勧誘
夜は両親と殿下とシリル様と食堂で晩餐会をした。
初日は疲れているだろうということで、殿下達は部屋で食べていたから揃っての食事は今日が初めてだ。
いつもよりも少し豪華な食事から、料理長達の張り切りぶりが想像出来た。
まぁ、殿下はこの国の第二皇子であるし、変な物は出せないのだろう。
晩餐会が終わると、温室に集まった。
ロザリーにお茶を用意して貰って、殿下とシリル様に許可を頂いてからロザリーにも席に着いてもらった。
「シルにはもう話したのだけど、シリル様とロザリーにも伝えておきたいことがありまして、お時間を頂きましたの。」
「それは俺達にも関係あることでいいんだな?」
「ええ、そうですわ。」
「……そうか。何をするつもりなんだ?」
隠しきれない好奇心を瞳に覗かせるシリル様は、年相応の少年のようで、それが少しおかしかった。
「ふふっ、実はわたくし旅行に行こうと思っていまして、宜しければ一緒にどうでしょうか?因みに、シルの同意は既に得ていますわ。」
シリル様は殿下の方を首を痛めそうな速さで向いて、険しい表情をした。
「シルヴェール!……お前って奴は、なぜそんな楽しそうなことを黙っていたんだ!」
皇族としての自覚がどうこうなどと怒るのかと思えば、全く逆の方向で怒っていて驚いた。
二人は乳兄弟で幼馴染だというから、皇族に対する気安い態度も彼らの友情の賜物なのだろう。
「仕方ないじゃないか、僕だって今日の昼間に聞かされたんだから。」
「帰ってきてから話せただろ?」
「僕から言うことでもないでしょ。」
「確かにそうだが…。」
「まぁまぁ、そのくらいで。シリル様も一緒に来て下さると思っていいのでしょうか?」
「ああ、勿論だ。」
シリル様は深く頷いてくれた。
ロザリーは殿下やシリル様の前ということもあって、進んで口を開こうとしない。私から聞くしかないだろう。
「ロザリーはどうかしら?私と一緒に旅に出てくれる?」
「喜んでお供致します。」
「ありがとう、嬉しいわ。」
「それで、いつ旅立つ予定なの?」
殿下はこてんと首を傾げる。殿下のこういった仕草は、天然なのか計算なのか読めないところがずるいと思う。
「明日お父様に話をするから、早くて明日の昼過ぎになると思うわ。」
「それじゃあ、僕達は準備をしといた方がいいね。」
「……そうだわ、シリル様とロザリーは冒険者ギルドに登録しているかしら?旅行中は冒険者として行動することになるから、していないのならしてほしいのだけど。」
「俺は親父から修行の一環として、ギルドの依頼をこなしていたから持っている。」
「私もメイド長からの勧めで登録しております。」
「それなら心配ないわね。」
「因みに、二人のジョブは?」
殿下は悪戯を仕掛けた子供のような顔で聞いた。
私にはなぜそんな顔をするのか分からなかったが、すぐに分かった。
「俺は#狂戦士__バーサーカー__#だな。」
「私は#暗殺者__ アサシン__#でございます。ですので、斥候役はお任せ下さい。」
二人のジョブはなんとなく予想出来る職業だったが、イメージに合いすぎて面白かった。
殿下は求めた答えが返ってきたことがおかしかったのか、けらけらと笑っている。
「あははっ!…はぁ、本当に期待を裏切らないよね。でもまぁ、バランスもいい感じなんじゃない?」
「そうですわね、シルが魔法で後方から攻撃して、私がサポートという形かしらね。」
「それがいいと思うよ。」
その後軽く打ち合わせをして別れた。
早ければ明日にも旅立つことになるだろう。
この息苦しい環境から抜け出して、広い世界を見て回れると思うと楽しみで、久しぶりに疲れやストレスとは違う理由で寝付けなかった。




