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強制的な冒険譚 魔法が消えつつある世界にて  作者: 川理 大利
第1章 5部 フォレット過去編
49/61

8年前 未

タイトルについている未は未来のラナーの視点から見た話ということです。



 真っ暗な空間の中にいた。本当に過去に来れたのか心配になった。やがて視界が明るくなった。まず最初に見えたのは天井だった。懐かしい天井だ。そして、漂ってくるこの匂いは……。いつも、母さんが作っていたチーズパンじゃないだろうか? チーズパンは分厚い丸パンを割りその中にチーズを入れて温めることで作ることのできる故郷の村で、定番の朝食だ。野菜だったり肉だったりを入れてアレンジをすることが多くパンに何が入っているかは家庭によって異なっている。もはや、野菜がたくさん入っていたりしたらそれはチーズパンなのだろうかと思ってしまうが、きっとチーズパンなのだろう。ちなみにグレンテル家はオーソドックスなチーズパンで、焼きたてのパンにチーズを入れるだけのチーズパンだ。たまに、違う具材も入れたりする。溶けたチーズの匂いが漂ってきて食欲を刺激する。お腹が空いたと思い立ち上がろうとするも立ち上がることができない。


「あぁー、眠いなー」


 ……? どこからか声がした。どこかで聞いたことのあるような少し高い声は……。誰だろう?


「ラナー! 早く下降りてきなさーい!」


 この声は、母さんの声だ。数年ぶりに聞く懐かしい声だ。ということはだ。過去に行けずとも行けなくとも家には帰ってこれたということだろうか? まだ確証がないため分からないが。


「今、行くよー」


 先程から聞こえる少し甲高いこの声は、過去の俺なのだろうか? いや、きっと違う。そんなことを考えていると視界が動き始めた。再びベッドに横になり二度寝を試みようとしているらしい。俺が動いているわけでもないのに視界だけが動くので変なものだと思う。そもそもなぜ体を動かすことは出来ないのだろう。せめて、声が出せればいいのにな。と思い声を出す。


  (あ!)


 喉がからからで少しかすれた声しか出せなかった。


「あれ? 何か声が聞こえたような? 気のせいかな?」


 分かったぞ! この少し甲高い声は俺だ。それもたぶん過去の。しかし、まだ状況が完全に掴めない以上、変に声は出さない方がいいだろう。ここが何年前なのかが分かってからだな。


 階段を降りきると短い廊下を歩き、リビングルームに入る。俺の家は一般的な一軒家だ。村というわけでもなく街というわけでもない。そんな中間の立ち位置の言うならば少し発展している街と言ったところだろうか。村というには家の数が多いのだ。


 少し広めのリビングルームにはテーブルと椅子本棚と物を生活用品をしまっておくための収納箱と棚のみ置かれており外に料理以外物が出ていないためか生活感がそれほど感じられない。それだけ丁寧に掃除をしているというわけだろう。


「まだお腹すいてないよー!」


「そんな事言わずにしっかり食べなさい!」


 父さんの姿が見えないがどうやら既に仕事に出掛けて行ったらしい。父さんは、村。いや、町から程近い鉱山で働いておりそこでとれた鉱石はセントラや異国に出荷されるらしい。ちなみに町に住んでいる住人の3分の1程が鉱山で働いているとのことだ。母さんが何をやっているのかというと、小さな農園を営んでいるのだ。所謂、家庭菜園というやつだ。小さな農園とはいっても家で食べる分より多く作り、残りを売っているわけであり、収入がそれほどあるわけではない。とはいえ、食材は自給自足でまかなえるので、父さんと母さんの収入で生活することができているのだ。


 とろとろのチーズが入ったパンを口に頬張る。俺が頬張っているわけではないのだが、味が自然と伝わってくる。チーズの熱さとパンの暖かさが舌に心地よい。一言でいうと美味しい。毎日チーズパンなのだが、日によって具材が違う。今日のは1番オーソドックスなものだ。不思議なことに、一口噛んで飲み込むごとにお腹が少しずつ膨れていく。空腹感が収まり、少しずつ眠くなってきた。俺は一応17歳なんだ! と眠気を我慢しようとしたが、眠気に打ち勝つことはできなかった。


 目を覚ますと、視界は緑色の黒板を見ていた。暖かい木の香りがする。なんだか物凄く懐かしい。どうやら現在地は学校であり、少年ラナーは授業を受けているようだ。ぼーっと黒板を眺めていると、また眠くなってきた。昔から授業を受けるのは嫌いだ。どうしても眠くなってしまう。その証拠に、少年時代の俺はこっくりこっくりと今にも寝てしまいそうだ。勉強はしっかりとやるべきだ。俺が言うのも変なのだが、この頃の俺は何も得意なものが無かった。せめて授業だけは真剣に受けてほしいものだ。


(おい、ラナー。目を覚ませ!)


 俺はかなり大声で叫んだつもりだった。その声が頭の中で反響したのだろう。びくんっと体をうねらせ、少年ラナーは目を覚ました。


「先生、やめてくださいよー!」


 どうやら少年ラナーは先生が起こしたと思ったらしい。


「ん? 特に何もやっていないが……」


「だって、大声が」


「まさか、ラナー。お前寝ていたのか?」


「いや、決して寝てません」


「それならいいが」


「いったい誰の声だったんだろう」


 少年ラナーが誰にも聞こえないほどの、小さな声でつぶやいた。


 今の俺の年齢で小さい頃の授業を真剣に受けてみると案外簡単なのだなとラナーは思った。もっとも授業を受けるべきなのは少年ラナーであり、俺ではないのだが。そもそも第一王立学園での授業が難しすぎるのだ。もっともそれは、初頭学校の高学年の授業から、理解が追いつかなくなっていったからなのだが。少年ラナーが数学の授業にて問題が解けなくて困っているようだ。先ほどから視線は数式が、滅茶苦茶に書かれた帳面に落とされている。なんだこの変な解き方は、俺でも分かるくらいの簡単な問題だというのに。それにしても、なんだかやたら真剣に解いている。いつも適当だろうに。


 おもわず俺はアドバイスをしてしまった。


(基礎を思い出すんだ)


 そう。この授業で大切なのは基礎である。基礎さえ分かればどうにか分かる。発展問題などといったものは、基礎を理解していれば解ける。高学年の問題は、無理だが。これは数解だけにいえることではない、魔法なんかもそうだ。基礎が理解できなければ魔法を操ることなんかはできない。何事も大事なことは基礎なのだ。


「基礎……基礎……。そうか!」


 ぶつぶつと少年ラナーは呟いた。学んでいる単元の最初のページへ戻り見返すとそこには基礎が書かれていた。その少し先のページには解いている問題と似たような問題の解き方が書かれていた。少し意図と違ってしまったが解けるならそれで良いだろう。少年ラナーは必死に数式を解くと、きりっと前を見た。


「それじゃあ、次はラナー! この問題を黒板に書いてくれ!」


「はい!」


 先生の言葉にそう返事をすると帳面を手に立ち上がり黒板へ進み出た。そして、少し震える手で高い黒板に背伸びをして、白色のチョークで答えを書き記した。


「ラナー。やるじゃないか! 正解だ」


「やった!」


 どうやら、少年ラナーが真剣に問題を解いていたのは先生に問題を当てられる順番だったからのようだ。しっかりと解けたことで、満足げにしている様子が頭の中にも伝わってくる。


 席に戻り、座るとちょうど授業の終わりを告げる鐘が鳴った。約40分に及ぶ数解の授業は終わりだ。休み時間がやってきた。がやがやと教室が騒がしくなり始め。辺りから楽しそうな声が聞こえてきた。


「ラナー! お前寝てただろ!」


 少年ラナーの席のもとにシャレーがやってきた。今にも怒鳴り付けそうなくらいの雰囲気だ。


「寝てないって……。いや、寝たのかも」


「俺はしっかりと後ろから見てたからな」


 シャレーの席は少年ラナーの席の斜め右後ろに位置しているため、寝ているかどうかを見ることができたのだ。


「まさか、見られていたとは……」


「でも、よく起きれたな! いつもなら起きれないじゃないか」


「なんか、声が聞こえたんだよ。起きろって!」


 シャレーは怪しむような不思議そうな顔をした。


「ラナー、頭大丈夫か?」


「僕の頭はどこもおかしくないよー。でもね本当に聞こえたんだよ」


「幻聴だろ」


「そうなのかな……?」


 少年ラナーと少年シャレーの会話を聞いていて思ったことは、変に声を出さない方がいいということだ。未来から来たことがバレたとして、なにか悪いことがあるかというとそんな事は無いのだが、バレたときには偽名を使った方が良いだろう。念のためだ。念には念を入れておくのも大切だろう。


 再び鐘が鳴った。授業開始3分前を知らせる予鈴だ。この学校には時計などといった、高価なものは置かれていないため、鐘の音を聞き逃さないようにすることが大切だ。


 それにしても何故だろうか。先程から物凄く眠い。過去に来てから眠気を感じることが多くなっている気がするのだ。


「あ、もうすぐ授業始まっちゃう!」


「俺も早いうちに席に戻らないとな」


 その声を聞いたのを最後に俺は眠りに落ちた。目覚めて眠る。本日はそんな一日だった。旅日記などどうでもいい。どうせやることも無いのだから眠いときは寝てしまえばいい。心のなかでおやすみとつぶやいた。

読んでくださりありがとうございます。


過去編が始まりました。正式な名前ではないですがとりあえず過去編ということにしておいてください。


次話は少年ラナー視点の話です。

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