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強制的な冒険譚 魔法が消えつつある世界にて  作者: 川理 大利
第1章 3部 セントラへの旅編
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旅立ちの朝

新編の始まりです。

 星歴 1314年 4月21日 5時30分


 春だというのに朝はまだ冷える。布団の中でさえも寒く感じてしまうぐらいに。だから布団から出たくない、起きたくない。


「おい、起きろラナー。5時30分だぞ」


「おい、ラナー!」


 しかしさっきから、シャレーの声がうるさい。もう少し寝かせてくれたっていいだろう。


「もう少し寝かせてくれ」


 精一杯の声を出したつもりだが眠気のせいで全然声が出ない。


「今日から旅に出るんだろ? おい、起きろ!」


 旅? なんのことだっけ、頭が働いていないので全然思い出せない。旅……旅?


「あっ、旅!」


 危ないところだった、もし起きれていなかったらどうなっていたことやら。いや、起きれなかったら部屋に押しかけてきたシナンに叩き起こされていたことだろう。


 旅のことを思い出した瞬間に、意識が覚醒し始める。出たく無い気持ちを無視して、布団から頑張って這い出る。


 ベッドの上の掛け布団をたたみながらシャレーにお礼を言う。


「悪い悪い、起こしてくれてありがとなシャレー」


「頼まれたことを、やらないほど俺は悪人じゃねえぞ」


 なんだ、その返答はまさか早起きするのが嫌だったのか? それならばと、そこでシャレーに反論を試みる。


「だって、どうせお前はいつも5時には起きてるだろ?」


「まぁ、確かにそうなんだが、昨日は本を読みすぎたせいで寝不足気味なんだよ」


 どうやら、寝不足らしいので長く寝たかっただけのようだ。


「じゃあ、もう寝てていいぞ」


「いや、俺は寝ない。友人の旅立ちを見送らないほど薄情者じゃないからな」


 薄情者って、確かにここで見送ってくれなかったらそうだと思うが。とはいえ、見送ってくれる人がいるというのはありがたいことだ。さて、荷物の最終確認をしておかなければ。


 鞄の中を見て忘れ物がないか確かめる。


「えーと、本に寝袋にペンにメモ帳に、遠距離小型多機能通信機、財布、あとは剣を忘れないようにしないとな」


 剣は俺の机の上に置いてあるが、忘れないように鞄と一緒のところに置いておこう。


「そうえば、ラナー。旅の服ってどうするんだ?」


「うーん、そうだな」


 シャレーのその言葉で、忘れていた服のことを思い出した。服、何がいいのだろう。旅なので、動きやすい格好がいいのだろうがイマイチ分からない。


「ちなみにシャレーだったら、どんな服で旅に出るんだ?」


「俺なら、動きやすくて便利な服だな」


 まぁ、そうなるだろうな。なにかいい服はないだろうか? と思い服がしまってある引き出しを漁る。


「でも、別に制服でもいいんじゃないか? 学園の制服って動きやすいな」


「そうだな、制服にしておこう」


 まだ、春になったばかりなので冬の寒さは少し残っている。しかし、これから季節が変わっていくことを考えると、丈夫で調節しやすい制服でいいだろう。とりあえずはだが。


「さて、出発時間までまだ1時間ほどあるがなにをしようか」


 集合場所の正門前までは徒歩3分もかからないので、かなり余裕がある。シャレーと話して暇を潰そうか。


「なぁ、シャレー、俺もう旅に出るけど何か思うこととかあるのか?」


「そうだな、確かに寂しくなるとは思うよ。それと、同時に心配だ」


「必ず、元気で帰ってきて学園生活の残り1年しっかり学園に通えよ!」


「あぁ、もちろん! 約束するぜ」


 そう…だな。無事に帰って来れない。そういうこともあるかもしれないのか、気をつけないとな。


 その後、出発時刻になるまでの残り1時間ほどは、シャレーとコーヒーを飲みながら話し込んだ。


「おっと、もうこんな時間だ。そろそろ正門前に向かわないとな」


「もう時間か、随分話し込んじゃったな」


「いやいや、楽しかったからいいよ」


 剣を背中に吊るし、その上から鞄を背負う。きっと、忘れ物はないはずだ。


 玄関まで歩いていき、扉の前に立ちシャレーの方を向き直す。シャレーに挨拶をするためだ。


「見送りに行こうか?」


「いや、いいよ玄関までで」


「そうか、分かった。それじゃ気をつけてな」


「シャレーこそ、元気でな」


「それじゃ、また一年後に会おう」


「あぁ、一年後に!」


 その言葉を最後に、俺は重い扉を開き外に歩み出る。閉まり切った扉を見て、部屋に心の中でしばしの別れを告げてから、廊下の外の景色を眺める。廊下は通りに面しているために登ろうとしている朝日が建物の間からチラチラと見える。

 まだ日は登りきっておらず、少し薄暗い。薄暗いにもかかわらず、建物の隙間からわずかに漏れる朝日が眩しい。


 少しずつ暖かくなり始めた春の空気を噛み締め、正門へ向かうために階段を降りる。

 階段を降りきり、通りで左右を確認してから通りの反対側に渡る。とはいっても馬車などが走ることはまずないのだが。


 集合住宅の前の通りを挟んで向かい側に学園はあり、正門までも歩いて3分ほどだ。

 時刻を確認すると、6時51分でありまだ余裕はある。だが、せめて5分前にはついておいた方がいいだろう。


 少し歩き正門前に着くとすでにシナンは着いていた。挨拶をし、シナンに話しかける。


「おはよう!」


「悪い、遅かったか?」


「おはよう。そんなことは、ない。単に私が早すぎただけだ」


「そうえば、ラナー。お前お金どうにかなったのか?」


「あぁ、なったぞ。ほら5000Eだ」


 財布から5000Eを取り出し見せてやる。


「一体、どんな手段で集めたんだ? というかよく5000Eも集めれたな」


「すごいだろ!」


 実際、これはすごいことなのだ。自慢するように言ってやる。


「そうだな。スゴイスゴイ。それはともかく、せめて明日には王都を出れるといいんだがな………。まず、街道を目指した方がいいな」


「あぁ、分かった」


 シナンに俺の自慢話は流されてしまった。


 時刻は、丁度7時になろうとしている。


 かくして、俺の旅は今始まろうとしていた。俺の1年間だけの冒険譚だ。きっと楽しい冒険になるはずだ。始まりは強制的だけどな。

いよいよ、旅に出ます。

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