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もう尽くして耐えるのは辞めます!!  作者: 月居 結深
婚約期間
6/34

私のお嬢様2

 第二皇女殿下がデビューしてから、お嬢様は日に日に虚ろになっていきました。以前にも増して食事を摂られなくなり、私にまでもアルカイックスマイルを浮かべる始末です。私達屋敷の使用人は皆、心優しいお嬢様が大好きです。ですから、何とか元気になって頂こうと色々手を尽くしましたが、お嬢様はだんだんと言葉少なになり、笑わなくなりました。



 どうすることも出来ずもどかしい思いをしていると、十四歳になったお嬢様がとうとう限界を迎えられました。


 社交シーズンが終わり、領地に帰ってきてすぐのことでした。

 お嬢様の綺麗な長い髪から色が抜け落ちました。元々白に一滴の青を垂らしたようなものでしたから、お嬢様は気づかれていないと思っていたようですが、毎日お嬢様の髪を触り続けた私には分かってしまいました。髪から色が抜け落ちる程、身を粉にして耐えてこられたのだと思うと私は悔しくて仕方がありませんでした。


 一体お嬢様が何をしたというのでしょう。お嬢様程国のために心を砕いている人を私は見たことがありません。もちろん身内びいきも入っているでしょうが、それでもお嬢様は誰にも負けないくらい努力なさって、国に貢献しようとしています。


 実際に、この領地の寒さに耐えるよう麦や、じゃがいもを品種改良したのはお嬢様です。同じ寒冷地域に苗を卸してもいます。このおかげで寒い地域で冬を越せず餓死する民が減りました。他にも武器の改良や領民への税率の決め方の改変、福祉制度など、領地でお嬢様が旦那様に提案した改革は数えるのが大変なくらいです。



 そんなお嬢様が、どうしてこんなに苦しまなければならないのでしょう。私はこの世に神は存在しないのではないかと思います。だって、もし神が存在するのなら、こんな理不尽を放って置くはずがありません。



 しばらくして、お嬢様に次の変化が現れました。食事を摂られなくなったのです。今までは食べないと言っても一日一食はまともなものを召し上がっていました。でも、それすらもなくなってしまわれました。食事を用意すると、申し訳なさそうな顔でいらないと断られ、食事の間隔が一日二日開くのは当たり前になってしまいました。酷い時には五日間開く時もありました。元からほっそりとしていた手足がますます細くなっている気がして、私は気が気じゃありませんでした。儚げな雰囲気も相まって、消えてしまうんじゃないかと不安でした。


 そんなある日、お嬢様が庭師に言って鈴蘭を部屋に飾らせました。お嬢様が花を見ると少しは気が紛れらからと仰るので、窓際に花瓶を置きました。


 その夜、お嬢様は意識不明の重体になりました。鈴蘭には毒があり、毒の溶け出した花瓶の水をお嬢様は飲まれたのです。床に力なく横たわるお嬢様を見て血の気が引きました。常駐している医師を慌てて呼び、処置をお願いすると旦那様と奥様に知らせました。


 幸い発見が早かったためか、奇跡的に一命は取り留めました。でも、お嬢様は一向に目を覚ましませんでした。


 旦那様と奥様はお嬢様を追い詰めてしまったのかと、ご自分を責められていましたが、幼い頃から大人顔負けの過密スケジュールをこなしてきたお嬢様が無理をしていないとでも思っていたのでしょうか。雇われの身ではあるものの、正気を疑いました。


 お嬢様は三日三晩目を覚ましませんでした。ようやく目を覚ますと、おそらく無意識で『なんで生きているのかしら』と呟かれました。大切なお嬢様にそんな悲しいことを言わせてしまっていることがどうしようもなく悔しいと思いました。私では、お嬢様の心を救うことが出来ないのだと突きつけられているようで。


2024/08/27修正

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