殿下とサンドイッチ
「シアのはフルーツばかりなんだね。好きなの?」
「ええ、まぁ。でも、一番の理由は食べやすいからですわね。食欲がなくても少しなら食べられるの。」
「そっか、でもそれだけじゃ栄養が偏っちゃうし、一口だけでもいいから僕のサンドイッチ食べてみない?」
殿下はサンドイッチを身を乗り出して、私の口元に差し出した。
これは、手で受け取らずに、手ずから食べろということだろうか。後ろで控えているロザリー以外に人はいないが、何人いようが誰もいなかろうがそんなのは関係なく恥ずかしい。それに、私が食べた後は殿下も食べる訳で、それは所謂間接キスなのでは?
戸惑っている私を面白そうに眺める殿下は、口を開けろと言わんばかりにサンドイッチで唇をノックする。
結局私は殿下からの圧に負けて、視線を逸らして口を開けた。ローストビーフとレタスのサンドイッチだったらしく、シャキシャキのレタスと柔らかいローストビーフに特製のソースが絡まっていて美味しかった。
「美味しい?」
まだ口の中にサンドイッチがあったので、頷くことで返事を返した。
殿下は満足そうに笑うと、見せつけるようにこちらをじっと見つめながらサンドイッチを食べた。しかも、私が食べたところから。
かあっと頰が赤くなるのが自分でも分かった。だって、仕方ないじゃない。目の前で見せつけるみたいに間接キスされてみればいいわ。それで、流し目されながら、唇に付いたソースを舐め取られてみなさいよ。誰だって赤くなるわ。
「…赤くなっちゃって、どうかした?」
「分かってて聞いてるでしょう。」
「バレた?でも、そんな可愛い反応するなんて心配だな。夜会で変に気を持たれそう。」
「あら、守ってはくれないの?」
「もちろんその場にいたら守るよ。でも、そばにいない時の方が圧倒的に多いでしょ?」
「それもそうね。まぁ、自衛は出来るから大丈夫よ。」
「そうだね、エヴァリストのことも自分で片付けちゃったもんね。」
「見てたんですの!?」
引きかけていた頰の熱が、羞恥によってぶり返した。まさか誰かに見られているとは思わなかった。
私、あの時膝蹴りしなかった?それも見られていたってこと?あの、淑女としてあるまじき蹴りを?ああ、穴があったら入りたい。
「見てたよ。危なかったら助けようかと思ったんだけどね。…いやぁ、見事な蹴りだったね。ヒール履いてるのにそれを感じさせない軸足の安定感に、ドレスを着ているとは思えない軽やかさ、素晴らしかったよ。」
「…忘れて頂けませんか?」
「うーん、もったいないし嫌かな。」
それはそれはいい笑顔で殿下は言い切った。
その後は他愛のないことを話して、日が傾いてきた頃にお開きになった。手紙を書くと殿下は言っていたし、私も返事をする約束をした。




