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強制的な冒険譚 魔法が消えつつある世界にて  作者: 川理 大利
第1章ヴィージャンド王国
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プロローグ1 報告

長編予定です。

 報告 星歴1314年4月10日 12時20分

 ヴィージャンド王国 王都 ウィンレド にて


 4月10日どうやらその日は、王都、いや王国中の学生達が絶望し嘆き諦める日らしい。基本的に新学期の始まりは、王国内で統一されているのだが、それが4月11日なのだ。


 王都ウィンレドにある学生寮の一室に住むその少年も、そんな1人のようだ。


 その集合住宅の部屋は、かなり簡素な造りとなっており、白の壁紙に南向きの大きな窓、窓の外にはベランダがあるが、王都の街を見渡すことができるかというとそういうわけでもない。向かい側には別の建物が建っており眺望など無い。


 室内には玄関から見て右側の壁に学習机が2つあり、部屋の真ん中に大きな四角い机が置いてある。その机の上には新聞や本、さらにはお菓子までもが隙間なく置かれており、かなり使用感がある。


 その机の周りには、いくつかのクッションが置かれていて、学習机の置かれている反対側の壁には、壁いっぱいの大きさの本棚が置かれているようだ。


 と、そのとき。


「あー宿題終わらねー!」


 室内にとある少年の声が響き渡る。


 どこまでも響きそうなその声は、学習机の片方に座るある有名な学園に通う少年の声である。ここからは呼び名を部屋の主としよう。


「てか、明日で休み終わりなのに絶対終わるわけねーだろ! 下手したら今日徹夜だぞ、これ」


 その原因は部屋の主自身にあるというのに喚いている。徹夜くらい勝手にしてればいいと思う。


 あんなことを言っているが、本当にこの少年が……、信じられない。


「うるさいぞ! 今読んでいる本がいいところに差し掛かっているんだ」


 この声は部屋の主の同居人の声のようだ、クッションに座り本を読んでいるようだ。こちらは呼び名を同居人としよう。


 いったいなんの本を読んでいるのだろう、どれ程面白いものなのかと僅かに興味が湧いてくる。


「だって。終わりそうに無いんだもん」


 部屋の主のその声を遮るように、同居人は更に声を張り上げる。


「お前が悪いんじゃないのか。コツコツ進めればよかったものを……」


「それができれば今こんな状況になってねーよ。ところで、今日はどんな本読んでんだ?」


 部屋の主は、話を違う方向へ持って行こうとしているようだ。


「何でもいいだろ、大したものじゃないぞ」


 さて、同居人の読んでいる本の表紙を見てみると、救命冒険譚と書いてある。


「なんなんだ、救命冒険譚って?」


「知らないのか? 最近流行りの救命冒険譚を!」


 どうやら部屋の主は同居人の入れてはいけないスイッチを入れてしまったようだ。


「この本はな、とても、とても深い物語なんだ。まず主人公は旅に出る。そこで様々なことを経験して、成長していく」


「しかし、順調なように見えた旅路にある悲劇が起こってしまう。それは共に旅をしていた親友が、死んでしまったことだ」


「悲しみに暮れた主人公は、親友の元へ行くために死のうとする。しかし、死ぬことができなかった。死まであと一歩というところで、生き延びてしまった」


「その時に死にかけたせいだろうな、主人公は不思議な力を手に入れる。死が近い人が分かるという能力だった」


「その能力を手に入れた主人公は、死が近い人を救う活動を始めるんだ。死が近い人の中でも、寿命や病気が死因になる人は救えない。でもな、死因が事故や怪我、突然の自然災害などといった人は救う事ができるんだ。少しでも、悲しい死を減らそうと主人公は努力する。自分と同じ思いをしてほしく無いから。その一心でな。まぁ大体こういう話だな」


 物凄く長い説明が飛び出してきた。同居人は、よっぽど救命冒険譚の大ファンのようだ。


「は、はぁ分かりました」


 部屋の主は思わず敬語になってしまっている。


「そんなことより、宿題見せてくれませんか? 俺たち親友だろ?」


 同居人のことを親友と言い張る部屋の主。さて、同居人は見せてくれるのか?


「却下する」


 その一言により部屋の主の運命は決まったようなものだった。


「じゃあ、どうしろって言うんだよ………」


「それくらい自分でやれ、お前自身の問題だ」


 部屋の主に冷たい現実が突きつけられる。


「そうか…………。そうですか」


 その言葉を最後に部屋の主は玄関へ歩いていった。どうやら部屋の主は、全てを諦めて外へ出て行こうとしているようだ。


 それにしても、彼らを見ていると疑問に思えてくるが……。まぁいい、任務を遂行し続けよう。


 しかし、このようなことを続けることに、本当に意味があるのだろうか……。

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