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目に決意の火を宿して

45話目です。間が空いてしまったので前回のあらすじを書きます。


ハラをなんとか気絶させることができたリバン。しかし、ラナーとシナンも倒れてしまい……。

 ここは、どこだ。動こうにも動けない。俺の体の分だけ空間がとられている。辺りは暗く。動けるだけの空間はなく。そんなところに射し込んできた一筋の光。俺は、あの光の先へ……行きたいんだ……。ただそれだけだったのに。


 突如、染み込んでくる現実。非現実から現実へ引き戻され目が覚めるとそこは、ランタンだけが唯一の明かりの薄暗い部屋だった。俺はベッドに寝かされているらしい。


「なんだ、夢か……」


 やけにはっきりとした夢だった。夢にどういう暗示があるのかは知らないがやけに気になる。なぜだろう。自由でない身から自由へ。これは今の俺とシナンだ。学園生活に囚われていた俺たちは強制的に旅に出され、自由になった。しかし、今の状態は完全に自由といえるのだろうか。分からない。自由ってなんだ? 社会に囚われないこと? 好きなことをする? そうじゃないだろ? でも、それがなんなのか俺には分からない。それにしても、夢の最後の一筋の光の先とはなんなのだろう? だめだ考えれば考えるほど分からない。


「ああ、もっと自由になりたいな」


「お前は、何を黄昏ているんだ?」


 俺が横になっているベッドの隣に置かれているベッドから声が聞こえてきた。この声はシナンだ。倒れた瞬間を見たがどうやら無事だったらしい。


「いや、変な夢を見てな……」


「そうなのか。でもお前は自由だと思うがな。お前という存在がお前の意思で行動しているのなら」


「しかも、あれだろ。お前はこの一年勉強をする必要がないんだ。十分自由じゃないか」


 このシナンの言葉に俺は驚いた。


「そういう不真面目なことをシナンも言うんだな」


「少なくとも私はお前たちが思っているより不真面目だと思うがな……」


 不真面目? いや、シナンは不真面目ではないだろう。少なくとも俺と比べるとぜんぜん……。


「具体的にいうとどこが不真面目なんだ?」


「うーん……、旅中に学園でやるような勉強を毎日はできていないところとか?」


「そりゃあ、ずいぶんと真面目な考えだな」


「そうか?」


 まず、旅中に学園でやるような勉強という言葉が頭によぎる時点で十分すぎるほど真面目だろう。しかも、毎日という言葉が出てくるということは、勉強自体はしているのだろう。


「そうだよ。それにしても、シナン倒れてたけど大丈夫か?」


「大丈夫だ。少し疲れすぎたようだな。今は少し体に疲れが残っているだけだ。体を動かすなとは言われているがな」


「そうか。それなら良かったよ」


 そうえば、ここで寝かされているのも俺が眠るように倒れたからだっけな。てか、寝た。魔法を一日でつかいすぎたらしい。そんな使っただろうかと考えると使っていた。なんせ、昼間にモグラ達50匹ほどを魔法で気絶させ、夜は手持ちランタンがわりにてに明かりを灯して使い、その後今までにない威力の氷の魔法を放った。思い返せばそれなりに魔法は使っている。


「いやー、それにしてもよく寝たよ!」


「お前は倒れたわけじゃないのか?」


「どうやら、魔法を使いすぎて体力を使い果たしちゃったらしいんだよ。それで、その場で寝ちゃったってわけだ」


「つまり言うと、体に異常は無いってわけか」


「まぁ、そういうわけだな」


「そうか……、それなら良かったな」


「なんだ? 俺のこと心配してくれてたのか?」


「そんなわけ……無いじゃないか」


「嘘つけ」


 俺が少しからかい口調で言うと、シナンはそれに対していたって真面目な返答をした。


「嘘などついていない」


「そうですか……」


 何かを聞こうと思っていたんだ。なんだっけか。えーとたしか……あれか。ヴィージャンド王国解放隊隊長だと自称するハラの瞬間移動とナイフが増えたタネだ。その二つをシナンに聞く。それに対するシナンの答えとは……。


「あれは、目の錯覚だよ」


「目の錯覚だって?」


「そうさ、目の錯覚さ。天井が異様に高く見えたのはそのせいだな。目の錯覚で高く見せていたんだ」


 でも、目の錯覚というのには無理がありすぎないか?


「その低い天井にギリギリ通れるぐらいの穴を開けておいてそこにとんでもない高さのジャンプで飛び込む。そして、天井でナイフを手に取りリバンの背後付近の穴から飛び降りて気づかないうちにナイフで刺す」


「でも、穴なんて無かったじゃないか」


 穴といえるものはリバンが天井に剣を刺したときにできた穴ぐらいだ。


「それも、目の錯覚だった。というわけだ」


 またもや目の錯覚。そんなことがありえるのだろうか。しかし、目の錯覚ではなかったとしたらそれはいったい何になるのだろう。魔法? いや、それはないだろう。いや、でも魔法を使っていたとしか思えなくなってきた。


「要するに敵には地の利があったというわけだな。もし負けていても私は責めるつもりはなかったよ」


「そうなのか……」


 これで全て納得したかといえばそういうわけではない。目の錯覚が本当に目の錯覚なのかということと、ナイフを10本以上持てるのかということだ。指の数は左右に5本ずつ……。分からない。なぜそんなに持てたんだ。


「ナイフがなんであんな多く持てたのかも教えてくれないか?」


「ああ、それはだな。あくまでも予測だがナイフの柄の部分に穴が開いていてそこに指を通して持って刺していたんだと思うんだがな……」


「なるほどな……」


 確かにそれは理解できるかもしれない。指を通して持てばひとつの指につき二三本は通せるだろう。


「だが、確信はできない。指の数自体を増やしていたのかも知れないしな」


「指の数自体?」


「そうだ。指の数だ」


 シナンはいたって真面目な顔でとんでもないようなことを言っている。


「そんなこと、ありえるかよ……」


「いや、ありえないこともないと思うが。それがありえないことだというなら。お前の魔法はどう説明するんだ」


「うぐっ……、それはそうだな」


「この世界には魔法がある。だからこそ、ありえないと思えるような事象も起こりえるかもしれないだろ?」


「ありえない事象には必ず何かがある。私はそう思っている」


「そう考えるのか……」


 ありえない事象には必ず何かがあるか……。そうだな。でも、俺はありえない事象の裏には想像もつかないようなことがあると思っている。案外、俺とシナンの考えは似ているようだ。まあ、言葉に出してシナンに伝えることはないが。


「だからだな、つまりいうとだな、幽霊とかもありえない事象のひとつだろ? 幽霊というものも存在などしないんだよ。あれは、きっと布かなにかを幽霊と見間違えたんだよ。うん。きっとそうだ」


 なぜ、ここで幽霊の話が出てくるんだ。今は関係ないだろうに。いや、ありえない事象という点では関係があるのか?


「俺は幽霊はいると思ってるぞ」


「なぜ、そう思う?」


「だって、死んだら幽霊になるんだろ?」


「さすがラナーさん。ずいぶんと非現実的なんだな。でも、私はそんな考えもいいと思うがな。全てを現実的に考えていたら息が詰まってしまう」


 これが、俺の考えだ。現実思考もいいと思うが、如何せんつまらない。なぜ生きているのか分からなくなる。創作物はみんなそうだ。非現実的なものを肯定しているものばかりであり否定しているものはすくないだろう。しかし、俺はそのようなものを読まないので何が人気なのかは分からない。


「それもそうかもな」


 幽霊は非現実的な存在であり。普通の人では見ることさえできないものだ。霊感などといったものがあるらしいがそれは本当だろうか。


「で、なんでこんな話になったんだ?」


「たしか、ありえない事象がなんだかかんだか」


「まあ、いいか」


 話が面白ければそれでいいじゃないか。そういえば、シナンはやけに幽霊を否定したがっていたな……。


「なあ、もしかしてシナンって……、幽霊の類いが苦手なのか?」


「ゆゆゆ幽霊などといった非現実的な存在、苦手ではないが……」


 この反応は苦手な人の反応だな。ためしに怖い話でもしてみるか。


「これは、昔々王都であったできごとです。今でいう11区の裏道を歩いていると……突然後ろから声をかけられました。時はすでに深夜。こんな時間に人などいるのだろうかと振り向くと……」


 シナンは青ざめた顔で震えながら俺に訴えてきた。薄暗い部屋でこのような話をしていると、どこか雰囲気がでてくるものだ。


「やめてくれ、そんな非現実的な話」


「まあまあ、最後まで聞けって」


「そ、そうだな」


 話を再開させよう。たしか中断したところはあの場面だな。


「後ろを振り向くと。そこには一人の美しい、まさしく美女と呼ぶにふさわしい一人の女性が立っていました。その女性は、宿の場所を教えて下さいと尋ねてきたのです。しかし、時は既に深夜。宿に空きなどあるのだろうかと思い、一緒に宿を探してあげることにしたのです」


「さて、シナンに問題です。この後の展開はどうなるでしょう!」


「この後の展開だって? 女が実は幽霊でしたってオチじゃないのか?」


 惜しいが、間違っている。怖い話の雰囲気で話してきたのだから、思考が怖い話の方へいくのも仕方ないだろう。


「続きを話そう。宿を一緒に探していたところ、その女性のいくつかのおかしな点に気づいたのです。まず、左足を怪我しているかのように引き摺りながら歩いているのです。そして、目です。まばたきを一度もしないのです。人間というものはまばたきをしなければ目が渇いてしまうものです。しかしその女性はそんなそぶりも見せずにただただ歩いているだけです。そこで気になったので女性に正体を聞いてみることにしたのです」


「ここまでは予想通りだな……」


「女性は案外すんなりと正体を明かしてくれました。女性の正体はとある施設の元実験体ということでした。まばたきをしないのは実験と称して体を改造されたときの実験結果であり。左足は実験による後遺症だということでした。体を勝手に改造されることへの痛みと苦しみは相当だったそうです」


「以上、終わり。どうだったか?」


「全く。胸糞悪い終わり方だな。結局その女性は報われたのか?」


「さあな、俺が知ってるのはここまでだ」


 この話は結構王都では有名なのだが、シナンが知らないのは意外だった。もしかしたら忘れていたのかも知れない。


「全く、怖い話だと思って真剣に聞いて損をしたな」

 

「怖い話が良かったか? それじゃあそうだな……」


「いや、もういい。やめてくれ」


「なんでだ?」


「時間の無駄だ」


「そうか」


 シナンとの会話が終わり、無言の時間が続く。聞こえてくるのはランタンから水が蒸発していくチリチリという音だけであり、少し物悲しさを感じる。なんだか眠気が押し寄せてきて首をこっくりこっくりさせていたところ、突然部屋の入り口である扉がバーンと開け放たれた。ベッドに座っていたおれは驚きのあまり飛び上がりそうになったがなんとかこらえた。いや、実際飛び上がりかけたのだ。座ったまま。たぶん俺が飛び上がって、そのまま天井にぶつかったら崩れてくるだろう。恐ろしい……。


「目が覚めたかい?」


 扉を開けたのはリバンだった。そして、その後ろにいるのはハラか? なんで、リバンとハラが一緒にいるんだ? まあ、いい。聞いてみれば分かることだ。


「なんで、リバンはハラと一緒にいるんだ?」


「ああ。まずそこから聞くかい? ほらハラ、ラナー達に説明してくれ」


 ハラが口を開き、説明を始める。


「ふっ、リバン殿によって僕は改心したのですよ。今までの方法は卑劣だった。だから僕は正しい方法でヴィージャンドを王の閉鎖的政策から解放することにしたのです」


 それなら最初からそうすれば良かったじゃないか。と思うがそれは胸にとどめておく。というか、リバン殿と呼んでいるのが何気に笑えてくる。笑いをこらえながらハラに聞く。


「水道水に、薬品を混ぜる以外の方法は思いつかなかったのか?」


「ふっ、思いつくわけないじゃないですか」


「お前なぁ……」


 こういう人間には何を言っても無駄だと誰かが言っていた。誰が言っていたんだっけかな。


「それじゃあ、薬品を水道水に混ぜるというのは誰に教わったんだ?」


 途端にハラの目が輝きその人物についての説明を始める。興奮気味なのか声も少しうわずっているようだ。


「ふっ、それは我が師。サント様ですよ」


 サント? そんな名前は聞いたことないな……。


「師って言うからには、すごい人なのか?」


「そりゃあ、そうですよ。セントラに来たとき迷っていた僕を導いてくださったお方ですから」


「で、その師に騙されてたってわけか?」


 シナンが話に突然入ってきた。俺だけじゃそんな不安か?


「ふっ、騙されたなんて失礼な。ヴィージャンド王国解放隊の結成まで手伝ってくださりアイデアも出してくださったのですよ。この指を増やす力もサント様から教わったのですから」


 シナンの言う通り、本当に指が増えた。実際に見ると気持ち悪い。きっとリバンもシナンも、指が増えたことに驚いているだろうと思ったのだが、表情を見る限りそこまで驚いてはいなさそうだ。なぜだろうか。


「そうかそうか、素晴らしい人なんだな。でも、それならなんで薬品を水道水に混ぜるなんてアイデアを提案したんだ? そんな素晴らしい人ならもっと別のアイデアを思いついただろうにな」


 さすがシナン。俺とハラのやり取りを聞いているだけでそこまで考えるとは……。俺ではそこまでの考えには至らないだろう。


「まさか!」


 ハラが何かに気づいたようだが、俺には何がなんだかさっぱりだ。


「そうだ。きっとそのサントとやらには別の目的があったんだろうな」


 そうだったのか? よくそこまで思い至るな。と思いリバンの方を見てみると納得したような顔をしている。まさか、分かっていなかったのは俺だけだったのか!?


 ハラがうつむいてしまい、場の空気が少し重くなったので、重い空気を変えようと俺はリバンに話しかけた。


「で、結局ここはどこで今は何月何日の何時何分なんだ?」


 これまでの話とは全くといっていいほど関係のない話題だ。


「そうだな……、ここは浄水室の医務室だ。それで日にちは……。分からない。地上が今4月何日なのか。まあ、とりあえず時刻は朝の6時45分だ」


「そうか。分からないか……。まあ、仕方ないな。とりあえず地上へ戻らないか? もう暗いところから抜け出したいよ」


「そうだね。みんな身支度ができたら浄水室の出口の前に集合だ!」


「分かった」


 と、俺が返事をする。俺の返事に続き、シナンも。


「はーい」


 と、どこか気の抜けたような返事をする。シナンの返事に続き、ハラは。


「リバン師匠! 僕、決めました!」


 と、気合いの入った返事? をする。いや、返事ではないな。


「師匠? いや、何を決めたんだ?」


「僕……、これから先、僕自身そして、解放隊で力を合わせて、ここヴィージャンド王国を現国王の閉鎖的政策から解放させてみせます!」


 ハラの目には、決意の火が宿っており誰にどう言われようとその決意の火が消えることはないだろう。それをリバンは見抜いたのだろう。リバンは頷き、ハラをしっかりと見据える。


「はあ、まあ勝手にすればいいさ。オレを師匠と呼ぶのも、王国を解放するのも」


「はいっ、リバン師匠! 僕、頑張ります。それではもう行きます。解放隊の仲間達と共に。またいつかどこかで会いましょう!」


 ハラは、別れの言葉を言うと、走って部屋から出ていった。


「なんていうか。人ってあそこまで変わるもんなんだな」


 俺の率直な感想だ。ハラは、別人になったのではないか? と思ってしまうほどの変わりようだった。


「きっと、あれが素の彼なんだよ。彼の場合、サントって人に利用されてただけみたいだからね」


 どこか、遠いところを見据えているかのようにリバンは話す。まるでこの場にいない誰かに話しかけるかのように。


「そう……なのか」


「そうさ。生きていく過程で人は悪人になっていくのさ」


 シナンがまるでひとりごとを言うかのような口調で言葉を発する。


 リバンは気分を切り替えたのか朗らかな口調で俺たちに言った。


「さて、オレたちも身支度を済ませて地上へ戻ろうか!」


「そうだな……。やっと明るいところへいけるんだな」


「大袈裟な……。ここもある程度明るいじゃないか」


「シナンはこれが明るいと思うのか?」


「思うが……。それがどうかしたか?」


「どうかしてるよ」


「なんだと? それは私に対する侮辱として受け取っていいのか?」


「違う違う。悪かったって」


「リバン! もう早く地上へ戻ろう!」


「ふふふっ、そうだね。身支度は終わったのかい? 忘れ物なんかしたらシャレにならないよ」


 こうして、俺たちは地上へ戻る。ひとつの物語が完結すれば別の物語がはじまるように次の物語は少しずつ始まっていく。

読んでくださりありがとうございます。


この話が45話です。もうすぐ50話ですが、近いうちに新編に入る予定です。

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