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もう尽くして耐えるのは辞めます!!  作者: 月居 結深
一年間の休息
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街歩き2

 街に着くと、殿下は私の手を引いて次々と並んでいる店を回った。

 街は私と顔見知りの人がほとんどで、珍しく異性を連れている私を茶化してきた。


「そういえばだけど、ブランシェはいつも一人で来てるの?」

「ううん、いつもはロザリーが一緒。流石に一人じゃ出歩けないよ。」

「そうだよね。…今更だけど、僕らが護衛も付けずに二人ってよく許されたね?」

「ノワールは、面白いこと言うんだね?私達だから許されたんだよ。」

「……あぁ、そういう考え方もあるのか。…ていうか、その喋り方板についてるね?」

「街に出る時はこの格好で、この喋り方だからね。小さい頃からしてるし、もう癖みたいなものだよ。」

「そっか。……あははっ!」


 やけに晴れやかな顔で殿下は笑った。愉快で仕方ないと言わんばかりの表情だった。


「何?急に笑ったりして。」

「…いや、馬鹿にしたとかじゃないよ?ただ、思ってた通り、僕の知らない君がいて、そんな君を知れることがこうも嬉しいことだとは思わなくてね。」

「……そ、そう。……そうだ。お腹空かない?そろそろお昼だし、この近くにいつも行くお店があるの。」


 私が街に来た時、いつも寄るのは『夜明けの猫』という食堂だ。夜には飲み屋にもなって、少し粗雑な雰囲気だけど、私は結構気に入っている。殿下は気に入ってくれるだろうか。


「そうなの?じゃあ案内してもらおうかな。」

「分かった。こっちだよ、ついてきて。」


 今度は反対に、私が殿下の手を引く。大通りを少しそれた、宿屋や飲み屋が連なる通りに夜明けの猫はある。


「こんにちは~!」


 躊躇いなく扉を開けると、顔見知りのおじさんやおばさん、お姉さんやお兄さんがいた。


「おぉ、ブランじゃないか。相変わらず男みたいな格好して、せっかくの別嬪さんなのにもったいねぇ。」

「ドニおじさんには関係ないでしょ。」


 カウンターの右から三番目の指定席から、ドニおじさんは声をかけてきた。ドニおじさんは有名な鍛治職人で、私のことを娘のように可愛がってくれている。


「そうよ、ドニには関係ないじゃない。ブランちゃん久しぶりね。あたしのこと覚えてる?」


 そう言って、コツコツとブーツの踵を響かせながら近寄ってきたのは、燃えるような赤い髪をした女性。名前はジゼルさんと言って、私は親しみを込めてジゼル姉と呼んでいる。グラマラスで妖艶な雰囲気の彼女だが、とても腕の立つ冒険者だ。

 一度だけ、酔った男に絡まれているのを見たことがあるが、複数人いたにもかかわらず返り討ちにしていて、この人を怒らせたらまずいと子供ながらに思った。


「もう!ジゼル姉ったら私のこと馬鹿にしてるの?神童と謳われたブランちゃんが、たかが数ヶ月会わなかったくらいで忘れる訳ないじゃん!」

「分かってるわよ。ブランちゃんが可愛いからからかっただけじゃない。それに、みんな寂しがってたのよ?ブランちゃん、いつもの時期になっても顔だしてくれないから。」

「今年は色々あったんだよ。次こういうことになったら、ロザリーを使いに出すよ。」

「そうして頂戴!…それで、隣の美少年は誰かしら?」


 どこぞの馬の骨だったらただじゃおかないわよ?という副音声が聞こえた気がした。


「紹介が遅れたね、彼はノワール。私の家に遊びに来てるんだ。」

「皆さんはじめまして、ノワールです。普段は帝都に住んでるんですけど、ブランシェを追いかけて来ちゃいました。」


 てへっ☆という感じで殿下は喋った。ジゼル姉は、一瞬面食らったような顔をして、それからケラケラと可笑しそうに笑った。


「あははっ、来ちゃいました、って、何よ。ふふ、ふふふふふっ。…あー、可笑しいわ。ノワール、だったかしら?ブランちゃんをよろしくね。」

「もちろんです!僕はそのためにここまで来たんですから。」

「……まぁ、情熱的ね。ブランちゃん、いい男捕まえたわね?」

「……うん、私にはもったいないくらい。」


 殿下は私を真っ直ぐ見てくれている。それのに、私は逃げてばかりで全然結論を出せてない。そんな後ろめたさから、私は下を向いてしまった。


「……もう、ブランちゃん!俯いちゃダメ!いい女ってのはね、常に前を向くの。」


 ぱしっと両手で顔を包まれ、上を向かされた。ジゼル姉は眉根を寄せて、苦しそうな顔をしていた。いや、私がそうさせた。


「ジゼル姉……。」

「あのね、ここにいる奴らはブランちゃんが本当は誰なのかくらい分かってるわ。どうしてそうしているかなんて分からないけど、私達はそれでいいと思ってる。だって、本当ならこんな風に話すことも出来ないでしょ?……この街の人間はみんなブランちゃんの味方よ。そのことだけは、忘れないでいて欲しいわ。」

「……ありがとう、ジゼル姉。」


 栄えているとはいえ辺境のこの街で、メイドを連れて歩ける女の子は領主の一人娘の私くらいのものだ。


 街のみんなの優しさで、私は領主の娘レティシアではなく、変わり者のお嬢さんのブランシェとして振る舞っていられる。

 改めてそのことに感謝した。


「さぁ、ここに来たってことはご飯でしょ?今日はあたしが奢ってあげるわ。もちろんノワールの分もね。」

「ありがとう、ジゼル姉。大好き!」


 私はとびきりの笑顔でジゼル姉に抱きついた。


「ありがとうございます…。」

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