再会
満月の下であってから、一ヶ月が経とうとしている。その間、殿下からの連絡は一度もない。また会いに来ると言っていたけど、それもない。
そうさせているのは私なのだから、寂しいと思うのは筋違いだ。
そんなことを思うのなら、魔石を使えばいいと思うだろう。でも、伸ばした手を振り払われたらと思うと、怖くて出来ないのだ。
馬鹿らしいと自分でも思う。それでも、傷つきたくないと、臆病な心が顔を出すから。
そんな風に悩んでいると、屋敷に殿下が到着してしまった。
あの夜から何も話していないから、どんな顔をしていいか分からないが、出迎えないわけにはいかない。
「…シル、久しぶりね。辺境までの長旅疲れたでしょう?」
「久しぶりだね、シア。鍛えてるからこのくらいなら大丈夫だよ。ちゃんと休みながら来たしね。…そうだ、シアはたぶん会うの初めてだよね。隣にいるのはシリル・ベルクール。僕の乳兄弟で側近もしてる。」
「初めまして、レティシア嬢。俺はシリル・ベルクール。ベルクール侯爵家の長男で、シルヴェ…殿下の側近をしている。」
「初めまして、シリル様。わたくしはバーティン公爵家が長女、レティシア・バーティンですわ。…ベルクール侯爵にお世話になったことがあるのですが、その時シリル様の自慢話を沢山お聞きしましたのよ。お会い出来て光栄ですわ。」
殿下の側近のシリル様のことは知っていた。ベルクール侯爵と関わったからと言うのもあるけど、彼自身が有名人だからだ。
朝焼けのような、少しくすんだ薄紫色の髪に、深海のような濃い青紫色の瞳。スッと通った鼻筋や切れ長の瞳のせいかイケメンというよりは男前という形容が似合う殿方だ。
そんな彼はその色合いと戦う様子から『紫暗の戦鬼』と呼ばれている。軍部を司るベルクール家の名に恥じぬお人だ。
「……親父のやつ一体何を話したんだ?…あ、失礼した。」
「ふふっ、どうぞ楽になさって?わたくしもそうするから。」
「では、そうさせてもらう。」
「シル、お昼は食べましたの?もしまだなら、温室で簡単な物を食べながらお話でもいかが?」
「実はまだなんだ。お言葉に甘えさせてもらおうかな。」
「分かったわ、温室はこっちよ。」
その後は、殿下とシリル様と軽く食事をして、部屋に案内した。殿下の部屋は私の私室から一番近い客間で、その隣の部屋がシリル様の部屋だ。
部屋を決めたのはお父様とお母様だが、何を考えているのかと言って差し上げたい。仮にも年頃の娘の近くに、娘のことが好きな男性を置くか、普通。
まぁ、部屋が近いからって何かがある訳じゃないし、そもそも、殿下には転移魔法があるから話したところでさして意味はない。ようは、気持ちの問題だ。
街の案内なんかは今日は疲れているだろうということで明日に持ち越しとなり、私は私室に戻り手紙を書くことにした。




