街歩き3
ジゼル姉は宣言通りお昼を奢ってくれた。『夜明けの猫』での昼食は、それはそれは賑やかで楽しいものだった。
殿下は、おそらく食べたことがないであろう庶民的な味付けの料理を美味しそうに、且つ興味深そうに食べていて、そんな殿下の様子を面白がったドニおじさん達が、殿下に自分達が食べているものを分け与えていたりしていた。
私は私で、もっと食べろだなんだと女将さんやジゼル姉に言われ、さっぱりした食べやすい食べ物を成人女性が食べるくらいの量置かれた。でも、結局食べきれなくて、申し訳なさそうにする私を見かねた殿下が食べてくれた。一体その細い体のどこに入っているんだろうと思ってしまうくらい、ペロリと平らげていた。
「ジゼル姉ありがとう!近いうちにまた来るようにするから。」
「ジゼルさんありがとうございました!皆さんも話しかけて下さってありがとうございました。とっても楽しかったです!」
「あら、ブランちゃんもう行っちゃうの?」
「うん、ちょっと行きたいところがあるんだ。」
「そう、なら仕方ないわね。行ってらっしゃい!」
私が店を出ようとすると、殿下はスッと扉を開けてくれた。エスコートされること自体は慣れているけど、ブランシェの時にされると少し動揺してしまう。
少しぎこちない私の所作に、殿下はくすくすと笑った。その様子に少しムッとしながらも、何も言えずに店を出た。
「…それで?どこに行きたいの?」
「冒険者ギルドだよ。」
「目的は?」
「冒険者のカードって、身分証になるでしょ?…私、一年間休暇を貰ってて、その間に他国を見て回ろうと思ってるの。でも、私の身分じゃ気ままに他国を渡り歩くなんて出来ないから、別の身分を作ろうと思って。」
現状、私は公爵令嬢と公爵家次期当主という立場で、貴族という身分だ。それも高位貴族。だから、気軽に国外に出ることは出来ない。国に、土地に縛られているから、身動きが取れない。
でも、画期的な技術や、知識というものは秘匿されがちなのだ。それを手に入れるために隠密達がいる。
でも、人伝ての情報ではなく、自分で見たいと思ってしまった。
「なるほどね。ちなみにそれって、僕も付いていっていいやつ?」
「むしろ、魔法関連なんかはノワールの専門分野だし、来てくれるとありがたいよ。それに、自分以外の視点って大切だと思うから。」
「そっか。じゃあ、四人旅かな?」
「うん、四人いればちょっと危ないところも通れるしね。」
「あはは、それはあの二人に止められるんじゃないかな?」
「そうかもね。…ほら、早くギルドに行こ。明日は二人も連れて、軽い依頼でも熟そうか。」
「そうだね。…あの二人は冒険者登録してるのかな?」
「してなければ明日すればいいよ。」




