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もう尽くして耐えるのは辞めます!!  作者: 月居 結深
一年間の休息
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冒険者ギルド

 冒険者ギルドに向かいながら、ふと思い出したように殿下は話し出した。


「…旅行のことだけど、本当に許可出ると思う?」

「たぶん、出ると思うよ。お父様は私に負い目があるだろうしね。…もし出なくても、出させるよ。」

「そっか。…君は、自分で自分の道を切り拓いていける側の人間だったね。」


 殿下は私を見て眩しそうに目を細めた。


「それはあなたもそうでしょ?」

「うーん、どうだろうね。僕の行動原理は君だから、君がいなくなったらどうなるか分かんないよ?」

「そうかな?あなたは私がいなくても、きっと別の誰かを見つけてたと思うよ。」


 きっと、殿下は#たまたま__・__#私を好きになった。

 殿下の想いは本物だと思う。でも、同時に私は思うのだ。


 殿下がもし、ごくごく一般的な容姿で生まれてきたら?


 殿下がもし、私と出会うより前に誰かに惹かれていたら?


 そうしたら、きっと殿下はここにいなかった。全ては偶然。運命なんて言えば聞こえはいいけど、所詮はただの確率の問題。一つ食い違えば、全部変わる。


「………………。そんな、寂しいこと言わないでよ。……確かに、僕が僕でなきゃ、そういうこともありえたかもしれないよ?でも、僕は僕で、君は君だ。僕達が僕達である限り、それは#ありえないこと__・__#だよ。」

「なんでそんなに真っ直ぐなのよ…!少しは疑いなさいよ、わたくし達は、そんな綺麗な世界で生きてないでしょう…?わたくしには分からないわ、何故わたくしなのか。…だって、シルにはもっといい相手がいるはずだわ。わたくしみたいな壊れた女じゃなくて、もっとまともな、いい子が…いるはず、なのに…。」


 感情のコントロールが出来なくて、言わなくていいことばかりが口を突いて溢れ出る。

 僅かに残っている冷静な部分が、こんなことをしたら嫌われるわよ、と冷静に告げてくる。そんなことは分かってる。でも、止まらなかった。


 だって、本当にずっと不思議だった。

 何故私なのか。私でなくても、相手はいるはずだ。

 いくら恐れられているといっても、殿下は第二皇子だし、容姿も能力も申し分ない。だから、決して、相手がいない訳ではないのだ。


 殿下は俯く私の顔を無理矢理持ち上げ、覗き込むようにして目を合わせた。

 その時初めて、見慣れているはずの血赤珊瑚を恐ろしく感じた。息遣いを感じるほど近いのに、そんなことを気にする余裕は一切なかった。


「………#ブランシェ__・__#、それはいけないよ。いくら君でも、言っていいことと悪いことがある。…まぁ、今の僕は#ノワール__・__#だし?聞かなかったことにしてあげてもいいんだけどね?でも、そうするとまた繰り返すだろうから、答えてあげる。」


 聞くのは怖かったし、殿下を視界に捉えているのも嫌だった。でも、殿下は目を逸らすことを許してはくれなかった。


「……僕はね、ずっと退屈だった。何をしても、すぐに出来てしまうし、見た目はあんなだから人は寄ってこなかったし、唯一の友人と言ってもいいシリルは、僕の退屈を覆すには足りなかった。そんなのが十年程続いた時、君が現れた。あの日、僕は君に目を奪われた。今まで、何かに見惚れることなんてなかった。あの日まで、僕は無感動で、何を見ても心動くことはなかった。…でも、君が変えた。君と出会ってからの日々は、色が付いたように鮮やかで、楽しいと思えた。君が目の届く範囲にいなくても、君もこの世界で生きていると思えば、それだけでこの退屈な世界が愉快に思えた。……それが、そのことが、どれ程僕を救ったのか、きっと君は分かってない。全然、全く、これっぽっちも、分かってない!!……それに、君はあの頃から何処か可笑しかった。でも僕は、そんなところがどうしようもなく魅力的だと思う。…壊れてしまった君を、魅力的だと思う僕の方も十分可笑しいんだろう。……僕はさ、君が思ってる程素晴らしい人間じゃないし、綺麗な人間でもない。目的のためなら、手を汚すことも厭わないし、必要なら人を殺せもする。僕は、こういう人間だ。だから、君が後ろめたく思う必要はないんだよ。」


 殿下の言葉に、嘘は含まれてなかった。目の動きで、全部本当のことだと、分かった。

 



 私は最低だ。


 だって、殿下の瞳の奥に見えた執着に安心してしまったんだから。


「……僕の言ったこと、信じられる?」


 殿下は、私の顔を放すと、にっこり笑って首を傾げた。さっきまでの緊張感は何処へやら、いつもの殿下だ。


「………信じるわ。嘘はなかったもの。」

「そう。それはよかった。…それはそうと、喋り方もだけど、ここは一応往来だからね?目立つことはよそうね?」


 殿下に言われて周りを見ると、結構な人数に見られていて、その多くが知り合いだった。

 口笛や指笛を吹く者や、大声で冷やかす者など様々ではあったが、心無いものは一つもなく、皆私達を気まずくさせないためだと分かるものだった。




「…ごめん、ノワール。」


 逃げるようにその場を離れてから、小さな声で言った。


「いいよ。ブランシェは一筋縄じゃいかないって予想してたし。……それに、頭がお花畑の御令嬢と君は違うからね。」

「それってどういう意味?」

「一目惚れした、なんて理由を額面通りに受け取ったりしないよねって話。」

「…そんなの、当たり前でしょ?私達みたいな立場の人間が、裏を考えずに言葉を受け取るなんて、愚の骨頂だよ。」

「その通りなんだけど、色恋には関係ないと思っちゃうもんなんじゃない?」

「それこそ愚かだよ。恋愛において、言葉程大切なものってないと思うよ。それの意味を取り違えることなんて、あってはいけないでしょ?」

「そうだね。僕も気をつけるよ。」


 そうして話していると、冒険者ギルドの前に着いた。

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