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丸一日の金稼ぎ 中編 2 井戸の底にて

久しぶりの長い話で久しぶりの戦闘話です。

 井戸の底へ向かいひたすらに降りていく。聞こえてくるのは、俺の足が壁に当たってなるガッガッという音だけだ。しかも暗くて底が見えないのだ。怖いことこの上ない。


「いったい、あとどれだけ下れば底に着くんだ?」


 当然のことながら答えてくれる人などいない。なんせ暗い井戸の中だ。底にすらついていない。そんなことをグダグダと考えながら降り続けていると、片方の足が固い地面についたようなザラッといった音がした。


 しかし、まだ安心は出来ない。もしここに固い地面がなかったら? 井戸の底まで真っ逆さまだ。どうしようか。解決策は存在する。魔法だ。光で辺りを照らせばいいのだ。イメージだ。イメージするんだ。周りが照らされるほどの光を。


「光よ、見える範囲を明るく見せろ!」


 指先に灯れと言ったわけではないがこの場合どうなるのだろう。まあ、イメージがしっかりとしていれば問題はないわけだが。


 バッという音と共に視界が途端に明るくなった。しかし、辺りに光が浮いているような感じはない。これはつまり……。


「俺の視界だけ明るく見えるようになったのか……」


 そういうことだろう。俺から見える視界だけ明るくなった。簡単に言えば夜行性の動物の目になったのだろう。


「これは、便利だなぁ」


 とりあえずそれは置いておき、井戸の底に近づいてきたのかを確認しなければいけない。違っていたら大変だ。地面に向かって真っ逆さま。そんなことあってほしくない。


「さてさて、地面はあるかな?」


 首を下に向けると、地面はもうすぐそこなうえに、安全そうな土だった。これだったら大丈夫だろう。安心した俺は両足を地面に下ろした。足を下ろした途端に靴の中に少し水が入ってきた。水が完全に枯れているわけではないらしい。しかし、水はまるで紙のような薄さしかない。これなら枯れたと勘違いしても仕方ないな。


 石を投げたときにカーンという音がしたのは、地面に石が着いた時の音で間違いないだろう。だとすると、井戸が枯れてしまったのは何故なのか? とりあえず周囲を見てみる。特段異変は見つからない。ならば音だ。耳をすますとわずかに水の流れるような音が聞こえる。井戸でそんな音が鳴るだろうか。その方向に目をやると、人がしゃがめばギリギリ通れるであろう、洞窟のようなものが続いておりそこに水が流れていってしまっているようだ。


 進むかどうするか……。進むべきか。それにしてもこんな洞窟みたいのがあったら井戸として機能しないよな……。てことはもしやあれか。


「少なくとも。この洞窟は、井戸を作ったときはなかったのか……」


 だめだ。俺の頭ではこの辺りまでが限界だ。とりあえずシナンに連絡しとこう。


 鞄から遠距離小型多機能通信機を取り出しシナンとの通信状態にする。気づいてくれればいいんだけどな。


 数分後、シナンがようやく出た。


「どうしたんだ? ラナー」


「それがだなあ、今井戸の底にいるんだ」


「なんで井戸の底なんかにいるんだか……」


「それでだな……」


 シナンに井戸の底へ下りた理由と現状をつたえる。そして、その答えは……。


「進むべきだろうな……。道が荒れた原因にも繋がるかもしれないしな」


「そうか、アドバイスありがとな」


「私はリバンにそのことを知らせておくとするよ」


「ああ、よろしく頼む!」


 シナンとの通信を終え、洞窟らしき場所を歩く。少し行けば立って歩けるくらいの広さにはなった。洞窟はまるで蟻の巣のように複雑となっており、印をつけておかなければ迷ってしまいそうだ。水は相変わらず足元を紙のような薄さで流れておりどこまで流れているのか先など見ることはできない。


 上がったり、下がったり、迷ったり、そんなことを繰り返しながらひたすら進む。もう現在地がどこで、井戸の底からどの程度進んできたのか分からなくなった頃、これまでより広い空間に出た。


「ここは……」


 地底湖だ。日が差し込まないことで水は深い緑色に見える。昔からこの地底湖はあったのか、それとも井戸の水が流れ続けてできたのか。詳しいことは分からない。分かるわけない。しかし、どちらにせよまるでずっとそこにあったかのような美しさが地底湖からは感じられる。


「綺麗だな……」


 まず喉の渇きを癒すために地底湖の水を手で掬い飲む。甘くて美味しい水だ。数時間ぶりに水を飲んだからだろうか。


 水を飲むのに夢中になっていると背後の地中から飛び出してくるモノに気づくのに遅れ、肩をバッと切り裂かれた。幸い服と皮膚が少し切り裂かれただけで済んだが痛いのには変わりない。


「いっ、痛っ。一体なんだ?!」


 バッと後ろを振り返るとそこに居たのはひときわ大きいモグラとその後ろにズラッと並ぶ小さいモグラの群れだ。ギャーなどと声を出して威嚇をしている。


 なんだモグラか。と油断して飲むのを続行しているとモグラはさらに攻撃を仕掛けてきた。強い一撃だ。首を狙ってきたであろう体当たりは少し逸れ俺の前方の地底湖の湖面に突っ込んでいった。


「危ねえなあ、モグラってこんな危険な生き物だったか?」


 喉の渇きは癒せたがこれ以上の探索はモグラが許してくれなさそうだ。


「待てよ……モグラ?」


 モグラ、モグラ。何か大事なことを思いついたのだが忘れてしまった。まあ、どっちにしろここで倒しとけば悪いことはなさそうだ。


「何にせよモグラは倒させてもらう」


 モグラの総数はどれくらいいるだろうか。数えきれないな。とにかく小さいモグラが多すぎる。まずはそっちからだな。


 モグラねえ、モグラってことは水に弱いってことはないだろうか。試してみる価値はあるな。とりあえず剣を……あ、地上に置いてきてたっけ……。


 仕方なく、シャベルとツルハシを背中から取り左手にシャベル、右手にツルハシと構える。道具の有無で気分が変わるからな。


「水の魔法だな」


 水の魔法の中でも範囲が広い魔法がいいな。一気に全匹を気絶させられたら楽だ。冷たく透き通り勢いが強い幅の広い川の水をイメージする。そんな川、本で見たぐらいしかないが大丈夫だろう。


 シャベルとツルハシを身体の前で交差させて言葉を唱える。シャベルとツルハシを交差させたのはこうした方が威力が上がりそうな気がしたからだ。


「水よ、冷たく透き通る水よ、川の上流のように強い流れとなりモグラ全体へ飛び出してゆけ!」


 シャベルとツルハシが一瞬水色の光を発してモグラの群れに向かってバシャーッと勢いのある水が飛び出る。水はとんでもない勢いでモグラ全匹に当たり、俺のほうまで水が跳ね返ってきた。


「なんて勢いだ。こりゃ」


 水をぬぐいモグラを見てみると全匹が消えており、モグラがいた場所には大きな穴が空いていた。


「消えたのか?」


 突如地鳴りのようなゴゴゴゴというような音がどこからともなく聞こえてきた。


「まさか!」


 身の危険を感じた俺は、その場から飛びすさり離れる。その数秒後、俺が立っていた場所にはモグラにより新たな空洞が出来上がっていた。そして、その空洞から飛び出したモグラが全匹で俺に体当たりを仕掛けてきた。しかし、先ほどの水攻撃がある程度ダメージがあったようで動きが鈍い。これなら簡単に避けることができる。


 ひらりと避けて水の魔法を打ち込む。もっとも何も唱えず、イメージも威力を一点に縛ったもののため、先ほどの全体攻撃には見劣りしてしまうが、威力は全体魔法の数倍だ。


 全匹の体当たりをひらりと避けて水の魔法を打ち込む。これを何回も繰り返して着実にモグラの数を減らしていく。こうしているうちにモグラ達の体力も減ってへばってくれればいいんだけどな。


 ひたすらこの作業を繰り返していき、ついには残り1匹になった。俺もいくら体力があるとはいえ、あれだけの数を相手にしては流石に疲れた。モグラの数を数えながら魔法を打ち込んでいたのだが総数は50匹だ。


 残った1匹は、ひときわ大きいモグラだ。群れのリーダーのような存在なのだろう。残った一匹を合わせれば51匹。


「お前で最後だな」


「グルルル」


「モグラがそんな声出すのかよ」


「ガルルルル」


 その鳴き声はまるで、猛獣のようだ。


「どこからでもかかってこい」


「ガルッ」


 大きめのモグラは、一鳴きすると小さいモグラより強めの体当たりを仕掛けてきた。しかし、俺がどれだけこの体当たりを避けたと思っているんだ、こんなの簡単に避けれるさ。


「お前らって同じような攻撃しかしてこないよな。もっと違うの見せてくれよ」


 言ってもしょうがないことか……。どうせ言葉は通じないんだしな。


「ガルルッ」


 大きめのモグラは、ふたたび一鳴きするとともに上へ飛び天井へと飛び込んでいった。そして、勢いをつけて石や土と一緒に俺に真上から体当たりを仕掛ける。


 俺は、その体当たりをシャベルとツルハシで受けながす。体当たりを受け流されたモグラは、地中を通り少し離れた場所に出る。


「なかなか、面白い攻撃だ。でもな、これでもう終わりだ」


 氷の魔法。教わった魔法の中でもかなり扱いやすい魔法だ。氷があればなんでもできるからな。でも、まだ氷の魔法は使わない。まずは、威力を一点に縛った水の魔法をモグラに向けて放つ。


「冷たく尖った水よモグラに向けて放たれよ!」


 これだけでも、モグラにはかなりのダメージだがまだ甘い。この次に氷の魔法だ。正確には凍らせる。二重の氷だ。


「氷よ、凍てつく氷よ、水を凍らせよ!」


 ガキーンという音とともにモグラにかかっていた水が凍る。さらにその上に氷の魔法を打ち込む。冬の冷たい氷をイメージする。


「氷よ、凍てつく氷よ、モグラをさらに凍らせよ!」


 氷の上からさらに氷が張り付き、白くなっている。しばらくは動けないだろう。そうだ、モグラのことシナンに報告しておこう。


 鞄からふたたび遠距離小型多機能通信機を取り出しシナンに連絡をする。


 今回は、かなり早く通信に出た。


「ラナー、どうした? 何か分かったか?」


「ああ、モグラを倒したんだ」


「もしかして、そのモグラって群れだったか?」


「ああ、群れだったがそれがどうかしたか?」


「ちょっと待ってろ今リバンに代わる」


「分かった」


 モグラがそんなに重要なことだっただろうか? モグラってどこにでもいるよな……。


「おーい、リバンだが聞こえるかい?」


「ああ、聞こえてる」


「モグラを倒したらしいけどモグラの特徴を教えてくれないかい?」


「えーとだな……」


 モグラの特徴と見つけるまでの経緯と現状を細かくリバンに伝える。


「ふむふむ、なるほどね。分かったよ」


「何がだ?」


「全てさ」


「まず、モグラは害物指定されている西草原モグラだね。で、今回の道を荒らした犯人も西草原モグラだろうね」


「なるほど……ってええ!」


「今からオレがそっちの方に向かうから場所を教えてくれないかい?」


「ああ、井戸の底だな」


「分かったよ」


 その後、リバンは縄ばしごで井戸の底まで下りてきて、気絶したモグラ達を村の人達と一緒に地上まで引き上げていった。ちなみにモグラはこの後、殺されるらしい。害物指定されているうえに、村に大きな被害をもたらしたのだ。仕方ない。そうこれは仕方のないことなのだ......。そうだ、井戸直しておかないとな。


 全員が洞窟から引き上げてから井戸を直す。村の人たちが困らないように。しかし、どう直すものか。そうだ、魔法で何とかできないだろうか。氷で塞いでしまってもいいのだが、所詮は氷、溶ける可能性もある。岩など作れないだろうか。そう、意図せず創造魔法を使ってしまった時のように。そうだな......。固く頑丈な大岩が、洞窟の入り口にピッタリはまっているイメージで。


「固く頑丈な大岩よ、洞窟の入り口に生成されよ!」


 ゴゴゴゴゴと、地面から大岩が植物のように生えてきて一ミリの隙間すらなく、ピッタリとはまり込んだのだった。この分なら問題ないだろう。これで井戸の洞窟ともおさらばだ。

 井戸の修理を終えてから地上にもどるにつれて、ものすごく眩しく感じ始めた。


「眩しいな……、そうか!」


「視界魔法解除!」


 適当に言ってみたがこれで眩しさが無くなるだろうか。


「おお、眩しくない」


 途端に眩しさはなくなりいつも通りの視界に戻りひと安心だ。地上に戻ってから、置いたままになっていた剣を手に取り、リバン達のもとへ向かう。道の修理は2人と親切な村人でやってしまったらしいので、あとは戻るだけだ。集合場所の村役場まではもうすぐだ。

読んでくださりありがとうございます。


魔法習得訓練と豊漁祭 後編に次ぐ長い話となりました。


久しぶりの戦闘話でしたが前よりは戦闘描写良くなったんじゃないでしょうか。


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