殿下の手紙
スカートの隠しから手紙を取り出し、お父様にペーパーナイフを借りて便箋を取り出した。
かさりと広げると、そこには流麗な文字が踊っていた。
ー我が愛しのシアへ
そちらはもうそろそろ寒くなってくる頃でしょうか?貴女が風邪を引いていないか心配です。
この前、帝都には馬車で来ているのかと思いましたが、早駆けで来ていたのですね。馬術も出来るとは惚れ直してしまいました。機会があれば、二人で遠乗りでもしたいですね。
それはそうと、これからについてですが、一先ず私は継承権を破棄しようかと思います。そのあたりの手続きや問題が片付き次第、貴女を口説きにそちらに伺うつもりです。
それから、手紙は時間をロスするので、通信の出来る魔石を耳飾りにしてみました。魔力を込めれば私に繋がるようになっているので、出来る限り身につけておいて下さい。
詳しいことは通信で話しましょう。それでは、体に気をつけて。元気な貴女に会えるのを楽しみにしています。
ーシルヴェール・ニエルマン
面と向かって話していた時の砕けた感じとは違う、手紙の中の丁寧で大人びたような口調に驚いた。一人称も二人称も語尾も違っていたけど、でもきっとこれが皇子としての彼なのだろうと思った。
手紙から顔を上げ、両親に内容を簡潔に伝えた。
「そうか。もてなそうにもこれからの季節じゃ何処も行けないぞ。」
「殿下の目的がレティを口説くことなら、わたくし達が出しゃばることありませんわ。休暇中のレティとゆっくりのんびり過ごして頂けばよろしいんじゃないかしら?」
「殿下がいれば色々捗りそうですし、わたくしはそれで構いませんよ?」
「…一先ず殿下のことはレティに任せることにしようか。」
「分かりましたわ。」
部屋に戻って、封筒の中に入っていた耳飾りを取り出した。殿下の瞳によく似た赤い魔石で、涙のような形をしていた。早速つけてみると、私の白い髪によく映えていた。魔力を流して繋がるか確かめてみようかと思ったが、まだ昼過ぎで殿下は執務中だろうからやめておいた。