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丸一日の金稼ぎ 前編

累計40話目で10万字突破です!

 星歴1314年 4月26日 5時37分


 どこかから朝の匂いが漂ってくる。もう朝か…….仕方ない。暗い暗い闇に覆われた世界に無理やり光をさすかのように今日は目覚めた。4月26日、旅6日目だ。左腕もだいぶ治り動かせるようにはなった。包帯もとって大丈夫だろう。案外治りが早くてよかった。きっとあの廃村の薬のおかげだな。


 とりあえず顔を洗おう。それが1番の優先事項だ。俺の朝はそれから始まる。顔を洗ってからは剣と魔法の修練だな。とりあえず外へ行って修練をしよう。


 洗面室で顔を洗い、剣を背中に背負ってから外へ出る。さてと、どう修練しようか。と思い辺りを見回してみるが修練できそうな場所がない。仕方ない、とりあえず街を少し走ってから剣の素振りをやり、もらった魔法関連の本を読もう。きっとそれがいいだろう。まだ読んでないしな。


 走っている最中に迷わないようにしないとな。しかしそれほど問題ではない。きっと裏道に入りさえしなければ大丈夫だろう。


 旅人通りをぐるっと3周ほどしてからセンウィン街道を下っていく。まだ時間が早いからか馬車の通行はそれほど無いようだ。


 行きはずっと下りなので楽なのだが帰りは大変だろう。ずっと上りだ。とりあえずどこか適当なところで引き返して公園か何かを見つけて剣の素振りをしよう。と思った矢先、少し大きめな交差点とぶつかったのでそこで引き返して来た道を戻る。さてと、どこかに公園はないだろうか。


 しまったな、地図を持ってくるべきだったな。公園なんてどこにあるんだ? 少しセンウィン街道から外れてでも探すべきだろうか。まあ、この街の作りは案外単純だしな。裏道以外の場所はだが。

 しかしこの街には裏道沿いの建物に住んでいる人もいるらしい。その人たちは裏道はもう慣れきっているんだろうな。俺は絶対住みたくない。


 いや、こんなこと考えているより公園を探さないとな。公園……どこかにないだろうか。タッタッタッタッと公園を探しながら走っているうちに気づけば旅人通りの宿泊中の宿の前まで戻ってきてしまった。仕方ない、もう今日は剣の素振りをするのは諦めよう。そう思い俺は宿の扉を開けた。



 宿の自室に戻り鞄の中に手を突っ込みあるものを探す。魔法関連の本だ。俺の記憶が正しければ鞄の中に入れておいたはずだ。


「えーと、これじゃないしこれでもない」


 おっ、あったあった。探し続けてしばらく経ってからようやく本を見つけることができた。そういえばこの鞄、自動仕分け機能的なのがついてたっけな。最初からそのことを思い出していればもう少し楽だっただろう。

 本を2冊ドサッと机の上に置き本とにらみ合いをする。いつまでも逃げ続けちゃいけないのは分かっている。分かっているんだ。


 でもな、でも……。


「本、読みたくないな……」


 一度読もうとして断念したあの日から俺はこの本を避け続けてきた。でも、いつか読まなきゃいけない日がくるのも分かっていたんだ。だからこそ今俺は、その封印を解く! そんな勢いで俺は読む決心をした。


 せめて、1冊。たった20ページだったっていい。それだけでも読むんだ。2冊あるうちの1冊。魔法指南書1基礎から応用へ。と表紙と背表紙に書かれた本を手にとり、分厚い表紙をめくる。表紙をめくった次のページには目次と絵のようなものが書かれている。よく見るとその絵は少し動いているようだ。さすが魔法関連の本といったところだろうか。


 さらにめくると、次のページには魔法について詳しい説明が書かれている。まだ知らない事も多いからここは読んでおいたほうがいいな。


 1冊目の半分くらいまでは、リンネさんに聞いた基礎的な説明をさらに詳しくしたものと、可能魔法と不可能魔法についての説明がなされている。可能魔法と不可能魔法ってなんだ?


 可能魔法


 魔法は、イメージが大切というのはご存知と思われます。そして、イメージ次第でなんでもできると思っていますよね。魔法の研究結果によると行使できる魔法は、たしかにイメージ次第だということです。そして、それらの行使できる魔法は可能魔法と呼ばれています。行使可能な魔法というわけですね。


 不可能魔法


 可能魔法と言われるのであればその逆もあるのではと思うかもしれませんが、察する通りその逆もあります。魔法というものは、行使者自身のイメージにより様々なものを行使することができますが不可能なこともあります。例を挙げるならば、生身で空を飛ぶ、時を渡る、空間を捻じ曲げる、瞬間移動、地形を変形させる。生物を即死させる。生物を生き返らせる。この他にもまだまだ不可能魔法はあるとされていますが、全てあきらかになっているわけではありません。これらは総じて不可能魔法と呼ばれ、万能とまで言われる魔法の1つの弱点となっているのです。


 不可能魔法そのものを行使する事は出来ないとされていますが、身体強化系の魔法でそれらしきものは再現できるでしょう、しかしそのものは行使出来ないのです。


 とのことだ。魔法は完全に万能というわけではないらしい。そして、説明の最後に付け加えるかのようにこう書かれていた。


 この書では魔法について扱っていますが、あくまでこれは参考書のようなものです。魔法をどう使うかは、全てこの書を読んでいるあなた次第です! 可能魔法と不可能魔法があるのはこの説明を読んだことで理解されたかと思います。しかし、著者である私はいつか不可能が打ち破られて使えるようになる日を待ち望んでいるのです。 著者 サラッド・エラー


 俺は魔法指南書1を半分ほどまで読み進め、読むのを中断することにした。もう時間が時間だ。今日はここまでにしておこう。内容は堅苦しい文が続くのかかと思いきやそんなこともなく、かなり読みやすかった。これなら俺も読みきることができそうだ。


 その後、シナンと合流し朝食を食べてから宿を出る。向かうは旅人ギルドだ。時刻は7時45分。このまま歩けば、ちょうどいいくらいに旅人ギルドに着くだろう。



 7時55分 旅人ギルド ロビー


「おはよう、早いなリバン。」


 集合時間の5分ほど前に着いたのだがリバンは、既に旅人ギルドに来ていた。


「おはよう! 君たち。よく来てくれたね」


「おはよう」


 リバンの挨拶にシナンが挨拶を返す。


「朝飯は済ませてきたかい?」


「ああ、もう済ませてきたよ」


「そうかい。さてと、それじゃ早速だけど金稼ぎに行こうか。オレについてきな」


 リバンはそう言うと、ロビーの奥のギルド加入者専用の酒場に入り、ギルド長室に繋がる扉の横にある扉へと歩いていく。そんなリバンの後ろを俺たちはついていく。ギルド長室の横に部屋があるのだろうか。


「なあ、リバン」


「なんだ?」


「今向かっている扉の先で金稼ぎができるのか?」


「いや、さらにその先だ」


「その先って?」


「まあ、部屋に入ってみれば分かるさ」


 さらっと訳のわからない事をリバンが口にした。扉の中には部屋しかないだろうに。


 リバンが扉を開き俺たちはその部屋の中に入る。その内部は、一目見ただけでは換金部屋と違いがないように見える部屋だ。唯一の違いは数え切れないほどの紙が貼られたボードが、壁に掛けられていることくらいだろうか。換金部屋と同じくカウンターが設置されておりカウンターの向かい側には人が座っている。


「で、ここはどんな部屋なんだ?」


「ここは、依頼受領部屋だ」


「依頼受領部屋?」


 依頼とは、あれだろうか。以前俺が王都中央広場で受けたのと同じやつだろうか。たしかに同じようなボードがあるが。


「依頼って魔法使いに向けて出されるやつだろ?」


 それを聞いたリバンは訝しむような顔で俺を見てから言葉を発した。


「魔法使いに向けて出される依頼? なんじゃそりゃ。そんなもんがあるのか? それとは関係ないよ」


 どうやら魔法使いに出される依頼とは関係ないらしい。だとしたら何なのだろう。


「いや、なんでもない。今のは忘れてくれ」


「そうだ。今のはラナーの世迷言だ」


 シナンが謎のフォローを入れてくる。仕方ない、意味が分からないがとりあえずここはシナンに合わせておこう。


「そ、そうだ。今のは俺の世迷言だ」


 世迷言ってどういう意味だ? 駄目だ。思い出せない。


「お前、それ言っちゃダメだろ」


「ダメなのか?」


 俺は、悪くない。世迷言という言葉の意味を説明してくれなかったシナンが悪いんだ!いや、でもシナンから俺に説明する暇なんか無かったか。だとすると俺も悪いな。結局どっちが悪いんだ……。


「あのー、そろそろ説明いいですか?」


「どうぞどうぞ」


「それじゃあ、説明を始める。まずはな、金稼ぎってのは依頼を引き受けて、その引き受けた依頼を達成して金をもらうってことだ」


 なんだ、金稼ぎってのも案外簡単そうじゃないか。俺がそんな風に簡単に考えている横でシナンは頭を下に向けて少し考え込んでいた。そんな考えも結論に至ったのか顔を上げてリバンに質問をした。


「それはつまり、依頼を達成できなければお金は貰えないってことか?」


「まあ、そういうことになる」


「難しいのか……? いや、でもだとしたら……」


「まあ、でもそんな考え込む必要もないさ。どの依頼も対価として払われる額はかなり高額だ。高額なだけあって難易度も高めだけどな」


「なるほど……」


「で、どうするんだい? 今ので怖気付いたかい? それなら依頼はやらなくていいだろう」


「いや、俺は依頼やるよ。もちろんシナンもやるよな?」


「もちろんって……。リバンがやるというなら私もやろう。私はお前の監視役なんだからな。あまり離れるわけにはいかない」


 監視役か……。そういえば忘れてたな。旅に出るときにそんな風になってたっけな。言葉を返すのは面倒だからスルーしよう。


「で、リバン。依頼はどこで受けるんだ?」


「そこのボードから依頼を選んでカウンターに持っていって受けるんだよ」


 そう言い、リバンはボードに貼り付けられたたくさんの紙の中から2枚選び、カウンターへ持っていった。カウンターの受付人が受領印らしきものを押し、その紙を持ったリバンは俺たちの元へと戻ってくる。


「もう依頼を受けてきたのか?」


「ああ、2つ依頼を受けてきたよ」


「それは、1日かかる量なのか?」


 これが重要だ。シナンに念のためと言われて保存食を買ってあるため、1日でも構わなくはないのだが。分かっている状態でやることと、分かっていない状態でやることでは結果はかなり変わってくる。


「半日……いや丸一日かかる量だな。君たちはそれでも構わないかい?」


「もちろん、大丈夫だ!」


「私も大丈夫だな」


「それじゃあ早速依頼の場所へ行こうか!」


「おう!」


 こうして、俺の金稼ぎ改め丸一日の金稼ぎである依頼解決が始まったのだった。

読んでくださりありがとうございます。


前書きでも書いた通り累計40話目で10万字突破です! ようやくここまできたかという感じがします。


どうか、今後も強制的な冒険譚 魔法が消えつつある世界にてをご愛読くださると光栄です。

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