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旅立ち前夜 1

 行きと同じ道を通り、家の前まで辿り着く。そうえば、シャレーはもう家に帰っているだろうか?


  そう思った俺は時間を確認するため腕にかけた時計を見る。時間は20時25分を指しておりなかなか遅い。この時間だときっともう帰っているだろう。


 確認のために部屋の明かりを見てみるとカーテン越しに薄っすらと明かりが見える。やはり、すでに帰っているようだ。


 早く家に帰り、旅支度をして寝なければ。明日の朝は早い、なにせ出発が7時だからだ。せめて5時30分には起きた方がいいだろう。


 正面の入り口から寮に入り、俺の部屋を目指す。三階へ向かうため階段を上るが、この階段もなかなか段数が多いため上るのが大変だ。


 階段を上がりきり、廊下を歩き部屋に向かう。鞄の中から鍵を取り出すと部屋の扉の鍵穴に鍵をさし、右に回すと、ガチャリと音を立て鍵が開く。扉をあけて、部屋に入る。


「ただいま!」


「おぅ、おかえり!」


 玄関からは、3つの部屋に分かれており、トイレと浴室、居間、寝室となっている。トイレと浴室はユニットバスでは無いものの、同じ部屋に押し込まれている。


 3つの部屋のうち用があるのは居間なので、居間の方の扉を開ける。その居間で、本を読みながらシャレーは話しかけてくる。


「帰ってくるの随分遅かったな、そうえば日替わりランチ食べといておいたぜ」


「あぁ、そうかありがとう」


 どうやら、シャレーは昼ごはんに食べようと思っていた日替わりランチをしっかりと食べておいてくれたらしい。今日の日替わりランチ食べたかった。


「以外と美味しいんだな、あれ」


「お、ついに気づいたか?日替わりランチの美味しさに」


 ようやく、シャレーは日替わりランチの美味しさを理解してくれたようだ。日替わりランチのことを考えているとお腹がすいてきた。夜ご飯をまだ食べていないからだ。


「なぁ、そんなことよりも腹減ったな、何かあるか?」


 シャレーに聞いてみる。きっと何かしら作ってくれているだろう。


「何もないぞ、あとで何か食べに行くか」


 どうやら何もないらしい、残念だ。冷蔵庫の中を見てみてみるも、飲み物が少しあるだけで食べ物は何もない。何かしら食べたかったんだけどな。


 そこで、シャレーが本から目を離して俺を一目見て少し不思議そうな顔をする。


「背中に鞄と一緒に背負ってるそれ、何だ?見たところ剣のようだけど」


「あぁ、これか?これは剣だ」


 と言いながら、剣を鞘から引き抜く。


「これ、扱える人がほとんどいないらしいぞ。お前に扱えるかな?」


 リンネさんについては、この剣を持つことはできたのだが、扱いきることはできなかった。


「どれどれ、扱えるかな」


 と言い、こちらに歩いてくるのでシャレーに剣を手渡す。俺が手を離すと、シャレーは剣を手に持………てなかった。


「何だこれ、持てないな。この剣重すぎるだろ、実技2位の俺でさえも持てないなんて」


「ほれ、貸してみろ」


 シャレーから、剣を受け取り軽々と持ちあげて見せつけてやる。


「俺にとっては、どんな武具よりも軽く感じるんだ、この剣」


「まったく、どんな原理になってんだか」


 と言い、元の場所に戻るとまたシャレーは意識を本に戻した。


 あとは、魔法のことについても見せてやらなければ。シャレーならばきっと誰にも話さないだろうから心配はいらないだろう。


「これ、見てみろよ」


「これって、なんだ?」


 と言い、シャレーが本から目を離した瞬間に指先に光の魔法を発動させる。


 帰り道にランタン代わりに光の魔法を、使っていたおかげなのかは分からないが、何も唱えることなく、光の魔法を発動することができるようになっていた。


「おぉ、何だそれ、すごいなランプいらないじゃないか」


 いやいや、ランプいらないって。見て最初の感想がそれかよ。もっと思うことあると思うんだけどな。


「いや、たしかにランプの代わりにも使えるだろうけど…………」


「あっ、まさかそれ魔法ってやつか? すごいな。どこで魔法なんか習得したんだ?羨ましいぞ、俺は」


「学園長にでも教えて貰えばいいんじゃないか? 学園長も魔法使えるらしいぞ」


「なるほど………学園長か、でも学園長室は行きにくいな」


「本気にしてんのか? 冗談だぞ、半分は」


「半分冗談だって? じゃあどっちが半分なんだ?」


 だめだ、これは何を言っても通じなさそうだ。なぜ、そんなに魔法を使えるようになりたいのだろう?


「なんで、そこまでして魔法を使えるようになりたいんだ?」


「そんなん、決まってるだろ? オカルト神話の主人公が魔法を使ってるからに決まってるじゃないか」


「じゃあ、教えてやんない」


 理由が、可愛らしいが教えてやるわけにはいかない。教えると時間がかかってしまいそうだし、俺に魔法の適性を判断するなどできない。


「なんでだよ? 教えてくれたっていいだろ…………」


「魔法には素質ってもんがあるんだよ」


「それで、お前には素質がないんだ」


 めんどくさいことになりそうだからとりあえずこの件は適当に片付けておこう。


「そうなのか、残念だ」


 よし、納得してくれた。

 そうえば、こんなことしてる場合じゃないな早く旅支度をしないと。


 って、あれ部屋の中を見回しても鞄が見当たらない。あるにはあるがそれも通学用の鞄だ。もしかして俺、今しょってる鞄しかないのか? でもこんな小さかったら荷物入りきらないな。財布に本二冊と発火石が入っている飲み物を入れる容器の3つが入っているだけでいっぱいだ。仕方がない、鞄を買いに行くしかないか。


「おい、シャレー鞄を買いに行くぞ」


「今から、買いに行くのか? それなら、ついでに夜ご飯も食べに行こうか」


 こうして、俺は再び家を出て街に繰り出すこととなってしまった。そうだ! ついでに、旅に必要そうなものも買っておこう。旅支度が万全に越したことはないだろう。

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