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強制的な冒険譚 魔法が消えつつある世界にて  作者: 川理 大利
第1章 5部 フォレット過去編
50/61

少しだけ変わった日常 少

前回の続きです。題名に少とついているのは少年ラナー視点の話ということです。

 星歴1306年 4月29日 7時36分

 ヴィージャンド王国北部 フォレットの町にて


「ああー、眠いなー」


 いつものようにチーズパンのチーズが少しだけ焦げたかのような、どことなく香ばしい匂いで僅かに目が覚めた。しかし、チーズパン自体は食べたいとは思えないのだ。 


「ラナー。早く下に降りてきなさーい!」


「今行くよー」


 いつものように母さんに大声で起こされた。一階から二階へと声をかけているというのに良く通る声だ。まだ眠い。起きたくない。いつものように無理やり起こしに来るまで二度寝をしようと思い、再びベッドへと横になったとき。それは聞こえた。


(あ!)


 今の声は何なのだろう。まるで頭の中に直接響くかのような、そんな声だった。しかし、寝起きなので頭が働かない。ただの勘違いだろうと思い下へと行くことにした。


「まだお腹すいてないよー!」


「そんなこと、言わずにしっかり食べなさい!」


「はーい……」


 チーズパンは美味い。しかし、毎日食べているとなるとそれは別だ。飽きてくるのだ。気がつけばチーズパンを食べきってしまい手元には何もなくなっていた。朝食を無駄にしてしまったような残念な気持ちとは対照的に僕のお腹は膨れていた。


 朝食を食べ終わったと思うと、すぐに学校へと行かなければならない時間はやってくる。初等学校とはいえ朝は忙しいのだ。一度自室へ戻りかばんを背負う。学校へ行く準備は完了だ。あと15分ほどで校門がしまってしまうが、走っていけば間に合うだろう。なんせ、僕の家は学校のある森のすぐそばに位置しているのである。「いってきまーす!」と大きな声で、二階で洗濯物を干しているであろう母さんに声をかけ僕は家を出た。


 家の前では、シャレーが待っていた。


「遅いぞ! ラナー!」


「ごめんごめん、でもシャレーこそよくこんな時間まで待ってたね」


「だってよく遅刻するじゃないか。先生から頼まれたんだ。ラナーを遅刻しないように連れてこいって」


「そうだったの?」


「そうだよ。ぎりぎりまで粘ろうかと思ってたけど、今日はしっかり起きれたみたいだな」


「うん。だって朝....」


「朝?」


「いや、なんでもない」


「そうか」


「そんなことより、早く学校行かなくちゃ」


「それじゃ、学校まで競争だ! 負けたほうが買ったほうに放課後お菓子おごりだな」


 いつもなにかしらでシャレーとは賭けのようなことをしている。そんな毎日が楽しいのだ。


「スタート!!」


 シャレーの合図で僕とシャレーは、1キロ先の学校目指して走り出した。学校の校門へ先に入ったほうが勝ちだ。校門が閉まる前に入ってさえしまえば、遅刻扱いでは無いのだ。とにかくは校門が閉まる前学校の敷地内に居ればいいというわけだ。


「はぁ、はぁ、さすが、ラナー。相変わらず速いなぁ!」


「シャレーも速いよ。もう少しで追いつかれるところだったよ」


 シャレーは、僕のすぐ後ろまで迫っていたのだ。変な賭けを始めた頃よりはだいぶ速くなったものだ。シャレーに追い抜かれる日も近いかもしれない。


「でも、ラナー。息がまったく切れてないじゃないか」


 そうなのだ。息が切れているシャレーとは相対的に、僕は疲れた素振りすらも見せていない。


「運動では、シャレーに負けないからね!」


「そうか、じゃあ俺は勉強ではラナーに負けないよ」


「そんなことより、速く行かないと朝礼始まっちゃうよ」


「そうだな。修練館へ急げ!」


 朝礼は始まる直前だった。直前とはいえ、朝礼に出るかどうかは自由なので全校生徒数と比べると少ない。きっと朝礼など出たくないと思い教室に居るのだろう。自由とはいえ、朝礼に出ている生徒が多数居るのは、朝礼に出れば成績が上がるという噂があるかららしい。かくゆうラナーとシャレーも成績が少しでもよくなればいいと思い朝礼に出ているのだ。あくまでも神頼みのようなものだ。眠気を堪えながら校長の話を聞く。学校の名称はフォレット初等学校というため学園長ではなく校長先生なのだ。


 ようやく、長い話が終わり朝礼は終了した。これから短い休憩時間を挟み授業が始まる。シャレーと共に修練館を後にし、教室へ入ると一人を除いてほぼ全員といえるほどのクラスメイトが揃っていた。そこには、ガラン・カラーンの姿もあった。


「おはよう。ガラン」


「あぁ、ラナーか。おはよう」


 ガランは、早朝から分厚そうな本を読んでいる。背表紙には、古代の遺物からの考察と推論などと書かれており、背表紙から内容を想像することは難しそうだ。そもそも、古代の遺物とは何だろうか。気になったら聞いてみる。それだけだ。


「なんか分厚い本読んでるなー。古代の遺物って何なの?」


「ラナー……。そんなことも知らないのかい? 古代の遺物はね、稀に古代の技術では作れないはずのものが古代の遺跡などから、発掘されることがあるんです。そのようなもののことを古代の遺物と呼ぶんですよ」


「知ってるわけ無いよ。で、具体的にはどんなものがあるの?」


「クリスタルで作られたドクロとか。所有者は呪いで死ぬともいわれている死纏い杖とか。そんなものですね」


「ちょっと待って、二つ目のも古代の遺物なの?」


「そうです。フォレットの町の近くの鉱山で発見されたらしいんですよ。博物館に展示されているようですが、興味あるなら放課後見に行きます?」


 放課後には、シャレーにお菓子を奢ってもらうという大切な用事がある。ガランと共に博物館へ行けばお菓子を奢ってもらうことはできないだろう。どちらにするか迷いに迷い、決断を渋った結界シャレーにどうするかの決断を委ねることにした。


「どうする? シャレー?」


「そんなことラナーが決めればいい」


 結局、僕が決めることになってしまった。僕は迷った末に決断した。


「じゃあ、行くよ!」


 ガランは僕の言葉を聞き頷いた。


「それじゃあ放課後に校門前に集合で。それより、良いのですか? 席に着かなくて、もう授業始まりますよ」


「そうだね。席戻らないと」


 自分の席に戻ると鐘が鳴った。一時間目の開始だ。すぐに教師が前の扉から入ってきた。眠気が僅かにあるが、昨日早めに寝たから寝ることは無いだろうと思うことにした。


 フォレット初等学校は、午前4時間、午後1時間もしくは2時間授業がある。午前と午後の間には1時間ほどの昼休みがあり、そこで昼食を食べることになっているのだ。基本的に昼食は、食堂で食べることになっており月額500Eほどで1ヶ月ぶんの昼食を食べることができるのだ。リーズナブルでいい仕組みだと言う人もいれば、弁当を持参して食べたいと言う人もいる。しかし、食堂月額料金システムは親からは支持されているため文句を言うのは学生のみだ。食堂で昼ご飯を食べれない、食べたくない生徒向けに、救済処置もあるのだが、それはまた別の話だ。


 そして、時刻は12時20分。午前4時間の授業を終え、生徒達が一斉に食堂へと向かっていた。昼食をとる時間自体はいつでもいいのだが、席自体に限りがあるため席に座れなかった生徒は、救済処置を利用して昼ご飯を食べることになるのだ。テラス席もあるのだが、そちらは不人気でありテラス席を使用している生徒を見かけたことはほとんど無い。しかし、僕たちはいつもテラス席を利用していた。理由は単純で空いているからである。


 食堂とはいっても、月額料金システムのためメニューは決まっている。しかし、毎日違うメニューが出てくるため昼食の時間がかなり楽しみなのだ。毎日のメニューを日記に記していた生徒によると、一年間毎日違うメニューというわけでは無かったらしい。なんでも、年に二回は必ず同じメニューがあったとか。


「今日のメインメニューは地魚(じざかな)のフライだね。こんなにたくさんの地魚(じざかな)、何処から捕ってきてるんだろう」


 地魚は、地面の中に生息している見た目は魚のような生き物だ。以外とどこにでも居るのだが、見つけるのに苦労する。地魚釣りというもので魚釣りのように釣ることもできるのだが、中々かからないのだ。


「さあな、養殖でもしてるんじゃないか?」


「養殖してるんだとしたらどんな方法なんだろう……」


 きっと、子供の頭では思いつかないようなことを、大人達は考え付いて養殖しているのだろうな。


 少し肌寒いテラスでの昼食はあっという間に終了してしまい、午後の授業がやってきた。午後の授業はあと2時間ある。しかも、最初の授業は数解だ。数式を考えているとどうしても眠くなってしまう。


「えー、シャレーはこの問題で……、ラナーはこの問題を解き終えたら、黒板に書いてくれ」


 当てられた問題は、かなり複雑な数式で解き方が全く分からない。それどころか問題を眺めているとだんだんと眠くなって……。


(おい、ラナー。目を覚ませ!)


 どこかから僕を起こそうとする声が聞こえてきた。思わずびくんっと体をうねらせ、目を覚ます。この声はきっと先生だろう。


「先生、やめてくださいよー!」


「ん? 特に何もやっていないが……」


「だって、大声が」


「まさか、ラナー。お前寝ていたのか?」


「いや、決して寝てません」


「それならいいが」


「いったい誰の声だったんだろう」


 誰にも聞こえないほどの小声で呟く。


 目が覚めたのは良いものの、肝心の解き方はまったくといっていいほど分からない。いったい、どうすればいいんだろうか。その時、再びあの声が聞こえた。


(基礎を思い出すんだ)


「基礎……基礎……。そうか!」


 ぶつぶつとラナーは呟いた。学んでいる単元の最初のページへ戻り見返すとそこには基礎が書かれていた。その少し先のページには解いている問題と似たような問題の解き方が書かれていた。それを見ながらラナーは必死に数式を解くときりっと前を見た。黒板に問題の答えを書き終えた、シャレーが戻ってくる。


「あとは……、ラナー解き終わったか? 解けたなら、黒板に書いてくれ!」


「はい!」


 先生の言葉にそう返事をすると帳面を手に立ち、黒板へ進み出た。そして、少し震える手で高い黒板に背伸びをして答えと白色の黒板書きで解き方を書き記した。


「ラナー。やるじゃないか! 正解だ」


「やった!」


 席に戻り、座るとちょうど授業の終わりを告げる鐘が鳴った。約40分に及ぶ数解の授業は終わりだ。休み時間がやってきた。がやがやと教室が騒がしくなり始め。辺りから楽しそうな声が聞こえてくる。


「ラナー! お前寝てただろ!」


 ラナーの席のもとにシャレーがやってきた。今にも怒鳴り付けそうなくらいの雰囲気だ。


「寝てないって……。いや、寝たのかも」


「俺はしっかりと後ろから見てたからな」


 シャレーの席は僕の席の斜め右後ろに位置しているため、寝ているかどうかを見ることができたのだ。


「まさか、見られていたとは……」


「でも、よく起きれたな! いつもなら起きれないじゃないか」


「なんか、声が聞こえたんだよ。起きろって!」


 シャレーは怪しむような不思議そうな顔をした。


「ラナー、頭大丈夫か?」


「僕の頭はどこもおかしくないよー。でもね本当に聞こえたんだよ」


「幻聴だろ」


「そうなのかな……?」


 あれは幻聴だったのだろうか。いや、それはないだろう。しかし、あの声はどこかすぐ近くで話しているかのようなそんな気がしたのだ。


 再び鐘が鳴った。授業開始3分前を知らせる予鈴だ。この学校には時計などといった高価なものは置かれていないため、鐘の音を聞き逃さないようにすることが大切だ。


「あ、もうすぐ授業始まっちゃう!」


「俺も早いうちに席に戻らないとな」


 そして、6時間目の授業が始まったのだった。

読んでくださりありがとうございます。


この過去編では、未来ラナー視点と少年ラナー視点の話を繰り返していきます。

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