街歩き
次の日、私は朝から殿下に迫られていた。
迫ると言っても、色気のあるものじゃなくて、単に距離が近いという感じだ。
「ちょっと、近いわ。一体何なのよ。」
「…ごめんごめん。いや、街を案内してもらいたくて。昨日はすぐ部屋に引きこもっちゃったから、全然話せてないし?」
「そのことに関しては悪かったわ。でも、わたくしにもしなければならないことがあるのよ。」
「それは分かってるつもりだよ?でも、僕を構ってくれてもいいんじゃない?」
「…もう、拗ねないで下さる?シルと行動出来るように、部屋に引きこもってすることは昨日終わらせたんですから。」
というか、私に構わなかったのは殿下も同じだろう。この一ヶ月、音信不通だったのだし。
「じゃあ、付き合ってくれるよね、街歩き。」
「ええ、もちろん。ただ、私も殿下も目立ちますから、とりあえず着替えましょう。」
数分後、着替えて玄関ホールへ行くと、殿下はすでにいた。
商家のお坊っちゃんくらいの服装だが、溢れ出るオーラの所為で全然変装になってない。だいたい、私も殿下も容姿に特徴がありすぎるのだ。
「シル、お言葉だけど、何も誤魔化せてないわ…。」
「シアこそどうしたの、それ!」
殿下が指差したのは私の髪の毛。まぁ、指差したくもなるだろう。貴族としてどうかとは思うが。
真っ白になってしまったはずの私の髪は、今は魔法によって綺麗なブリュネットになって結い上げている。それに、男装とまではいかないが、パンツスタイルでもある。
「昔から、街を歩く時はこの格好よ。」
「そうなんだ!なんか、新たなシアを見た気分だよ。」
「シルも、その髪と瞳は目立つから変えて欲しいわ。どちらかだけでいいけれど。」
「分かったよ。」
殿下がパチンと指を鳴らすと、殿下の髪は綺麗な紫に染まった。とても既視感のある、紫色に。
殿下の髪は私の瞳の色にそっくりだった。
「……それ、わざとですの?」
「あはは、せっかく変えるのなら、シアの色がいいなって思っただけだよ。似合ってない?」
「いいえ、よく似合ってるわ。髪を下ろしてると殿方に見えないくらい。」
「うーん、男に見えないっていうのはすごく不名誉だけど、君とお揃いならいいかな。」
「…あ、言い忘れていたけど、街にいる時はわたくしをブランシェと呼んで下さる?」
「ふーん、#ブランシェ__・__#ね。それなら僕のことはノワールとでも呼んでよ。」
「#ノワール__・__#ですわね。分かりましたわ。………じゃあ、行こうかノワール。」
悪戯っぽく笑って手を差し出すと、殿下はどこかのお嬢様さながらの所作で私の手を取り、本当にただの商家のお坊っちゃんのように駆け出した。