか、行ってみたいなー」
「世界にか」
「そうそう。いつか、自分の目で世界を見れる日が来ればいいなー」
「そうだな。いつか、世界を旅できたらいいな」
シャレーは賛同してくれたようだ。世界を旅する。いつの日か、そんな日が来るのだろうか。そんな日が来たらいいな。そんな気分で、僕は次のコーナーへと向かうのだった。
「さて、今日ここへ来た目的である死纏い杖が展示されている、遺物品コーナーへやってきましたよ!」
「ああ、そういえば博物館へ来たのってそれが目的だったね。忘れてたよ」
「まったく、ラナーは。忘れないでくださいよ。本来の目的を。そんなんだから、黒猫だなんて呼ばれるんですよ」
「それ以上言ってやるな、ガラン。で、死纏い杖はどこに展示されているんだ?」
シャレーの問いに、若干ガランは困ったような顔をする。
「……それがですね。僕もどこにあるのかは知らなくて。僕も噂で聞いたくらいですからね」
「それなら、探すしかないな」
僕たちは、遺物品コーナーで死纏い杖を探し始める。これまでの整然とした、フォレット歴史コーナーと芸術品コーナーと比べて、なんだかごちゃごちゃとしている。あまり、手入れがされていないような感じだ。よく見てみれば部屋の隅には埃が溜まっている。博物館の職員は、あまりこの部屋に近づきたくないのだろうか。
死纏い杖を、探しまわる。様々な物が鉱山から見つかるようで数多くの物が展示されている。少し多すぎる気もするが。鉱山とはいったいどんな場所なのだろうか。謎が深まった。
これは……幸運を呼び寄せる首飾り。真逆のアイテムだ。少し気になったが、付けていったら怒られるだろう。棚に戻す。というか、自由に持てるのは流石に問題がある気がするが良いんだろうか。
これは……謎の歯車。何に使われていたのか、どのような用途で使われていたのか、全てが謎の歯車。死纏い杖ではないようだ。
これは……呪われたぬいぐるみ。所有者に1日一回不幸が襲い掛かるぬいぐるみ。しかし、それほど重い不幸ではなく、鳥に糞を落とされるなどといった小さな不幸が襲い掛かる。少し効果が似ている気もするが、これも違う。見つからない。
これは……奇跡を起こす首飾り。一度だけ、奇跡を起こす事が可能。ただし、奇跡を起こすには相応の犠牲が必要となる。
部屋を歩き回る。歩いているうちに遺物品コーナーの奥の奥へと来てしまったらしい。周囲にシャレーとガランの姿は見えない。なんだか、この辺りだけ雰囲気が違う。灯りは付いているのにどこか、暗くジメジメとしていて寒くて恐ろしい。そんな雰囲気だ。埃も先程までの場所より酷くなっている。展示品にまで、埃がかかってしまっているくらいだ。天井を見ると蜘蛛の巣まで張っている。今すぐ逃げ出したくなる気持ちを抑えて死纏い杖を探す。
これは……叛逆の杖。この杖を手にした者は、見境なく周囲のものを襲うようになる。たとえ、相手がどれほど目上の人間であろうとも。
これは……転身の鎧。魂のみ鎧に移すことのできる鎧。移した魂は戻す事ができない。なんだか、恐ろしい鎧だ。見なかったことにしよう。
これは……血濡れの槍。見つかった当初から血がこびり付いていた槍。何回拭き取っても血がダラダラと出てくるため、拭き取るのは諦めた。
これは……死纏い杖。所有者に死をもたらす杖。どのような条件で死が訪れるのかは不明だが、過去、所有した者はもれなく死亡している。あまりに危険な為、如何なる者も持ち出しを禁ずる。
ようやく、死纏い杖が見つかった。他の物は、それほど厳重に保管されていないのに、死纏い杖のみ何十もの鎖が巻きつけられており、さらにその上からガラスのカバーで覆われている。死纏い杖からは、とても恐ろしいものを感じた。近づいてしまえば、もれなく死んでしまうような雰囲気だ。あまりの恐ろしさに近寄ることすらできなかった。
なんだか、どこからかヒエッという、悲鳴のような声が聞こえたような気がした。気のせいだろうか。変な声のことは、ひとまず気にしないでおこう。
とりあえずだ、死纏い杖が見つかったからには、シャレーとガランを呼びに行かなければならない。呼びに行くのは良いのだが、本音を言えばもうこの場に戻ってきたくない。この周辺が綺麗に手入れされていない理由も分かるような気がした。この場所は、あまりに空気が異質で恐ろしい。僕は逃げるようにシャレーとガランの元へ向かうのだった。
読んでくださり、ありがとうございました。




