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劇団俺たち!

作者: 回しもの

初投稿です。試しに書いてみました。

演劇には人を引き付ける力がある。僕はそう確信する。狭い舞台、限られた空間の中で、照明が輝き、音響が唸り、役者が躍動する。きっとあなたも、一度見れば舞台演劇の魔物にとりつかれる。それは僕が保証する。…なんでそう言い切れるかだって?なぜならそれは、僕こそがたった一度の舞台で演劇という魔物に魅入られた男だからさ!ちょろい男かい?だけど、それは舞台を見てから言ってくれよ!きっと、僕は決してちょろい男なんかじゃないってことが分かってもらえるさ。

 さあ、あなたも、ぜひ一度は劇場へ足を運んでみよう!

~劇団俺たち! 坂上慎吾


「こんな感じで良いかな…」

 ホームページを書き終え、僕、坂上慎吾はモニターから顔を上げた。

「何やってんの、坂上?」

 そう声をかけながら、劇団長の棚岡さんがモニターをのぞき込んできた。

「えっと、ホームページに載せるメッセージを書いてました。」

 書き終えた達成感を胸に、僕は団長を振り返る。この文章は自信作だ。仕事中も親方に怒鳴られながらずっと考えてたんだから。すると、奥の座敷から野上さんがバカにいたように笑いながら言い放った。

「え、お前そんなん書いてたの!やめとけやめとけ、そんなんやったって誰も見てねえよ!」

「そうそう、まだ一回も芝居やったことない俺らのホームページなんか、誰も見てやしねえよ。」

 野上さんに便乗し、鈴木さんまでそんなことを言ってきた。たまらず僕は二人に言い返した。

「誰も見てないって、そんなのなんでわかるんですか!それに、一回もお芝居したことないんだから、こういうところで名前を知ってもらわないと!だいいち、僕は何度もお芝居しましょうって言ってるのに、まだできてないのは…!」

「まあまあ、落ち着けよ、坂上」

「団長…!まあまあじゃないですよ!あの面接の時のやる気はどこ行ったんですか!」

「あー、あれは業務用のテンションていうかなんていうか…」

「業務用って、なんですかそれ…。まあもういいです。それより、今日こそ練習しましょう!練習!」

僕は団長ののうのうとした態度に腹を立てたが、すぐに思い直した。今日こそ練習したい!僕はお芝居がしたいのだ!

「練習ってなんの?」

「お芝居に決まってるじゃないですか!僕が入団してから、まだ一回も練習してないじゃないですか、この劇団!」

 劇団の長でありながら、お芝居の練習をするという発想が出てこないというのはいったいどういうことなんだろう。なんでこの人は劇団長なんてやっているんだろうか。僕はこのアラサー男が、あきれを通り越して心配になってきた。

「練習って脚本もないのに何練習するんだよ」

「そう、それだ。いいこと言った野上。なんの練習するんだよ。」

 何もいいことを言っていないのに奥の座敷でなぜかニヤニヤしている野上さんが缶ビールと麻雀牌を手にこっちを見ている。

「練習方法なんて、いくらでもあるじゃないですか!発声練習とか、活舌のトレーニングとかエティチュードとか!なんで誰も知らないんですか!劇団でしょう!ここは!」

「ロン!」

 相変わらず缶ビールを手に先ほどとは違ってこちらに興味を示さず鈴木さんと二人麻雀なんてものに興じている野上さんに憤慨しながら、僕は団長に食ってかかった。

 「あー、エティチュードね、エティチュード。あれね、おいしいよね、あれ。」

 この団長、わざと人の神経を逆なでしているんじゃなかろうか。

 「まあ、そういうのはほら、武田も来てからやるから。全員揃わないのにやっても、あれでしょう、あれ。」

 そう言いながら団長は雀荘と化した奥の座敷に加わろうとしていた。

「武田さんが来てからって…!じゃああの人いつ来るんですか!」

「さあなあ。少なくとも、今日は来ないんじゃない?」

  予想通りの団長の言葉に、僕は辟易しながら説得をあきらめた。今まで何度説得してもてこでも動かなかったあのアラサー似非雀士三人はどうせ今日も練習などせず、酔っぱらうだけ酔っぱらって帰るのだろう。そんな三人を尻目に僕は一人、発生練習を開始した。

「あめんぼあかいなあいうえお!」

 いつか舞台に立つ日を夢見て。

「うきもにこえびもおよいでる!」

 どうしてこんなことになったかを思い出しながら。

「かきのきくりのきかきくけこ」

 その日が、案外近くに迫っていることなど、まだ何もわからずに…


「なぁぜ、劇団を立ち上げたのかだって…?」

 その男は、バリトンボイスを響かせながら椅子に片足をのせて立ち上がった。

 「それは君ぃ、決まっているじゃないか!」

 対面に座る青年を見下ろしながら、

 「女の子に、モテるためだよっ!」

 アラサーを迎えた劇団長は、そう仰々しく言い放った。しかし、その口調とは裏腹に中身はペラペラに薄かった。それが僕と劇団長、棚岡との出会いである。


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