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魔法習得訓練と豊漁祭 後編

後編スタートです。

 魔法習得訓練を、終えた俺たちは屋敷に戻り照明が切れているというリビングルームへ向かった。


 廊下を少し歩き客間の2つ隣の部屋に入る。どうやら、ここがリビングルームのようだ。


 照明が切れているためか暗く、窓から差し込む夕日が部屋を照らしている。昼間は問題ないだろうが、夜にこの部屋が使えないのはなかなか辛いことだろう。


 照明は、どれだろうと部屋を見渡していると天井に平たい四角の白いガラスのようなものがある。俺は、それを指差して。


「照明とは、あれのことですか?」


 と聞いてみる。


「そうそう、その指差してるのが照明だよ!」


 どうやらあれが、照明ということで合っているようだ。


「その照明はちょっと特殊でね。あの中に光の魔法を込めることによってつけることができるんだよ」


 なるほど、それなら俺もできそうだ。

 だが、ガラスの中に光の魔法を入れなければいけないので難易度はかなり高いと思われる。だが、ここで諦めるわけにはいかない。


「頑張ってね!」


 リンネさんの応援を背に受け、俺はガラスの照明が光るイメージを考え始める。


 この国で、家などの明かりは一般的には、松明や燭台やランプなどといったものが常識だ。ちなみにランプの材料には発火石というものが使われている。


 文字通り放っといたら火がかってにつく石だ。熱と光を放っているためランプに使われている材料となっているのだ。


 発火石が使われたランプは水を入れる量を調節することで光の強さを調節するため、光の強さの調節が楽という利点があるが、扱い次第では火事になることもある。実際、過去に俺の部屋でも火事になりかけたことがある。取り扱いには気をつけなければならない。


 そんなことを考えていたせいだろう。気がつくと、俺の右手に強烈な熱と光を放つ発火石がのっていた。


「あ、熱っ!」


 すぐに左手で発火石をとろうとするも、おそらく100度は超えているだろう熱き石を俺の手から取ることはできない。


「水よ、発火石を閉じ込めろ!」


 とっさに水の魔法を発動させ、発火石を水の中に閉じ込める。熱と光が落ち着いた発火石を見つめて呟く。


「一体何が起こったんだ?」


 何がなんだか理解できない。何もやっていないのに気づいたら右手に発火石がのっていて………… 。


「ふふふふふ、無意識に創造魔法を使うなんて…………天才すぎるよ君! 創造魔法って使うこと自体が大変なのに」


 どうやら俺は、創造魔法と呼ばれるものを無意識に使ってしまっていたらしい。恐ろしいな、それ。


 しかし、どうやら使うこと自体が大変な魔法らしいのできっとさっきのは偶然だ。 いや、そうと信じたい。


「あのー、作り出してしまった発火石どうしましょうか?」


「君が、記念に持っておきなよ。初創造魔法行使記念ってことで」


「記念にって…………」


 仕方がないので、この状態のままガラスでできた飲み物を入れる容器に入れ鞄の中にしまう。


「ところで、創造魔法について何か書きたいことある?」


 なんだか、すごく嬉しそうにリンネさんが尋ねてくる。


「そうですね、怖いから遠慮しときます」


 実際怖いのだ、創造魔法が。何もない状態から物を作り出すとはどのような原理なのかなど知りたくない。それに、おそらく魔法習得訓練場でもらった本に詳しくは書いてあるだろう。


 さて、気を取り直して照明を点ける作業に戻るとしよう。照明を点けるには、光の魔法が必要だったな。


 できるだけ余計なことは考えないようにしよう。ガラスの中に光の魔法を入れるなら言葉はどうすればいいだろう。


(光よ、ガラスの中に発生せよ!)


 いや、これはダメだ。ただ単にたくさん光の魔法がガラスの中に発生するだけになってしまうだろう。


 それなら、次はこれだ。


(光よ、ガラスの中で光源となれ!)


 そもそも、あの照明ってなんていうんだ? ガラスでいいのか? 正式名称を聞いておかないと。


「あの照明って、正式名称はなんていうんですか?」


「あれの正式名称は、光魔法専用天井照明って言うんだよ」


「なるほど、ありがとうございます」


 どうやら、光魔法専用天井照明と言うらしい。長ったらしいがそれを気にしたら負けだと俺の中で勝手に思う。


 だとすると、言葉は。


(皓皓とした光よ、光魔法専用天井照明の中で光源となれ!)


 これでいいだろう。あとはイメージ次第だ。


 白く明るい光をイメージするとしよう。それでは、唱えてみるとするか。


 光魔法専用天井照明を指差しながら唱える。


「皓皓とした光よ、光魔法専用天井照明の中で光源となれ!」


 ありたっけのイメージを振り絞って唱えたが果たしてつくだろうか。


 少しよそ見をして外を見てみると、外もだいぶ暗くなっており部屋の中もまだ未だに暗い。


 そんな部屋の天井に取り付けられた暗いままの光魔法専用天井照明。そんな照明に今、異変が起きた。


 チカッと一瞬光ったかと思った刹那、その光が伝染するかのように照明中に広まっていく。そして、その光が広まりきると、照明はまるで最初からついていたかのように違和感を残すことなくついたのだった。


 俺はしばらく、自分の力で行ったことなのだと理解することができず、まるで人ごとのように喜んでいた。


「リンネさん! やったですね、つきましたよ照明。よかったですね!」


「それは、そうだけど。これは、君がやったことなんだ、まず君が喜ぶべきなんじゃないかい?」


 リンネさんのその言葉を聞き、実感が湧いてきた俺はようやく俺自身のために喜ぶことができた。


「やった! ついに俺はやったんだ。依頼を達成したんだ。これで、やっとお金がもらえるんだ!」


「ついにって、いってもほんの数時間のことでしょ。まったく…………」


 たしかに、考えてみればまだリンネさんに魔法を教えてもらいに来てから数時間しか経っていないのだ。数日間の出来事のように感じていたのが不思議だ。


「約束通り、照明をつけてくれたからね〜報酬の5000Eは必ず払うよ」


 よかった、これでお金の心配は無くなりそうだ。


「君が、期待以上だったからね〜。大サービスで追加報酬をあげちゃうよ!」


 追加報酬とは、いったい何をくれるのだろう。そう思っていると、リンネさんは財布から5000Eを取り出し俺に渡す。報酬の5000Eのようだ。


「忘れないうちに渡しとかないとね、まずは、報酬の5000Eだよ」


「ありがとうございます! これで旅に出ることができそうです」


 正直言って、依頼を受けた時点では報酬が貰えるか心配していたのだが、依頼を解決した後では本当にこの依頼を受けて良かったと思っている。


「それじゃあ、依頼も解決したことだし外へ行こうか」


「へ?」


 何を言っているのだろうか、もう依頼は完全に解決したじゃないか。


「さっき、言った追加報酬の件だよ。ここ数日王都中心部と港付近では豊漁祭が行われているのは知っているでしょう?」


「知ってますよ、たぶん………」


 少し、考える。豊漁祭? あぁ、王都中心部で年に一度何日かに渡って行われているあれか。


 一度シャレーと一緒に行ったことがあるが、あまりにも人が多すぎてすぐ帰ったのでほとんど記憶に残っていない。


 なんでも、1000年以上続いている歴史のある祭りということで、文字通り豊漁を祝うものということだ。その祭りは主に、王都中央広場から北に伸びる大通りと東西両方の港で行われているらしい。


 店などもたくさん出店しており、普段王都で手に入れることができないような物もその日に限り手に入れることができるそうだが、俺は一回行ったきりなので詳しいことは分からない。


 祭りの日は、国内各地からあまりにも多くの観光客が訪れるため王都中の宿泊施設の空きが全てなくなるというのは有名な話だ。


 たしかに、色々便利そうな祭りではあるがなんの用があっていくのだろう?


「魔法は、武具を使った方が威力や成功率が高くなるんだ」


「だから、これから君のために武具を買いに行くんだよ」


 なるほど、これは予想外だった。リンネさんには、感謝しなければならないので、できるだけ安いものにしておこう。


 こうして、俺たちはリンネさんの屋敷を出て再び祭りがおこなわれている1区に向かったのだった。




 豊漁祭の会場である北の大通りは、人で賑わっており身動きをとるのが精一杯な状態だった。道の脇には露店が所狭しと出店している。


 14時頃この辺りに来たときに、やけに混んでいるように思えたのは、豊漁祭が行われているのが原因のようだ。


「豊漁祭はね、国内各地から露店が出店してくるから普段王都で売られてる武具より良い武具が安価で手に入りやすいんだよね」


 王都の武具屋もなかなか良い商品を扱っていると思っていだがそれ以上の武具が豊漁祭では手に入るようだ。


「なるほど、だからわざわざ豊漁祭に来たんですね」


「そうそう」


 北の大通りを歩き続けること数分。1つの露店の前でリンネさんは立ち止まった。店の名前を見てみると、ザラース武具店と書かれている。


「今日は、この店で武具を購入しようか」


 そう言って、リンネさんは店に近づいていき武具をひと通り見ることにしたようだ。もちろん、俺もついていく。


「いらっしゃい」


 店長らしき人が無愛想そうな声で挨拶をした。この人が店の名前の由来のザラースさんなのだろうか。


 武具店を見てみると、剣や弓、槍などといったメジャーな武具からマイナーな武具までがたくさんならべられている。


 リンネさんにどれが扱いやすいのか聞こうと思っだが、俺が使うものだ。俺自身の目で選ぼう。


「う〜ん、迷うなぁ」


 俺は、学園の三年次で実技が一番という実力を持っている。実技とは、筆記科目以外のものを総称したものである。


 その筆記以外の科目には、武具の扱いなどといったものも含まれいる。俺は全ての武具の扱いが得意なのでこれから選ぶ武具は、どれでもいいだろう。


 ただ、唯一欲をいうなら剣がいいなと思う。魔法剣士など憧れてしまう。


 その考えに至った俺は、様々な種類がある剣の中から選ぶことにした。剣の種類はどうしようか、ここは無難に長剣にしておくとしよう。


 長剣の中にも、様々な種類の剣があり、迷ったが、最初に目に付いた剣にしておくことにした。


「これに、します」


 そう言って、俺が選んだのは長剣にしては少し刀身が短めで、つかが革製のものだ。見た目だけ見ればシンプルな長剣といったところだ。


「ほう、それにするのか。値段は、25000Eだ」


 思った以上に高額な代金を請求されたなと思いながらリンネさんを見ると、リンネさんは不思議そうな顔をしていた。


「そんな、値段でいいんですか?武具にしては、随分と良心的な値段ですけど」


 どうやら、武具は普通はこれ以上の値段がするらしい。すると、店員さんは、口を開く。


「そもそも、この剣は誰も扱えないんだ、だから安く売ってるってわけだ」


 何、扱えないだと。それだと俺も扱えないんじゃないか。まぁいいか、安く手に入るなら。


「君、ちょっと試し振りしてみて」


 リンネさんにそう言われた俺は、剣を手に取り試し振りをしてみる。試し振りっていうことはこうだろ?


 ビュンッと音を立て、剣を上下左右に、目に見えないほどの速さでふる。

 思ったより軽い、本当に鉄製かこれ? それに初めてこの剣を振ったはずなのに妙に手に馴染む。


 店員さんは、普通に剣を振ったことに驚愕した様子で俺を見ている。


「それを振れるのか、お前、凄いな……」


「これでいいでしょ、普通に扱えるみたいだよ」


「あ、ああそうだな。値段は25000Eだ」


 財布から25000Eを取り出しリンネさんは、店員に代金を払う。

 お礼を言ったのち、その場を離れてリンネさんにこの剣について聞いてみる。


「この剣って、いったいなんなんですか?」


「私にも、よく分からないね〜。でも使ってるうちにわかってくるんじゃない?」


「は、はいそうですね」


 武具を買うという目的を達成した俺たちは、王都中央広場に向かって歩き始める。もう、これで依頼は完全に終了したのでリンネさんとはお別れだ。お礼を言わなければ。


「あの、リンネさん。半日という短い間でしたが、本当にありがとうございました」


「いやいや、いいよこれぐらい。元はと言えば、私が勝手に魔法を使える人を探して、依頼板に依頼を書きこんでたわけだから」


「君は、明日から旅に出るんでしょ?」


「はい、そうですね」


「頑張ってね、旅」


「大変だと思うけど、それに見合うだけの得られるものもあるはずだから」


 気がつくと、王都中央広場に着いていた。

 ここまでこんなに短かっただろうか………。ここからの帰り道は別々になる。


「それでは、本当にありがとうございました、またどこかで会いましょう」


「そうだね、それじゃまたね」


 そう言うと、リンネさんは俺とは逆方向に歩いていき雑踏の中へと消えていった。


 なんだか、やけに長い1日だった。さて、家に帰ろう。旅支度をしなければ。


前後編とかなり長くなってしまった話を、どちらも読んでくださった方は、ありがとうございます。


この話で、王都編 1は完結です。この後、数話ほど話を挟みいよいよ旅立ちます。

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